取締役の総入れ替え(2025年・フジ・メディアHDの決断)

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論点人権侵害を受けて統治をどう作り直すか
フジ・メディアHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
人権侵害事案を受けた取締役会の刷新と、権限の滞留を断つ制度の導入

何をなぜ決めたか:人権侵害事案を受けた取締役会の刷新と、権限の滞留を断つ制度の導入

概要

2025年6月25日の第84回定時株主総会を経て、フジ・メディア・ホールディングスの取締役会は17名から11名へ減少し、清水賢治社長を除く全員が入れ替わった。女性比率は11.76%から45.45%へ上がり、11名のうち6名を独立社外取締役が占める。フジテレビジョンの元従業員に対する重大な人権侵害を認定した第三者委員会の調査報告書を受け、人権の尊重を最優先に掲げた改革アクションプランに沿って進めた刷新であり、改革そのものは本稿の時点でなお進行中である。

背景

2025年1月23日の取締役会決議で、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠する第三者委員会を設置し、3月31日に調査報告書を受け取った。報告書はフジテレビジョンの元従業員に対する重大な人権侵害を認定し、被害申告を受けた際の対応が被害者の心情に十分に配慮されたものではなく、人権問題への認識が欠如していた点を厳しく指摘している。4月3日には総務省から、同様の事態が発生することがないよう厳重注意を受けた。

内容

5月16日に策定した改革アクションプランは、6月の定時株主総会後の新体制で取締役の総数を大幅に減らして過半数を独立社外取締役とし、取締役の女性比率を原則3割以上と定めた。総会での定款変更により取締役会議長を独立社外取締役が務められるようにしたうえ、相談役制度と、取締役経験者等が就任していた顧問制度を廃止している。2025年4月からは代表取締役70歳、常勤取締役・執行役員65歳の定年制と、社外取締役・監査等委員の在任8年という上限を設けた。委員会も、6月25日に指名・報酬委員会を、7月にリスクポリシー委員会を新設している。

含意

2026年3月期の連結業績は売上高5,519億円、営業損失88億円で、上期を中心に地上波テレビ広告収入が大幅に減少したことが響いた。第4四半期には放送収入が事案前の約9割まで戻り、2027年3月期は売上高6,257億円・営業利益401億円を見込む。都市開発・観光事業への外部資本導入の検討も始めた。さらなる監督機能の強化として検討した指名委員会等設置会社への移行は、現在の体制を維持しつつ実効性を高めることが最善として見送っている。

2025年1月以降に株式を取得したレノら(レノ、エスグラントコーポレーション、シティインデックスファースト、野村絢氏)の持分は、自己株式の取得で引き取った。2026年2月3日に村上世彰氏を含む5者と契約を締結し、保有株の全部について配当を受ける権利を除く株主権を行使しないこと、ToSTNeT-3で買い付けられなかった株は速やかに市場で売ること、決済日まで買い増さないことを合意した。2月5日の買付けで61,213,800株・2,349億円を取得し、資金は金融機関からの短期借入2,300億円で賄った。自己資本比率は56.8%から37.3%へ下がっている。

いつ何が起きたか10件
当時の取締役11名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:守る立場から、問われる立場へ
考察

考察:守る立場から、問われる立場へ

清水賢治社長が下したのは、人権侵害の再発防止にとどまらず、その反省を資本政策と事業モデルの組み替えへ接続する判断であった。自身を除く取締役16名を退け、11名のうち6名を独立社外取締役としたうえで、相談役制度と顧問制度を廃し、代表取締役70歳という定年まで定めている。特定の者に長期間権限が滞留しない仕組みを規定として書き込んだところに、体制の刷新を人事ではなく制度の問題として扱う姿勢がうかがえる。

もっとも、その全体像が実を結んだと言うには早すぎる。2026年3月期はなお88億円の営業損失を計上し、ROE8%の達成は2033年度という遠い先に置かれたままである。都市開発・観光事業への外部資本導入も検討の段階にとどまる。かつてライブドアの買収を退け、認定放送持株会社という制度で経営の連続性を守り抜いた会社が、今度は自らの不祥事によって株主から資本の使い方を問われる側に立った。2026年2月に村上世彰氏らの持分を自己株式で引き取り、株主権を行使しない合意まで取り付けたのは、問いの主を退けたのではなく、自己資本を圧縮して資本効率で答える方針を選んだということだろう。制度が守った経営そのものの質が、現在問われている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る4表

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図と表

フジ・メディアHD:取締役会の構成の推移

うち社外取締役(名)社内取締役(名)
フジ・メディアHD:取締役会の構成の推移
(名)取締役うち社外取締役備考
2021年12月17日155
2022年6月29日155
2022年11月11日155
2023年6月29日166
2024年6月27日177議長は会長(社長を兼任している場合を除く)。女性比率は11.76%
2025年6月27日116第84回定時株主総会を経た新体制。議長は社長、女性比率は45.45%
2025年11月28日10611月7日に取締役1名が退任した
2026年6月26日116第85回定時株主総会を経た新体制。女性比率は45.45%
出所:フジ・メディア・ホールディングス コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月17日〜2026年6月26日) / フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第83期(2024年3月期)・第84期(2025年3月期)・第85期(2026年3月期)【役員の状況】
出所:フジ・メディア・ホールディングス コーポレート・ガバナンスに関する報告書(2021年12月17日〜2026年6月26日) / フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第83期(2024年3月期)・第84期(2025年3月期)・第85期(2026年3月期)【役員の状況】

フジ・メディアHD:連結業績の推移

売上高(億円)営業利益率(%)
フジ・メディアHD:連結業績の推移
(億円)売上高営業利益親会社株主に帰属する当期純損益備考
2021年3月期5,199163101
2022年3月期5,251333249
2023年3月期5,356314469
2024年3月期5,664335371
2025年3月期5,508183△201固定資産の減損と繰延税金資産の取崩しで当期純損失。第三者委員会を設置した期
2026年3月期5,519△8865第84回総会で取締役を総入れ替え。放送収入は第4四半期に事案前の約9割へ戻った
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第80期(2021年3月期)〜第85期(2026年3月期)(連結損益計算書) / フジ・メディア・ホールディングス 2026年3月期 決算説明会 社長発言要旨(2027年3月期の見込み)
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第80期(2021年3月期)〜第85期(2026年3月期)(連結損益計算書) / フジ・メディア・ホールディングス 2026年3月期 決算説明会 社長発言要旨(2027年3月期の見込み)

フジ・メディアHD:自己資本と総資産の推移

自己資本(百万円)自己資本率(%)

2,349億円の自己株式取得で、自己資本比率は56.8%から37.3%へ下がった

フジ・メディアHD:自己資本と総資産の推移
(百万円)総資産自己資本備考
2021年3月期1,336,042774,011
2022年3月期1,335,991798,069
2023年3月期1,382,646837,680
2024年3月期1,448,833857,920
2025年3月期1,440,296818,1662025年1月以降、レノらが株式を取得した。自己資本比率は56.8%
2026年3月期1,464,728546,719レノらの持分を含む61,213,800株を2,349億円で取得し、短期借入金は2,775億円へ
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第84期(2025年3月期)・第85期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】(連結貸借対照表) / フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第85期(2026年3月期)【自己株式の取得等の状況】
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第84期(2025年3月期)・第85期(2026年3月期)【主要な経営指標等の推移】(連結貸借対照表) / フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第85期(2026年3月期)【自己株式の取得等の状況】

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
第三者委員会の設置2025年1月23日取締役会決議。日本弁護士連合会のガイドラインに準拠し、利害関係のない弁護士で構成
会長と取締役の退任2025年1月27日代表取締役会長の嘉納修治氏と、取締役の港浩一氏が退任した
調査報告書の受領2025年3月31日フジテレビジョンの元従業員に対する重大な人権侵害を認定した
対応の強化策の公表2025年3月31日「人権・コンプライアンスに関する対応の強化策について」を公表した
総務省の厳重注意2025年4月3日今後、同様の事態が発生することがないよう厳重注意を受けた
具体策の公表2025年4月30日企業風土改革・ガバナンス改革の具体策を公表し、総務省にも報告した
グループ人権委員会の新設2025年4月委員長は代表取締役社長、副委員長は外部有識者、委員はグループ各社の社長
役員定年制の導入2025年4月代表取締役70歳、常勤取締役・執行役員65歳。社外取締役と監査等委員は在任8年が上限
改革アクションプランの策定2025年5月16日同年9月30日と11月10日にアップデートしている
第84回定時株主総会2025年6月25日定款変更で、取締役会議長を独立社外取締役が務められるようにした
取締役の員数17名から11名へ女性比率は11.76%から45.45%へ。留任したのは清水賢治氏のみ
指名・報酬委員会の設置2025年6月25日独立社外取締役が過半数を占め、委員長も独立社外取締役が務める
相談役制度・顧問制度の廃止2025年6月取締役経験者等が就任していた顧問制度もあわせて廃止した
リスクポリシー委員会の新設2025年7月取締役会への諮問機関。独立社外取締役と外部有識者等の委員4名で構成
取締役の定員18名以内うち監査等委員である取締役は5名以内。任期は1年、監査等委員は2年
指名委員会等設置会社への移行2026年6月からの移行を見送り現在の体制を維持しつつ、その実効性を高めることが最善であると判断した
政策保有株式の縮減2027年度末までに累計1,000億円超2026年3月期は約494億円を売却した。その後もさらなる縮減を目指す
自己株式の取得上限2,350億円2026年2月5日に立会外買付取引で実施。2月3日に従前の取得枠は中止した
目標とする資本収益性ROEは2030年度6%、2033年度8%配当は特殊要因を除き連結配当性向50%を目途とし、年間配当の下限は50円
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第84期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】 / 第85期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書 第84期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】 / 第85期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
当時の取締役11名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • フジ・メディア・ホールディングス 2025年3月期 決算説明資料
  • フジ・メディア・ホールディングス 2026年3月期 決算説明資料
  • フジ・メディア・ホールディングス 統合報告書2025
  • フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書「第84期(2025年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書「第84期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書「第85期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】」
  • フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書「第85期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • フジ・メディア・ホールディングス 臨時報告書「臨時報告書(自己株式取得に関する契約の締結)」
  • フジ・メディア・ホールディングス 有価証券報告書「第85期(2026年3月期)【自己株式の取得等の状況】【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • フジ・メディア・ホールディングス 中期経営計画「Group Vision 2026-2030 Ver.1.0」
  • フジ・メディア・ホールディングス 決算説明会資料「2026年3月期 決算説明会 社長発言要旨」

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