セガサミーホールディングス遊技機の資金をリゾートと海外IRへ振り向けた2012年の同時多発投資
宮崎のシーガイアと韓国・仁川のカジノリゾートを同じ年に抱えた選択
- 概要
- 2012年、セガサミーホールディングスは宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートを運営するフェニックスリゾートを買収し、同じ年に韓国Paradise Co., Ltd.との合弁でカジノを含む統合型リゾートの開発に乗り出した。埼玉・川越の遊技機新工場と物流拠点の建設も並行し、遊技機事業が生む資金を複数の領域へ同時に振り向けた。
- 背景
- 遊技機事業は2011年3月期に営業利益688億円を稼ぐ収益の柱でありながら、市場が国内に限られ、少子化の影響を避けられない事業でもあった。2010年12月の株式交換でグループ会社を持株会社の直下に並べ、事業を組み替える自由度は高まっていた。
- 内容
- 2012年2月にフェニックスリゾートの全株式取得を発表し3月に完全子会社化、5月に韓国Paradise Co., Ltd.との合弁を公表して7月にPARADISE SEGASAMMY Co., Ltd.を設立(出資比率45%)。9月に川越の新工場と流通センターが稼働し、2013年6月にはカジノ機器のセガサミークリエイションを設立した。
- 含意
- 韓国のパラダイスシティは2017年4月に開業し、2023年3月期以降は営業黒字を計上した。一方フェニックスリゾートは2024年5月に株式を譲渡して連結から外れ、国内IRへの参入も横浜市の公募が中止となって果たせないまま残った。
4億円で買った教材と、45%で握った施設
2012年の一連の投資は、金額の大きさよりも、買った対象の性質に特徴がある。フェニックスリゾートの株式は4億円、貸付を含めても58億円で、同じ年に川越の新工場へ投じた135億円より小さい。韓国の合弁でも出資は45%にとどまり、経営の主導権は韓国側にあった。セガサミーホールディングスが手に入れようとしたのは施設でも支配権でもなく、リゾートとカジノを実際に動かす経験であり、それは国内でカジノが解禁されたときに初めて値のつく資産であった。解禁が来るかどうかを他人が決める以上、回収の時期を自分では決められない投資であったといえる。
結果として、法制化は2018年まで待たされ、横浜での参入機会は市長選で消えた。教材として買われた宮崎の施設は、黒字化を見ないまま2024年に手を離れ、譲渡益約85億円と議決権20%だけが残った。一方、運営を学ぶ場所として45%を握った仁川のパラダイスシティは、開業から6年を経て利益を出す事業になっている。国内IRのために海外へ出た投資が、国内IRを果たせないまま海外の事業として残った——2012年に張った二つの拠点のうち、生き残ったのは日本から最も遠い一つであった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
国内に閉じた収益源
2004年のセガとサミーの経営統合以降、セガサミーホールディングスの利益はパチンコ・パチスロの遊技機事業が支えてきた。2011年3月期の連結売上高は3,967億円、営業利益は688億円で、遊技機で稼いだ資金がゲーム開発の投資を支える組み合わせができていた。ただし遊技機は日本国内でしか売れない商品であり、風俗営業等の規制のもとで台数も遊び方も制約を受ける。買い手であるホールの数と遊技人口が減れば、そのまま販売台数に跳ね返る事業でもあった[1][2]。
資金の置き場所を考えるうえで、グループの形はすでに整えられていた。2010年12月、セガサミーホールディングスはサミーネットワークス・セガトイズ・トムス・エンタテインメントを株式交換で完全子会社とし、持株会社の直下に並べた。それまでセガの傘下に置かれていたコンテンツ各社が持株会社と直接向き合う関係になり、どの事業をどこまで抱えるかを持株会社の判断で決められる構造になった。翌々年の投資は、この組み替えを終えた会社が打った手であった[3]。
統合型リゾートという次の柱
2010年代初頭、日本ではカジノを含む統合型リゾート(IR)の解禁を求める議論が続いていた。参考にされたのがシンガポールで、2010年に開業した2つのIRによって外国人観光客数は2009年から2013年で6割増の1,550万人となり、観光収入は8割を超えて伸びた。直接雇用は2万人にのぼる。日本での法制化と事業者選定が順調に進めば2020年ごろに運営が始まるという見方があり、認可を取るには先んじて準備を積む必要があった[4]。
もっとも、IRの商機のうちセガサミーが手持ちの技術で届くのはカジノ機器の製造までで、施設の運営そのものは経験のない領域であった。カジノの運営に専門的なノウハウを持つ企業は当時の日本には一社もない。認可を得るための要件としても、また事業機会としても、運営の経験をどこかで積む必要がある。国内でカジノが解禁されるかどうかも決まらないうちに、リゾートとカジノの運営を実地で覚える場所を先に確保する——2012年の投資はその判断から出ている[5]。
決断
宮崎・シーガイアの取得
2012年2月23日、セガサミーホールディングスはフェニックスリゾートの全株式を米投資会社RHJインターナショナルから取得すると発表した。取得は株式19万8,400株を4億円、あわせて54億円を同社へ貸し付けて債務の弁済に充てる条件であった。同社が運営するフェニックス・シーガイア・リゾートは1993年7月に開業した第三セクターの施設で、バブル崩壊後の経営難から2001年2月に会社更生法の適用を申請し、RHJインターナショナルの下で再建が続いていた[6][7]。
買収の狙いは、ホテル・ゴルフ場・コンベンション施設を束ねた大規模施設を実際に動かす経験そのものにあった。3月にフェニックスリゾートを完全子会社とし、4月5日には里見治会長兼社長が宮崎の現地で記者会見を開き、アジア市場やファミリー層への働きかけとともに、カジノの導入も視野に入れた構想を語った。国内屈指の複合リゾートを、収益源としてよりも運営の教材として抱え込む選択であった[8][9]。
韓国・仁川の合弁と、遊技機への同時投資
国内リゾートの取得から3カ月後の2012年5月11日、セガサミーホールディングスは韓国でカジノ・ホテル・スパを運営するParadise Co., Ltd.との合弁を公表した。7月に設立した合弁会社PARADISE SEGASAMMY Co., Ltd.の出資比率はParadise Co., Ltd.が55%、セガサミーホールディングスが45%で、主導権は韓国側が握る形をとった。開発地は仁川国際空港に隣接する国際業務地域(IBC-1)の敷地336千平方メートル、資本金は1,406億8,855万ウォン、開業は2016年を予定していた[10][11]。
同じ年、本業の遊技機にも資金が投じられていた。埼玉県川越市の既存工場に隣接する用地へ総額135億円で新工場を建て、延床面積は従来の約2倍にあたる約36,000平方メートルとした。隣接地には27億円でサミーロジスティクスセンターを設け、2012年9月に両者を同時に稼働させている。短期に集中する需要へ即応して販売機会の取りこぼしを防ぐための増強で、リゾートとIRへの投資は本業を絞った結果ではなく、本業の設備更新と並行して行われた。翌2013年6月にはカジノ機器を手掛けるセガサミークリエイションを設立し、施設の運営と機器の供給の両面から準備を進めた[12][13]。
結果
開業まで5年、そして開業直後の逆風
仁川の統合型リゾートは当初予定の2016年に間に合わず、着工は2014年11月、開業は2017年4月20日となった。総事業費は1兆3000億ウォン、敷地は33万平方メートルで、711室のホテルに160台のゲーミングテーブルと728台のスロットマシンを備え、韓国で初めての本格的なIRとなった。2014年8月の時点では、合弁2社が投じる金額は約1,735億円と伝えられている。公表から開業まで、5年近くを要した投資であった[14][15]。
開業の直前、韓国では米軍の高高度防衛ミサイル配備をめぐって中国が団体旅行を禁じ、2017年3月の韓国路線の中国人客は前年同月比22.5%減となった。最大の想定顧客を欠いた船出であった。国内のリゾート事業も収益には遠く、セグメントの営業損益は2018年3月期が25億円の損失、2019年3月期が24億円の損失、2020年3月期は53億円の損失と赤字が続いた。取得から数えて8年、シーガイアは黒字に届かないまま新型コロナウイルスの流行を迎えた[16][17]。
国内IRの後退と、二つのリゾートの分かれ道
韓国で運営を学ぶ目的であった国内IRは、実現しなかった。2021年6月11日、セガサミーホールディングスは横浜市の事業者公募に提案書を提出し、ゲンティン・シンガポールなど6社とコンソーシアムを組んで最大1,200億円を投じる計画を示した。ただし代表企業は外資のゲンティンで、セガサミーホールディングスの立場は「グループ構成員」、合弁会社への出資は半数以下にとどめる方針であった。同年8月の横浜市長選でIR反対派が当選し、計画は白紙となる。里見治紀社長は「先行きの見えない国内IRの優先順位は変更し、資金に余力がなければ投資しないことにした」と述べた[18][19]。
2012年に同時に抱えた二つのリゾートは、12年後に分かれた。2024年5月10日、セガサミーホールディングスはフェニックスリゾートの全株式316,555株をFortress Investment Group LLCの関係会社である夕顔合同会社へ譲渡すると決議し、5月31日に実行した。譲渡価額は非開示ながら、2025年3月期に株式譲渡益約85億円を特別利益として計上する見込みを示し、新たに発行される種類株式を取得して議決権20%を残した。他方でパラダイスシティは2023年3月期・2024年3月期にグループ参画以来最大の売上高を更新し、営業利益の黒字を2期連続で計上した[20][21]。
- 日本経済新聞(2012年2月23日)「セガサミー、宮崎の「シーガイア」買収 運営ノウハウ獲得狙う」
- 日本経済新聞(2017年4月20日)「パラダイス、仁川カジノリゾートがオープン」
- 日本経済新聞(2017年4月24日)「中韓摩擦カジノに暗雲 韓国初の統合型開業」
- 東洋経済オンライン(2012年4月5日)「セガサミーの里見治会長兼社長がシーガイア現地で記者会見。カジノ含むインテグレーテッドリゾートに意欲」
- 東洋経済オンライン(2014年8月12日)「韓日合弁が乗り出すカジノリゾートの勝算 パラダイス・セガサミーのCEOに聞く」
- 週刊東洋経済 2021年7月31日号「ニュース最前線 セガサミーが「脇役」シフト 横浜カジノで静かな異変」
- 週刊東洋経済 2021年12月18日号「トップに直撃 セガサミーホールディングス 社長 里見治紀」
- セガサミーホールディングス「PARADISE SEGASAMMY 社による Paradise Casino Incheon の取得に関するお知らせ」(2013年7月1日)
- セガサミーホールディングス「連結子会社の異動(株式譲渡)および特別利益の計上に関するお知らせ」(2024年5月10日)
- セガサミーホールディングス アニュアルレポート2012/アニュアルレポート2014
- セガサミーホールディングス 有価証券報告書(2011年3月期・2013年3月期・2020年3月期)
- セガサミーホールディングス 有価証券報告書 第21期(2025年3月期)【沿革】