役員らの金品受領問題の露見と、第三者委員会設置・指名委員会等設置会社移行によるガバナンス再建
「原発マネー」の還流はなぜ長く隠されたか——金品受領問題が突きつけたガバナンスの機能不全
更新:
- 概要
- 2019年9月、関西電力の役員ら20人が、高浜原子力発電所を擁する福井県高浜町の森山栄治元助役から7年間で約3億2000万円分の金品を受け取っていた問題が露見した。岩根茂樹社長は当初「不適切だが違法ではない」と収拾を図ったが批判が噴き、10月に八木誠会長・岩根社長ら6人が辞任、第三者委員会が設置された。
- 背景
- 森山元助役は1987年の助役退任後も「高浜町の天皇」と呼ばれ、原発の立地と工事発注をめぐって隠然たる力を保っていた。関電の役職員は恫喝を伴う金品提供を断り切れず、2018年9月には社内調査報告書がまとまっていたが、取締役会にも株主総会にも報告されないまま伏せられていた。
- 内容
- 2019年9月27日の会見に続き、10月2日の内部調査報告書公表、10月9日の経営陣辞任、第三者委員会(委員長・但木敬一元検事総長)の設置と事態が動いた。2020年3月の報告書はグループ役職員75人・総額約3億6000万円の受領を認定し、経営陣の問題先送りを機能不全と断じた。
- 含意
- 経済産業省は2020年3月に電気事業法に基づく業務改善命令を出し、関電は同年6月に指名委員会等設置会社へ移行した。前経団連会長の榊原定征氏を会長・指名委員長に迎え、社外取締役が過半を占める体制へ組み替えた。地域独占と原発立地の構造に根を持つ問題を、機関設計の刷新で立て直そうとする判断であった。
制度で断てるものと、断てないもの
この問題が示したのは、金品を受け取った個々の役員の倫理にとどまらず、それを長く伏せてきた組織の構えであった。前年に社内調査がまとまりながら取締役会にも株主総会にも上がらず、監視すべき監査役会が自ら報告を止めた——不祥事そのものより、それを内部で処理できると考えた統治の閉鎖性のほうに、問題の重さがあったとみることができる。経営陣の退任と第三者委員会の設置は当然の後始末であり、指名委員会等設置会社への移行は、外部の目を制度として常設する点で、閉じた意思決定への一つの歯止めになりうる。
ただし、機関設計を替えれば統治が働くとまでは言い切れない。関電の問題の根は、地域独占のもとで電気料金として集めた資金が原発の立地地域へ流れ、そこで築かれた関係が返礼を生むという、公益事業の構造そのものにあった。社外取締役を過半に増やしても、その構造を現場で見抜き、声を上げる意思がなければ「お飾り」に終わりかねない。制度で断てるものと、風土として残るもの——関電のガバナンス再建がどこまで実質を伴うかは、その後の情報開示と社外の目の使い方に懸かっているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
「高浜町の天皇」と呼ばれた元助役
問題の中心にいた森山栄治元助役は、1928年に高浜町で生まれ、京都府職員などを経て1969年に高浜町役場に入庁し、1977年から1987年まで助役を務めた人物であった。とりわけ高浜原発3、4号機の新設に力を注ぎ、原発誘致や地域のとりまとめに深い関わりを持った。助役を退いたのちも関電子会社の顧問や原発関連企業の役員に就き、「高浜町の天皇」と呼ばれる立場から、原発の立地と工事発注をめぐって隠然たる影響力を保っていた[1]。
関電と森山元助役の間には、長年にわたる持ちつ持たれつの関係があった。森山元助役が助役を務めた10年間に、関電は少なくとも28億円以上を高浜町へ寄付金として提供し、当時の町長の個人口座にひそかに振り込まれた事実も後に判明した。退任に際して森山元助役は「今度は原発関連企業で頑張る」と語り、関電プラントの顧問などに就いて、自らの力を背景に原発工事の受注を拡大させていた。原発の立地を地域に受け入れさせる過程で築かれた関係が、そのまま利権の温床になっていったとみられる[2]。
恫喝を伴う金品と、伏せられた内部調査
森山元助役は関電の役職員に頻繁に面会を求め、意に沿わぬことがあると激しい恫喝に及んだ。現金や商品券のほか米ドル、金貨、仕立券付きのスーツ生地などが「手土産」「就任祝い」の名目で渡され、返そうとすると「無礼者、わしを軽く見るなよ」と激高されたという。原発部門を統括した豊松秀己元副社長ら一部の幹部は、1億円を超える金品を受け取っていた。関電はこれを、返却の意思がありながら反発を恐れて対応に苦慮していたと釈明したが、金品と工事発注との関係は残ったままであった[3]。
問題を深くしたのは、社内でこの事実がすでに把握されていた点であった。関電は2018年9月付で社内調査報告書をまとめていたが、それは取締役会にも株主総会にも報告されず、内部にとどめ置かれた。第三者委員会の後の認定によれば、2018年10月に報告書を受け取った監査役会は「取締役会に報告する義務まではない事案」と判断し、取締役会への報告はなされなかった。監視すべき機関が自ら情報を止めた点に、統治の機能不全がすでに表れていたといえる[4]。
決断
2019年9月の会見と「被害者」論の破綻
2019年9月27日、金品授受を報じた報道をきっかけに、岩根茂樹社長は急きょ記者会見を開いた。このとき関電は、役員ら20人が2018年までの7年間に森山元助役から計約3億2000万円分の金品を受け取っていたと認めたものの、受領者の氏名や金額、処分の内容は明らかにせず、「不適切ではあったが違法ではない」と述べて事態の収拾を図ろうとした。しかし大阪市長が株主代表訴訟に言及し、契約者からの苦情が殺到するなかで、幕引きの構えはかえって批判を呼んだ[5]。
10月2日、関電は前年9月に作成していた内部調査報告書を一部墨塗りのうえ公表した。そこには森山元助役の「おまえの家にダンプを突っ込ませる」といった恫喝が記され、岩根社長は会見で「呪縛から逃れられなかった」と語り、関電が被害者であるように印象づけようとした。だが「金品を受領した時点でアウト」との声は社内にもあり、未返却分が残っていたことも打撃となった。世論の反応を読み違えた経営陣の被害者論は、批判を鎮めるどころか一段と火に油を注いだ[6]。
経営陣の辞任と第三者委員会の設置
批判の収束を図る釈明が通用しないと分かると、関電は経営陣の交代に踏み切った。10月9日、八木誠会長、岩根社長を含む6人の役員が辞任を表明し、原発部門を率いてきた首脳が経営の第一線から退いた。会社は同月、実態解明を外部に委ねる第三者調査委員会を設置し、委員長には元検事総長の但木敬一弁護士を据えた。当事者による内部調査では収拾がつかない段階に至り、検証の主体を社外へ移す判断であった[7]。
第三者委員会の設置は、遅きに失した対応でもあった。金品受領の事実は前年の社内調査で把握されながら取締役会や株主総会に報告されず、内部調査の助言役に起用した検察OBまでもが隠蔽に加担していた。コンプライアンスがほとんど機能していなかった構図が明らかになるにつれ、問題の焦点は個々の受領の是非から、それを長く伏せてきた統治のあり方へと移っていった。第三者委員会には、その構造そのものの解明が委ねられた[8]。
結果
第三者委員会の認定と行政処分
2020年3月14日、第三者委員会は調査報告書を公表した。金品を受け取っていたのは当初発表の20人を上回り、グループ役職員合わせて75人、総額は約3億6000万円相当にのぼった。報告書は、内向きの企業体質のもとで経営陣が問題を先送りし、組織として対峙するガバナンスが働かなかったことを主因に挙げた。監査役会が取締役会への報告を要しないと判断していた点も含め、監視機能そのものの欠落が正面から指摘された[9][10]。
行政も動いた。2020年3月16日、経済産業大臣は電気事業法に基づく業務改善命令を関電に発した。地域独占のもとで電気料金を通じて利用者から集めた資金が、原発マネーとして高浜町に流れ込み、その一部が経営陣へ還流していた構図は、公益事業としての電力会社の信頼を損なった。関電は業務改善計画の提出を求められ、再発防止とガバナンス改革を制度として担保する段階へと進んだ[11]。
指名委員会等設置会社への移行
ガバナンス再建の柱に据えられたのが、機関設計の刷新であった。関電は業務改善計画に基づいて指名委員会等設置会社へ移行し、2020年6月の株主総会で正式に体制を切り替えた。取締役会のなかに指名・報酬・監査の3委員会を置き、いずれも社外取締役が過半を占める形とした。前経団連会長の榊原定征氏を会長に迎えて指名委員長に据え、社長には森本孝氏が就いた。外部の目を経営の中枢に組み込むことで、内部で情報が止まる構造を断とうとする設計であった[12]。
もっとも、実態の全容は制度の切り替えだけでは尽きなかった。2020年10月にはグループ会社への追加調査を踏まえ、受領者は合計83人へと膨らんだ。経営陣の交代・第三者委員会・機関設計の刷新という一連の手当ては、露見した不祥事に区切りをつける一方で、原発の立地地域との長い関係のなかで積み重なった問題の根までは、なお検証の途上に置かれていた[13]。
- 週刊東洋経済 2019年10月26日号「関西電力で深刻な不祥事 特捜検察が動き出す予感」
- 週刊東洋経済 2019年11月16日号「関西電力がはまり込んだ『原発マネー』の底なし沼」
- 週刊東洋経済 2021年5月22日号「東芝・日本郵政・関西電力 社外役員の通信簿」
- 関西電力「金品受取り問題に関する第三者委員会からの調査報告書の受領について」(2020年3月14日)
- 関西電力「第三者委員会調査報告書の概要」(2020年3月)
- 関西電力「電気事業法に基づく経済産業大臣からの業務改善命令の受領について」(2020年3月16日)
- 関西電力「指名委員会等設置会社への移行と本店組織の一部改正について」(2020年4月28日)
- 関西電力「再発防止に向けた業務改善計画について」
- 関西電力 有価証券報告書(2020年3月期・連結)