東日本旅客鉄道二期で六千七百億円を失った後の、二軸経営への組み替え
鉄道収入が四割消えたとき、なぜ元へ戻すのではなく組織を作り替えたのか
- 概要
- 2021年3月期に営業損失5,204億円・当期純損失5,779億円、翌2022年3月期にも949億円の純損失を計上し、二期合計で6,728億円を失ったことを受けた事業構造の組み替え。需要が感染症の前へ戻らないという前提に立ち、Suicaと生活サービスを鉄道と並ぶ軸として扱う組織へ再編した。
- 背景
- 2021年3月期の連結営業収益は1兆7,646億円で、前期の2兆9,466億円から40%減となった。通勤・通学と出張という、鉄道事業のなかで最も安定していた需要が動かなくなったことが直撃している。運輸事業に偏った収益構造が、需要の急減をそのまま損益へ通してしまう形であった。
- 内容
- 2020年6月にMaaS・Suica推進本部を設置してSuica・MaaS・データマーケティングを一体で扱い、2021年4月にはJR東日本リテールネットなど4社を合併してJR東日本クロスステーションとした。2022年6月にグループ経営戦略本部・マーケティング本部・イノベーション戦略本部を新設し、同年10月に支社制を首都圏・東北・新潟の3エリアへ括り直している。
- 含意
- 2026年3月期の連結営業収益は3兆847億円と過去最高を更新し、セグメント利益では不動産・ホテル事業1,283億円と流通・サービス事業681億円の合計が運輸事業1,944億円を上回った。ただし資産は運輸事業に7兆5,221億円が残り、従業員も運輸事業が5万3,165人を占める。損益の二軸化は進んだが、資産と人員の配置は途上にある。
損益では二軸化し、資産ではなお運輸に偏る
2026年3月期のセグメント利益は、運輸事業1,944億円に対し不動産・ホテル事業1,283億円、流通・サービス事業681億円で、鉄道以外の二事業を合わせると運輸を上回った。損益で見る限り二軸化は成っている。ただし資産の配置は動いていない。運輸事業の資産は7兆5,221億円で、不動産・ホテル事業の2兆7,657億円の三倍近い。従業員数も運輸事業が5万3,165人を占め、不動産・ホテル事業6,007人・流通・サービス事業6,310人との差は大きい。利益の出どころは移ったが、資本と人の配置はまだ鉄道会社のままである。二軸経営が構造として定着したかどうかは、資産と人員がどこまで動くかで測られることになる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
最も安定していた需要が消えた
2021年3月期の連結営業収益は1兆7,646億円で、前期の2兆9,466億円から40%減となった。営業損益は5,204億円の損失、経常損益は5,798億円の損失、親会社株主に帰属する当期純損失は5,779億円である[1]。特別損失も1,672億円を計上した[2]。翌2022年3月期も営業収益は1兆9,790億円にとどまり、949億円の純損失が続いている。二期を合わせた純損失は6,728億円であった[3]。
打撃の性質は過去の景気後退と異なっていた。通勤・通学の定期需要と出張という、鉄道事業のなかで最も変動が小さいはずの部分が動かなくなったためである。運輸事業に収益が偏った構造は、需要の急減をそのまま損益へ通した[4]。
判断
戻る前提を置かずに組織を作り替える
2020年6月、技術イノベーション推進本部のMaaS事業推進部門とIT・Suica事業本部を統合し、Suica・MaaS・データマーケティングを三位一体で推進するMaaS・Suica推進本部が設置された[5]。改札の内側にあった決済基盤を、移動と消費のデータを扱う部門として括り直した組織改正である。
生活サービス側の会社も束ねられた。2020年4月に日本レストランエンタプライズとジェイアール東日本フードビジネスが合併してJR東日本フーズとなり[6]、2021年4月にはJR東日本リテールネットがJR東日本フーズ・JR東日本ウォータービジネス・鉄道会館と合併してJR東日本クロスステーションへ商号を変更している[7]。駅の物販と飲食を担う会社を一つにまとめた再編であった。
本社機構は2022年6月に組み替えられた。グループ全体の経営戦略や将来像の策定、新事業の創造といった戦略的業務を強化するため、グループ経営戦略本部・マーケティング本部・イノベーション戦略本部が新設されている[8]。同年10月には各支社の管轄範囲をもとに首都圏・東北・新潟の3エリアへ区分し、東京支社を首都圏本部、仙台支社を東北本部へ改めた[9]。国鉄から引き継いだ支社制を、営業の単位で括り直した改正である。
結果
黒字への復帰と、過去最高の更新
2023年3月期に連結営業収益2兆4,055億円・純利益992億円で黒字へ復帰し[10]、2024年3月期は営業収益2兆7,301億円・純利益1,964億円、2025年3月期は営業収益2兆8,876億円・純利益2,243億円と戻した[11]。2026年3月期の連結営業収益は3兆847億円で、感染症前の最高であった2019年3月期の3兆20億円を上回っている。営業利益は4,143億円、当期純利益は2,478億円であった[12]。
2025年3月にはグループ経営ビジョン「勇翔2034」へ移行し、Suicaを軸とする経済圏の構想が中核に据えられた[13]。同月には品川車両基地跡地の再開発「TAKANAWA GATEWAY CITY」が総事業費約6,000億円でまちびらきを迎えている[14]。2024年4月に就任した喜㔟陽一社長のもとで[15]、鉄道と生活サービスを対等な二本の軸として扱う方針が示された。
- 東日本旅客鉄道 有価証券報告書【沿革】
- 東日本旅客鉄道 有価証券報告書(連結損益計算書)
- 東日本旅客鉄道 有価証券報告書(連結セグメント情報)
- 東日本旅客鉄道 有価証券報告書(従業員の状況)
- Impress Watch(2025年)「『Suica経済圏』を目指す JR東日本が新経営ビジョン」
- 日経クロステック(2025年3月28日)「高輪ゲートウェイシティが開業、JR東日本による『今世紀最大規模の街づくり』」