MIXIMIXIによる豪PointsBet買収と、海外ベッティング事業への本格参入

国内公営競技で育てた事業を、規制の異なる海外市場へどう持ち出したか

時期 2025年2月
意思決定者(推定) 木村弘毅 社長
論点 海外展開と事業ポートフォリオ
概要
2025年、MIXIは豪州証券取引所に上場しオーストラリアとカナダでオンラインベッティング事業を営むPointsBet Holdingsを買収した。当初はScheme of Arrangementによる完全子会社化を予定したが、最終的にTakeover Bidへ切り替え、2025年9月に子会社化した。
背景
2019年以降の公営競技関連企業の買収と2020年開始の「TIPSTAR」で、MIXIは国内でベッティング事業の運営基盤を築いた。一方、収益の中心だったモンスターストライクは縮小し、国内市場だけでは成長を描きにくくなっていた。
内容
2025年2月26日の公表時点の取得価額は352百万豪ドル(352億円)。その後398百万豪ドル(398億円)へ引き上げられ、Takeover Bidでは1株1.25豪ドル・総額289百万豪ドルで議決権の66.4%を取得した。
含意
2025年10月以降の業績が連結に加わり、2026年3月期のスポーツ事業は売上高658億円・セグメント利益51億円となった。同社は2030年代初頭に売上高3,000億円を掲げる中期ビジョンを打ち出している。
筆者の見解

三度目の主力入れ替えと、規制という前提

MIXIはこれまで、SNSからゲームへ、ゲームからスポーツへと主力を入れ替えてきた。PointsBetの買収は、その三度目の入れ替えを海外で行おうとする試みにあたる。過去二度の転換が国内市場のなかで完結していたのに対し、今回は免許制度と規制当局が前提になる事業を、法域の異なる国で運営する。豪州で免許を取得してから買収へ進んだ順序には、規制のもとで事業を営む経験を先に積んでおくという判断がうかがえる。フンザ買収で問われたのが子会社の統治であったとすれば、今回問われるのは、異なる規制環境で事業の健全性をどう保つかという別種の統治能力とみることができる。

数字の面でも、答えが出るのはこれからである。取得価額は当初の352百万豪ドルから398百万豪ドルへ引き上げられ、最終的な支配権取得には289百万豪ドルを投じた。初年度はのれん償却が営業利益を押し下げ、連結の営業利益は前期を下回っている。会社側は投資回収は十分可能と判断しているが、それはPointsBetが豪州とカナダで成長を続けることを前提とする。国内で公営競技の枠内に置かれてきた事業が、規制の異なる市場でどこまで伸ばせるか——2015年の買収と違い、この判断の評価が定まるにはなお数年を要するとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

公営競技で組み立てたベッティングの運営基盤

2018年に就任した木村弘毅氏(社長)は、コミュニケーションを軸に新しい成長分野を育てるとして、今後3年から5年で1,000億円を投じる方針を掲げた。狙いを定めたのがスポーツである。2019年、競輪車券のインターネット投票サービスを手がけるチャリ・ロト、プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」を運営する千葉ジェッツふなばし、競馬総合情報メディア「netkeiba.com」を運営するネットドリーマーズを相次いで子会社化した。観戦とベッティングの双方に足場を置く事業構成であった[1][2]

2020年には競輪を対象とするベッティングサービス「TIPSTAR」を始め、従来の公営競技が取り込めていなかった若年層や女性を開拓した。もっとも先行投資の負担は重く、スポーツ事業の営業損益は2021年3月期に53億円の赤字となる。テレビCMやユーザー還元を投じても想定ほど利用者が増えず、その後はマーケティングの効率化とコスト削減へ転じた。公営競技のオンライン化による市場拡大も重なり、同事業は2025年3月期に20億円の営業黒字へ転換している。買収を検討できる財務状態が、この時点で整った[3][4]

縮む国内ゲーム収益と、海外免許の取得

この間、収益の中心であったモンスターストライクは縮小に転じていた。デジタルエンターテインメント関連事業の売上高は、ピークだった2016年3月期の1,954億円から、2026年3月期には839億円まで減っている。2024年3月期第3四半期にはモンストシリーズ5タイトルからの撤退を決めて約15億円のコスト削減を図り、外部IPとのコラボレーションだけに頼らない集客への転換や、インド市場向け「STRIKE WORLD」による海外再挑戦にも取り組んだ。国内スマートフォンゲーム市場が頭打ちとなるなかで、成長の担い手を別に用意する必要が高まっていた[5][6]

海外での足場作りは買収に先立って進んでいた。2024年、MIXIの豪州の連結子会社が日系企業として初めてベッティングライセンスを取得する。オーストラリアはオンラインベッティングが法制度のもとで営まれる市場であり、免許を持つ事業者だけが参入できる。国内では公営競技の枠内でしか事業を営めないMIXIにとって、免許を取得したこと自体が、その先の選択肢を開く条件となった[7]

決断

352百万豪ドルのSchemeから、Takeover Bidへ

2025年2月26日、MIXIはPointsBet Holdingsの株式取得を公表した。買収の枠組みはオーストラリア会社法に基づくScheme of Arrangementで、対象会社の全株主が持つ株式を現金で取得する方式にあたる。実行には株主総会での75%以上の賛成、豪州裁判所の承認、豪州外国投資審査委員会の承認が必要であった。公表時点の取得価額はPointsBet普通株式で352百万豪ドル(352億円)。対象会社の2024年6月期の売上高は245百万豪ドルで、親会社所有者に帰属する損益は42百万豪ドルの赤字であった[8][9]

手続きは当初の想定どおりには進まなかった。2025年6月2日の取締役会で、MIXIは取得価額を398百万豪ドル(398億円)へ引き上げる。株主総会でのSOA承認の見込みなどを勘案し、株式取得の成立確度を高めるための増額であった。最終的にはScheme of Arrangementから公開買付けにあたるTakeover Bidへ切り替え、2025年7月22日から9月12日までのオファー期間で1株1.25豪ドル、総額289百万豪ドルの資金を投じて230,893,535株を取得した。議決権所有割合は66.4%となり、PointsBetは2025年9月にMIXIの子会社となった。完全子会社化を前提に始まった案件は、過半の支配権取得で決着した[10][11]

なぜ豪州とカナダだったのか

買収の理由について、MIXIは国内事業で蓄積したソーシャル機能に関する知見と強みを組み合わせることでシナジーを実現するのが最適だと判断したと説明している。TIPSTARは、他人の予想を見たり一緒に盛り上がったりする仕組みを備え、単に賭ける道具ではない設計をとってきた。木村社長は観戦事業についても、スタジアムやアリーナに家族や友人が集まって盛り上がる場をつくることに意義があるとし、この盛り上がりはベッティング事業にも共通するとの見方を示している。買収は、コミュニケーションを軸に据えるという同社の一貫した説明の延長にあった[12][13]

投資の採算についても、会社側は買収後の説明会で見通しを述べている。取得価額の水準は豪州市場で評価されている企業であることから一定の規模になったとしたうえで、足元で黒字化を達成するなど成長している企業であり、今後のシナジーによるプロダクト成長も見込めるため投資回収は十分可能と判断したという。買収後に判明した課題については、当初の見立てどおり高い技術力を持ち社内の意思決定も迅速であるとし、現時点で特段の課題は認識していない、オーストラリアおよびカナダの市場で十分に成長可能な企業だと考えていると説明した[14][15]

結果

初年度の連結寄与と、のれんの重さ

PointsBetの業績は2025年10月以降が連結に取り込まれた。2026年3月期のスポーツ事業は売上高658億円・セグメント利益51億円となり、PointsBetの新規連結に加え、TIPSTARのオンライン車券販売高の増加、チャリ・ロトの車券販売高や競輪場運営の包括受託料の伸びが寄与している。全社の連結売上高は1,714億円で、2020年3月期の1,122億円を底とした回復が続いた。一方、買収に伴う下期の償却費は約20億円で、うちのれんの償却が約12億円を占め、営業利益は223億円と前期の266億円から減った[16][17][18]

買収の位置づけは、2026年5月に公表した中期ビジョンで示された。同社は家族や友人と一緒に楽しむ時間から生まれる経済圏を「We-Timeエコノミー」と定義し、2030年代初頭を想定して売上高3,000億円、EBITDAマージン20%、ROE15%の達成を掲げている。会社側は、スポーツとライフスタイルは転換期にあり今後は収益性の改善を見込むとしたうえで、この経済圏のなかでスポーツとライフスタイルの収益化を強め、ユニットエコノミクスの改善を図ると説明した。デジタルエンターテインメントに代わる収益の柱として、海外ベッティングを含むスポーツが正面に置かれた[19][20]

出典・参考

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