青山商事コロナ禍で159店の統廃合・創業以来初の希望退職・リーバイス事業撤退に踏み切る

スーツの需要が消えた1年に、店と人と事業をどこまで削るか——2021年3月期の構造改革

時期 2020年11月
意思決定者(推定) 青山理 社長
論点 不採算店舗・人員・非中核事業の整理
概要
2020年11月から2021年5月にかけ、青山商事が不採算店舗159店の統廃合、創業以来初となる希望退職の募集、リーバイス事業からの撤退を実施した経営判断。2021年3月期に特別損失192億円を計上した。
背景
スーツ需要は2018年ごろから細り、2020年3月期には日本事業ののれん減損などで親会社株主に帰属する当期純損失169億円を計上していた。そこへ新型コロナウイルスの影響が重なり、2021年3月期上半期の売上高は前年同期比40.1%減となった。
内容
2020年11月10日に約400人の希望退職を発表し、2021年2月22日に609人の応募を公表。既決定分と合わせ159店の統廃合を決め、2021年3月31日にリーバイ・ストラウス ジャパンとのフランチャイズ契約を終えた。2021年度で約50億円規模の改革効果を見込んだ。
含意
2021年3月期は連結売上高1614億円・営業損失144億円・当期純損失389億円となった。翌2022年3月期に当期純利益14億円で黒字へ戻り、2025年3月期の営業利益は126億円まで回復している。連結従業員数は2019年3月期の8101人から2025年3月期の6561人へ減った。
筆者の見解

削った後に残るもの

この構造改革で目を引くのは、削る対象が店舗・人員・事業の三つに同時に及んだ点である。33店の閉鎖から始まった整理は最終的に159店の統廃合となり、希望退職には募集の1.5倍にあたる609人が応じ、リーバイス事業は11年で幕を閉じた。創業以来初の希望退職に募集を200人上回る応募があった事実をどう読むかは、公表された資料だけでは決められない。会社側の説明も応募理由には及んでおらず、ここでは数字が残ったという以上のことは言いにくい。

数字の上では、この改革は目的を果たしたとみられる。2022年3月期に黒字へ戻り、2025年3月期の営業利益は126億円まで回復した。ただ、売上高は2018年3月期の2548億円に対して2026年3月期は1890億円で、コロナ前の水準には戻っていない。固定費を落として利益の出る体に作り替えた一方、成長の芯をどこに置くかという問いは残る。創業一族以外からの社長を初めて選んだ2025年の判断も、その延長線上にあるとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

コロナ前から進んでいた本業の失速

青山商事の売上が落ち始めたのは、新型コロナウイルスの流行より前であった。2018年11月に青山商事・AOKIホールディングス・はるやまホールディングスが発表した2019年3月期の中間決算は、いずれも最終赤字である。青山商事の既存店売上高は2018年4月から12月までの累計で前年同期比4.1ポイント減となった。1世帯当たりのスーツ年間支出額は1991年の1.9万円が2017年に5217円まで落ちており、少子高齢化とカジュアル化に、クールビズと団塊世代の退職が重なっていた[1]

2020年3月期には、損益計画と所有資産の内容を見直した結果として総額200億円の資産損失を計上した。内訳は青山商事本体の減損損失34億円と85店舗分の事業構造改革費用27億円、イーグルリテイリング解散に伴う事業整理損失85億円、ミニット・アジア・パシフィックの日本事業ののれん減損54億円である。この期の連結売上高は2177億円、営業利益は8億円まで縮み、親会社株主に帰属する当期純損失は169億円となった。中期経営計画「CHALLENGE Ⅱ 2020」は取り下げられている[2][3]

出社が消えた1年

2020年春以降、テレワークの普及と出張の減少がスーツの着用機会そのものを削った。2021年3月期上半期(2020年4〜9月)の連結売上高は610億6500万円で前年同期比40.1%減、営業損失138億5100万円、経常損失129億600万円、四半期純損失169億3800万円である。上半期のうちに主力のビジネスウェア事業で33店舗を閉鎖していた。青山商事はこの決算とあわせて、通期の営業損益を128億円の赤字と見込んでいる[4][5]

店舗網は1990年代から2010年代にかけて積み上げてきた資産である。2021年3月期の平均稼動店舗数は891店で、その多くが幹線道路沿いの郊外店であった。目的を持った客が自家用車で来る前提の立地は、来店機会そのものが減れば固定費の重さが表に出る。コロナ以前に決めていた閉店に加えて、さらに店舗と人員に手を入れるかどうかが、2020年秋の判断の中身であった[6]

決断

創業以来初の希望退職

2020年11月10日、青山商事は約400人の希望退職を募集すると発表した。青山商事単体の正社員の1割程度にあたる規模である。対象は2021年3月31日時点で40歳以上63歳未満かつ勤続5年以上の正社員および無期契約社員、募集期間は同年12月14日から2021年2月19日まで、退職日は2021年5月31日の予定とされた。割増退職金などは2021年3月期の特別損失として40億円程度を見込んでいる。役員報酬は代表取締役が月額報酬の30%、取締役と専務執行役員が20%、その他の役員が10%を減額することとされた[7][8]

2021年2月22日、青山商事は希望退職に609人が応募したと公表した。募集人数を約200人上回る人数で、応募者は同年5月末で退職している。創業から56年を経て、この会社が希望退職を募ったのは初めてであった。応募が募集を上回った事実そのものについて、会社側は追加の説明を公表していない[9][10]

159店の統廃合とリーバイス事業からの撤退

店舗側の整理はさらに広い範囲に及んだ。青山商事は2021年3月期の決算説明資料で、コスト構造の最適化による不採算店舗の閉店に加え、さらなる店舗統廃合と希望退職募集を柱とする構造改革を実施し、既決定分と合わせて159店の統廃合を決めたと説明している。あわせて、統廃合以外の店舗での賃料減額交渉、デジラボ店舗の増加による効率化、全店への接客端末導入による精算業務の簡素化を挙げ、2021年度で約50億円規模の改革効果を見込んだ[11]

非中核事業の整理も同じ時期に決まった。青山商事は2021年3月31日をもって、リーバイ・ストラウス ジャパンとのフランチャイズ契約を終了する。契約は2010年1月1日付で結ばれ、約11年にわたってフランチャイズ店舗を運営してきたもので、展開していた11店舗のリーバイスストアのうち一部の運営はリーバイ・ストラウス ジャパンが引き継いだ。青山商事は2019年にもアメリカンイーグル関連事業から撤退しており、カジュアル衣料からの後退はこれで一巡した[12][13]

結果

特別損失192億円と「Aoyama Reborn 2023」

2021年3月期の連結売上高は1614億円、営業損失144億円、経常損失114億円、親会社株主に帰属する当期純損失は389億円となった。特別損失は合計192億円で、減損損失106億円、事業構造改革費用18億円、新型感染症対応による損失15億円、希望退職に係る損失42億円が主な内訳である。前期の200億円と合わせ、2期で400億円近い損失を計上したことになる。青山商事は同時に中期経営計画「Aoyama Reborn 2023」を掲げ、再建に入った[14][15]

縮小は数字に残った。平均稼動店舗数は2021年3月期の891店から2022年3月期856店、2023年3月期779店へ減っている。連結従業員数も2019年3月期の8101人から2022年3月期の6523人へ落ち、2025年3月期は6561人であった。単体の従業員数は2019年3月期の4010人から2022年3月期に3023人となっている。人員と店舗の両方が、3年ほどのあいだに2割前後の規模で削られた[16][17]

黒字転換と、創業一族以外からの社長選出

業績は翌期から戻った。2022年3月期に親会社株主に帰属する当期純利益14億円で黒字へ転じ、売上高は2023年3月期1856億円、2024年3月期1937億円、2025年3月期1948億円と回復する。営業利益は2025年3月期に126億円まで戻った。青山商事は2024年3月期に前中期経営計画「Aoyama Reborn 2023」を利益ベースで達成したと総括し、2024年度から2026年度の中期経営計画を発表している。株主還元は配当性向70%またはDOE3%の高い方とし、自己株式取得は期間最大100億円を置いた[18][19]

経営体制も替わった。2025年1月27日、青山商事は遠藤泰三執行役員の社長昇格を発表する。1967年生まれで1990年に入社し、洋服の青山せんげん台店の店長を経て人事部長、管理本部長を務めた人物で、創業一族以外からの社長就任は初めてであった。同年4月1日に執行役員社長、6月26日に代表取締役社長へ就き、青山理氏は代表取締役会長へ移っている。2026年3月期の連結売上高は1890億円、親会社株主に帰属する当期純利益は69億円であった[20][21]

出典・参考

免責事項およびポリシー