任天堂と業務・資本提携を締結し、相互出資でスマートデバイス向けゲームを共同開発
2015年実施スマホに慎重だった任天堂と、成長が鈍ったDeNAは、なぜ業務提携に株式の持ち合いまで重ねたのか
- 概要
- 2015年、成長が鈍ったDeNAは任天堂と業務・資本提携を結び、相互に株式を持ち合った。任天堂の知的財産を活用したスマホ向けゲームアプリと、専用機・PC・スマホを統合する新会員サービスを共同開発し、資本では約220億円ずつを持ち合って任天堂がDeNAの第2位株主となった、守安功社長のもとでの経営判断。
- 背景
- DeNAのソーシャルゲーム事業は成熟し、売上収益は2013年3月期の約2,024億円をピークに減収へ向かっていた。任天堂はスマホ提供に慎重とみられてきたが、2014年1月に岩田聡社長がゲームを禁じ手にしないと表明し、世界的な知的財産とDeNAの運営経験を組み合わせる余地が生まれていた。
- 内容
- 2015年3月17日、両社は業務・資本提携で合意したと発表した。任天堂はDeNA株の10.00%を約220億円で第三者割当により取得し第2位株主に、DeNAも任天堂株1.24%を約220億円で取得して持ち合った。守安社長はノウハウの相互提供に必要な長期の信頼関係を理由に、株式の相互保有を選んだと説明した。
- 含意
- 業務提携に株式の持ち合いまで重ねたのは、互いのノウハウを預け合う関係を資本で担保するためであった。以降「ファイアーエムブレム ヒーローズ」などのヒットを生んだ一方、2022年にDeNAは保有株の半数を売却し、資本の結びつきは縮んだ。信頼の担保だった持ち合いが、事業の自走とともに一部を解かれた提携であった。
なぜ提携に、株の持ち合いまで重ねたのか
この判断の核にあるのは、業務提携だけでは足りず、株式の持ち合いまで重ねた点にある。任天堂は世界で通用する知的財産を、DeNAはモバイル向けサービスの構築・運営の経験を、それぞれ相手に開いて見せる必要があった。互いの強みの源泉であるノウハウを預け合う関係は、契約書の条項だけでは守りにくい。守安が長期的に強固な信頼関係を築くためと述べたとおり、相互出資は、簡単には離れられないという担保を資本の形で用意したものと読める。ほぼ同額を出し合った釣り合いは、どちらかが優位に立つ支配ではなく、対等な協働を意図した設計であった。
もっとも、資本の紐帯は永続を前提としていなかった。共同開発が実を結び、複数のヒットタイトルが生まれたのちの2022年、DeNAは持ち株の半数を売却し、政策保有株式の見直しという当時の市場の要請にも応じた。信頼を資本で担保する必要が最も高いのは関係の立ち上がりで、事業が自走し始めれば、その必要は薄れていく。相互出資が縮んでもなお提携が続いたことは、株の持ち合いが目的ではなく、協働を軌道に乗せるための手段であったことを裏づける。成長が鈍ったソーシャルゲーム会社が、外部の強力な知的財産と組んで次の成長を探るにあたり、資本をどう使い、いつ手放すかまでを含めて描いた提携であったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
2010年から重ねた対話と、任天堂の方針転換
岩田聡と守安功が最初に会ったのは2010年6月で、話し合いはDeNAの側から始まった。モバゲーへ任天堂の知的財産を供給できないかという提案が入り口となり、以後も両者はおよそ5年にわたり断続的に対話を重ねた。任天堂はスマートデバイス向けのゲーム提供に慎重とみられてきたが、2014年1月の経営方針説明会で岩田は、スマートデバイスの活用にあたってゲームコンテンツを禁じ手にはしないと明言していた。据置機と携帯機を自社ハードで売り切ってきた任天堂が、他社の端末で動くゲームへ踏み込む余地を、任天堂の社長みずから公の場で開いていた[1][2]。
成熟したモバゲーと、組み合わせの余地
DeNAのモバゲーを軸とするソーシャルゲーム事業は成熟していた。連結の売上収益は2013年3月期の約2,024億円をピークに、翌2014年3月期には約1,813億円へ減収し、利用者がフィーチャーフォンからスマートフォンへ、ブラウザからアプリへ移る過程で、適応に時間を要していた。自社プラットフォーム上で課金モデルを磨いてきた運営の経験は蓄積されていたものの、世界で通用する独自の知的財産をDeNAは持たなかった。世界的に支持される任天堂の知的財産と、DeNAが積み上げたモバイル向けサービスの構築・運営の経験には、たがいの欠を補い合う余地があった[3]。
決断
グローバル市場を狙う二本柱の業務提携
2015年3月17日、任天堂とDeNAは業務・資本提携で合意したと共同で記者発表した。業務提携は二本柱で、一つはグローバル市場を対象に、任天堂の知的財産を活用したスマートデバイス向けゲームアプリを共同で開発・運営すること、もう一つはゲーム専用機・パソコン・スマートデバイスを統合する新しい会員向けサービスを共同で開発することであった。後者はクラブニンテンドーに替わる会員基盤として任天堂が中心に運営し、2015年秋の開始が予定された。過去の専用機タイトルを単純に移植せず、スマートデバイスでは基本無料で始める方針も併せて示された[4]。
提携は任天堂の弱さの表れと受け取られやすかった。据置機Wii Uの販売が伸び悩み、スマートフォンにゲーム利用が移るなかでの発表だったためである。ゲーム機メーカーが自前のハードを離れて他社の端末にソフトを出す判断は当時なお異例で、市場はこれを守勢の一手と受け止めた。岩田はこれに対し、記者発表の質疑で明確に反論した。世の中が変化する以上それに対応しなければどんな企業も衰退するという危機感は持つが、追い込まれて消去法でこの提携を選んだという見方は誤解だと述べた。他社の端末へ踏み出す判断を、消極的な撤退ではなく能動的な選択として説明しようとした発言であった[5]。
相互の株式持ち合いという担保
業務提携に加えて、両社は資本提携を相互の株式持ち合いで結んだ。任天堂はDeNAの自己株式15,081,000株、発行済株式の10.00%にあたる分を約220億円で第三者割当により取得し、DeNAの第2位株主となった。同時にDeNAは任天堂の自己株式1,759,400株、同1.24%を1株12,497円、総額約220億円で取得し、払込期日は2015年4月2日とされた。ほぼ同額を出し合って相互に株を持ち合い、出資の比重は釣り合っていた。守安は、両社が強みの源泉であるノウハウを相互に提供するため、長期的に強固な信頼関係を築く必要があり、相互に株式を保有することを決めたと説明した[6][7]。
結果
ヒットタイトルの誕生と、縮んだ資本の結びつき
提携発表から約4か月後の2015年7月11日、岩田聡が55歳で死去した。共同開発の枠組みは残された経営陣に引き継がれ、第1弾アプリ「Miitomo」は2016年3月、続く「スーパーマリオ ラン」は同年12月に配信され、1週間で全世界5,000万ダウンロードに達した。2017年2月の「ファイアーエムブレム ヒーローズ」はアイテム課金を採り入れ、任天堂のスマートフォン向けゲームで最も売上の大きいタイトルとなった。以後も「どうぶつの森 ポケットキャンプ」(2017年11月)、「マリオカート ツアー」(2019年9月)が配信され、任天堂の知的財産はスマートデバイス上で継続的に供給された[8]。
資本の結びつきはその後縮小した。2022年5月11日、DeNAは保有する任天堂株式の半数にあたる879,700株を496億円で売却し、政策保有株式の見直しによるものと説明した。1株12,497円で得た株式は任天堂株の値上がりを受けて相当の含み益を抱えており、売却はその一部を実現するものでもあった。もっとも、売却後も業務・資本提携そのものは継続し、両社はなお相互に株式を持ち合ったまま、共同開発を中心とする関係へ移った。中長期の信頼を担保するために結んだ資本の紐帯は、事業が回り始めたのちには一部を解いても差し支えないものへ変わっていた[9]。
- 任天堂・DeNA 業務・資本提携共同記者発表(プレゼンテーション)2015年3月17日
- 任天堂・DeNA 業務・資本提携共同記者発表(質疑応答)2015年3月17日
- DeNA 適時開示「任天堂株式会社との業務・資本提携に関するお知らせ」2015年3月17日
- 任天堂 経営方針説明会(2014年1月・岩田聡社長)
- 任天堂 お知らせ(2015年7月11日、代表取締役社長 岩田聡 逝去)
- 任天堂 スマートデバイス向けアプリ 配信リリース(Miitomo/スーパーマリオ ラン/ファイアーエムブレム ヒーローズ ほか)
- DeNA 有価証券報告書(連結・2015年3月期)
- DeNA 有価証券報告書(連結・2022年3月期)