975社分の議決権再集計(2020年・三井住友トラストグループの決断)

更新:
論点先付処理を廃止するか
三井住友トラストグループ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
先付処理の取りやめと、実際に受領した日を基準とする集計への切り替え

何をなぜ決めたか:先付処理の取りやめと、実際に受領した日を基準とする集計への切り替え

概要

2020年9月24日、三井住友信託銀行は、取引先から受託する株主総会の議決権行使書集計業務の調査結果を公表した。議決権行使期限日に受領した行使書を集計対象外としていた「先付処理」を取りやめ、詳細なデータの残る975社について再集計した。12月17日には持株会社と連名で、新たな集計方法を含む再発防止策と責任の所在の明確化を公表している。

背景

三井住友信託銀行は集計業務を100%子会社の三井住友トラストTAソリューションに委託し、同社が持分法適用会社の日本株主データサービス(JaSt)に再委託していた。連結子会社の東京証券代行・日本証券代行の受託分も同じ経路である。JaStは3月・5月・6月の繁忙月に、郵便局と調整して本来の配達日の前日に郵送物を受け取り、本来の配達日が記された交付証の日付を基準に集計していた。その結果、期限日に届いた1日分の行使書が集計から外れていた。2020年6月の株主総会では、郵送による書面行使が全体の約83%(約480万件)を占めていた。

内容

再集計の結果、未集計だった有効票の議決権個数は合計約340万個で、全委託会社の総議決権数に対する比率は0.31%だった。賛成比率が1%を超えて下がった議案は40件あったが、議案の成否に影響する事案はないとしている。データの保存期間が原則として株主総会後3か月であったため、それ以前の総会は正確な検証ができなかった。

12月の再発防止策では、先付処理をやめて実際に受領した日を基準に集計し、新東京郵便局に私書箱を設けてJaStが引き取りに行く方法へ改めるとした。責任の所在として、三井住友信託銀行の橋本勝社長は月額報酬20%減額3か月、持株会社の大久保哲夫社長は10%減額3か月とした。

含意

発端は東芝からの調査依頼だった。長く続けてきた処理だったことから、依頼の後も適切性に疑義を抱かず、当初は適切な報告ができなかったと会社は認めている。2021年3月の株主総会から私書箱方式に切り替え、人員の増強やシステム機器の増設で、6月の繁忙月も集計を滞りなく終えた。原因には、導入時等の検証の不十分性、事務ルールそのものの適法性の検証不足、人員の固定化による業務見直し機会の不足を挙げた。6月総会の委託会社で電子行使を採用した会社は612社、割合は73.2%に広がった。

いつ何が起きたか6件
当時の取締役15名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 大久保哲夫:執行役社長
  • 荒海次郎:執行役専務
  • 西田豊:執行役専務
  • 橋本勝:執行役
  • 北村邦太郎:取締役
  • 常陰均:取締役
  • 首藤邦之:取締役
  • 田中浩二:取締役
  • 鈴木武:取締役
  • 荒木幹夫:取締役
  • 松下功夫:取締役
  • 齋藤進一:取締役
  • 吉田高志:取締役
  • 河本宏子:取締役
  • 麻生光洋:取締役
考察:締切の1日分を数えなかった慣行
考察

考察:締切の1日分を数えなかった慣行

外れていたのは期限日に届いた1日分だけで、全委託会社の総議決権数に対する比率は0.31%にとどまり、議案の成否も変わらなかった。数字だけを見れば小さな誤差である。ただ会社自身が、東芝の調査依頼を受けた後も適切性を疑わず、当初は適切な報告ができなかったと認めている。問題の重さは票数よりも、長年の慣行を誰も法の側から問い直さなかった点にあったといえる。

会社が挙げた原因は、事務ルールそのものの適法性を検証しなかったこと、人員の固定化で業務を見直す機会が乏しかったことであり、再委託先の現場だけでは閉じない話である。私書箱方式と処理能力の増強で形は整えた。それでも2020年6月の総会で書面行使が約83%を占めていた以上、繁忙月に郵便が集中する土台は残る。電子行使の採用を73.2%まで広げた取り組みは、その土台そのものを動かそうとするものだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

数字で見る

図と表

三井住友トラストグループ:証券代行事業の実質業務粗利益と実質業務純益

証券代行事業 実質業務粗利益(億円)証券代行事業 実質業務純益率(%)
三井住友トラストグループ:証券代行事業の実質業務粗利益と実質業務純益
(億円)証券代行事業 実質業務粗利益証券代行事業 実質業務純益備考
2019年3月期370184
2020年3月期374184
2021年3月期4032082020年9月に集計業務の不適切な取り扱いを公表し、12月に再発防止策を示した期
2022年3月期408210私書箱方式に切り替えた後の通期。上場受託社数と株主数の増加で手数料収入は堅調
出所:三井住友トラストグループ 有価証券報告書 第8〜11期(セグメント別損益の内容・連結)
出所:三井住友トラストグループ 有価証券報告書 第8〜11期(セグメント別損益の内容・連結)

経緯と対応

経緯と対応
科目概要備考
公表2020年9月18日・24日18日に東芝の総会集計に検証を要する事項を、24日に調査結果を公表した
発端東芝からの調査依頼当初は適切性に疑義を抱かず、再調査依頼で不適切性の認識に至った
不適切とされた処理先付処理本来の配達日の前日に受領し、交付証記載の日付を基準に集計していた
集計業務の委託先日本株主データサービス三井住友トラストTAソリューションを通じた再委託。三井住友信託銀行とみずほ信託銀行が50%ずつ出資
再集計の対象975社三井住友信託銀行891社、東京証券代行38社、日本証券代行46社
未集計だった議決権約340万個全委託会社の総議決権数の0.31%。議案の成否に影響する事案はなし
新たな集計方法私書箱方式2021年3月開催の株主総会から、新東京郵便局の私書箱へ引き取りに行く方法へ変更
処理能力の引き上げ人員増強・設備増設・システム機能改善2021年6月の株主総会も集計処理を滞りなく完了した
責任の所在2020年12月17日三井住友信託銀行社長は月額報酬20%減額3か月、持株会社社長は10%減額3か月
株式報酬のクローバック2021年2月から3月株式交付信託へのクローバック条項の導入を報酬委員会で扱った
電子行使を採用した委託会社612社2021年6月総会の委託会社836社の73.2%。前年比155社増
出所:三井住友信託銀行 2020年9月24日「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務についての調査結果のお知らせ」・三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 2020年12月17日「議決権行使書集計業務の見直し及び再発防止策等について」・2021年10月22日「議決権行使書集計業務の見直し等の実施状況について」・三井住友トラストグループ 有価証券報告書 第10期(2021年3月期)
出所:三井住友信託銀行 2020年9月24日「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務についての調査結果のお知らせ」・三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 2020年12月17日「議決権行使書集計業務の見直し及び再発防止策等について」・2021年10月22日「議決権行使書集計業務の見直し等の実施状況について」・三井住友トラストグループ 有価証券報告書 第10期(2021年3月期)
当時の取締役15名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 大久保哲夫:執行役社長
  • 荒海次郎:執行役専務
  • 西田豊:執行役専務
  • 橋本勝:執行役
  • 北村邦太郎:取締役
  • 常陰均:取締役
  • 首藤邦之:取締役
  • 田中浩二:取締役
  • 鈴木武:取締役
  • 荒木幹夫:取締役
  • 松下功夫:取締役
  • 齋藤進一:取締役
  • 吉田高志:取締役
  • 河本宏子:取締役
  • 麻生光洋:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 三井住友信託銀行 2020年9月24日「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務についての調査結果のお知らせ」
  • 三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 2020年12月17日「議決権行使書集計業務の見直し及び再発防止策等について」
  • 三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 2021年10月22日「議決権行使書集計業務の見直し等の実施状況について」
  • 三井住友トラストグループ 有価証券報告書【沿革】
  • 三井住友信託銀行 2020年9月18日「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務について」
  • 三井住友トラストグループ 有価証券報告書 第8〜11期(セグメント別損益の内容・連結)
  • 三井住友信託銀行 ニュースリリース「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務について」
  • 東芝 適時開示「第181期定時株主総会における議決権行使の集計について」
  • 三井住友信託銀行 ニュースリリース「当社取引先の議決権行使書集計に係る業務についての調査結果のお知らせ」
  • 三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 ニュースリリース「議決権行使書集計業務の見直し及び再発防止策等について」
  • 三井住友トラスト・ホールディングス/三井住友信託銀行 ニュースリリース「議決権行使書集計業務の見直し等の実施状況について」
  • 三井住友トラストグループ 有価証券報告書「第10期(2021年3月期)【対処すべき課題等】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 三井住友トラストグループ 有価証券報告書「第8〜11期(セグメント別損益の内容)」

次に読む決断

免責事項およびポリシー