DeNA 岡村信悟氏が社長就任 10年ぶりの社長交代と、費用構造の筋肉質化による収益基盤の立て直し

更新:

時期 2021年2月
当時の社長 守安功
論点 経営体制と固定費
何をなぜ決めたか
概要

2021年2月9日の取締役会で代表取締役の異動を決議し、4月1日付で守安功社長が代表取締役社長兼執行役員CEOを退任して取締役となり、取締役兼COOの岡村信悟氏が代表取締役社長兼執行役員最高経営責任者(CEO)に就任した。2011年6月以来10年ぶりの社長交代で、創業者の南場智子会長は代表取締役会長にとどまった。

前年度の2020年3月期は減損損失を計51,165百万円計上して営業損失45,676百万円・当期損失49,166百万円となり、2005年の上場以来はじめて通期の最終赤字を計上していた。新体制が掲げたのは費用構造の筋肉質化及び固定費の最適化で、ゲーム事業の健全な収益性の確保と、ライブストリーミング事業の成長の積み上げを重点に置いた。

背景

モバゲーの成功で急伸したDeNAは、スマートフォンへの移行後に大型のヒットを欠き、ゲーム事業の売上収益は2016年3月期の109,220百万円から2020年3月期には83,805百万円まで減少した。同期の減損損失51,165百万円のうち、ゲーム事業に係る分が50,093百万円を占める。

守安功社長は上場後はじめての通期最終赤字を 『通期では初めてです。減損損失の計上が大きな要因ではありますが、Non-GAAP営業利益においても赤字であったというところを重く受け止めています』 と、減損以外にも稼ぐ力そのものが低下していたことを認めた。同じ説明会では、ゲーム事業の固定費削減が2桁億円程度になるとの見通しも示している。固定費の最適化は2020年3月期の対処すべき課題にも既に掲げられており、交代はその方針を引き継いだうえでの体制の入れ替えであった。

内容

交代は取締役会の諮問機関である指名委員会を通っている。委員長と委員の過半数は独立社外取締役で、決議当時の委員は独立社外取締役2名と代表取締役会長の3名だった。取締役の任期は1年、決議時点の取締役会は5名(うち社外取締役2名)で、2021年6月の第23回定時株主総会で7名(うち独立社外取締役3名)へ増えた。

守安功元社長はこの総会で取締役も退任した。1999年11月の入社から21年、2021年3月期の連結報酬等の総額は南場智子会長と同じ115百万円である。岡村信悟社長は1995年に郵政省へ入省し、2016年4月に入社して横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長を務め、2019年6月に取締役兼COOとなっていた。2021年4月からは経営会議の議長も担い、構成員は業務執行取締役3名と常務執行役員2名となった。

含意

新体制の最初の期となった2021年3月期は、売上収益136,971百万円・営業利益22,495百万円・当期利益25,630百万円と黒字化した。ゲーム事業が91,289百万円へ7,484百万円の増収となり、前期に新規事業・その他から分けたライブストリーミング事業は24,211百万円・セグメント利益5,191百万円と主力事業に育った。連結従業員数は2,558名から2,100名へ458名減った。減少の主な理由は、タクシー配車事業の会社分割とSHOWROOM株式の一部譲渡にある。

岡村信悟社長は 『永久ベンチャーとして挑戦する心を忘れずに、楽しみながら世の中をもっとよくしていきたい』 と、刷新したミッション・ビジョン・バリューのもとでの挑戦を掲げた。もっともゲーム事業の売上収益はその後も下がり続け、2024年3月期には53,895百万円となる。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

成長の慣性を、どこでほどくか

2021年の社長交代の核心は、業績不振の責めを一人の経営者に負わせることよりも、成長を続ける前提で膨らんだ経営そのものを、稼ぎの実力に合わせて縮める点にあったと推察される。モバゲーの成功がDeNAにもたらした急成長は、裏を返せば、拡大が続くことを見込んだ組織規模と費用を会社に根づかせていた。守安功元社長が10年をかけて広げた事業の幅は、ゲームへの収益依存という課題を残したまま、スマートフォンへの移行という環境の変化に直面していた。上場来初の最終赤字と、それに先立つ固定費見直しの表明は、その課題の先送りが限界に届いたことを示していた。

総務省出身の岡村信悟社長を迎え、南場智子会長が支える新体制は、費用構造の筋肉質化から手をつけて初年度の黒字転換にこぎ着けた。だが2024年3月期に再び最終赤字へ沈んだことは、収益の基盤に不安定さがなお残っていたことを物語る。"ポケポケ"の世界的なヒットが2025年3月期の大幅黒字を生んだとはいえ、単一タイトルの成否で業績が振れる収益構造は、モバゲー以来の課題と地続きにある。費用の重さを解いた経営が次に問われるのは、当たりに頼らずとも利益を積める収益の質をどう作るかであろう。ベンチャーとして走り続けた会社が成熟企業の規律をどこで身につけるかという問いは、2021年の交代を経てもなお開かれたままである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
社長交代の経緯と対応

社長交代の経緯と対応

科目 概要 備考
異動を決議した日 2021年2月9日 代表取締役の異動に係る臨時報告書を翌2月10日に関東財務局長へ提出した
就任日 2021年4月1日 2021年3月期の期末を待たず、新年度の初日から新しい体制へ移した
新たに代表取締役社長となる者 岡村信悟(代表取締役社長兼執行役員CEO) 旧役職は取締役兼執行役員COO。1995年に郵政省へ入省し2016年4月に入社した
代表取締役社長でなくなる者 守安功(取締役) 旧役職は代表取締役社長兼執行役員CEO。2011年6月から10年間社長を務めた
前社長が取締役を退いた総会 2021年6月の第23回定時株主総会 1999年11月の入社から21年。2021年3月期の連結報酬等の総額は115百万円
会長の役職 南場智子(代表取締役会長) 2017年3月からの代表取締役会長兼執行役員から執行役員が外れた
指名委員会の関与 委員長と委員の過半数が独立社外取締役 選解任等に係る原案や経営陣候補の育成方針への諮問に対して答申を行う
取締役の任期 1年 2020年3月期に係る定時株主総会終結の時から翌期の総会終結の時まで
決議時点の取締役会 5名(うち社外取締役2名) 2021年6月の総会後は7名(うち独立社外取締役3名)となった
経営会議の議長 代表取締役社長兼CEO 2021年4月から。構成員は業務執行取締役3名と常務執行役員2名
新体制が掲げた重点 費用構造の筋肉質化及び固定費の最適化 ゲーム事業で健全な収益性を確保し、ライブストリーミング事業の成長を積み上げる
交代の前提となった損益 営業損失45,676百万円 2020年3月期。減損損失を計51,165百万円計上し、当期損失は49,166百万円
事業領域の組み替え エンターテインメントと社会課題の2領域 報告セグメントはゲーム・スポーツ・ライブストリーミング・ヘルスケアの4区分

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第22期(2020年3月期)・第23期(2021年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】、適時開示「代表取締役の異動に関するお知らせ」(2021年2月9日)

セグメント別の売上収益

DeNA:セグメント別の売上収益

(百万円) ゲームライブストリーミングスポーツヘルスケア新規事業・その他 備考
2016年3月期 109,220−9,888−5,661 EC事業18,939百万円は列に置いていない
2017年3月期 101,288−13,701−10,435 EC事業18,383百万円は列に置いていない
2018年3月期 97,917−16,7132,1257,137 EC事業15,351・オートモーティブ事業147百万円は列に置いていない
2019年3月期 83,530−17,9502,23320,206 オートモーティブ事業197百万円は列外。EC事業は新規事業・その他へ移した
2020年3月期 83,8059,14020,0221,7856,636 区分見直し後の値。ライブストリーミング事業を新規事業・その他から分けた
2021年3月期 91,28924,21112,6892,0996,683 岡村信悟社長が就任した期。ゲーム事業は7,484百万円の増収
2022年3月期 74,68134,66414,6863,0003,838
2023年3月期 63,96140,10620,9416,9832,923 ヘルスケア事業をヘルスケア・メディカル事業へ改めた期
2024年3月期 53,89542,57927,2649,9633,033 ゲーム事業の減収が続き、全社の売上収益は136,733百万円
2025年3月期 77,98240,56231,11310,7333,607 ゲーム事業が増収に転じ、全社の売上収益は163,997百万円
2026年3月期 64,17639,79032,6518,7052,379 スポーツ事業をスポーツ・スマートシティ事業へ改めた期
ゲーム事業の売上収益
ゲーム(百万円)

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第18〜28期(2016年3月期〜2026年3月期)【セグメント情報】

セグメント別の損益

DeNA:セグメント別の損益

(百万円) ゲームライブストリーミングスポーツヘルスケア新規事業・その他 備考
2016年3月期 25,900−△1,003−△4,706 EC事業2,643百万円は列に置いていない
2017年3月期 28,617−1,096−△4,994 EC事業2,137百万円は列に置いていない
2018年3月期 25,117−1,822△926△2,688 EC事業484・オートモーティブ事業△1,870百万円は列に置いていない
2019年3月期 18,273−1,454△1,240△1,140 オートモーティブ事業△3,610百万円は列に置いていない
2020年3月期 14,225△1,3561,203△1,559△8,901 区分見直し後の値。全社の営業損失は45,676百万円
2021年3月期 18,8695,191△3,589△1,194△162 全社の営業利益は22,495百万円へ戻した
2022年3月期 11,5963,484△2,575△624△326
2023年3月期 9,582△572△23△2,202△882
2024年3月期 3,4563392,125△3,640△1,303 4事業で減損損失を計上し、全社の営業損失は28,270百万円
2025年3月期 38,577△2012,836△3,619△1,124 ゲーム事業の利益が前期の11倍。全社の営業利益は28,973百万円
2026年3月期 29,6563,9841,795△2,329△1,550

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第18〜28期(2016年3月期〜2026年3月期)【セグメント情報】

従業員数

DeNA:従業員数

(名) 連結提出会社 備考
2016年3月期 2,4351,004
2017年3月期 2,4001,049
2018年3月期 2,4751,341
2019年3月期 2,4371,557
2020年3月期 2,5581,622
2021年3月期 2,1001,251 458名減。タクシー配車事業の会社分割とSHOWROOM株式の一部譲渡による
2022年3月期 2,1941,264
2023年3月期 2,9511,326
2024年3月期 2,8971,397
2025年3月期 2,5721,448
連結従業員数
連結(名)

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第18〜27期(2016年3月期〜2025年3月期)【従業員の状況】

取締役会の構成

DeNA:取締役会の構成

(名) 取締役うち社外取締役 備考
2016年3月期 52 員数はいずれも有価証券報告書提出日現在。役員のうち女性の比率は11.1%
2017年3月期 52 2017年3月期以降の社外取締役はいずれも独立役員として届け出ている
2018年3月期 52
2019年3月期 52
2020年3月期 52 役員のうち女性の比率は33.3%
2021年3月期 73 2021年6月の総会で2名増えた。役員のうち女性の比率は27.3%
2022年3月期 73
2023年3月期 73 役員のうち女性の比率は36.3%
2024年3月期 73
2025年3月期 73 同じ有価証券報告書に、総会後は6名(うち独立社外3名)となると記した
2026年3月期 63 社外取締役3名はいずれも独立役員

出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第18〜28期【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

社長交代と後継指名2009年ソニーCEOと社長を一人へ集め、エレクトロニクスとゲームを一体で動かす体制への転換経営体制の一本化と事業構造の改革
1993年横浜ゴム冨永靖雄氏へと受け継がれた、危機感に発するコスト削減と構造改革の10年コスト削減路線の継続と構造改革による収益基盤の立て直し
2023年住友ファーマ総額1,809億円の減損計上と、北米人員半減・パイプライン圧縮による構造改革主力品の独占販売終了後の収益消失と借入金への対応
2019年クックパッド動画レシピの台頭による会員離れと、身の丈に合わせた事業の畳み込み動画競争と縮小均衡
2019年曙ブレーキ工業560億円の債権放棄を前提とした国内外の生産拠点の縮小財務再建と生産拠点の再編
固定費の削減1999年NEC過去最大の連結赤字の公表と、金子尚志社長の退任経営体制と多角化の重み
1998年ファミリーマート西友による1,350億円での保有株譲渡と、親会社の交代筆頭株主の交代とグループ帰属
1997年三菱石油山田菊男会長の引責と泉谷良彦社長の続投という責任の分け方不祥事の引責人事と経営体制
1997年松坂屋総会屋への利益供与事件を受けた経営陣の退任と、不採算店舗の閉鎖・人員削減経営体制の立て直しと不採算事業の整理
1994年三菱電機長く3位にとどまった地位からの脱却を掲げた改革と、半導体投資の誤算経営体制と構造改革
参考文献
出典・参考
  • ディー・エヌ・エー 適時開示「代表取締役の異動に関するお知らせ」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会 質疑応答「2020年3月期 決算説明会 主な質疑応答の要約」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会 質疑応答「2021年3月期 決算説明会 主な質疑応答の要約」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第22期(2020年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第23期(2021年3月期)【役員の状況】【従業員の状況】【セグメント情報】」

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