ソニーの電池事業を譲受(2016年・村田製作所の決断)

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論点電池は自社育成か既存事業の譲受か
村田製作所:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
リチウムイオン二次電池の取り込みと、対価を上回る純資産が生んだ負ののれん

何をなぜ決めたか:リチウムイオン二次電池の取り込みと、対価を上回る純資産が生んだ負ののれん

概要

2016年10月31日、ソニー及びそのグループ会社の電池事業を譲り受ける確定契約を締結した。取得価額は175億円を予定とし、クロージング後に価額調整を行う前提であった。譲受は2017年9月1日に完了し、確定した取得対価は390億22百万円、支払は全額現金である。

形式は東北村田製作所の全発行済株式の取得で、同社とその子会社2社が新たに連結子会社となった。ソニーグループが海外に持つ販売拠点・研究開発拠点のうち、電池事業に係る取得対象機能は各国の拠点が直接取得している。

背景

ソニーは1975年から電池事業を営み、1991年にリチウムイオン二次電池を世界に先駆けて商品化した。以後もエレクトロニクス製品のキーデバイスとなる各種の先進的な電池を開発してきた事業である。

この事業を譲り受け、エネルギー分野の中核事業として成長・拡大させることが譲受の目的であった。譲受前の2017年3月期、リチウムイオン二次電池が入るその他コンポーネント区分の売上高は2,222億59百万円で、連結売上高1兆1,355億24百万円の2割弱にあたる。

内容

受け入れた資産は1,062億95百万円、引き継いだ負債は608億31百万円で、取得した純資産は454億64百万円。純資産の公正価値が取得対価を上回ったため、64億42百万円の負ののれんを発生益として一括計上した。四半期報告書の提出時点では90億41百万円だったが、測定期間内の修正で25億99百万円減少している。

取得関連費用6億69百万円は販売費及び一般管理費に含まれる。無形資産のうち主なものは加重平均耐用年数4年の技術23億40百万円である。

含意

取得日以降の2018年3月期、連結に取り込んだ電池事業の売上高は912億06百万円、営業損失は142億23百万円であった。その後パワーツール向けの需要が伸び、その他コンポーネント区分の売上高は2022年3月期に4,604億43百万円まで拡大する。

しかし2024年3月期、コロナ禍の需要増の反動による在庫調整の長期化を受け、円筒形リチウムイオン二次電池の設備等について494億82百万円を減損した。回収可能価額は使用価値でゼロと評価されている。2025年3月期には追加の構造改革費用145億円を計上した。

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考察:純資産が対価を上回る買い物
考察

考察:純資産が対価を上回る買い物

390億22百万円で引き受けたのは、技術や設計ではなく、在庫と設備を抱えて動いている事業そのものだったと思われる。受け入れた純資産454億64百万円が取得対価を上回り、差額は負ののれん発生益として一括で利益に立った。買った瞬間に利益が出る買い物は、裏返せば、その資産が生む将来の利益に売り手も買い手も高い値を付けられなかったということでもある。世界で初めて商品化した事業を、商品化した会社が売却する局面だった。

もっとも、譲り受けた事業は取得初年度に142億23百万円の営業損失を計上し、2024年3月期には円筒形リチウムイオン二次電池の設備等で494億82百万円を減損する。回収可能価額はゼロと評価された。ただ、その間にパワーツール向けで区分の売上高は4,604億43百万円まで伸びており、事業として立ち上がらなかったわけではない。安定していたマイクロ一次電池を売却して円筒形の二次電池へ資源を絞る組み替えが、この8年の答えになるのかどうかは、まだ見えていない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

村田製作所:リチウムイオン二次電池を含む製品区分の売上高

その他コンポーネント(百万円)
村田製作所:リチウムイオン二次電池を含む製品区分の売上高
(百万円)その他コンポーネントエナジー・パワー連結売上高備考
2013年3月期138,857−681,021
2014年3月期156,569−846,716
2015年3月期222,930−1,043,542
2016年3月期230,967−1,210,841
2017年3月期222,259−1,135,52410月31日にソニーと確定契約を締結。譲受前の区分の売上高
2018年3月期322,332−1,371,8429月1日に譲受完了。電池事業の売上高912億06百万円・営業損失142億23百万円を含む
2019年3月期392,194−1,575,026譲受後の初の通期。区分の売上高は前期比21.7%増
2020年3月期363,029−1,534,045リチウムイオン二次電池の事業ポートフォリオ見直しでスマートフォン向けが減少
2021年3月期387,648−1,630,193パワーツール向けとゲーム機向けでリチウムイオン二次電池が増加
2022年3月期460,443−1,812,521パワーツール向けでリチウムイオン二次電池の売上が大きく増加
2023年3月期−214,5561,686,796区分を変更。エナジー・パワーは二次電池と電源モジュールだけを含む
出所:村田製作所 有価証券報告書 第76〜87期【生産、受注及び販売の状況】製品区分別の売上高
出所:村田製作所 有価証券報告書 第76〜87期【生産、受注及び販売の状況】製品区分別の売上高

村田製作所:リチウムイオン二次電池が属したコンポーネントセグメントの推移

セグメント売上高(百万円)事業利益率(%)
村田製作所:リチウムイオン二次電池が属したコンポーネントセグメントの推移
(百万円)セグメント売上高事業利益連結売上高備考
2013年3月期448,20777,878681,021
2014年3月期529,377126,043846,716
2015年3月期679,081205,9741,043,542
2016年3月期760,166262,6241,210,841
2017年3月期761,759202,5731,135,524
2018年3月期924,149216,7861,371,842電池事業が加わる。同事業の営業損失142億23百万円をこのセグメントに含む
2019年3月期1,105,010312,1411,575,026
2020年3月期1,051,721249,6511,534,045
2021年3月期1,143,482312,9981,630,193
2022年3月期1,384,054452,6111,812,521
2023年3月期−−1,686,796セグメント区分の変更でリチウムイオン二次電池はデバイス・モジュールへ移った
出所:村田製作所 有価証券報告書 第76〜87期【セグメント情報】外部顧客に対する売上高と事業利益
出所:村田製作所 有価証券報告書 第76〜87期【セグメント情報】外部顧客に対する売上高と事業利益

譲受の条件

譲受の条件
科目概要備考
被取得事業ソニー及びそのグループ会社の電池事業ソニーは1975年から電池事業を営み、1991年にリチウムイオン二次電池を世界に先駆けて商品化した
確定契約の締結2016年10月31日取得価額は175億円を予定。クロージング後に確定契約に基づく価額調整を行う前提の概算値
取得の法的形式東北村田製作所の全発行済株式の取得海外の販売拠点・研究開発拠点のうち電池事業に係る取得対象機能は各国の拠点が直接取得した
企業結合日2017年9月1日東北村田製作所を100%子会社化。同社とその子会社2社が新たに連結子会社となった
取得対価390億22百万円支払は全額現金。契約時に予定した175億円から価額調整を経て確定した
取得関連費用6億69百万円連結損益計算書の販売費及び一般管理費に含まれる
受け入れた資産1,062億95百万円現預金161億51百万円・その他の流動資産537億43百万円・有形固定資産264億83百万円
引き継いだ負債608億31百万円流動負債295億86百万円・固定負債312億45百万円。取得した純資産は454億64百万円
負ののれん発生益64億42百万円純資産の公正価値が取得対価を上回り一括計上。四半期時点の90億41百万円から25億99百万円減
受け入れた無形資産23億40百万円(技術)加重平均耐用年数4年。無形資産の合計は43億94百万円
取得日以降の業績売上高912億06百万円・営業損失142億23百万円2018年3月期の連結損益計算書に含まれる電池事業の金額
出所:村田製作所 有価証券報告書 第81期(2017年3月期)【経営上の重要な契約等】・第82期(2018年3月期)【企業結合】
出所:村田製作所 有価証券報告書 第81期(2017年3月期)【経営上の重要な契約等】・第82期(2018年3月期)【企業結合】
参考文献

参考文献

参考
  • 村田製作所 有価証券報告書「第81期(2017年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第82期(2018年3月期)【企業結合】【セグメント情報】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第83期(2019年3月期)【企業結合】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第88期(2024年3月期)【減損損失】」
  • 村田製作所 有価証券報告書「第89期(2025年3月期)【重要な後発事象】」
  • 村田製作所 決算説明会 質疑応答「2025年3月期 決算説明会」
  • 村田製作所 決算説明会 質疑応答「2026年3月期 第1四半期決算説明会」

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