マネックスグループ コインチェックの買収 NEMの不正送金から3か月後の取得と、のれんの立たない45億円

更新:

時期 2018年4月
当時の社長 松本大
論点 暗号資産交換業への参入と買収後の再建
何をなぜ決めたか
概要

2018年4月6日、マネックスグループはコインチェックの株主と株式譲渡契約を締結し、16日に全株式を取得した。取得した議決権付資本持分の割合は100%、支配獲得の方法は現金を対価とする株式取得である。取得対価は現金3,600百万円と条件付対価960百万円の合計4,560百万円で、識別可能な純資産の公正価値4,929百万円との差額は生じず、のれんも負ののれん発生益も計上されていない。契約締結は、コインチェックで仮想通貨NEMの不正送金が起きた2018年1月から3か月後であった。

背景

有価証券報告書は、買収の理由をこう書く。個人とお金の付き合い方を大きく変える可能性がある次世代の技術・プラットフォームとしてブロックチェーンや仮想通貨を認識し、2017年10月からは「第二の創業」を掲げて仮想通貨交換業への参入準備や仮想通貨研究所の設立を進めてきた。中でも仮想通貨交換業は「第二の創業」において大きな役割を担う事業であることから、仮想通貨ビジネスの先駆者でもあるコインチェックを完全子会社とすることを決定した、と。自前の登録は準備段階にとどまっていた。

内容

条件付対価は、コインチェックの今後3事業年度の当期純利益の合計額の2分の1を上限とし、一定の事業上のリスクを加味して算出される。取得日における公正価値960百万円が取得対価に含まれた。受け入れた資産のうち現金及び現金同等物は34,295百万円で対価の9倍を超えるが、負債側に利用者の預り金27,553百万円が対応する。連結財政状態計算書に計上されない利用者から預託された仮想通貨は、取得日現在で131,502百万円あった。取得関連費用は29百万円である。

含意

クリプトアセット事業セグメントの外部顧客への営業収益は、買収初年度の2019年3月期に2,116百万円、セグメント損失1,732百万円だった。相場の急騰した2022年3月期には28,656百万円・利益13,870百万円まで伸び、翌2023年3月期には7,582百万円・損失876百万円へ減少している。条件付対価は2021年3月期に公正価値の変動による評価損3,788百万円を生んだ。2024年12月にはコインチェックの持株会社がナスダックへ上場し、マネックスグループの議決権比率は83.4%へ下がった。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

のれんが立たなかったという事実

取得対価は現金3,600百万円と条件付対価960百万円の合計4,560百万円であった。これに非支配持分369百万円を加え、識別可能な純資産の公正価値4,929百万円を引くと差額は残らない。のれんも負ののれん発生益も生じなかった、と有価証券報告書は書く。買収でふつう生じる超過収益力への上乗せが、この取引にはない。受け入れた現金及び現金同等物は34,295百万円と対価の9倍を超えるが、負債側には利用者の預り金27,553百万円が対応しており、手元に残る現金ではない。結合の理由として挙げられているのは「第二の創業」と仮想通貨ビジネスの先駆者であることだけで、2018年1月の不正送金には触れていない。

上乗せを払わない代わりに、マネックスグループは3事業年度の当期純利益に連動する条件付対価を残した。取得日の公正価値は960百万円だったが、相場の急騰した2021年3月期には公正価値の変動による評価損3,788百万円をその他の金融費用へ計上している。クリプトアセット事業の外部顧客への営業収益は2019年3月期の2,116百万円から2022年3月期の28,656百万円まで伸び、翌期には7,582百万円へ減少した。2024年12月にはコインチェックの持株会社がDe-SPACでナスダックに上場し、株式報酬費用13,714百万円を上場関連費用として計上している。安く買えたことと、相場から離れた収益源を手に入れたことは別であった。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 コインチェック株式会社 事業の内容は仮想通貨交換業
株式譲渡契約の締結日 2018年4月6日 2018年3月期の【経営上の重要な契約等】と重要な後発事象に記載がある
取得日 2018年4月16日 契約の締結から10日後。企業結合はこの日に成立した
取得した資本持分の割合 100% 議決権付資本持分の割合。取得前に保有していた持分はない
支配獲得の方法 現金を対価とする株式取得 公開買付けではなく、既存株主との相対の株式譲渡による
企業結合を行う主な理由 「第二の創業」における仮想通貨交換業 仮想通貨ビジネスの先駆者でもある同社を完全子会社とすることを決定した
不正送金への言及 記載なし 結合の理由に2018年1月の不正送金は挙げられていない
取得対価(現金) 3,600百万円 取得日に支払った現金の額
取得対価(条件付対価) 960百万円 今後3事業年度の当期純利益の合計額の2分の1が上限。取得日の公正価値
取得対価合計 4,560百万円 現金と条件付対価の合計。対価の種類ごとの取得日の公正価値による
受け入れた資産 39,335百万円 現金及び現金同等物34,295、棚卸資産4,402、その他638
引き受けた負債 34,406百万円 預り金27,553、未払法人税等1,876、その他4,977
識別可能な純資産の公正価値 4,929百万円 取得日現在の公正価値。取得対価4,560をわずかに上回る
非支配持分 369百万円 コインチェックが発行する新株予約権を市場ベースの測定値で測定した
のれん 発生していない 取得対価と非支配持分の合計から純資産を引くと差額が生じないため
取得関連費用 29百万円 連結損益計算書の販売費及び一般管理費に含めている
財政状態計算書外の預り資産 131,502百万円 取得日現在。利用者から預託された仮想通貨の資産と対応する負債
業績に与える影響 開示していない 取得日以降と期首結合を仮定した損益は、重要性がないとして示していない
条件付対価の評価損 3,788百万円 2021年3月期にその他の金融費用へ計上。対象は3事業年度の実績
取得後の議決権比率 83.4% 2024年12月のナスダック上場で希薄化。2025年3月期末の持株会社への比率

出所:マネックスグループ 有価証券報告書 第15期(2019年3月期)連結財務諸表注記「企業結合」 / 第14期(2018年3月期)【経営上の重要な契約等】「重要な後発事象」 / 第17期(2021年3月期)「その他の金融費用」 / 第21期(2025年3月期)【関係会社の状況】

クリプトアセット事業セグメントの推移

マネックスグループ:クリプトアセット事業セグメントの推移

(百万円) 外部顧客への営業収益セグメント利益 備考
2019年3月期 2,116△1,732 取得は2018年4月16日。登録に向けた管理体制の整備が費用に出た
2020年3月期 3,807293
2021年3月期 20,8199,868 セグメント利益は条件付対価の評価損3,788を差し引いた後の額
2022年3月期 28,65613,870
2023年3月期 7,582△876
2024年3月期 9,3542,838
クリプトアセット事業の営業収益と利益率
外部顧客への営業収益(百万円)セグメント利益率(%)

出所:マネックスグループ 有価証券報告書 第15期〜第20期(セグメント情報 外部顧客への営業収益、セグメント利益又は損失(税引前利益))

連結の営業収益と当期利益の推移

マネックスグループ:連結の営業収益と当期利益の推移

(百万円) 営業収益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2014年3月期 54,72210,354
2015年3月期 50,9753,494
2016年3月期 54,2713,554
2017年3月期 45,831298
2018年3月期 53,6356,730
2019年3月期 52,1751,181 コインチェックの連結が始まった期。取得日は2018年4月16日
2020年3月期 53,2263,011
2021年3月期 77,90514,354
2022年3月期 88,78313,017
2023年3月期 55,8413,392 マネックス証券の持分法適用化に伴い継続事業ベースへ組み替えた後の額
2024年3月期 65,72631,293 同じ組替後の額。当期利益はマネックス証券株式の譲渡に伴う利益を含む
連結営業収益と当期利益率
営業収益(百万円)親会社の所有者に帰属する当期利益率(%)

出所:マネックスグループ 有価証券報告書 第10期〜第21期(主要な経営指標等の推移・連結経営指標等)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

救済型の買収2005年伊勢丹議決権43.1%のまま実質支配で連結し、福証上場を残した子会社化支店で作り上げた売り場と業務の仕組みを外の百貨店へ移す道筋
2012年MARUWA企業再生支援機構からの全株式7億円での引き受けLED照明事業の販路とブランドの獲得
2009年パナソニックリチウムイオン電池と太陽電池の技術を、のれん5,144億円を積んで取りに行く選択事業構造の転換とM&Aの値付け
2007年山崎製パン二度重ねた第三者割当増資の引受と、菓子の老舗の再建の抱え込み菓子事業の拡大と再建支援の引き受け
2006年豊田通商資本提携から完全統合へ進めた経営再建中の商社の取り込みと総合商社化非自動車分野の獲得と総合商社化
買収・合併後の統合2019年タダノ米テレックスからのドイツ生産拠点の集約製品系列の拡充と欧州事業の収益
2017年村田製作所リチウムイオン二次電池の取り込みと、対価を上回る純資産が生んだ負ののれん事業ポートフォリオの拡張
2015年MIXIモンスト一本足からの脱却を狙ったチケット売買事業への参入と、その閉鎖事業ポートフォリオと子会社ガバナンス
2024年円谷フィールズホールディングス持株会社ごとの取り込みによる、エース電研の傘下入り事業領域と垂直統合
2025年豊田合成シートベルト大手を傘下に収める完全子会社化セーフティシステム事業の統合
参考文献
出典・参考
  • マネックスグループ「株式取得によるコインチェック株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」(2018年4月6日)
  • マネックスグループ「コインチェック子会社化に伴う条件付対価の公正価値の変動による評価損の計上に関するお知らせ」(2021年4月27日)
  • マネックスグループ 2020年3月期第1四半期 決算説明会 質疑応答
  • マネックスグループ 2021年3月期 決算説明会 質疑応答
  • マネックスグループ 2022年3月期 決算説明会 質疑応答
  • マネックスグループ 有価証券報告書(2014年3月期〜2026年3月期・連結・IFRS)
  • マネックスグループ 有価証券報告書「第15期(2019年3月期)連結財務諸表注記「企業結合」」
  • マネックスグループ 有価証券報告書「第14期(2018年3月期)【経営上の重要な契約等】/連結財務諸表注記「後発事象」」
  • マネックスグループ 有価証券報告書「第17期(2021年3月期)連結財務諸表注記「その他の金融収益及びその他の金融費用」」
  • マネックスグループ 有価証券報告書「第21期(2025年3月期)【沿革】【関係会社の状況】連結財務諸表注記「株式報酬費用(上場関連費用)」」
  • マネックスグループ 有価証券報告書「第16期(2020年3月期)連結財務諸表注記「偶発事象」」

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