この買収でいちばん目を引くのは、価格の付け方である。払った145億82百万円に対し、受け入れた資産は101億20百万円、引き受けた負債は79億61百万円で、差し引きの純資産は21億59百万円しかない。残りの124億22百万円はのれんとして立ち、15年で償却する計画になった。靴修理と鍵複製は、店が小さく、在庫を持たず、人の技能が売上に直結する商売で、郊外に大型店を構えて紳士服を売ってきた側とは、収益の作り方がかなり違う。店舗運営と人材配置のノウハウは共通するという説明は成り立つが、その共通項が価格差を埋めるほどのものであったかは、後年の営業損失と減損を見る限り断じにくい。
とはいえ、この決断を失敗の一語で片づけると見落とすものがある。青山商事は有価証券報告書で、中長期的にはスーツマーケットの縮小が見込まれると自ら書いており、本業の改良だけを続ける選択肢は残っていなかった。自前の新業態、他社の看板を借りるFC、そして事業ごとの買収と、使える手を順に試している。総合リペアサービス事業は2023年3月期に営業黒字に転じ、2026年3月期には売上高146億15百万円、セグメント利益3億68百万円と、買収直後を上回る規模になった。稼ぐ力をどこへ移すのか——2015年に投じた145億82百万円は、その問いへの答えというより、答えを探す時間を買った支出であったとみることもできる。