日興証券相場操縦事件(2022年・三井住友FGの決断)

更新:
論点 子会社の不正に親会社がどう責任を取るか
三井住友FG:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
傘下証券会社の不正を受けた親会社・三井住友FGの引責とガバナンス対応

何をなぜ決めたか:傘下証券会社の不正を受けた親会社・三井住友FGの引責とガバナンス対応

概要

2022年3月24日と4月13日、東京地方検察庁が傘下のSMBC日興証券の元執行役員・社員と、法人としての同社を、違法な安定操作取引の疑いで東京地方裁判所へ起訴した。同年10月7日、金融庁は同社に業務停止命令と業務改善命令を、親会社の三井住友フィナンシャルグループに改善措置命令を発している。

三井住友FGは役員の契約更新を留保し、コンプライアンス担当役員を副社長へ格上げして子会社の監督を立て直そうとした。

背景

日興は2009年に三井住友FGが買収して以来、四度目の行政処分を受けた。SMBC日興証券の引受業務はホールセール事業部門に属し、同部門の連結業務純益はグループの4分の1前後を占める。

相場操縦事案と同じ日には、銀証ファイアーウォール規制違反も処分の対象となった。顧客から情報共有の停止を求められ、または同意を得ていないと認識しながら、三井住友銀行との間で非公開情報の授受を複数回にわたって行っていた。

内容

2022年4月、日興は起訴された役員の契約更新を留保して事実上退任させ、9月にはコンプライアンス担当役員を三井住友FGの副CCOを兼ねる副社長へ格上げした。10月7日には金融庁が日興に業務停止命令と業務改善命令を、三井住友FGに改善措置命令を発している。

非公開情報の授受については、日興に業務改善命令、三井住友FGと三井住友銀行に報告徴求命令が同日に発せられた。3社は11月4日に報告書を金融庁へ提出している。役員報酬では、中長期業績連動報酬の評価を±0%とした。

含意

金融商品取引法に基づき親会社へ改善措置命令が出されたのは今回が初めてで、持株会社が子会社の不正にどこまで責任を負うかが問われた。2023年2月13日、東京地方裁判所は日興と元執行役員に金融商品取引法違反の有罪判決を下し、法人には罰金7億円と44億7,114万2,420円の追徴を科した。

連結財務諸表への重要な影響はない。ホールセール事業部門の連結業務純益は事件の年度も5,585億円と増え、翌2024年3月期には引受シェアの回復で6,321億円まで伸びている。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 15名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 國部毅:会長
  • 太田純:取締役
  • 髙島誠:取締役
  • 中島達:取締役
  • 井上篤彦:取締役
  • 松本正之:取締役
  • アーサーM.ミッチェル:取締役
  • 山崎彰三:取締役
  • 河野雅治:取締役
  • 筒井義信:取締役
  • 新保克芳:取締役
  • 桜井恵理子:取締役
  • 工藤禎子:取締役
  • 一色俊宏:取締役
  • 川嵜靖之:取締役
考察:持株会社が問われたもの
考察

考察:持株会社が問われたもの

この事件で三井住友FGが問われたのは、自らの法令違反ではなく、子会社を統べる親会社としての監督責任であった。金融商品取引法に基づく初めての改善措置命令は、持株会社が傘下の証券会社の不正からどこまで距離を置けるのか、という問いを突きつけたと推察される。日興には親会社から役員が送り込まれ、その一人が相場操縦に関与していた以上、監督の失敗は子会社だけの問題にとどまらない。役員を退かせ、コンプライアンスの担い手を経営の上層へ引き上げた一連の対応は、失われた市場の信頼を取り戻すための最低限の応答であったといえる。

もっとも、体制の格上げがそのまま統制の実効につながるとは限らない。日興は2009年の買収以来、四度目の行政処分を受けており、親会社が繰り返し人を送り込んでも不正の芽を摘みきれなかった経緯がある。持株会社の統治が子会社の末端にまで届くのかは、処分後の三井住友FGが日常の業務のなかで示していくほかないと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

三井住友FG:ホールセール事業部門の業績

連結粗利益(億円)連結業務純益率(%)
三井住友FG:ホールセール事業部門の業績
(億円) 連結粗利益連結業務純益 備考
2018年3月期 7,7294,787
2019年3月期 7,8494,849
2020年3月期 6,4154,092 事業部門の区分を組み替えた期。前期の値からは連続しない
2021年3月期 6,3493,885
2022年3月期 7,0754,697 起訴は2022年3月24日。この期の連結財務諸表に重要な影響はない
2023年3月期 7,7375,585 発行市場の停滞と相場操縦事案の影響を受けた期。日興の引受業務はこの部門
2024年3月期 8,3526,321 日興が引受シェアを回復し、前期比748億円の増益となった
2025年3月期 9,3137,292
出所:三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書 第16〜23期(セグメントの業績)
出所:三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書 第16〜23期(セグメントの業績)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
起訴(第一次) 2022年3月24日 東京地方検察庁が元執行役員・社員と法人としての同社を東京地方裁判所へ起訴
起訴(第二次) 2022年4月13日 いずれも違法な安定操作取引の疑いによる
相場操縦事案の行政処分 2022年10月7日 SMBC日興証券に業務停止命令と業務改善命令、三井住友FGに改善措置命令
非公開情報の授受の処分 2022年10月7日 SMBC日興証券に業務改善命令、三井住友FGと三井住友銀行に報告徴求命令
処分の対象となった行為 顧客の非公開情報の授受 共有の停止を求められ、または同意を得ていないと認識しながら複数回行った
金融庁への報告書提出 2022年11月4日 三井住友FG、SMBC日興証券、三井住友銀行の3社がそれぞれ提出した
判決 2023年2月13日 東京地方裁判所。同社と元執行役員が金融商品取引法違反の有罪判決を受けた
罰金 7億円 法人としてのSMBC日興証券に科された
追徴 44億7,114万2,420円 罰金とは別に追徴を命じられた
連結財務諸表への影響 重要な影響はない 2023年3月期の偶発事象として記載している
役員処分の審議 2022年10月 報酬委員会が相場操縦事案とファイアーウォール規制違反事案を受けて審議した
役員報酬への反映 中長期業績連動報酬の評価を±0% ESGと新たなビジネス領域の取組みは進捗したものの、両事案を重く受け止めた
再発防止策 三つの体制の抜本的な強化 経営管理体制、内部管理体制、顧客情報管理体制。健全な組織文化の醸成も掲げた
出所:三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書 第20期(2022年3月期)【事業等のリスク】・第21期(2023年3月期)【事業等のリスク】【偶発事象】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書 第20期(2022年3月期)【事業等のリスク】・第21期(2023年3月期)【事業等のリスク】【偶発事象】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
当時の取締役 15名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

  • 國部毅:会長
  • 太田純:取締役
  • 髙島誠:取締役
  • 中島達:取締役
  • 井上篤彦:取締役
  • 松本正之:取締役
  • アーサーM.ミッチェル:取締役
  • 山崎彰三:取締役
  • 河野雅治:取締役
  • 筒井義信:取締役
  • 新保克芳:取締役
  • 桜井恵理子:取締役
  • 工藤禎子:取締役
  • 一色俊宏:取締役
  • 川嵜靖之:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 三井住友フィナンシャルグループ SMBCグループ二十年史(2023年)
  • 三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書「第20期(2022年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書「第21期(2023年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書「第21期(2023年3月期)【偶発事象】」
  • 三井住友フィナンシャルグループ 有価証券報告書「第21期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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