かんぽ生命の不適切募集(2019年・日本郵政の決断)

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論点 不適切募集の責任を誰がどう取るか
日本郵政:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
契約乗換をめぐる調査と、3社長の引責・グループ統治の立て直し

何をなぜ決めたか:契約乗換をめぐる調査と、3社長の引責・グループ統治の立て直し

概要

2020年3月期、日本郵便とかんぽ生命保険で、顧客の意向に沿わず不利益が生じた保険契約の乗換等の事案が判明した。過去5年分の乗換契約から特定の類型に合致する約18.3万件を抽出して調査し、全契約約3,000万件についても書面調査を行った。

2019年12月27日、日本郵政は総務大臣と金融庁から業務改善命令を、日本郵便とかんぽ生命保険は業務停止命令及び業務改善命令を受けた。2020年1月5日付で3社の社長等が辞任し、同月に増田寬也氏が日本郵政社長へ就任した。

背景

日本郵政は日本郵便を100%子会社とし、2015年に上場したゆうちょ銀行・かんぽ生命保険を傘下に置く親子上場のかたちをとり、全国の郵便局網が保険の販売チャネルを担っていた。

特別調査委員会は、不適正募集の実態把握につながる現場の声が経営陣に届かないこと、リスク事象を探知した際の原因追究・解決の先送り、問題の矮小化、部門間の横での連携不足及び上意下達のもとでの情報伝達の目詰まりといった企業風土または組織文化が従前から存在してきたと指摘した。

内容

2019年7月中旬以降、郵便局とかんぽ生命保険支店は積極的な提案を控えた。12月27日の業務停止命令により、2020年1月1日から3月31日まで、顧客の自発的な意思表示を受けて行う場合を除き、かんぽ生命保険商品の募集と契約締結を停止した。

2020年1月31日には業務改善計画を監督当局へ提出している。不利益を解消するための将来の支払見込額として、保険金等支払引当金29,722百万円を2020年3月期の経常費用に計上し、2021年3月期には返戻と保険金の支払として21,589百万円を実行した。

含意

個人保険の新契約件数は、2017年3月期の244万件を頂に2020年3月期は64万件、2021年3月期は12万件まで減少した。かんぽ生命保険の保有契約件数も2019年3月期の1,809万件から減少に転じ、2025年3月期は1,278万件である。

営業は2020年10月5日に謝罪を第一とする業務運営として再開し、2021年4月1日から新たな営業スタンスへ移行した。それでも2025年3月期の新契約は79万件と、問題が判明する前の3分の1に届いていない。

いつ何が起きたか 7件
当時の取締役 15名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 長門正貢:代表執行役社長
  • 鈴木康雄:代表執行役上級副社長
  • 池田憲人:取締役
  • 横山邦男:取締役
  • 植平光彦:取締役
  • 向井理希:取締役
  • 三村明夫:取締役
  • 八木柾:取締役
  • 石原邦夫:取締役
  • 広野道子(藤井道子):取締役
  • 岡本毅:取締役
  • 肥塚見春:取締役
  • 青沼隆之:取締役
  • 秋山咲恵:取締役
  • 二世:取締役
考察:「現場の暴走」か、「構造の帰結」か
考察

考察:「現場の暴走」か、「構造の帰結」か

この問題を、成績に目がくらんだ一部の募集人による現場の逸脱として片づけることはできる。ただ、そう見ると多くを見落とすことになる。特別調査委員会が挙げたのは、不適正募集の実態把握につながる現場の声が経営陣に届かないこと、リスク事象を探知した際の原因追究・解決の先送り、問題の矮小化、上意下達のもとでの情報伝達の目詰まりであり、いずれも募集人個人ではなく組織の側にある事情であった。郵便事業の維持を最優先に傘下2社へ販売を担わせた親子上場の力学まで含めれば、営業現場だけの問題として閉じるには広がりが大きすぎたのだろう。3社の社長等が同時に辞めたのは、その広がりを持株会社の頂点まで認めた決着であった。

もっとも、経営陣を入れ替え、処分を科し、再発防止策を掲げても、過剰な目標や現場依存の営業をどこまで作り替えられるかは別の問いとして残る。2020年度は営業目標そのものを置かず、営業推進と募集品質の人事評価項目を一本化した。新契約件数は2021年3月期の12万件を底に2025年3月期の79万件まで戻したが、問題が判明する前の水準には遠い。民営化を進めながら全国の窓口網を維持するという二律のなかで、収益への圧力が再び現場に集まる構図は完全には消えていない。統治の再建がどこまで根に届いたかは、その後のグループの営業のあり方に現れてくるだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

日本郵政:個人保険の新契約件数と保有契約件数

新契約(個人保険)(万件)保有契約(かんぽ生命保険)(万件)
日本郵政:個人保険の新契約件数と保有契約件数
(万件) 新契約(個人保険)保有契約(かんぽ生命保険)保有契約(簡易生命保険) 備考
2015年3月期 2381,3531,995
2016年3月期 2391,5351,697
2017年3月期 2441,7151,441
2018年3月期 1731,7921,248
2019年3月期 1711,8091,104
2020年3月期 641,716990 2019年7月中旬以降の営業自粛と、2020年1月からの業務停止で新契約が急減
2021年3月期 121,589894 通期を通じて積極的な営業を控えた。10月5日から信頼回復に向けた業務運営
2022年3月期 171,474806
2023年3月期 311,372726
2024年3月期 621,309660
2025年3月期 791,278602
出所:日本郵政 有価証券報告書 第11期・第15期・第20期(生命保険業の新契約・保有契約の件数の推移)
出所:日本郵政 有価証券報告書 第11期・第15期・第20期(生命保険業の新契約・保有契約の件数の推移)

日本郵政:生命保険業セグメントの業績

経常収益(生命保険業)(百万円)セグメント利益(生命保険業)率(%)
日本郵政:生命保険業セグメントの業績
(百万円) 経常収益(生命保険業)セグメント利益(生命保険業) 備考
2015年3月期 10,168,044492,625
2016年3月期 9,605,645411,504
2017年3月期 8,659,363279,777
2018年3月期 7,952,894309,233
2019年3月期 7,916,596264,870
2020年3月期 7,211,365286,601 保有契約の減少と新契約の減少で保険料等収入が減った。引当金29,722を計上
2021年3月期 6,786,210345,736
2022年3月期 6,454,191356,113
2023年3月期 6,374,579117,892
2024年3月期 6,744,165160,915
2025年3月期 6,161,134169,813
出所:日本郵政 有価証券報告書 第10〜20期(セグメント情報・外部顧客に対する経常収益)
出所:日本郵政 有価証券報告書 第10〜20期(セグメント情報・外部顧客に対する経常収益)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
問題の内容 保険契約の乗換に伴う不利益 解約後の新規契約が病歴等で成立せず、保障のない状態となった事例など
判明した期 2020年3月期 日本郵便とかんぽ生命保険で、意向に沿わず不利益が生じた契約乗換等の事案
特定事案調査の対象 約18.3万件 過去5年分の乗換契約からA〜F類型に合致するものを抽出。対象は15.6万人
全ご契約調査の対象 約3,000万件 過去5年分の消滅契約を含む全契約。契約者約1,900万人から約101万通の回答
営業自粛 2019年7月中旬以降 郵便局とかんぽ生命保険支店が積極的な提案を控え、調査への対応を優先した
特別調査委員会 2019年12月18日に調査報告書 3社と利害関係のない弁護士で構成。2020年3月26日に追加報告書を受領した
特別調査委員会の指摘 現場の声が経営陣に届かない 原因追究・解決の先送り、問題の矮小化、情報伝達の目詰まりも挙げられた
行政処分の日 2019年12月27日 日本郵政は総務大臣と金融庁からそれぞれ業務改善命令を受けた
日本郵便への処分 業務停止命令及び業務改善命令 総務大臣(日本郵便株式会社法第15条第2項)と金融庁(保険業法第307条第1項等)
かんぽ生命保険への処分 業務停止命令及び業務改善命令 金融庁。保険業法第132条第1項に基づく
業務停止の期間と範囲 2020年1月1日から3月31日 顧客の自発的な意思表示による場合を除く保険募集及び保険契約の締結
経営陣の辞任 2020年1月5日付 日本郵政・日本郵便・かんぽ生命保険の社長等。役員の月額報酬も減額した
業務改善計画の提出 2020年1月31日 日本郵政と日本郵便は総務大臣と金融庁へ、かんぽ生命保険は金融庁へ提出
顧客への返戻の引当 29,722百万円 2020年3月期に保険金等支払引当金として経常費用に計上した
返戻・保険金支払の実行 21,589百万円 2021年3月期に引当金を取り崩して充当。期末の引当金残高は2,851百万円
営業の再開 2020年10月5日 謝罪を第一とする業務運営。2021年4月1日から新たな営業スタンスへ移行
再発防止 2020年度の営業目標を設定せず 営業推進と募集品質の人事評価項目を一本化し、募集品質の指標を新設した
出所:日本郵政 有価証券報告書 第15期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】・第16期(2021年3月期)【事業等のリスク】【追加情報】
出所:日本郵政 有価証券報告書 第15期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】・第16期(2021年3月期)【事業等のリスク】【追加情報】
当時の取締役 15名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 長門正貢:代表執行役社長
  • 鈴木康雄:代表執行役上級副社長
  • 池田憲人:取締役
  • 横山邦男:取締役
  • 植平光彦:取締役
  • 向井理希:取締役
  • 三村明夫:取締役
  • 八木柾:取締役
  • 石原邦夫:取締役
  • 広野道子(藤井道子):取締役
  • 岡本毅:取締役
  • 肥塚見春:取締役
  • 青沼隆之:取締役
  • 秋山咲恵:取締役
  • 二世:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 日本郵政 有価証券報告書(2025年3月期)【沿革】
  • 日本郵政 有価証券報告書「第15期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • 日本郵政 有価証券報告書「第15期(2020年3月期)【事業等のリスク】」
  • 日本郵政 有価証券報告書「第15期(2020年3月期)【生命保険業の状況】」
  • 日本郵政 有価証券報告書「第16期(2021年3月期)【追加情報(保険契約に係る改善に向けた取組)】」
  • 日本郵政 有価証券報告書「第16期(2021年3月期)【事業等のリスク】」
  • かんぽ生命保険 適時開示「総務大臣および金融庁による行政処分について(2019年12月27日)」

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