リニア談合事件での起訴と「談合ではない」とする否認・徹底抗戦
スーパーゼネコンの一角は、なぜ受注調整を認めながら談合を否定し、大林組・清水建設と袂を分かって公判で争う道を選んだのか
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- 概要
- 2017年末から2018年にかけて、リニア中央新幹線の建設工事をめぐる大手ゼネコン4社の入札談合事件が表面化した。大成建設は元役員が逮捕され独占禁止法違反で起訴されたが、受注調整の事実は認めつつ「談合ではない」として容疑を否認し、罪状を認めた大林組・清水建設と対照的に公判で争う道を選んだ経営判断。
- 背景
- 東京五輪を控えたゼネコン絶頂期にあって、総工費約5.5兆円のリニアは大手4社抜きでは造れない巨大工事であった。価格以外の要素で落札者を決めるJR東海の入札方式が受注調整の温床となり、2005年の「脱談合宣言」の後も業界には談合の体質が残っていた。
- 内容
- 2018年2月、東京地検特捜部は大成建設と鹿島に家宅捜索を行った。大林組と清水建設が公正取引委員会に申告し罪状を認めたのに対し、大成建設は「必要な情報交換であり談合ではない」と反発。3月に元役員が逮捕され4社が起訴されたが、大成建設は捜査手法を非難する抗議文を送り、否認を貫いた。
- 含意
- 2020年6月の論告求刑で検察側は大成建設と鹿島を「自浄作用は到底期待できない」と批判した。有罪を確定させ再出発を選んだ2社と、法廷闘争を選んだ大成建設との差は、業界の談合体質と自浄作用のあり方を問う事件となった。
筆者見解
大成建設の否認には、みずからが本命の案件を落とした事実という、同社なりの筋があった。受注先も金額も発注者の裁量で決まる特殊な入札のもとで、情報交換のどこからが違法な談合なのか——その線引きを法廷で確かめようとした試みは、単なる開き直りとは異なる論点を含んでいたとみることができる。罪を認めて幕引きを急いだ2社との差は、事実認識の差でもあった。
とはいえ、受注調整そのものがあった事実は同社も認めており、絶頂期の高収益のさなかでなお難工事を分け合う構図が崩れなかったことの重さは残る。外部調査に向かわず内側で争う選択は、法廷での主張とは別に、業界の閉じた論理から自社を解き放つ機会を先送りした面もあったとみられる。この判断が信頼の再構築にどう作用したかは、その後の受注や統治の実際に照らして見届ける段階にある。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
大手4社抜きでは造れない巨大工事
品川─名古屋間の総工費約5.5兆円とされるリニア中央新幹線は、南アルプスの長大トンネルや現駅の地下に新駅を掘る超難関工事を含み、業界関係者なら誰もが大手4社抜きでは建設できないと認める巨大プロジェクトであった。JR東海が採用した公募競争見積方式は、価格だけでなく工期や技術を受発注者が協議して落札業者を決める仕組みで、客観的な指標を欠くために決定過程が不透明になりやすかった。難工区を分け合う土壌がそこにあった[1]。
舞台となった大成建設は、東京五輪を控えたゼネコン絶頂期の只中にあった。2018年3月期の連結売上高は1兆5854億円、営業利益は1819億円と過去最高水準にあり、資金や受注に窮する状況ではなかった。それでも大手4社は難工事の受注をすみ分ける構図を保っていた。良好な事業環境のもとでなお受注調整の動機が消えなかったところに、業界に根を張る体質があらわれていた[2]。
「脱談合宣言」の後も残った体質
事件は2017年12月、東京地検特捜部が名古屋城付近の立坑工事をめぐって大林組を家宅捜索したことで表面化した。特捜部は鹿島・大成建設・清水建設にも任意で事情を聴き、捜査は大手4社に及んだ。スーパーゼネコン4社は2005年12月に「脱談合宣言」を出していたが、その後も談合は繰り返され、業界には談合のイメージがつきまとっていた。摘発は民間工事の談合を初めて立件しようとする点で異例であった[3][4]。
決断
「必要な情報交換であり談合ではない」
2018年2月1日、特捜部は鹿島と大成建設に家宅捜索に入った。わずか2カ月で2度目の異例の捜索であった。事件への対応はここで真っ二つに分かれた。大林組は課徴金減免制度に基づいて受注調整を申告し、清水建設も罪状を認めた。ところが大成建設と鹿島の2社は、受注前に工事の情報交換をしていた事実は認めながら、それは必要な情報交換であって談合ではないとかたくなに否認し、特捜部の強引な捜査を疑問視した[5][6]。
大成建設が否認の根拠としたのは、みずからが取れなかった案件の存在であった。名古屋駅の地下工事は、リニアのターミナル駅と連結する「JRゲートタワー」の設計・施工を手掛けた大成建設が早くから本命視されていた。ところが実際に落札したのは大林組で、大成建設幹部は「あの案件を取られたショックは大きかった」と振り返った。もし談合があったのなら大成建設が受注できるよう調整していたはずだ、というのが同社の論理であった[7]。
逮捕・起訴と抗議文
2018年3月2日、特捜部は大成建設の元土木営業担当役員を逮捕し、23日に大成建設を含む大手4社を独占禁止法違反で起訴した。大成建設は「25回、約3カ月にわたり任意で応じているにもかかわらず逮捕されたものであり、到底承服いたしかねる」との怒りを隠さなかった。2度目の家宅捜索の後には抗議文を送り、社内弁護士や弁護人が作成したヒアリング資料まで押収されたとして、力ずくの捜査手法を非難した。否認して徹底抗戦する構えは起訴後も揺るがなかった[8][9]。
結果
論告求刑と2社の対比
2020年6月4日の論告求刑で、検察側は大成建設と鹿島を「組織的な罪証隠蔽工作を行ったうえ、社長から一般職員まで否認し、起訴内容を争っており、法令順守の意識の欠如は明らか。自浄作用は到底期待できない」と厳しく批判した。同じ罪に問われた大林組と清水建設が早々に罪状を認めて有罪を確定させたのに対し、大成建設と鹿島は受注調整の事実は認めつつ、受注先も受注額も発注者であるJR東海の意向どおりに決まったので談合ではないと主張し、徹底抗戦の構えを崩さなかった[10][11]。
問われた自浄作用
事件は業界の自浄作用にも課題を残した。不祥事が発覚した企業が外部の第三者委員会に事実究明と再発防止策を委ねるのは2000年代以降の常識であったが、リニア事件で告発された4社のうち、外部調査委員会の設置を公表したのは大林組だけであった。大成建設は否認して公判で争う道を選んだため、外部調査には向かわなかった。談合は1社では成立せず、独立した調査委を設ければ業界への裏切りになるという感覚が働いた、との見方も出された[12]。
- 週刊東洋経済 2017年12月23日号「決別できない談合体質 リニアでも懲りないゼネコン」
- 週刊東洋経済 2018年2月17日号「大手抜きでは造れない リニア談合疑惑の深層」
- 週刊東洋経済 2018年4月21日号「ゼネコン談合捜査は適正だったのか? 独禁法改正の攻防」
- 週刊東洋経済 2020年7月4日号「談合摘発後の外部調査はわずか 独善性抜けないゼネコン」
- 大成建設 有価証券報告書(2018年3月期・連結)