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社長交代と全社的な固定費削減による経営の作り替え

2021年実施

上場来初の赤字に沈んだDeNAは、10年続いた守安体制と成長期の費用構造をどう畳んだか

時期 2021年2月
意思決定者 DeNA取締役会(守安功→岡村信悟)
論点 経営体制と固定費
概要
2021年、上場来初の最終赤字を受け、DeNAは10年務めた守安功が社長兼CEOを退き、取締役兼COOの岡村信悟が昇格した10年ぶりの社長交代と、全社的な固定費削減に踏み切った判断。創業者の南場智子は会長にとどまり、新体制は固定費の圧縮とゲーム事業の再強化、新規事業投資の絞り込みを重点に置いた。
背景
モバゲーの成功で急成長したDeNAは、スマートフォンへの移行後に大型のヒットを欠き、2020年3月期にゲーム事業で511億円の減損を計上して営業・最終ともに赤字へ転落した。2005年の上場以来初めての最終赤字であり、成長を前提に膨らんだ組織と費用構造が、伸び悩む収益から離れつつあった。
内容
2021年2月9日の取締役会で代表取締役の異動を決議し、4月1日付で守安が代表権のない取締役へ退き(同年6月の株主総会で取締役も退任)、総務省出身でベイスターズ社長やCOOを務めた岡村が社長兼CEOに就いた。守安が退任前から唱えていた全社的な固定費の見直しを、新CEOのもとで実際の削減へ移した。
含意
交代と固定費削減は、ベンチャー的な意思決定と成長期の費用構造を保ったまま新たな収益の柱を築けずにいた現実に向き合う判断であった。翌2021年3月期は黒字へ転換したが、2024年3月期に再び最終赤字へ沈み、単一タイトルに業績が左右される脆さと、成熟企業としての経営規律の定着が課題として残った。
筆者の見解

成長の慣性を、どこでほどくか

2021年の社長交代の核心は、業績不振の責めを一人の経営者に負わせることよりも、成長を続ける前提で膨らんだ経営そのものを、稼ぎの実力に合わせて縮める点にあったとみられる。モバゲーの成功がDeNAにもたらした急成長は、裏を返せば、拡大が続くことを見込んだ組織規模と費用を会社に根づかせていた。守安が10年をかけて広げた事業の幅は、ゲームへの収益依存という課題を残したまま、スマートフォンへの移行という環境の変化に直面していた。上場来初の最終赤字と、それに先立つ固定費見直しの表明は、その課題の先送りが限界に届いたことを示していた。

総務省出身の岡村を社長に迎え、南場が会長として支える新体制は、固定費の抑制から手をつけて翌年度の黒字転換にこぎ着けた。だが2024年3月期に再び最終赤字へ沈んだことは、収益の基盤に不安定さがなお残っていたことを物語る。『ポケポケ』の世界的なヒットが2025年3月期の大幅黒字を生んだとはいえ、単一タイトルの成否で業績が振れる収益構造は、モバゲー以来の課題と地続きにある。固定費を削って費用の重さを解いた経営が次に問われるのは、当たりに頼らずとも利益を積める収益の質をどう作るかであろう。ベンチャーとして走り続けた会社が成熟企業の規律をどこで身につけるかという問いは、2021年の交代を経てもなお開かれたままである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場来初の最終赤字

守安功が代表取締役社長兼CEOを務めた2011年からの約10年間、DeNAはフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行のなかで、モバゲーが担ってきたプラットフォームとしての優位を保てなかった。ゲーム事業では他社に伍する大型のヒットに恵まれず、収益の柱がしだいに細っていった。売上収益はスマートフォン向けアプリへの適応に時間を要して伸び悩み、横浜DeNAベイスターズの取得や任天堂との業務・資本提携で事業の幅は広げたものの、会社の稼ぎは依然としてゲーム事業に偏ったままであった。この偏りが、次の10年で経営体制の見直しを迫る伏線となっていた[1]

停滞は数字となって表れた。2020年3月期には、ゲーム事業でのれんやソフトウエアの減損損失511億円を計上し、連結の営業損益は457億円の赤字、最終損益は492億円の赤字に沈んだ。減損の多くはゲーム事業に紐づき、大型タイトルの不振と、買収して抱えた事業の価値の目減りが重なった結果であった。2005年のマザーズ上場から数えて、DeNAが最終赤字を記録したのはこれが初めてであった。単年の減損という一過性の要因だけでなく、成長を織り込んで組み上げた費用が実際の収益を上回るという構造の問題が、その赤字の底に横たわっていた。守安CEO自身も、業績の悪化を単発の失敗ではなく費用の重さの問題として受け止めていた[2]

成長期のまま据え置かれた費用構造

売上収益が伸び悩む一方で、組織の規模や人件費、開発投資といった費用は、成長を続けることを前提とした水準のまま置かれていた。2018年に投資枠を80億円へ広げたライブ配信・オートモーティブ・ヘルスケアの新規事業は、いずれも収益化に時間を要し、投じた費用に見合う稼ぎを生むには至っていなかった。事業ごとの収益性と費用配分の開きが広がるなかで、DeNAは戦略の巧拙より前に、費用の総量を収益の実力に合わせて縮める必要に直面していた。守安CEOは2020年3月期第3四半期の決算説明会で、コーポレートや共通部門を含めた全社的な固定費の見直しに踏み込むと述べていた[3]

決断

10年ぶりの社長交代

2021年2月9日、DeNAは取締役会で代表取締役の異動を決議した。4月1日付で、10年にわたり社長を務めた守安功が代表取締役社長兼CEOを退いて代表権のない取締役となり、同年6月の定時株主総会の終結をもって取締役からも退いた。後任には取締役兼COOの岡村信悟が代表取締役社長兼CEOに就いた。創業者の南場智子は代表取締役会長にとどまり、CEOには就いていない。社長の交代は、南場から守安への2011年の交代以来、およそ10年ぶりであった。異動は守安と岡村の二人にとどまらず、代表取締役の顔ぶれ全体の再編を伴い、南場が会長、岡村が社長を分けもつ体制へと整えられた。守安が広げた事業を引き継ぐ人事であると同時に、費用の見直しに手をつけるための体制の刷新でもあった[4]

新社長の岡村信悟は、総務省の出身で、2016年にDeNAへ移ったのち横浜DeNAベイスターズの社長を務め、2019年に取締役兼COOへ進んでいた。ゲームやインターネットの現場を長く歩んできた技術者ではなく、行政と球団経営を経てきた経歴の人物が、DeNAの経営全体を預かる立場に就いた。就任が内定した時点で岡村は、人工知能などを活用してユニークな事業を展開すると述べ、既存のゲーム事業に依存しない収益源の育成に意欲を示した。守安が退任前から固定費の見直しを唱えていたことと合わせ、新体制は費用の抑制と事業の選別を同時に進める布陣として整えられた[5]

固定費削減を中心に置いた新体制

新体制が最初に据えた課題は、個別の事業を立て直すことよりも、経営全体の前提を収益の実力に合わせて組み替えることにあった。重点は三つに絞られた。第一にゲーム事業の再強化であり、既存タイトルの運営と新作の投入で稼ぐ力を取り戻すこと。第二に新規事業投資の絞り込みで、80億円規模まで広げた多角化のうち勝機の乏しい領域から資源を引き上げること。そして第三が固定費の削減で、守安体制の末期に言及された全社的な費用の見直しを、新CEOのもとで実際の削減へ移すことであった。成長を追う経営から、収益の質を管理する経営への切り替えが、この三点に込められていた[6]

結果

黒字転換と、その後の振れ

新体制の初年度となった2021年3月期は、連結売上収益が1,369億円、営業利益が225億円、最終利益が256億円と、前期の赤字から黒字へ転換した。固定費の削減が費用面を軽くする一方、収益面ではライブ配信が伸びを牽引した。Pocochaを中心とするライブストリーミング事業は、売上が前年比164.9%増の242億円へ拡大して黒字化し、ゲーム事業に偏っていた収益の構成に厚みが加わった。赤字から黒字への振れ幅は、費用を削った効果と、新規事業のうち伸びる領域へ資源を寄せた効果の双方によるものであった。2022年4月には、東京証券取引所の市場再編に合わせてプライム市場へ移った。費用と事業の両面を締め直した最初の一年は、数字のうえで応えを返した[7]

もっとも、収益の基盤はなお不安定なままであった。2024年3月期は、ゲームタイトルやライブストリーミング事業IRIAMなどで減損損失を計上し、連結の営業損益は283億円の赤字、最終損益は287億円の赤字と、再び赤字へ落ち込んだ。転機は外から訪れた。2024年10月に配信を始めたスマートフォン向け『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』が世界規模のヒットとなり、2025年3月期はゲーム事業の売上が781億円へ膨らみ、連結でも売上収益1,639億円、営業利益290億円と大幅な黒字に戻した。固定費を締めた経営の土台の上でも、単一タイトルの当たり外れが業績を左右する脆さは、2021年の交代を経てなお残った[8]

出典・参考