ミスターミニット買収(2015年・青山商事の決断)

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論点 スーツ以外の収益源を買収で得るか
青山商事:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
スーツ一本足から離れるために買収した、靴修理と合鍵の577店

何をなぜ決めたか:スーツ一本足から離れるために買収した、靴修理と合鍵の577店

概要

2015年12月16日、青山商事がミニット・アジア・パシフィックの発行済株式と新株予約権の全てを現金145億82百万円で取得し、完全子会社とした経営判断。同社と海外子会社9社が新たに連結へ加わり、従業員は前期末から1,256名増えた。取得によって計上したのれんは124億22百万円である。

背景

有価証券報告書は経営環境について、中長期的には少子高齢化に伴うスーツマーケットの縮小や生産コストの上昇等が見込まれると記している。2015年1月28日に公表した中期経営計画「CHALLENGE 2017」は、コア事業であるビジネスウェア事業の安定成長と並べて、飲食事業・海外事業・新規事業など積極的な事業領域の拡大を掲げていた。

内容

ミニット社は日本・オーストラリア・ニュージーランドを中心に「ミスターミニット」の統一ブランドで靴修理と鍵複製を営み、2016年3月末でグループ全体577店を持つ。総合リペアサービス事業が新しい報告セグメントとして加わり、連結に取り込んだ2016年1月から3月までの3か月で売上高28億74百万円を計上した。

含意

セグメントは2018年3月期から4期続けて営業損失となり、2020年3月期には買収時に見込んだ収益の実現が難しくなったとして、のれん41億5百万円と商標権12億61百万円、計53億66百万円を減損した。その後は2023年3月期に営業黒字に転じ、2026年3月期の売上高は146億15百万円である。

いつ何が起きたか 6件
考察:買収したものは事業か、時間か
考察

考察:買収したものは事業か、時間か

この買収でいちばん目を引くのは、価格の付け方である。払った145億82百万円に対し、受け入れた資産は101億20百万円、引き受けた負債は79億61百万円で、差し引きの純資産は21億59百万円しかない。残りの124億22百万円はのれんとして立ち、15年で償却する計画になった。靴修理と鍵複製は、店が小さく、在庫を持たず、人の技能が売上に直結する商売で、郊外に大型店を構えて紳士服を売ってきた側とは、収益の作り方がかなり違う。店舗運営と人材配置のノウハウは共通するという説明は成り立つが、その共通項が価格差を埋めるほどのものであったかは、後年の営業損失と減損を見る限り断じにくい。

とはいえ、この決断を失敗の一語で片づけると見落とすものがある。青山商事は有価証券報告書で、中長期的にはスーツマーケットの縮小が見込まれると自ら書いており、本業の改良だけを続ける選択肢は残っていなかった。自前の新業態、他社の看板を借りるFC、そして事業ごとの買収と、使える手を順に試している。総合リペアサービス事業は2023年3月期に営業黒字に転じ、2026年3月期には売上高146億15百万円、セグメント利益3億68百万円と、買収直後を上回る規模になった。稼ぐ力をどこへ移すのか——2015年に投じた145億82百万円は、その問いへの答えというより、答えを探す時間を買った支出であったとみることもできる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

青山商事:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
青山商事:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2012年3月期 −−337,283
2013年3月期 −−344,373
2014年3月期 −−352,733
2015年3月期 −3,507350,752 買収前。連結貸借対照表にのれんの計上はない
2016年3月期 12,09021,241399,651 のれん12,422と商標権4,255を取得時に計上。期末ののれん残高は12,090
2017年3月期 12,73621,164391,369
2018年3月期 11,40419,444397,332
2019年3月期 9,26616,462390,340 総合リペアサービス事業ののれん未償却残高は9,212
2020年3月期 5,76611,019375,335 のれん4,105と商標権1,261を減損。同事業ののれん残高は3,650
2021年3月期 5,89811,870329,452
出所:青山商事 有価証券報告書 第48〜58期(連結貸借対照表、セグメント情報等)
出所:青山商事 有価証券報告書 第48〜58期(連結貸借対照表、セグメント情報等)

青山商事:総合リペアサービス事業の売上高とセグメント利益

外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)
青山商事:総合リペアサービス事業の売上高とセグメント利益
(百万円) 外部顧客への売上高セグメント利益 備考
2016年3月期 2,87473 報告セグメントの新設年。連結は2016年1月から3月までの3か月分
2017年3月期 11,781163 通期で連結した最初の期
2018年3月期 12,448△506
2019年3月期 12,812△481
2020年3月期 12,168△476 減損53億66百万円は特別損失のためセグメント利益には含まれない
2021年3月期 9,152△716
出所:青山商事 有価証券報告書 第48〜58期(セグメント情報等・外部顧客への売上高及びセグメント利益)
出所:青山商事 有価証券報告書 第48〜58期(セグメント情報等・外部顧客への売上高及びセグメント利益)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 ミニット・アジア・パシフィック株式会社 事業の内容は総合リペアサービス事業。同社と海外子会社9社を当期から連結した
取得の法的形式 現金を対価とする株式取得 発行済株式および新株予約権の全てを取得。売り手の名称は有価証券報告書にない
企業結合日 2015年12月16日 連結財務諸表に含めた被取得企業の業績は2016年1月1日から3月31日まで
取得した議決権比率 100% 現金を対価とする株式取得で議決権の100%を取得したことが取得企業決定の根拠
取得原価 14,582百万円 対価は全額現金
取得のための支出 13,790百万円 取得価額14,582百万円から受け入れた現金及び現金同等物791百万円を控除した額
取得関連費用 80百万円 アドバイザリー費用
受け入れた資産合計 10,120百万円 流動資産2,764百万円、固定資産7,356百万円
引き受けた負債合計 7,961百万円 流動負債5,560百万円、固定負債2,400百万円
発生したのれん 12,422百万円 資産・負債へ配分した純額に対する取得原価の超過分。翌期に確定処理の注記はない
のれんの償却方法と期間 15年間にわたる均等償却 2020年3月期の減損後、2026年3月期末の連結のれん残高は2,789百万円
減損損失 5,366百万円(2020年3月期) のれん4,105百万円と商標権1,261百万円。割引率6.0%の使用価値まで減額した
結合の理由 リペアサービスの取り込みによる事業拡大 スーツ分野に加えアフターケア・グッズ分野の拡大に寄与すると判断したと記す
被取得企業の店舗数 577店(2016年3月末) 日本・オセアニア・その他。2020年3月末は日本319店、オセアニア297店、その他36店
出所:青山商事 有価証券報告書 第52期(2016年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】・第56期(2020年3月期)【連結損益計算書関係】
出所:青山商事 有価証券報告書 第52期(2016年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】・第56期(2020年3月期)【連結損益計算書関係】
参考文献

参考文献

参考
  • 青山商事 有価証券報告書「第52期(2016年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【関係会社の状況】」
  • 青山商事 有価証券報告書「第53期(2017年3月期)【企業結合等関係】」
  • 青山商事 有価証券報告書「第56期(2020年3月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報等】」
  • 青山商事 有価証券報告書「第48〜62期(連結貸借対照表、セグメント情報等、対処すべき課題)」

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