配車アプリ事業「MOV」を日本交通のJapanTaxiと統合し連結から外した選択と集中

上場後初の巨額赤字を前に、守安功氏はなぜ育てた配車事業を出資38%の外へ切り出したのか

更新:

時期 2020年2月
意思決定者 守安功 DeNA 社長
論点 新規事業の再編と赤字事業の切り離し
概要
2020年2月4日、DeNAは配車アプリ「MOV」を中心とするオートモーティブ事業を、日本交通ホールディングス傘下のJapanTaxiと統合すると発表した。新会社Mobility TechnologiesへのDeNAの出資比率は38%とし、赤字が続いた配車事業を連結から外した経営判断。翌5日には主力のゲーム事業などで493億円の減損を計上し、上場後初の通期赤字となった。
背景
DeNAは2019年度初頭に、複数の新規事業をゲーム事業に並ぶ収益柱へ育て、全社の営業利益を1000億円にする長期目標を掲げていた。その中核が配車アプリMOVを軸とするオートモーティブ事業だったが、事業別損益を開示した2017年度以降の累計赤字は100億円を超え、参入時より競合環境が厳しくなっていた。ゲーム事業自体も収益性が悪化し、減損の判定対象となっていた。
内容
2020年2月4日、DeNAはMOVや関連事業を日本交通系のJapanTaxiと統合すると発表した。新会社への出資比率を38%とし、20年度に置いた収益目標の「チェックポイント」を前に事業を分割した。守安功社長はシェア争いで投資がかさんだ経緯を挙げ、会社全体の損益を意識した動きであることを認めた。2020年4月に配車アプリ等の事業はMobility Technologies(現GO株式会社)へ承継された。
含意
育てた事業を連結から外して損益改善を優先し、資源をゲームとライブ配信・ヘルスケアへ集中させる選択と集中であった。統合で生まれたGOは配車アプリで先頭を走り、2023年11月に累計1800万ダウンロードを突破し全国展開へ広げた。DeNAは自ら育てた市場の主導権を持分法の距離から見守る立場となった。
筆者の見解

筆者見解

この判断は、育てた事業を勝たせることと、会社の損益を守ることのどちらを優先するかという問いに、後者で答えたものだったとみることができる。MOVは巨額の投資で市場に食い込みつつあったが、シェア争いの消耗戦は連結の体力を削っていた。競合のJapanTaxiと一つになり、主導権を38%の距離から見守る形へ退いたことは、配車アプリという市場そのものを諦めない一方で、自社が主役を張り続ける重荷は下ろすという、痛みを伴う整理であったといえる。

統合会社GOが配車アプリの先頭に立った事実は、DeNAが去った市場が伸びたことを示している。手放した事業が外で花開く姿は、選択と集中の成否をひと言で断じにくくする。損益を優先した判断が正しかったのか、それとも育て切る前に手放したのか。持分法投資として残した38%の値打ちが、その答えの一端を静かに測り続けているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場後初の巨額赤字と減損

2020年2月5日、DeNAは2019年4〜12月期に主力のゲーム事業を中心に493億円の減損損失を計上し、同期間の営業損益が441億円の赤字に転落したと発表した。前年同期は85億円の黒字であり、通期でも赤字となれば2005年2月の上場以降で初めてとなる。減損の大半はゲーム事業で、内訳は2010年に買収した米ngmoco社ののれん約400億円、残る約80億円がソフトウェア資産であった。守安功社長と創業者の南場智子会長は3カ月間の役員報酬の50%を自主返納した[1]

通期の連結決算でも赤字は避けられなかった。2020年3月期の売上高は1213億円、営業損益は457億円の赤字、親会社株主に帰属する当期純損益は491億円の赤字となった。ゲーム事業は売上高・利益ともに減少が続き、株式会社ポケモンと共同開発し2019年8月に配信した『ポケモンマスターズ』は運営面のトラブルが相次いでセールスが振るわず、反転の足がかりにならなかった。稼ぐ力の低下が、次の柱を欠いた台所事情を映していた[2]

新規事業1000億円目標とMOVの累損

DeNAは2019年度の初頭に、複数の新規事業をゲーム事業に匹敵する収益柱へ育て、全社の営業利益を1000億円にする長期目標を掲げていた。2018年度の営業利益は135億円で、20年度を目標達成に向けた「チェックポイント」と位置づけていた。その中核が、配車アプリ「MOV」を軸とするオートモーティブ事業であった。だが事業別損益を開示した2017年度以降、開発やマーケティングへの投資で累計の赤字額は100億円を超えていた[3]

決断

JapanTaxiとの統合と連結除外

減損の発表前日にあたる2020年2月4日、DeNAはMOVや関連事業を、日本交通ホールディングス傘下のJapanTaxiと統合すると発表した。新会社Mobility TechnologiesへのDeNAの出資比率は38%となり、20年度に置いた収益目標のチェックポイントを前にして、育てた配車事業を分割した。オートモーティブを含む新規事業は2019年度に100億円規模の赤字を出しており、MOVなどが連結から外れる20年度は「損益影響は大幅に改善」と決算資料で示された[4]

統合を発表した記者会見で、オートモーティブ事業本部長の中島宏常務は「配車アプリサービスを発展させるのに最適なスキームを考えた結果だ」と述べ、完全連結ではなく持分法適用としたことを事業発展の観点から説明した。守安功社長の説明はやや異なり、参入時より競合環境が厳しくなりシェア争いで投資がかさんだ経緯を挙げ、「会社全体の損益を意識しての動きかと言われれば、その要素もゼロではない」と語った。収益の見通しが立たない事業でこれ以上の損失は出せないという判断がにじんでいた[5]

統合の実行は決算期を越えて進んだ。DeNAは2020年4月、タクシー配車アプリ等に関する事業を株式会社Mobility Technologiesへ承継し、出資比率38%の持分法適用会社としてグループの連結の範囲から外した。同社はのちにGO株式会社へ社名を変えた。自社で育てた事業を子会社の位置から外へ押し出す形で、ゲームと新規事業への資源集中に舵を切っていた[6]

結果

統合会社GOが配車アプリで先頭へ

DeNAが手放したMOVは、統合相手のJapanTaxiと一つになって配車アプリ「GO」となった。GOは2023年11月に累計1800万ダウンロード突破を発表し、2024年1月時点で45都道府県を対応エリアとする全国展開を進め、DiDiやUber、S.RIDEとの覇権争いで先頭を走った。運営会社の会長には日本交通の創業家出身で全国ハイヤー・タクシー連合会会長も務める川鍋一朗氏が就き、2024年1月には運営会社が上場準備開始を発表した[7]

連結の身軽さとゲーム・新規事業への集中

配車事業を持分法の距離に移したDeNAは、赤字の重石をひとつ下ろした。2020年3月期に営業損益457億円・当期純損益491億円の赤字を計上した会社にとって、これ以上の投資負担を連結の内側に抱え続ける余地は乏しかった。守安功社長が成長事業と強調したのはライブ配信の「Pococha」と健康増進アプリを軸とするヘルスケア事業で、資源はゲームとこれらへ振り向けられた。翌2021年には南場智子会長のもとで社長が交代し、固定費を切り詰める経営の作り替えへ進んだ[8]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2020年2月22日号「DeNAが巨額赤字に転落 見えてこない反転戦略」
  • 週刊東洋経済 2024年3月2日号「GOがリード、都内に強いS.RIDE 配車アプリ、覇権争いを制すのは」
  • DeNA 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
  • DeNA 有価証券報告書(2021年3月期・連結)

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