MIXIモンスト一本足からの脱却を狙ったフンザ115億円買収と、チケットキャンプ閉鎖

一本足の記憶に追われた多角化はなぜ躓いたか——買収から3年での閉鎖と社長交代

時期 2015年3月
意思決定者(推定) 森田仁基 社長
論点 事業ポートフォリオと子会社ガバナンス
概要
2015年3月、ミクシィはチケットフリマアプリ「チケットキャンプ」を運営するフンザを、自社として過去最高額の115億円で買収した。スマートフォンゲーム「モンスターストライク」に集中した収益構造から抜け出すための第一手であった。
背景
SNS「mixi」への依存で2013年に上場来初の営業赤字に落ちた経験が、経営陣に一本足への警戒を残していた。モンスターストライクのヒットで手元資金は900億円を超え、その資金を次の柱へ振り向ける余地が生まれていた。
内容
買収額は当時の同社のM&A実績より一桁大きく、高すぎるとの批判も出た。チケットキャンプの流通総額は2015年末に月間約36億円と1年で4.5倍に伸び、2019年に売上高70億〜80億円・営業利益35億〜40億円を狙う計画であった。
含意
高額転売への批判が強まるなか2017年末に警察の強制捜査を受け、2018年5月末にサービスを閉鎖した。森田仁基氏は社長を退き、木村弘毅氏が後任として管理機能の強化に着手した。
筆者の見解

分散を急いだ会社が、分散の作法を知るまで

この買収の判断そのものは、当時の材料から見れば理解しやすい。単一タイトルへの収益集中を解くという課題は明確で、対象事業は現に伸びており、資金も潤沢であった。躓いたのは買うかどうかの判断より、買った後に何を見ておくべきかという部分にあったとみることができる。チケット2次流通は、利用者の利便と興行主・演者の意向が正面から衝突しうる事業であり、収益の伸びだけを追っていると、その衝突が事業の存続条件であることに気づきにくい。急いで分散しようとした会社が、分散先の事業が抱える固有の摩擦を測りきれなかったといえる。

それでも、この失敗が残したものは小さくなかった。木村社長の下で執行役員制度が導入され、子会社の管理体制が組み替えられる。その体制は2024年にチャリ・ロトで不正が発覚した際に再び試され、審査部の設置や取引先との面談記録の義務化といったさらなる手当てにつながった。買収で事業を買うことと、買った事業を統治することは別の能力にあたる——MIXIがスポーツや海外ベッティングへ買収を重ねる今日、2015年の115億円が残した問いは、なお現在形で残っているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

一本足で沈みかけた記憶

この買収を動かしたのは、その2年前に経営陣が味わった経験であった。ミクシィはもともとSNS「mixi」の広告収入が売上の9割を占め、絶頂期の2010年度でも売上高は168億円にとどまる。同じ時期にDeNAやグリーが従来型携帯電話向けソーシャルゲームで売上高1,000億円超へ伸びたのに比べれば、規模の差は開いていた。そこへスマートフォンへの移行が重なる。フェイスブックやLINEにユーザー獲得競争で敗れ、月間利用者数は2011年の約1,500万人をピークに減った[1]

収益の崩れは急であった。財務担当の荻野泰弘取締役は、ガラケー時代に潤沢だった広告収入がスマートフォンへの急激な移行によってほぼゼロになったと述べている。2013年4〜6月期には2006年の上場以来初の営業赤字に落ち、社内の雰囲気は暗くなって退職者も目立って増えた。同年6月、創業者の笠原健治氏が社長から会長へ退き、経営企画室長だった朝倉祐介氏が30歳で社長に就いた。のちに森田仁基氏は当時を「やばいと思いながら、沈んでいく船に対して何もできなかった」と振り返っている[2][3]

モンスターストライクが生んだ現金

反転は2013年10月に配信を始めたスマートフォンゲーム「モンスターストライク」がもたらした。タッチパネルでモンスターを引っ張って放つ操作と、4人が集まって協力する遊び方が広い世代に受け入れられる。2014年2月、まだ先行きが見えないなかで同社は約65億円の公募増資を決め、ほぼ全額をテレビCMなどの販促に投じた。荻野取締役によれば、決断した当時の月商は1億円に届かず、利用者も100万人以下であった。この先行投資が効き、2014年5月にはApp Storeの国内アプリ売上ランキングで首位に立った[4]

業績の変化は極端であった。2014年3月期に売上高122億円・最終赤字2億円であった会社が、2015年3月期には売上高1,129億円・営業利益527億円を計上する。手元の現預金は900億円を超えた。この資金の使い道について、荻野取締役は買収を検討していることを2015年3月の誌面で明かし、業績が沈んだときに座布団になってくれるような、安定的に収益を稼ぐネット企業のM&Aに充てたいと語っている。ゲーム会社へ転じるつもりはないという意思表示でもあった[5][6]

決断

自社最高額115億円という値段

2015年3月、ミクシィはチケットフリマアプリ「チケットキャンプ」を運営するフンザを、自社として過去最高額の115億円で買収した。それまでの買収額より一桁大きく、当時は高すぎるとの批判も出ている。森田社長は「モンストに頼っていては危ない。一本足経営から脱却しなければ」と述べ、モンスターストライクがヒットしてすぐ、得た資金とノウハウをほかの領域へ分散させることを考えたと明かした。フンザを創業した笹森良氏とは以前からの知り合いで、事業の話を聞くなかで新しい文化になりうるサービスだと感じたとも語っている。公表されたリリースでは、mixiで培いモンスターストライクを飛躍させたマーケティング・アプリ開発・カスタマーサポートのノウハウを提供して事業拡大を加速させると説明された[7][8][9]

事業計画も具体的であった。買収時の試算では2019年のチケット2次流通市場の規模は約800億円で、3年以内にその5割のシェアを取り、2019年に手数料(チケット売買額の13%)と広告収入を合わせて年間売上高70億〜80億円、営業利益35億〜40億円を目指すとしていた。落札できるかどうかが終了時刻までわからないオークションと違い、出品者の提示価格で即座に買えるフリマ型は購入までの手続きが短い。この使い勝手が支持され、チケットキャンプの流通総額は2015年末に月間約36億円と1年で4.5倍に伸びた[10][11]

埋まらない規模の差と、見落とされた摩擦

買収直後の数字は計画を上回った。森田社長は2016年2月の決算説明会で、予定よりはるかに早くシェア5割に到達できたとみていると述べている。ただし、この事業がモンスターストライクの代わりを務められるかは別であった。当時のモンスターストライクは1カ月で約150億円を売り上げており、チケットキャンプが見込みどおり伸びたとしても収益力の差は残る。エース経済研究所の安田秀樹アナリストは、スマホゲームほど実入りのいい世界を知ってしまうと元へは戻れず、モンストが減速した場合に穴を埋められるのは結局別のスマホゲームではないかと指摘していた[12][13]

会社が見ていた課題は、当時は主に収益規模の側にあった。買収の翌年、ミクシィはサービス開発の速度を上げるため社内カンパニー制に近い「スタジオ制度」を導入し、フンザのような成長企業のM&Aをさらに探していた。森田社長は買収の前提として、経営陣と買収候補企業のあいだに信頼関係があるかを挙げている。一方で、2次流通というサービスが興行主やアーティストとのあいだに抱える摩擦——誰が定価を超える価格で席を売るのかという問題——が、事業の存続そのものを左右する要素として語られることはなかった[14]

結果

強制捜査、閉鎖、そして社長交代

摩擦は数年で表に出た。アーティスト側を中心に高額転売への批判が強まるなか、2017年末に警察が商標法違反などの疑いでフンザを強制捜査する。ミクシィは2017年12月28日にサービスを2018年5月末で終了すると決め、翌2018年1月24日には、買収の合理性や運営体制を調べるため利害関係のない外部の3名で構成する調査委員会を設けた。買収から3年余りで、約115億7,300万円を投じた第2の柱は消えた。この結果を受けて森田仁基氏は社長を退き、2018年6月、モンスターストライクのプロデューサーを務めた木村弘毅氏が社長に就いた。取締役として買収の時期を経営の内側で見てきた人物が、その後始末を引き継ぐ形であった[15][16]

木村社長は就任直後の取材で、チケット2次流通へのニーズ自体は強かったとしたうえで、日本のチケット流通事情への配慮が足りず、結果的に社会から「チケットキャンプはアーティストの敵」と見られるようになったと述べた。問題を早期に察知・対処できなかったガバナンス体制も反省すべき点だとして、役員体制の刷新を含む管理機能の強化を挙げている。あわせて木村社長は、mixiとモンスターストライクに共通するのは友達や家族とのコミュニケーションを題材にした点だとして、自社を「コミュニケーション創出カンパニー」と位置づけ、今後3年から5年で1,000億円を投資する方針を示した[17][18]

出典・参考

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