横浜ベイスターズの買収とプロ野球への参入
2011年実施慢性赤字の球団取得を、守安功はなぜ年200億円の広告投資の一部として説明したのか
- 概要
- 2011年、モバイルゲーム「モバゲー」で急成長したDeNAが、東京放送ホールディングスから横浜ベイスターズの株式を議決権66.92%・65億円で取得し、プロ野球へ参入した経営判断。守安功社長は年間200億円弱の広告宣伝・販促の一部として球団取得を説明し、球団名を「横浜DeNAベイスターズ」とした。
- 背景
- 当時のDeNAはモバゲーの成長で事業規模を拡げた一方、会社名の知名度は規模ほど高くなく、採用や広告宣伝に多額の費用を投じていた。売却側のTBSホールディングスが抱える横浜ベイスターズは、年間売上高約50億円に対し20数億円の赤字を出す慢性的な不振で、横浜スタジアムの稼働率も5割程度にとどまっていた。
- 内容
- 2011年11月4日、DeNAは取締役会でプロ野球参入を決議し、TBSホールディングスから球団株式870,000株を65億円で取得する契約を結んだ。日本野球機構への預かり保証金など約30億円を含む総額は約95億円で、12月1日に加盟が承認され、翌2日に譲渡が実行された。池田純が球団社長に就任した。
- 含意
- 球団単体の赤字を、会社とモバゲーの知名度・ブランドを高める広告宣伝費の一部と捉えた投資であった。2016年に横浜スタジアムを取得し球場との一体経営を進め、観客動員と稼働率を高めて球団を買収5年目に黒字化した。2024年に観客動員が235万人と球団史上最多を更新し、チームは26年ぶりの日本一となった。
赤字球団を「最も効く広告」と見なした投資の帰結
この判断の核心は、赤字の球団を損失の源泉としてではなく、会社の知名度とブランドを高める広告への出費として読み替えた点にある。赤字という言葉の後ろ向きな響きを、投資の語彙へ置き換えた発想であった。守安社長が年間200億円弱の広告販促費を引き合いに出したとおり、狙いは商品の宣伝そのものというより、事業の規模に見合わない知名度を補い、採用や利用者の獲得を有利に運ぶことにあった。全国のニュースで球団名が繰り返し報じられる効果を、通常の広告出稿と同じ物差しで測れば、年間20数億円の赤字は必ずしも高い買い物ではないという計算が働いていたとみられる。
もっとも、球団取得を広告と見なす発想だけでは、その後の黒字化までは説明しきれない。DeNAは池田純のもとで集客を立て直し、2016年には横浜スタジアムを取得して球団と球場を一体で運営する体制を整えた。費用として割り切った球団を、興行と施設の両面から収益を生む事業へ組み替えたことが、稼働率9割超と買収5年での黒字化をもたらした。当初の広告という説明は、赤字を許容して踏み込むための入り口であり、そこから先の企業努力が、費用を資産へ転じる差を生んだと読み取れる。2024年の日本一と最多動員は、その延長線上にある到達点であった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
事業規模に知名度が追いつかない会社
2011年当時のDeNAは、携帯電話向けのソーシャルゲーム「モバゲー」を軸に急成長していた。2011年3月期の連結売上高は1,127億円、営業利益は561億円に達し、株式上場以来の最高益を更新していた。その一方で、会社名そのものの一般的な知名度は事業の規模ほど高くはなく、優れた人材の採用や新しい利用者の獲得のために、多額の広告宣伝費・販促費を投じていた。急成長で膨らんだ事業の実態と、社会に浸透した知名度との間には、なお開きが残っていた。この落差をどう埋めるかが、当時のDeNAが抱えていた課題であった[1]。
球団の売却側である東京放送ホールディングス(TBSホールディングス)にとって、横浜ベイスターズは扱いに悩む資産であった。球団は年間の売上高が約50億円ほどで、これに対して20数億円の赤字を慢性的に抱え、本拠地である横浜スタジアムの座席稼働率も5割程度にとどまっていた。放送を本業とするTBSにとって、赤字を出し続ける球団を保有する必然性は乏しく、売却の相手を探していた。全国的な知名度とブランドを求めるDeNAと、慢性赤字の球団を手放したいTBSの利害は、たがいに噛み合う余地を持っていた。両社の思惑は、球団の売買という一点で重なり合っていた[2]。
決断
議決権66.92%を65億円で取得する決議
2011年11月4日、DeNAは取締役会でプロ野球への参入を決議し、TBSホールディングスおよびBS-TBSから横浜ベイスターズの株式870,000株、議決権比率にして66.92%を65億円で取得する契約を結んだと発表した。取得価額の65億円に加え、日本野球機構への預かり保証金など約30億円を含めた総額は約95億円に上った。株式の取得だけでなく、新規参入に伴う制度上の負担までを引き受ける規模の投資であった。新しい球団名は「横浜DeNAベイスターズ」とし、横浜の地に根ざした球団を引き継ぐことが示された[3]。
守安社長は、こうした知名度の課題を、球団取得の目的として明快に語った。10月末の決算説明会で、広告宣伝や販促に年間200億円弱を使っていると述べ、プロ野球への参入をこの投資の一部として説明した。球団単体が生む赤字は、会社とモバゲーの知名度やブランドを高める広告宣伝費の一部にほかならず、全国に報じられる球団を持つことに、採用やブランド形成の面で見合う効果があると見込んでいた。既存の広告出稿が費用として消えていくのに対し、球団は保有し続ける資産である点にも、通常の広告出稿とは異なる独自の意味があった[4]。
加盟の承認と初代球団社長
DeNAの参入には、日本野球機構による加盟の承認という関門があった。2011年12月1日にオーナー会議で加盟が承認され、翌2日に株式譲渡が実行されて、球団はDeNAの傘下に入った。初代の球団社長には池田純が就き、赤字が続いてきた球団の経営再建を託された。買収の時点で観客動員は年間およそ110万人にとどまり、空席の目立つ本拠地をどう埋めるかが最初の課題であった。DeNAは、球団を単に保有するのではなく、興行として成り立たせ、収益の面でも自立させる立て直しに取り組む方針を掲げて、新体制を始動させた[5]。
結果
動員と稼働率の回復、球場との一体経営
球団の立て直しは、集客の回復と経営基盤の整備という二つの面で進んだ。2015年には創業者の南場智子がプロ野球で初の女性オーナーに就き、球団経営への関与を強めた。同年11月、DeNAは横浜DeNAベイスターズを通じて本拠地・横浜スタジアムへの株式公開買付け(TOB)を決議し、2016年1月に議決権の76.87%まで買い進めた。買付総額は74億円に上った。球団と球場を同じ資本のもとに置くことで、入場料に加えて飲食や物販、広告といった球場側の収益までを一体で取り込む経営が可能になり、収益の裾野を広げた[6]。
球団・球場の一体経営は、観客動員と稼働率の改善に表れた。観客動員は買収時の約110万人から、2015年に181万人、2016年に194万人へ増え、座席稼働率は買収時の約50%から2016年には93.3%へ高まった。球団単体の収支は、DeNAによる買収から5年目にあたる2016年に初めて黒字となる見通しとなり、慢性的な赤字を抱えてきた球団事業が興行として自立に向かった。横浜DeNAベイスターズの池田純社長は、横浜スタジアムのTOB成立を受けて、構造の大改革で野球事業の健全化に道筋がついたと述べた[7]。
費用から利益を生む事業へ
当初は広告宣伝費の一部と捉えられた球団取得は、時間をかけて性格を変えていった。DeNAは球場を含む一体経営を続け、2024年には観客動員が235万人と球団史上最多を更新し、チームは26年ぶりの日本一となった。全国的な注目を集める球団は、会社の知名度を高める広告としての役割を果たしつつ、それ自体が利益を生む事業へと育った。運営会社である株式会社横浜DeNAベイスターズの最終利益は、2024年12月期に34億円へ拡大している。赤字を前提に取得した球団が、知名度と利益の双方をもたらす資産へ変わっていった[8]。
- 日本経済新聞(2011年10月31日)「DeNA社長『球団運営の赤字は広告宣伝費』」
- DeNA プレスリリース(2011年11月4日)「プロ野球への参入について」
- 日本経済新聞(2016年1月22日)「DeNA、球団黒字化へ道 『横浜スタジアム』TOB成立」
- 横浜DeNAベイスターズ 公式サイト(2024年 観客動員235万人)
- 株式会社横浜DeNAベイスターズ 決算(2024年12月期・最終利益34億円)
- DeNA 有価証券報告書(連結・2011年3月期)