MOV・JapanTaxi統合(2020年・DeNAの決断)

更新:
論点 赤字の配車事業を競合へ譲渡するか
DeNA:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
配車アプリ事業の譲渡と承継会社38.39%の持分法適用

何をなぜ決めたか:配車アプリ事業の譲渡と承継会社38.39%の持分法適用

概要

2020年2月4日にタクシー配車アプリ等に関する事業の統合で基本合意し、同月27日に吸収分割契約を締結した。次世代タクシー配車アプリ「MOV」等の事業は2020年4月1日、簡易吸収分割によりJapanTaxi(同日、株式会社Mobility Technologiesへ商号変更)へ承継された。

移転した資産は2,665百万円、負債は1,124百万円で、現金及び預金は含まれていない。対価は同社が新たに発行する株式で、金銭の授受は発生していない。分離後の持分比率は日本交通ホールディングスと並ぶ38.39%となり、2021年3月期から持分法適用の関連会社となった。

背景

承継した部門の2019年4月からの1年間の売上収益は1,087百万円、営業利益は5,268百万円の損失だった。オートモーティブ事業全体でも売上収益1,512百万円に対しセグメント損失は7,877百万円で、報告セグメントとして独立した2019年3月期の3,610百万円、組替後の2018年3月期の1,870百万円と合わせ、3期で133億円の損失を積んでいた。

収益化は 『MOV の収益化は、1年前の想定に比べるとやや遅れています』 という状態にあり、それでも 『投資が大きいのは MOV です。車両数の拡大に関連した投資が主体となります』 と、車両の拡大に投資を注ぎ続けた。同じ2020年3月期には、ゲーム事業に係るのれんをはじめ51,165百万円の減損損失を計上し、営業損失は45,676百万円となった。

内容

承継会社は資本金2,125百万円・発行済株式数521,000株のJapanTaxiで、2020年4月1日にMobility Technologiesへ商号を変更した。大株主は日本交通ホールディングスとDeNAが各38.39%、トヨタ自動車9.60%、SMBC信託銀行3.26%、NTTドコモ2.88%である。

会社分割の対価と、承継した事業に係る資産・負債の帳簿価額による純資産との差額2,045百万円は、2021年3月期のその他の収益に事業分離における移転利益として認識した。提出会社の従業員数は前事業年度末に比べ371名減少した。2021年3月31日時点の議決権所有割合は33.3%、投資の帳簿価額は3,836百万円である。

含意

持分法で会計処理している投資は2020年3月期の22,378百万円から2021年3月期に41,024百万円、2022年3月期に55,893百万円へ増えた。持分法による投資損益は2022年3月期に14,226百万円まで膨らんだが、Mobility Technologiesの第三者割当増資による一時収益が効いたもので、翌2023年3月期は1,770百万円へ戻った。

統合会社は2023年3月期にも金融投資家1社を割当先とする第三者割当増資を行い、持分比率は25.9%へ下がった。2024年3月期の持分法による投資損益は2,992百万円の損失となっている。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 5名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

考察:事業を手放し、持分法の一行を残す
考察

考察:事業を手放し、持分法の一行を残す

この判断は、育てた事業を勝たせることと、会社の損益を守ることのどちらを優先するかという問いに、後者で答えたものだっただろう。競合と一つになるという体裁をとりながら、渡したのは事業そのもので、受け取ったのは金銭ではなく承継会社が新たに発行する株式だった。現金が動かない代わりに、持分比率38.39%という距離が残る。連結の内側で毎期数十億円の損失として現れていたものが、持分法という一行の損益に置き換わったことが、この取引の実質だったといえる。

もっとも、その一行はその後も静かではなかった。第三者割当増資のたびに持分は薄まり、2024年3月期には29億円の損失として跳ね返っている。譲渡した事業が外部の資本を集めて伸びていく姿は、選択と集中の成否をひと言で断じにくくする。損益を守った判断が正しかったのか、それとも育て切る前に距離を置いたのか。薄まり続ける持分の値打ちが、その答えを測り続けているのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

DeNA:持分法で会計処理している投資と持分法による投資損益

持分法で会計処理している投資(百万円)
DeNA:持分法で会計処理している投資と持分法による投資損益
(百万円) 持分法で会計処理している投資持分法による投資損益 備考
2015年3月期 8,761582
2016年3月期 10,7751,960
2017年3月期 13,6982,903
2018年3月期 16,5032,571
2019年3月期 18,6721,875
2020年3月期 22,3783,341 承継は2020年4月1日で、期末残高には統合会社への投資は含まれていない
2021年3月期 41,0243,275 Mobility Technologiesが加わり、同社への投資の帳簿価額は3,836百万円
2022年3月期 55,89314,226 Mobility Technologiesの第三者割当増資に伴う一時収益を計上した
2023年3月期 57,9541,770 前期の一時収益がなくなり、持分法による投資損益は87.6%減
2024年3月期 56,512△2,992 統合会社の第三者割当増資で持分比率が25.9%へ低下した期
2025年3月期 59,5062,309
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第17期〜第27期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第17期〜第27期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)

DeNA:オートモーティブ事業のセグメント業績

DeNA:オートモーティブ事業のセグメント業績
(百万円) 売上収益セグメント損益 備考
2018年3月期 −△1,870 組替後の値。売上収益は有報の逐語で照合できていない
2019年3月期 197△3,610 報告セグメントとして独立。MOVを立ち上げ投資を積極化した期
2020年3月期 1,512△7,877 MOV等の事業を2020年4月1日にMobility Technologiesへ承継した
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第21期(2019年3月期)・第22期(2020年3月期)【経営成績等の状況の概要】
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第21期(2019年3月期)・第22期(2020年3月期)【経営成績等の状況の概要】

会社分割の条件

会社分割の条件
科目 概要 備考
基本合意書を締結した日 2020年2月4日 タクシー配車アプリ等に関する事業の統合と、統合に当たっての簡易吸収分割の基本合意
吸収分割契約の締結日 2020年2月27日 当連結会計年度中における経営上の重要な契約等として記載された契約
会社分割の時期 2020年4月1日 効力発生日。同日にJapanTaxiは株式会社Mobility Technologiesへ商号変更した
会社分割の法的形式 簡易吸収分割 会社法第784条第2項に該当し、株主総会の承認決議を経ずに行った
対象となった事業の内容 次世代タクシー配車アプリ「MOV」等の事業 承継前はオートモーティブ事業、承継後は新規事業・その他セグメントに区分
会社分割の目的 事業を統合して強固な経営体制を築く MaaS領域における取り組みを加速するため。市場の変化と競争の激化が前提にある
分割する部門の売上収益 1,087百万円 2019年4月1日から2020年3月31日まで
分割する部門の営業利益 △5,268百万円 同期間。オートモーティブ事業全体のセグメント損失は7,877百万円
移転した資産 2,665百万円 流動資産1,817百万円、固定資産847百万円。現金及び預金はない
移転した負債 1,124百万円 全額が流動負債。固定負債はない
受取対価 承継会社が新たに発行する株式 金銭の授受は発生していない
移転損益 2,045百万円 2021年3月期のその他の収益に、事業分離における移転利益として認識した
分離後の持分比率 38.39% 2020年4月末時点。日本交通ホールディングスも38.39%、トヨタ自動車9.60%
会計上の取扱い 持分法適用の関連会社 2021年3月期より持分法を適用。2021年3月31日時点の議決権所有割合は33.3%
承継会社の規模 資本金2,125百万円 2020年4月末時点。発行済株式数521,000株、決算期5月31日、1977年8月17日設立
移転した従業員 371名 提出会社の従業員数の前事業年度末比の減少。会社分割によるもの
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第22期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】、第23期(2021年3月期)【企業結合等関係】【持分法で会計処理している投資】
出所:ディー・エヌ・エー 有価証券報告書 第22期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】、第23期(2021年3月期)【企業結合等関係】【持分法で会計処理している投資】
当時の取締役 5名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • ディー・エヌ・エー 適時開示「タクシー配車アプリ等に関する事業の統合、及び、本統合に当っての会社分割(簡易吸収分割)に関する基本合意書締結のお知らせ」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第22期(2020年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第23期(2021年3月期)【企業結合等関係】【持分法で会計処理している投資】」
  • ディー・エヌ・エー 有価証券報告書「第25期(2023年3月期)【重要な後発事象】」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会質疑応答「2019年3月期 通期決算説明会 質疑応答」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会質疑応答「2020年3月期 通期決算説明会 質疑応答」
  • ディー・エヌ・エー 決算説明会質疑応答「2021年3月期 通期決算説明会 質疑応答」

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