創業者・南場智子の15年ぶり社長復帰とAIを軸にした事業モデルの変革

2026年実施

ポケポケの黒字を挟んで創業者はなぜ社長へ戻ったか——時間を区切った第二の創業と「AI全振り」の賭け

時期 2026年5月
意思決定者 DeNA取締役会(岡村信悟→南場智子)
論点 経営体制と事業モデル
概要
2026年、DeNAは創業者の南場智子氏が15年ぶりに代表取締役社長兼CEOへ復帰し、岡村信悟氏が代表権を残したまま会長へ移る役割の変更に踏み切った判断である。取締役会は5月12日にこの異動を決議し、6月27日の定時株主総会を経て正式に決めた。南場氏は経営のスピードを上げてAIへ資源を寄せ、事業モデルを組み替える方針を掲げ、時間を区切って創業者が先頭に立ち、三年で組織改革をやり遂げると宣言した。
背景
岡村体制は成長期に膨らんだ固定費を削り、2024年10月に配信した『ポケポケ』の世界的なヒットで2025年3月期を売上収益1,639億円・営業利益290億円の大幅な黒字へ戻した。しかし2026年3月期はその反動で売上収益1,477億円へ減収減益に転じ、単一タイトルに業績が左右される脆さが残った。ライブ配信やヘルスケアなど新規事業の育成でも誤算が続き、資本市場からは成長企業と見なされない低い評価がつきまとった。
内容
2026年5月12日、DeNAは代表取締役2名の役割を変更する適時開示を出した。南場氏(64)が会長から社長兼CEOへ戻り、岡村氏(56)が渉外を担う会長へ回る。会社は、急速な環境変化のなかで経営のスピードを上げ、将来の事業環境を前提にした組織運営と事業モデルへの変革を早く進める必要があると説明した。創業者が期限を区切って先頭に立つことで、意思決定の速さを取り戻す狙いである。
含意
復帰は業績悪化の直後ではなく、大幅な黒字を挟んだうえでの決断である点に特徴がある。南場氏はAIへ資源を寄せる覚悟を語り、新事業へ人材を移し、三年で組織を組み替えたのちはピラミッド型でない経営体制も検討すると述べた。もっとも本稿の2026年7月時点では復帰から日が浅く、成果はまだ表れていない。『永久ベンチャー』を掲げてきた会社が第二の創業をやり遂げられるかは、これからの三年に懸かる。
筆者の見解

第二の創業という賭け

創業者を再び社長に戻すという選択の含意は、業績の責任を問う交代ではなく、大幅な黒字を挟んだうえで自ら火中に戻る決断だった点にある。南場氏は2011年に経営を守安氏へ、2021年には岡村氏へと託し、二度にわたり世代交代を進めてきた。その流れをいったん逆に振り、期限を区切って創業者が先頭に立つ体制へ戻したのは、意思決定の速さと、市場の低い評価をはね返す求心力を、いま自分の手で取り戻す必要があると見たためであろう。第二の創業と呼ぶにふさわしい賭けである。

賭けの成否は、AIへ資源を寄せる方針が、効率化にとどまらず新しい事業を生むところまで届くかにかかる。DeNAは『永久ベンチャー』を掲げながら、WELQの信頼失墜や2021年の社長交代など、成長を急ぐ文化のひずみと向き合ってきた。今回の再登板も、単一タイトルに揺れる収益と、育ちきらない新規事業という、同じ課題の延長にある。時間を区切って創業者が変革を率いるやり方で、成熟した会社に速さと挑戦を同時に取り戻せるのか。ピラミッド型でない組織への移行を含め、答えは本稿の時点でまだ出ていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

ポケポケの黒字と、その反動

岡村信悟氏が社長兼CEOを務めた2021年からの体制は、成長を前提に膨らんだ固定費を削り、ゲーム事業の再強化と新規事業の選別で収益の質を立て直す道を選んだ。転機は2024年10月に配信した『ポケポケ』の世界的なヒットである。ゲーム事業の売上が伸び、2025年3月期は連結売上収益が1,639億円、営業利益290億円、最終利益241億円と大幅な黒字に戻した。固定費を締めた土台の上に、久しぶりの大型ヒットが重なった一年であった[1]

もっとも、単一タイトルに寄りかかった収益は振れやすかった。2026年3月期は『ポケポケ』の配信当初の勢いが一巡した反動で、連結売上収益が1,477億円へ減り、営業利益は187億円、最終利益は190億円へと減収減益に転じた。ゲーム事業の売上が644億円へ落ち込む一方、ライブストリーミング事業は黒字へ転じ、スポーツ・スマートシティ事業は増収を保った。当たりの有無で全体が揺れる収益の姿は、2021年の社長交代を経てなお残っていた[2][3]

新規事業の誤算と市場の低い評価

ゲーム以外の柱を育てる試みは、買収と減損の繰り返しに終始した。2021年8月にライブ配信のIRIAM社を89億円で、2022年10月にヘルスケアのアルム社を247億円で子会社化したが、いずれも業績不振で減損損失を計上し、2024年3月期には連結最終損益が286億円の赤字へ沈んだ。中期経営計画で資本効率の目標を掲げても株価は伸びず、南場氏自身が、資本市場から成長企業と見られていないことへの悔しさを繰り返し口にした。市場の低い評価は、岡村体制が残した課題であった[4][5]

決断

取締役会による代表取締役の役割変更

2026年5月12日、DeNAの取締役会は代表取締役2名の役割を変更する異動を決議した。6月27日付で、代表取締役会長であった南場智子氏(64)が代表取締役社長兼CEOへ戻り、社長兼CEOであった岡村信悟氏(56)が代表権を残したまま会長へ回る。異動は6月27日の第28回定時株主総会を経て正式に決まった。会社は、創業者の南場氏自らがCEOとして変革を率い、岡村氏が政府や自治体、業界団体との渉外を担う体制が最適だと判断したと説明した[6]

南場氏が社長を退いたのは2011年6月で、創業来の社員だった守安功氏に経営を託し、自らは会長へ退いていた。家族の看病を理由に第一線を離れて以来、およそ15年ぶりの社長復帰にあたる。守安氏の後を継いだ岡村氏は、旧郵政省から2016年にDeNAへ移り、横浜スタジアム社長やCOOを経て2021年に社長へ就いた人物である。その岡村氏を会長に据え、創業者が再び社長として経営の先頭に戻る人事は、平時の世代交代とは異なる意味を帯びた[7][8][9]

時間を区切った創業者の再登板と「AI全振り」

南場氏が示したのは、期限を区切って創業者が先頭に立つという体制である。経営のスピードを上げてAIへ資源を寄せ、新事業へ人材を移し、三年で組織を組み替える方針を掲げた。改革をやり遂げたのちはピラミッド型でないCEO組織も検討すると述べ、早期に第一線を退く含みも残した。会見では、世の中の会社が挑戦していないことをやる組織へつくり替えると語り、そのために創業者が戻り、時間を区切って取り組むと決めた経緯を明かした[10]

結果

復帰直後の方針と、未確定の成果

本稿を書いている2026年7月の時点で、南場氏の復帰から日は浅く、方針の成果はまだ数字に表れていない。会社はAIを使ったコスト構造の見直しで生産性を高め、浮いた人手を新事業へ振り向けると掲げる。2026年3月期はライブストリーミング事業が黒字へ転じ、ヘルスケア・メディカル領域とあわせて、次の成長投資へ回す原資を確保する構えを示した。三年での組織改革と、市場の低い評価からの決別を果たせるかどうかは、これから配信するゲームや新事業の育ち方に懸かっている[11]

出典・参考