自社IP「パズル&ドラゴンズ」の開発投入

先行するソーシャルゲームに乗るか、面白いと信じる一作を自ら作るか——受託運営会社が下した賭け

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時期 2012年2月
意思決定者 森下一喜 代表取締役社長CEO
論点 受託運営からの脱却と自社IPへの転換
概要
2012年2月、他社IPの受託運営で食いつないできたガンホーが、自社IPのパズルRPG「パズル&ドラゴンズ」をスマートフォン向けに投入した経営判断である。先行するDeNA・GREEのソーシャルゲームに乗らず、森下一喜社長が「面白いと思えるゲームしか作らない」との経営観のもとで開発した一作が、連結売上高を1年で258億円から1,630億円へ押し上げた。
背景
2002年の業態転換以降、ガンホーは韓国Gravity開発の「ラグナロクオンライン」に代表される他社IPの受託運営で事業を築いたが、2010年代に入っても年間売上高100億円前後の中堅企業規模にとどまっていた。同時期、DeNA・GREEのソーシャルゲームがガチャ課金モデルで市場を席巻し、ガチャ自体への批判も社会問題化していた。
内容
森下社長は「人の波に乗ると、一番最初に波に乗れた人だけがうまくいき、結局おこぼれを頂戴するだけになる」との考えから、ソーシャル要素を排したパズルRPGを自社IPとして企画し、無料ダウンロード・アイテム課金(F2P)の「パズル&ドラゴンズ」を2012年2月にiOS版、同年9月にAndroid版でリリースした。
含意
連結売上高は2013年12月期に1,630億円へ6.3倍拡大し、株式時価総額は一時任天堂を上回った。他社IPの運営で稼ぐ企業から、自社IPで稼ぐ企業への転換を果たした一方、以後のガンホーは長くこの一作への依存という新たな課題を抱えることになる。
筆者の見解

受託運営会社から自社IP企業への転換、そして依存という代償

この判断の核心は、市場で先行する手法を追いかけるのではなく、自社が信じるゲームの面白さに開発資源を集中させた点にあるとみることができる。オンセール時代にヤフオクへ敗れ、受託運営でしのいだ経験を持つ会社が、他社発のIPに頼らない自前の一作へ賭けた判断は、結果として企業の性格そのものを塗り替えた。運営専業から開発力を武器にする企業への移行が、この一作を境に実現したといえる。

一方で、この急拡大は単一タイトルへの依存という新たな構造も同時に生んだ。パズドラの単年売上は2014年12月期をピークに緩やかな減衰へ転じ、以後のガンホーは新規IPの育成やラグナロクシリーズの海外展開など、この一作に代わる収益の柱を探し続けることになる。先行者の後追いを拒んで自らの一作を育てた成功体験が、その後10年余りにわたり同社の経営課題を規定した点は、ヒット依存型のゲーム会社が共通して抱える難しさを映している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

他社IPの受託運営に頼った10年

ガンホーは1998年設立のオンセール株式会社を前身とし、ネットオークション事業でYahoo!オークションに敗れて2002年に業態を転換した会社である。韓国Gravity開発のMMORPG「ラグナロクオンライン」の国内運営権を獲得して再出発し、2008年には現物出資による第三者割当増資でGravity自体を完全子会社化して開発機能も取り込んだ。だが事業の骨格は他社発のIPを運営して稼ぐ構造のままで、2010年代に入っても年間売上高は100億円前後、営業利益は10億〜20億円規模の中堅企業にとどまっていた[1][2]

2011年10月にはコンシューマゲーム開発会社の株式会社アクワイアも子会社化し、事業領域の広げ方を模索したが、業績を一変させるような自社発の看板タイトルは生まれていなかった。開発機能を抱え込みながらも、収益の柱は依然として他社IPの運営に置かれた状態が続き、創業から10年を超えても新興ベンチャーの域を出ない規模にとどまっていた[3]

ソーシャルゲーム全盛期とガチャ批判

同じ時期、スマートフォンの普及とともに、DeNA・GREEが提供するソーシャルゲームが日本市場を席巻していた。ガチャと呼ばれる確率型のアイテム課金がソーシャルゲームの主要な収益モデルとなり、多くのゲーム会社がこの潮流を追う中で高額課金を招く仕組みそのものへの批判も強まっていた。ガンホーにとっても、先行するソーシャルゲームの手法をそのまま取り入れれば一定の収益を見込める環境ではあった[4]

森下一喜社長はこの流れに懐疑的であった。ダイヤモンド・オンラインの取材に「ソーシャルゲームが面白いと思えないからやらない。ただ、それだけです」と語り、ガチャ課金の仕組みを主軸にしたゲーム作りを退けた。先行するモデルへの追随ではなく、ゲームとしての面白さそのものを判断基準に据える、当時の業界の潮流とは異なる経営観であった[5]

決断

「先行者の後追いでは結果は限られる」という経営観

森下社長は「人の波に乗ると、一番最初に波に乗れた人だけがうまくいき、結局おこぼれを頂戴するだけになる。僕たちはオンラインゲームの先駆者として、自分たちで波を創る」とも語っている。ソーシャルゲームの手法を追いかけて二番手・三番手に回るのではなく、自社発のIPで新しい波そのものを起こすという判断を下し、開発投資の焦点を受託運営から自社IP創出へ移した[6]

こうして企画されたのが、パズルとロールプレイングゲームを組み合わせたスマートフォン向けタイトル「パズル&ドラゴンズ」である。基本プレイ無料でアイテム課金を組み合わせるF2P(フリー・トゥ・プレイ)モデルを採り、2012年2月にiOS版をリリース、同年9月にはAndroid版の配信も開始した。他社IPの運営権を得て開業した会社が、初めて自ら生み出したタイトルで市場に臨んだ判断であった[7]

ソーシャル要素を排したゲーム設計

パズドラの設計は、当時流行していたソーシャルゲームの文法とは意図的に距離を置いたものだった。友人との協力プレイや順位争いといったソーシャル機能を前面に出さず、パズルを解く操作そのものの手応えとRPG要素の育成を核に据えた。ガチャ批判が広がる中でも課金の仕組みを目立たせず、ゲーム内容そのものの完成度で遊ばせる設計を貫いた[8]

「面白いと思えるゲームしか作らない」という基準は、ヒットするかどうかが未知数のまま自社IPに投資する経営判断を支える拠り所であった。他社IPの運営で一定の収益を確保していたガンホーにとって、この判断は既存事業の延長線ではなく、開発リスクを自ら引き受ける選択であった[9]

結果

258億円から1,630億円へ、時価総額は任天堂を上回る

パズドラはリリース直後からダウンロード数を伸ばし、2013年2月には単月売上高が100億円を突破、前年同月比13.8倍という伸びを記録した。連結売上高は2012年12月期の258億円から2013年12月期には1,630億円へと1年で6.3倍に拡大し、経常利益は94億円から901億円、純利益は82億円から548億円へ跳ね上がった。他社IPの受託運営で年間売上高100億円前後にとどまっていた会社が、1タイトルで企業規模を一段階押し上げた[10][11]

株式市場の反応も急速だった。2013年4月25日、ガンホー株の時価総額は前日比19%高の株価で初めて1兆円の大台に達し、5月13日には午前終値ベースで1兆5,455億円をつけて任天堂を上回った。森下社長はブルームバーグの取材に、任天堂を上回る売上高を将来的に目指す考えを示し、その達成時期を「自分が引退するまでに」と語った。他社IPの運営会社が、家庭用ゲーム機の老舗をゲームの好調ぶりで一時的にせよ上回る場面が生まれた[12][13][14]

出典・参考