筆者の見解
機敏さと、それを支える体制の両義性
この経営判断の核心は、不況という同じ外部環境のもとで、生産調整のタイミングをいかに読むかという一点にあった。東洋ベアリングは、在庫を積んで粘るのでなく早期に減量し、回復の兆しをとらえて増産へ転じ、加えてFF車という次の需要を等速ボールジョイントで先取りした。この機敏な"運動神経"が、同業の光洋精工が赤字転落から再建を他社に委ねたのと対照的な回復を生んだと推察される。危機のさなかで動く速さそのものが、競争優位を左右した。
もっとも、その速さを支えたのは、一人の経営者に権限が集まったワンマン体制であった。強い指導力は、成長商品の技術導入や減量の即断を可能にした反面、独立採算の小群を統括する仕組みの欠落や人材育成の停滞という歪みも残した。回復の立役者である体制が、同時に是正すべき対象にもなるという両義性は、危機を素早く乗り切る力と、平時に組織を持続させる力とが別物であることを示している。等速ボールジョイントに始まる駆動部品は、その後NTNの軸受と並ぶ2本柱へと育った。速さと持続をどう両立させるか——1979年の東洋ベアリングの回復は、その問いを残したといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月