フジ・メディア・ホールディングスサンケイビルの子会社化と、都市開発・観光を第二の柱とする事業ポートフォリオ再編
放送収入の頭打ちを不動産で補うか——太田英昭社長らはなぜメディア以外に第二の柱を築いたか
- 概要
- 2012年3月、フジ・メディア・ホールディングスは株式公開買付で不動産中堅のサンケイビルを連結子会社化し、都市開発事業を新設した。放送収入の頭打ちを背景に、2015年にはグランビスタ ホテル&リゾートを取り込んで観光へ広げ、2018年5月の中期経営計画で事業区分をメディア・コンテンツと都市開発・観光の2本柱へ再編した。太田英昭社長のサンケイビル子会社化に始まり、宮内正喜社長が2本柱として明文化した多角化であった。
- 背景
- フジテレビの視聴率は2010年を境に急落し、広告を柱とする放送収入が伸びを欠いた。2008年の認定放送持株会社への移行で放送以外へ資本を動かせる形は整っており、放送で稼いだ利益をどこへ置くかが経営の課題として残っていた。
- 内容
- 公開買付でサンケイビルを子会社化して都市開発事業を新設し、宿泊・集客のグランビスタを加えた。2014年3月期にはグループ営業利益315億円の約半分をフジテレビジョン以外の子会社が稼ぎ、2018年の中期経営計画で2本柱として整理して都市開発・観光へ戦略投資を広げた。
- 含意
- 都市開発・観光事業の売上高は2018年3月期の1,084億円から2026年3月期の1,929億円へ増え、放送を含むメディア・コンテンツが縮むなかで第二の柱に育った。もっとも、それは放送本業の縮小がそれだけ速かったことの裏返しでもあった。
利益の置き場所を組み替えるということ
放送局が不動産へ広げたこの多角化を、本業の頭打ちに対する場当たりの穴埋めと見るのは、話を単純にしすぎる。太田英昭社長のサンケイビル子会社化から宮内正喜社長の2本柱再編まで、一連の判断が組み替えたのは事業の顔ぶれというより、放送で稼いだ利益の置き場所であった。広告という一本の柱に収益を託す構造から、賃料と観光という別の周期で動く資産へ利益を移し、収益基盤を面で二重化する——都市開発・観光を1,084億円から1,929億円へ育てた歩みは、その資本配分を形にしたものであったとみられる。
もっとも、第二の柱が目立って伸びたのは、第一の柱がそれだけ速く細ったことの裏返しでもあった。メディア・コンテンツが5,316億円から3,499億円へ縮む間に不動産と観光が伸びたからこそ、構成比の変化は鮮やかに映る。しかも育った資産は6,000億円を超えて膨らみ、2025年以降は不動産分離を求める株主の声を招いた。放送局が不動産と観光で稼ぐ構造は、収益の安定と資本効率のどちらを優先するかという問いを経営に残したとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
放送という一本の柱の頭打ち
フジテレビは2004年から7年続けて視聴率三冠を占めたのち、2010年を境に数字を落とした。2014年4〜6月期のゴールデン帯では民放4位に沈み、広告を柱とする放送収入は伸びを欠いた。2014年3月期のフジテレビジョン単体の営業利益は前期比およそ3割減の160億円にとどまり、番組で稼ぐという一本の柱の限界が数字に表れ始めていた[1]。
ただ、グループ全体で見れば体力は残っていた。連結の経常利益は2010年3月期に121億円まで落ち込んだのち、2012年3月期には523億円へ戻し、売上高も5,936億円を確保していた。前年の2008年10月には認定放送持株会社へ移行し、放送以外の会社を抱えたまま資本を動かせる形も整っている。放送で稼いだ利益をどこへ置くかが、次の課題として経営に残っていた[2][3]。
決断
サンケイビルの子会社化と都市開発事業の新設
2012年3月、フジ・メディア・ホールディングスは株式公開買付で不動産中堅のサンケイビルを連結子会社化し、都市開発事業を新たに設けた。太田英昭社長のもとで、放送で得た資金を賃貸ビルやマンション開発という別の資産へ振り向ける一手であった。オフィスビルや住宅の賃料収入は、広告費とは異なる周期で動き、放送収入の起伏をならす性格を持っていた[4]。
2015年4月にはサンケイビルを通じてグランビスタ ホテル&リゾートを子会社化し、宿泊と集客の観光事業を加えた。この多角化は早くも数字に表れる。2014年3月期の連結営業利益315億円のうち、およそ半分の155億円をフジテレビジョン以外の子会社が稼ぎ、同時代の誌面は、グループが目指す姿を「放送“も”展開するフジ・メディアHD」と書いた[5][6]。
2本柱への再編
2018年5月、フジ・メディア・ホールディングスは中期経営計画「変わる」で、それまで細かく分かれていた事業区分をメディア・コンテンツと都市開発・観光の2本柱へ整理した。フジテレビを核に放送・映像・出版・音楽をメディア・コンテンツへ集約する一方、不動産と観光を都市開発・観光としてまとめ、両者を成長の柱に据える構図であった[7]。
この再編を主導したのは、2017年6月に社長へ就いた宮内正喜社長であった。中期経営計画は都市開発・観光を戦略投資を拡大して成長を目指す領域と位置づけ、2020年度の連結営業利益325億円のうち都市開発・観光で115億円を見込んだ。放送を一つの事業セグメントへ収め、不動産・観光を並び立てる第二の柱として明文化した点に、この計画の眼目があった[8][9]。
結果
育った第二の柱と、膨らむ資産
事業区分の組み替えは、その後の売上構成にはっきり表れた。メディア・コンテンツ事業の売上高は2018年3月期の5,316億円から2026年3月期の3,499億円へ縮む一方、同じ期間に都市開発・観光事業は1,084億円から1,929億円へ増えた。放送を含む本業が細り、不動産と観光が伸びる——第二の柱は、狙いどおり放送外の収益源として育った[10]。
利益の面ではこの逆転がさらに際立つ。2025年3月期・2026年3月期にメディア・コンテンツ事業が営業損失に沈むなか、都市開発・観光事業は各期200億円を超える営業利益を上げ、グループの稼ぎ手となった。ただ、都市開発・観光の資産は6,000億円を超えて膨らみ、2025年以降は不動産事業の分離が大株主からの論点として持ち上がっている[11][12]。
- 週刊東洋経済 2014年10月11日号「[特集 新聞・テレビ動乱]PART2 テレビ編 視聴率低下が止まらない 凋落するフジテレビ 1000人異動の賭け」
- 週刊東洋経済 2018年11月17日号「背水フジテレビ 500日の苦闘」
- フジ・メディア・ホールディングス 2018年3月期 中期経営計画(2018年5月15日)
- フジ・メディア・ホールディングス 2026年3月期 決算説明資料(2026年5月12日)
- フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書(連結・JGAAP)
- フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書【沿革】
- フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書(セグメント情報)