TBSホールディングス赤坂サカスの開業と赤坂再開発による不動産事業化

放送に依存しない収益源をどこに求めるか——本社が立つ赤坂の自社用地を、東京放送はどう街区へ組み替えたか

時期 2008年2月
意思決定者(推定) 井上弘・以後の街区化は佐々木卓社長が継承 社長
論点 放送外収益源の確保と自社用地の事業化
概要
2008年2月、東京放送は本社を構える赤坂の再開発を終えて複合施設「赤坂サカス」を開業し、放送収入に依存しない収益源とすべく不動産事業化を進めた経営判断。井上弘社長のもとで始まった街づくりは、赤坂二・六丁目地区の再開発と赤坂エンタテインメント・シティ計画(2028年竣工予定)へ引き継がれ、本社周辺の自社用地を面的な街区へ組み替えている。
背景
放送の稼ぎは視聴率と景気に揺れやすく、送出設備の更新にも巨額の投資が要る。2008年3月期に連結売上高3,152億円を放送中心で稼いでいた東京放送にとって、放送に依存しない安定収益源の確保が課題であった。その答えとして、創業以来70年にわたり本社を置いてきた赤坂の一等地という自社資産があった。
内容
2008年に赤坂Bizタワーや劇場を含む赤坂サカスを開業して賃料収入を生む資産へ組み替え、さらに隣接する赤坂二・六丁目地区の再開発へ進んだ。2024年3月に新築工事を始めた赤坂エンタテインメント・シティ計画は2028年の竣工を目指し、点であった不動産を街区という面へ広げている。
含意
不動産・その他事業は放送外の安定収益源となり、2026年3月期の過去最高益を下支えした。ただし不動産はグループで最もROICが低く、再開発の資金は外部借入に頼る。街区が竣工する2028年まで、投じた資本に見合う収益を生むかは見通せない。
筆者の見解

放送局が街の地主になるということ

放送に依存しない収益源づくり、という説明にこの判断は収まらない。芯にあるのは、創業以来70年にわたり本社を構えてきた赤坂の一等地という自社資産を、賃貸ビル一棟の運用ではなく街区そのものの開発へ組み替えた点にある。井上弘社長が2008年に開いた赤坂サカスは点であり、佐々木卓社長が継ぐ2028年竣工の街区は面である。放送局が番組を作る会社であると同時に、街を持ち運営する地主へと役割を広げたとみることができる。

もっとも、この組み替えが報われるかはまだ定まっていない。不動産はグループで最もROICが低く、再開発の資金は外部借入に頼る。2028年の竣工を待たねば、街区が投資に見合う賃料と集客を生むかは分からない。放送が縮む速さと、赤坂という資産が生む収益の大きさの、どちらが上回るかに、この不動産事業化の成否はかかっているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

放送収入への依存と、赤坂に持つ自社用地

2000年代の東京放送は、放送を主力に据えた事業構成のまま推移していた。2008年3月期の連結売上高は3,152億円、経常利益は231億円で、収益の柱は依然としてテレビ・ラジオの広告放送にあった。だが放送の稼ぎは視聴率と景気に揺れやすく、送出設備の更新には巨額の投資が要る。放送収入に依存する構造からどう身軽になるかが、この時期の経営課題であった[1]

その課題の答えとして東京放送が持っていた資産が、本社を構える赤坂の土地であった。1955年のテレビ参入以来、同社は港区赤坂に本拠を置き、放送センターやスタジオ、文化施設を集積させてきた。折しも2005年から楽天が経営統合を迫り、資本の攻防に揺れた時期にあたる。放送免許を制度で守る一方、同社は本社周辺の自社用地を収益源へ組み替える街づくりにも着手した[2][3]

決断

点としての赤坂サカスから、面としての街区へ

2008年2月、東京放送は赤坂の再開発工事を終え、複合施設「赤坂サカス」の営業を開始した。オフィスの赤坂Bizタワー、劇場のTBS赤坂ACTシアター、商業空間を一体に整えた街区で、本社周辺の土地を商業とオフィスの集積へ変え、賃料収入を生む資産に育てる試みであった。放送に依存しない収益源を、自社が持つ一等地から立ち上げる判断が、ここで形になった[4][5]

この不動産事業化は一施設では終わらなかった。井上弘社長のもとで開いた赤坂サカスに続き、TBSホールディングスは隣接する赤坂二・六丁目地区の再開発へ進む。2024年3月に新築工事を始め、2028年の竣工を目指す国家戦略特区「赤坂2丁目・6丁目計画」である。放送を継いだ佐々木卓社長は「地上波以外の窓口」を強めると語り、点であった不動産を街区という面へ広げた[6][7]

結果

安定収益源となった不動産と、低いROIC

赤坂の不動産は、放送外の安定した収益源へ育った。長期契約の多い赤坂Bizタワーは景気に左右されず堅調に推移し、再開発中の赤坂二・六丁目の賃料も当初の想定を上回る高値で契約が進んだ。2026年3月期の連結売上高は4,248億円、経常利益は374億円、純利益は522億円と過去最高を更新し、放送収入の回復とともに不動産・その他事業がこれを下支えした[8][9]

もっとも、不動産事業の資本効率は高くない。TBSホールディングスはグループで最もROICが低いのが不動産だとし、赤坂再開発の資金を負債調達で賄い、TBS放送センターをTBSテレビから持株会社へ移管して不動産の投下資本を測りやすくした。負債でWACCを下げてROICとのスプレッドを稼ぐ構えである。街区が竣工する2028年まで、投じた資本に見合う収益を生むかは見通せない[10]

出典・参考
  • 東京放送 有価証券報告書(連結)
  • 東京放送 有価証券報告書【沿革】
  • TBSホールディングス 有価証券報告書(連結)
  • 週刊東洋経済 2008年12月27日号「放送TBS買収に終止符 楽天のさらなる誤算」
  • 週刊東洋経済 2023年11月25日号「トップに直撃 TBSホールディングス 社長 佐々木卓」
  • TBSホールディングス 統合報告書2024
  • TBSホールディングス 統合報告書2025
  • TBSホールディングス 2025年度決算説明会 質疑応答

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