キュレーション全10サイトを非公開にし、社外の第三者委員会に事実調査を委ねた危機対応
2017年実施医療・健康情報の品質と著作権が崩れたとき、守安功氏はなぜ社外の委員会に自社の解剖を委ねたか
- 概要
- 2016年、DeNAはWELQなどキュレーションの全10サイトの記事を非公開にし、社外の弁護士による第三者委員会に事実調査を委ねた危機対応。守安功社長は謝罪会見に立ち、翌2017年3月の調査報告書は著作権侵害や薬機法違反の可能性と組織風土の問題を指摘した。
- 背景
- 2014年にiemoとペロリを合算37億円で買収してキュレーション事業に参入した。検索からの流入を集めて記事を量産する運営モデルを、医療・健康という公共性の高い領域へ審査なく適用し、不正確な記事と著作権侵害が積み上がった。
- 内容
- 2016年11月末にWELQを非公開とし、12月7日までに全10サイトの記事を非公開にした。守安功社長と南場智子会長が謝罪会見に立ち、名取勝也弁護士を委員長とする4名の第三者委員会を設けて事実調査を委ねた。
- 含意
- 2017年3月13日の調査報告書は、10サイト37万件超の記事の一部に著作権侵害の可能性、「売上・利益至上」の組織風土と「永久ベンチャー」の免罪符化を指摘した。守安社長の報酬減額と村田マリ執行役員の辞任という経営責任が示された。
スピードを公共領域へ持ち込むということ
この危機対応の核心は、財務の損失そのものよりも、事業のやり方が招いた信頼の毀損にどう向き合うかにあった。DeNAは検索で閲覧数を集め、速さと量で事業を広げる流儀を、モバイルゲームで築いてきた。その流儀を、医療や健康という正確さが命にかかわる領域へ、審査の仕組みを整えないまま持ち込んだところに、この問題の根があった。守安社長が全サイトを閉じ、社外の委員会に自社の解剖を委ね、報酬を減額して責任を引き受けた一連の対応には、経営のやり方そのものへの反省が込められていた。
もっとも、この問題が投げかけた問いは、DeNA一社にとどまらない。検索からの流入で規模を追うメディアが、そこに載る情報の正確さや、他者の権利にどこまで責任を負うのか。速さと実験を尊ぶベンチャーの気風は、新しい事業を生む力である一方、人の健康や安全にかかわる領域では、確認の手間を省く言い訳にもなりうる。「永久ベンチャー」という言葉が拡大の免罪符になっていたという指摘は、成長を急ぐ企業が公共的な責任とどう折り合いをつけるかという、今日にも続く問いとして残る。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
検索流入を集める量産型のメディア運営
2014年9月、DeNAはキュレーションメディアへの参入のため、iemoとペロリの2社を合算37億円で買収した。ソーシャルゲームへ偏った収益を分散し、次の柱を育てる狙いだった。買収後にDeNAはWELQやMERYなど複数のサイトをそろえ、検索エンジンからの流入を集めて記事を量産する運営モデルを整えた。外部のライターに安い報酬で記事を数多く書かせ、検索で上位に出やすいよう最適化する手法は、少ない費用で大量の閲覧数を稼ぐ設計だった[1]。
この運営モデルの中心にあったWELQは、医療・健康・美容をあつかう情報サイトだった。人の健康や病気にかかわる情報は、正確さと専門的な裏づけが強く求められる領域である。しかしWELQでは、専門的な根拠の乏しい記事や、他サイトの文章・画像を無断で使った記事が量産された。検索対策を優先して記事の量と順位を追ったことで、医療情報としての正確さの確認が後回しになった[2]。
医療情報の正確さへ向かった批判
2016年秋、WELQの記事の信頼性をめぐる批判が広がった。医学的な根拠のない記述や、断定を避けながら不安をあおる書き方が問題視され、他媒体からの無断転載の指摘も相次いだ。検索で上位を占めていたことが、不正確な医療情報の影響を広げていた。批判はWELQにとどまらず、同じ手法で運営されていた他のキュレーションサイトへも及び、DeNAは対応を迫られた[3]。
決断
全10サイトの非公開化と謝罪会見
DeNAはまず問題の中心にあったWELQを閉じた。2016年11月29日にWELQの全記事を非公開とし、続いて12月5日には、iemoやFind Travelなど非公開化済みの9媒体に加え、すべてのキュレーションサイトの記事を非公開にすると発表した。ペロリが運営するMERYも12月7日に非公開とし、全10サイトの記事をいったんすべて閉じた。問題の一部を手直しするのではなく、事業全体をとめる判断だった[4]。
2016年12月7日、守安功社長と南場智子会長は記者会見を開き、利用者や権利者への謝罪を述べた。守安社長は、数字を追う経営が品質やガバナンスの確認を後回しにしたと認め、会社として生まれ変わる必要を語った。数字の追求だけでなく、社会的な意義とのつり合いを取る経営へ切り替えると表明し、事業の拡大を最優先してきた経営の見直しに着手した[5]。
社外の弁護士による第三者委員会
DeNAは自社内での調査にとどめず、社外の専門家に事実の解明を委ねた。2016年12月15日、名取勝也弁護士を委員長とし、西川元啓・岡村久道・沖田美恵子の各弁護士を加えた4名の第三者委員会を設けた。委員会には、著作権や薬機法など法令上の問題だけでなく、企業風土やガバナンスといった背景の要因まで踏み込んで原因を調べ、改善策を示すことを求めた。経営陣が身内で幕を引くのではなく、外部の視点で自社を解剖させる体制を整えた[6]。
結果
調査報告書が示した問題と経営責任
2017年3月13日、第三者委員会は調査報告書を公表した。全文は277頁、要約版は32頁におよぶ。報告書は10サイトの記事376,671件を調べ、著作権や翻案権を侵害している可能性がある記事を1.9〜5.6%、およそ7,516〜21,093件と推計した。記事に使われた画像約472万点のうち、747,643点に著作権侵害の可能性があるとした。外部から指摘されたWELQの19件では、薬機法に触れる可能性が8件、医師法と健康増進法にそれぞれ1件あるとした[7]。
報告書は、これらの問題の根に組織の風土があるとみた。売上と利益を上げることが至上の目標となり、スピードを優先して慎重な検討をおろそかにした点を指摘した。DeNAが掲げてきた「永久ベンチャー」という言葉が、事業の拡大を急ぐことの免罪符として働いていたとも述べた。委員会は、自社の経済的な利益だけを見るのではなく、さまざまな関係者への配慮を欠かさない稼ぎ方への修正を求めた[8]。
報告書を受けて、DeNAは経営責任を明らかにした。守安功社長は月額報酬の50%を6ヶ月間減給とした。メディア事業を統括した執行役員の村田マリは、執行役員と子会社iemo・Find Travelの代表取締役を辞任する意向を表明した。MERYを運営したペロリの中川綾太郎も辞任し、役職員27名も就業規則にもとづく処分を受けた。DeNAは代表取締役を2名体制に改め、業務執行と独立したコンプライアンス・リスク管理の最高責任者を新たに置いた[9][10]。
- 株式会社ディー・エヌ・エー キュレーション事業に関する第三者委員会 調査報告書(2017年3月13日)
- 株式会社ディー・エヌ・エー(2017年3月13日)「第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応方針について」
- 株式会社ディー・エヌ・エー(2016年12月5日)「第三者調査委員会の設置および当社キュレーションプラットフォームサービス全記事非公開化に関するお知らせ」
- 株式会社ディー・エヌ・エー(2016年12月15日)「第三者委員会の設置に関するお知らせ」
- 日経ビジネス(2016年12月)「DeNA守安社長、独自インタビューで胸中明かす」
- ITmedia NEWS(2017年3月13日)「DeNA、キュレーション問題で関係者処分 『iemo』村田マリ氏・『MERY』中川綾太郎氏辞任」
- logmi Biz(2017年3月13日)「【全文】『永久ベンチャーは免罪符ではない』 DeNAキュレーション事業問題で、第三者委が調査結果を報告」
- DeNA 有価証券報告書(連結・2015年3月期/2017年3月期)