DeNA WELQ問題で全サイト非公開 キュレーションプラットフォーム事業の全面停止と、事実調査を社外へ委ねた危機対応

更新:

時期 2016年12月
当時の社長 守安功
論点 メディアの品質・著作権と経営責任
何をなぜ決めたか
概要

2016年12月7日までに、キュレーションプラットフォーム事業で運営していた全てのサービスの記事の公開を停止した。著作権法等の法令に違反する可能性がある記事、及び内容が不適切な記事が作成・公開されているという指摘を受けての判断だった。

12月15日にはDeNAと利害関係を有しない独立した委員のみで構成する第三者委員会を設置し、詳細な事実関係の調査と原因の究明、改善策の検討を委ねた。調査報告書は2017年3月11日に受領し、その2日後の3月13日に公表した。

背景

この事業が始まったのは2014年9月である。住まいやインテリアに特化した「iemo」を運営するiemo株式会社の株式を9月15日に、女性向けファッションに特化した「MERY」を運営する株式会社ペロリの株式を9月30日に、いずれも100%取得した。移転された対価は合計3,719百万円で、全額を現金で決済し、のれんを3,446百万円認識している。中長期で成長する構造的な強みを持つ事業を創出するための成長領域への投資であり、この2社の取得をもってキュレーションプラットフォーム事業を開始した。

内容

記事の公開停止は、事業の停止を意味した。2017年3月期のキュレーションプラットフォーム事業の売上収益は3,660百万円、営業損失は2,882百万円。事業の運営状況の調査と事業継続の可否の検討が続き、事業計画が未定となったため、使用価値をゼロとみなして3,948百万円の減損損失を認識した。

「新規事業・その他」の区分で計上した減損損失は4,874百万円で、うち4,333百万円がのれんだった。単体では第三者委員会の設置費用や記者会見費用等453百万円を特別損失に計上している。

含意

再発防止の中核に据えたのは、コーポレート・ガバナンス及び内部統制の体制の見直しと強化だった。リスク管理、コンプライアンス、グループ会社管理を含めて組み直し、全役職員の意識改革に取り組むとした。

事業そのものの扱いは長く決まらず、2018年3月期末の時点でも再開の可否に決定した事項はなかった。再開する場合の運営プロセスの抜本的な見直し、ブランドと信用の毀損、ユーザや権利者からの補償等の請求、法令違反と判断された場合の刑事罰や行政処分の発生は、翌期以降もリスクとして挙げ続けた。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

スピードを公共領域へ持ち込むということ

この危機対応の芯は、財務の損失そのものよりも、事業のやり方が招いた信頼の毀損にどう向き合うかにあった。検索から流入を集めて記事を量産する運営を、医療や健康という正確さが命にかかわる領域へ、審査の仕組みを整えないまま持ち込んだところに、問題の根がある。守安功社長は事業の停止を選び、自社の解剖を社外の独立した委員に委ねた。事業計画が未定になったために使用価値をゼロとみなして認識した3,948百万円の減損損失は、事業の価値を自ら消したことの会計上の表現だったと思われる。

もっとも、この問題が投げかけた問いはDeNA一社にとどまらない。検索からの流入で規模を追うメディアが、そこに載る情報の正確さや、他者の権利にどこまで責任を負うのか。速さと実験を尊ぶ気風は新しい事業を生む力である一方、人の健康や安全にかかわる領域では、確認の手間を省く言い訳にもなりうる。再開の可否は翌期末にも決まらず、事業は止まったままだった。参入に投じた3,719百万円は、参入の速さがそのまま撤退の重さに転じた例として残るのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
指摘を受けた内容 著作権法等の法令に違反する可能性がある記事 内容が不適切な記事が作成・公開されているという指摘もあわせて受けた
対象となった事業 キュレーションプラットフォーム事業 「新規事業・その他」のセグメント区分に属し、iemo・ペロリの取得で開始した
記事の公開を停止した日 2016年12月7日 この日までに当該事業で運営する全てのサービスの記事の公開を停止した
第三者委員会を設置した日 2016年12月15日 DeNAと利害関係を有しない独立した委員のみで構成した
委員会に委ねた事項 事実関係の調査・原因の究明・改善策の検討 詳細な調査と究明、改善策の検討等が必要であると判断した
調査報告書を受領した日 2017年3月11日 受領の2日後にあたる同年3月13日に調査報告書を公表した
対象事業の売上収益 3,660百万円 2017年3月期。共通費等の配賦後の管理会計上の数値で監査手続を受けていない
対象事業の営業損失 2,882百万円 2017年3月期。同じく共通費等の配賦後の管理会計上の数値
減損損失 4,874百万円 全額が「新規事業・その他」の区分。連結損益計算書の「その他の費用」に計上
うち事業計画が未定として認識した額 3,948百万円 事業継続の可否に決定した事項がなく、使用価値をゼロとみなして認識した
減損したのれん 4,333百万円 ほかにソフトウェア223・有形固定資産303・その他の無形資産15を減損した
キュレーションプラットフォーム関連損失 453百万円 第三者委員会の設置費用や記者会見費用等。2017年3月期の単体の特別損失
関係会社株式評価損 6,360百万円 連結子会社である株式会社ペロリ等の株式に係る評価損。単体の特別損失
参入時の取得原価 3,719百万円 iemo・ペロリの2社。全額を現金で決済し、のれんを3,446百万円認識した
再発防止として掲げた対応 ガバナンスと内部統制の体制の見直しと強化 リスク管理・コンプライアンス・グループ会社管理を含む。全役職員の意識改革
事業再開の可否 未定 2018年3月期末の時点でも決定した事項はなかった

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第19期(2017年3月期)【事業等のリスク】【対処すべき課題】【業績等の概要】および資産の減損・特別損失の注記、第20期(2018年3月期)資産の減損の注記、第17期(2015年3月期)【企業結合等関係】

キュレーションプラットフォーム事業が属した区分の業績

DeNA:キュレーションプラットフォーム事業が属した区分の業績

(百万円) 売上収益セグメント損益 備考
2016年3月期 5,742△4,706 区分を「新規事業・その他」へ改めた。キュレーション事業はこの区分に属す
2017年3月期 10,439△5,149 キュレーション事業の売上収益は3,660、営業損失は2,882(管理会計)
2018年3月期 9,416△5,485 記事の非公開化は続き、事業の再開は決まらないままだった
2019年3月期 8,568△2,439
2020年3月期 14,322△2,379 ヘルスケア事業・オートモーティブ事業が別の報告セグメントへ分かれた
2021年3月期 6,826△162
2022年3月期 3,850△326
区分の売上収益とセグメント損益率
売上収益(百万円)セグメント損益率(%)

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第18〜24期(各期の【業績等の概要】。値は各期の当期欄で、翌期の組替後の数値とは一致しない)

連結の減損損失

DeNA:連結の減損損失

(百万円) 減損損失うちキュレーションプラットフォーム事業 備考
2017年3月期 4,8743,948 のれん4,333・ソフトウェア223・有形固定資産303・その他の無形資産15
2018年3月期 1,411− 内訳はヘルスケア事業504とゲーム事業のソフトウェア793等
2019年3月期 1,193−
2020年3月期 51,165− のれん40,164とソフトウェア10,259が主で、本件とは別の減損
2021年3月期 5,146−
2022年3月期 4,244−
減損損失の内訳
うちキュレーションプラットフォーム事業(百万円)それ以外の減損(百万円)

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第19〜24期(資産の減損。連結損益計算書の「その他の費用」に計上した額)

従業員数

DeNA:従業員数

(名) 連結従業員数該当区分の従業員数 備考
2012年3月期 1,810210 該当区分は当時「その他」。いずれも各期末現在の就業人員数
2013年3月期 2,108247
2014年3月期 2,19768
2015年3月期 2,424161
2016年3月期 2,435319 区分を「新規事業・その他」へ改めた
2017年3月期 2,400435 記事の非公開化の後も、区分の人員は前期から116名増えている
2018年3月期 2,475346
2019年3月期 2,437166 オートモーティブ事業・ヘルスケア事業が別の区分へ分かれた
2020年3月期 2,558286
2021年3月期 2,10065
2022年3月期 2,19484

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第14〜24期【従業員の状況】(連結会社の状況)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ディー・エヌ・エー 適時開示「キュレーションプラットフォーム事業に関するお知らせ~第三者調査委員会の設置および当社キュレーションプラットフォームサービス全記事非公開化に関するお知らせ~」
  • ディー・エヌ・エー 適時開示「第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応方針について」
  • ディー・エヌ・エー キュレーション事業に関する第三者委員会 調査報告書「調査報告書」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第19期(2017年3月期)【事業等のリスク】(8) キュレーションプラットフォーム事業に関連する問題の影響」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第19期(2017年3月期)「11.資産の減損」および【業績等の概要】」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第20期(2018年3月期)「11.資産の減損」」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第17期(2015年3月期)【企業結合等関係】(iemo株式会社及び株式会社ペロリの取得)」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会 質疑応答「2017年3月期 通期決算説明会 質疑応答」

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