「電通労働環境改革本部」の発足と社長交代(2016年・電通グループの決断)

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論点 長時間労働の是正と成長をどう両立するか
電通グループ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
書類送検を受けた長時間労働の撲滅と2年間の働き方の見直し

何をなぜ決めたか:書類送検を受けた長時間労働の撲滅と2年間の働き方の見直し

概要

2016年12月28日、電通と同社の社員は、労務管理の問題をめぐる捜査を経て、東京労働局から労働基準法違反の容疑で書類送検された。電通はこれに先立つ同年11月に「電通労働環境改革本部」を発足させ、専従の執行役員の下で法令順守の徹底と再発防止策を進めていた。経営の優先順位では「社員」を第一に置くと改めた。

経営の体制も替わった。社長執行役員は2017年1月に石井直氏から山本敏博氏へ交代し、山本敏博氏は同年3月に代表取締役社長執行役員となった。電通は2017年度と2018年度の2年を改革期と位置づけ、労働環境改革を国内事業の最優先課題に据えた。

背景

書類送検の年、電通の業績は好調だった。2016年12月期の収益は8,383億円、営業利益は1,377億円に達した。2016年度の業績で、中期経営計画が2017年度に置いた数値目標の水準に1年早く届き、電通は新しい経営体制の下で新たな中期経営計画を策定すると決めた。海外では2013年のAegis Group plcの買収を経て、事業を広げていた。

同じ年、国内のデジタル広告でも問題が見つかった。2016年に電通と国内グループ会社の一部が提供したデジタル広告サービスで、適切性に疑義のある作業案件が確認された。電通は同年9月初旬、発注・掲載・請求の内容確認を担当部署から独立した部署へ移した。この件は業績に重要な影響を及ぼさないと判断している。

内容

2017年の重点は3つだった。「労務管理の徹底と見守りの強化」「業務棚卸しによるワークダイエット」「ワークスタイルのスマート化」である。外部有識者で構成する独立監督委員会を設置し、施策への助言と監督、改善の実態の検証を任せた。委員長には2017年2月から、元検察官で弁護士の松井巖氏が就任した。

目標は社員1人当たり総労働時間で置いた。基本計画は2017年の目標を2,100時間とし、実績は2,031時間となった。2017年の有給休暇取得率は、前年の56.0%から64.0%へ上がった。2018年は業務プロセスの改善とICTなど社内インフラの強化を加え、総労働時間はほぼ計画通りの1,952時間となった。

含意

労働時間は改革期の後も減った。2016年度に2,166時間だった社員1人当たり総労働時間は、2019年度に1,903時間となり、3年で約12%減った。その一方で、改革の費用は国内事業の利益を押し下げた。2017年度の国内事業は減収・減益となり、2018年度の国内事業の調整後営業利益は802億68百万円と前期から9.6%減った。

2020年1月、電通は純粋持株会社体制へ移行し、電通グループに商号を変更した。労働環境改革は子会社の株式会社電通が引き継いだ。電通グループは2020年以降も、労務管理上の不祥事が再発すれば評判が大きく悪化するリスクを挙げ続けた。2023年以降は、ハイブリッドな働き方など現場の実態に合わせて改革を続けている。

いつ何が起きたか 12件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2016年3月株主総会決議)

  • 石井直:社長執行役員
  • 中本祥一:副社長執行役員
  • 松島訓弘:執行役員
  • 髙田佳夫:専務執行役員
  • 加藤健一:取締役(監査等委員)
  • 遠山敦子:取締役(監査等委員)
  • 長谷川俊明:取締役(監査等委員)
  • 古賀健太郎:取締役(監査等委員)
考察:最高益の年に置き直した優先順位
考察

考察:最高益の年に置き直した優先順位

なぜ電通は、社員を経営の優先順位の第一に置き直したのか。2016年12月期の電通は、中期経営計画が2017年度に置いた数値目標の水準に1年早く届いていた。業績だけを見れば、働き方を変える理由は見当たらない。しかし書類送検によって、長時間労働は法令違反として問われた。法令を守れない会社のままでは、顧客や株主の信頼を保てない。社長の交代と総労働時間の数値目標は、その信頼を取り戻すための手段だったとみられる。

もっとも、労働時間を減らせば、人の時間で回してきた国内事業の利益は削られる。実際に、2018年度の国内事業の調整後営業利益は前期から9.6%減った。改革は労働時間の短縮と業務品質の向上の両立を掲げたが、その両立は利益の減少を前提にしていた。それでも経営は、費用を負ってでも改革を最優先課題に置いた。社員の健康を守る費用を、利益の内側に組み込む判断でもあったのだろう。

到達点は部分的な成功である。社員1人当たり総労働時間は2016年度の2,166時間から2019年度の1,903時間へ約12%減り、2018年度の値もほぼ計画通りだった。数値目標は守られた。ところが、労務管理上の不祥事の再発は、2020年以降も電通グループが挙げるリスクから消えていない。時間の削減では成果を出した。一方で、新しい働き方が風土として根づいたと言い切れる段階には、まだ届いていないと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 1表

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図と表

電通グループ:社員1人当たり総労働時間と提出会社の従業員の推移

社員1人当たり総労働時間(時間・名・千円)

総労働時間は2016年度の2,166時間から2019年度の1,903時間へ減少

電通グループ:社員1人当たり総労働時間と提出会社の従業員の推移
(時間・名・千円) 社員1人当たり総労働時間提出会社の従業員数提出会社の平均年間給与 備考
2012年3月期 −7,49411,455 総労働時間は開示されていない
2013年3月期 −7,51511,435
2014年3月期 −7,42511,918
2015年3月期 −7,34812,720
2015年12月期 −7,26112,288 決算期の変更で4〜12月の9か月決算
2016年12月期 2,1666,79912,477 12月28日に書類送検。総労働時間は第171期の有報が示す2016年度の値
2017年12月期 2,0316,92712,725 改革期の1年目。目標は2,100時間
2018年12月期 1,9526,92111,798 改革期の2年目。ほぼ計画通り
2019年12月期 1,9037,07111,688
出所:電通 有価証券報告書 第169〜171期【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】 / 電通 有価証券報告書 第163〜171期【従業員の状況】
出所:電通 有価証券報告書 第169〜171期【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】 / 電通 有価証券報告書 第163〜171期【従業員の状況】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2016年3月株主総会決議)

  • 石井直:社長執行役員
  • 中本祥一:副社長執行役員
  • 松島訓弘:執行役員
  • 髙田佳夫:専務執行役員
  • 加藤健一:取締役(監査等委員)
  • 遠山敦子:取締役(監査等委員)
  • 長谷川俊明:取締役(監査等委員)
  • 古賀健太郎:取締役(監査等委員)
参考文献

参考文献

参考
  • 電通 有価証券報告書 第168期(2016年12月期)【対処すべき課題】
  • 電通 有価証券報告書 第167期(2015年12月期)表紙
  • 電通 有価証券報告書 第168期(2016年12月期)【役員の状況】
  • 電通 有価証券報告書 第168期(2016年12月期)【主要な経営指標等の推移】
  • 電通 有価証券報告書 第170期(2018年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 電通グループ 第176回定時株主総会招集ご通知(2025年2月)
  • 電通 有価証券報告書 第170期(2018年12月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • 電通グループ 有価証券報告書 第172期(2020年12月期)【沿革】【事業等のリスク】
  • 電通グループ 有価証券報告書 第175期(2023年12月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】
  • 電通 有価証券報告書 第169〜171期【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】
  • 電通 有価証券報告書 第163〜171期【従業員の状況】
  • 電通 有価証券報告書「第168期(2016年12月期)【対処すべき課題】【役員の状況】」
  • 電通 有価証券報告書「第169期(2017年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 電通 有価証券報告書「第170期(2018年12月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • 電通グループ 有価証券報告書「第171期(2019年12月期)【事業等のリスク】」
  • 電通グループ 招集通知「第176回定時株主総会招集ご通知」

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