米ngmoco社の買収による世界ソーシャルゲームプラットフォームへの挑戦

2016年実施

国内で磨いた成功の型を、南場智子氏はなぜ最大4億ドルの海外買収で移そうとしたのか

時期 2010年10月
意思決定者 南場智子(社長)
論点 グローバル展開と買収
概要
2010年10月、携帯電話向けソーシャルゲーム「モバゲー」で急成長したDeNAが、米国シリコンバレーのngmoco社を最大4.03億米ドル(約342億円)で取得し、世界No.1のソーシャルゲームプラットフォームの構築をめざして海外へ進出した経営判断。南場智子社長のもと、守安功COOらが海外構想を進めた。
背景
国内のフィーチャーフォンに最適化した課金・運営の高収益モデルは、スマートフォンが主役の海外市場へそのまま持ち出せないとDeNAは認識していた。2008年に米国へDeNA Global, Inc.を設けて前線の拠点としたが、自前で海外事業を育てるには時間がかかり、現地の開発力と利用者基盤を外から取り込む道を探った。
内容
2010年10月12日、DeNAはngmoco社の買収を発表した。元エレクトロニック・アーツのNeil Youngが率いる開発力と、モバゲータウンで培ったコミュニティ運営・収益化のノウハウを組み合わせ、Mobageのグローバル・プラットフォーム化を加速する狙いだった。2011年3月には「モバゲータウン」を「Mobage」へ改称し、海外版を投入した。
含意
運営型の日本と、プロダクト志向の米国の開発文化の差は埋まらず、統合は難航した。海外向けMobageの収益貢献は限られ、クロスプラットフォーム開発エンジン「ngCore」は2013年12月にサポートを終了し、2016年にはDeNA Global・ngmoco等を解散した。後年のゲーム事業の減損にも連なった。
筆者の見解

成功の型を、他国へ移せるか

この判断の核心は、国内で作り上げた成功の型を、性格の異なる海外市場へそのまま移せるかという問いにあった。フィーチャーフォンの日本市場で、運営しながら数値を見て課金を最適化する手法は、高い収益を生んだ。だが、その手法が前提としたのは、日本に特有の端末・利用者・商習慣であり、スマートフォンが主役の海外で、同じ型がそのまま効くとは限らなかった。DeNAが現地の有力企業を丸ごと取り込んだのは、この移植の難しさを自力で学ぶより、出来上がった開発力と市場を買って飛び越えようとした選択だったとみることができる。

もっとも、買収でつかんだのは開発力であって、日本と海外の文化の差を埋める時間までは買えなかった。統合の難しさは、支払った金額とは別の次元にあった。ngmocoの解散と後年の減損は、この賭けが見込みどおりには実らなかったことを示す。ただ、海外で通用する形を自前でゼロから育てる道と、現地企業を取り込んで一気に踏み込む道の、どちらが正しかったのかは、いま簡単には言い切れない。国内で築いた強みを、どの市場で、どの座組みで生かすのか——DeNAが早い時期に世界へ問いかけたこの主題は、その後も新しい領域へ乗り出すたびに、形を変えて問い直されていく。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

国内で通用したモデルを海外へ持ち出せるか

2010年当時のDeNAは、携帯電話向けのソーシャルゲーム「モバゲー」で急成長していた。連結売上高は2010年3月期の481億円から、2011年3月期には1,127億円へと一年で倍以上に伸び、営業利益も561億円に達した。この高い収益は、国内のフィーチャーフォンという特定の環境に最適化した、課金と運営の細かな仕組みに支えられていた。同じ仕組みをそのまま海外へ持ち出しても通用するとは限らない。iPhoneに代表されるスマートフォンが世界で広がるなか、DeNAは国内の成功の型を海外市場でどう作り直すかという課題を抱えていた[1]

世界で戦うという方針は、買収より前から布石が打たれていた。DeNAは2008年1月に米国へDeNA Global, Inc.を設け、国内モバイルプラットフォームの海外投入をうかがう前線の拠点とした。しかし、自前で一から海外事業を立ち上げるには時間がかかり、スマートフォン向けゲームの開発力や現地の利用者基盤を、外から短期間で取り込む道が要ると見込んだ。南場智子社長は、世界での存在感を欠いてきた現状を変えるうえで、現地の有力企業をまるごと取り込む買収を、海外への参入を一気に進める手立てととらえた[2]

決断

シリコンバレーのngmocoを最大4.03億ドルで取得

2010年10月12日、DeNAは米国シリコンバレーのngmoco社を買収すると発表した。取得価額は、契約完了時に支払う3.03億米ドルに、その後の業績に応じて支払う分を加え、最大で4.03億米ドル、当時の為替で約342億円に上った。ngmocoは2008年6月に設立されたベンチャーで、元エレクトロニック・アーツのNeil Youngらが率い、iPhoneやiPod touch向けに、ダウンロード無料でアイテム課金を組み込んだゲームを、緻密なデータ分析にもとづいて運営していた。DeNAにとって初めての大型の海外買収であった[3]

買収の狙いは、世界で最も使われるソーシャルゲームのプラットフォームを、Mobageの名で築くことにあった。DeNAは、モバゲータウンで培ったコミュニティ運営や収益化のノウハウを、ngmocoが持つスマートフォン向けの開発力とプラットフォーム開発力に組み合わせようとした。iOSとAndroidの違いを意識せず一度の開発で両方へ配信できる仕組みを整え、世界共通の看板でゲーム開発者を呼び込むことを描いた。守安功COOら経営陣がこの海外構想を進め、2011年3月には「モバゲータウン」を「Mobage」へ改称し、同年に海外版を投入した[4][5]

結果

埋まらない開発文化の差と海外からの撤退

世界No.1のプラットフォームという構想は、思いどおりには進まなかった。日本で磨いた、運営しながら数値を見て手を入れていく型のゲーム作りと、米国側の、完成度を作り込んでから出すという開発文化の隔たりは埋まらず、意思決定の速さや品質の基準のずれもあって、統合は難航した。海外向けMobageの収益貢献は限られ、クロスプラットフォームの中核と見込んだ開発エンジン「ngCore」も広くは使われないまま、DeNAは2013年12月にそのサポートを終え、iOSやAndroidが個別に用意する開発環境へ戻した[6]

海外事業そのものの見直しも避けられなかった。DeNAは2016年10月、米国子会社であるDeNA Global社と、その傘下で欧米事業の中核を担ってきたngmoco社などを解散・清算すると決めた。北米・西欧向けに絞った体制でゲーム開発を続けてきたものの、期待した成果には届かなかったと会社は説明した。買収から6年で、シリコンバレーの開発拠点を手放し、現地でゲームを作る路線から、外部の企業と組む形へと海外戦略を組み替えた[7]

後年の減損として表れた買収の代償

海外事業をめぐる判断の代償は、時間をおいて数字にも表れた。DeNAは2020年3月期に、ゲーム事業で511億円の減損損失を計上し、連結の最終損益は491億円の赤字に転じた。ただし、この511億円はゲーム事業のセグメント全体に対する減損であり、ngmoco一社の損失をそのまま示す金額ではない。それでも、海外を含むゲーム事業に積み上げてきた買収の対価が、当初に見込んだ収益に見合わなくなった現実を映していた。世界No.1をめざした海外への大型投資は、後年の損失処理に連なる一因として残った[8]

出典・参考