イビデン マレーシア新工場建設 2009年3月期の設備投資618億円を全額自己資金で賄った海外量産拠点の建設

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時期 2008年4月
当時の社長 竹中裕紀
論点 設備投資と財務規律
何をなぜ決めたか
概要

2008年5月20日の取締役会で、マレーシアに子会社を設立することを決議した。既存の日本および中国の量産拠点と併せて今後の需要の増加に対応するためで、同月28日にイビデンエレクトロニクスマレーシア株式会社を100%出資で設立し、ペナンに新工場を建てはじめた。

2009年3月期の設備投資は生産能力増強を目的とした設備の新設を中心に総額618億34百万円にのぼり、その所要資金は全額が自己資金であった。

背景

1996年のインテル向け取引の開始後、ICパッケージ基板を主力に売上が伸び、2008年3月期の連結売上高は4,135億22百万円と前期比3.7%増えた。

もっとも営業利益は672億65百万円と前期比2.5%の減益で、償却負担の増加に加え、原材料費の上昇と競争激化に伴う製品価格の下落が電子関連事業の利益を押し下げていた。売上が伸びながら採算が悪化するなかで、量産の拠点をどこへ置くかが課題であった。

内容

618億34百万円の内訳は、電子関連部門432億56百万円、セラミック部門125億19百万円、建材・建設・その他部門および全社が60億59百万円である。電子関連の主なものはパッケージ基板製造設備282億43百万円とプリント配線板製造設備129億29百万円、セラミックはDPF製造設備35億27百万円と特殊炭素製品向けの建物および構築物など89億32百万円だった。

ペナンの新工場は建物及び構築物に150億円を見込み、2008年6月に着手して2009年10月の完了を予定した。2009年3月期末までの既支払額は53億26百万円である。

含意

直後のリーマンショックで2009年3月期は87億11百万円の当期純損失に転じ、翌2010年3月期の設備投資は186億97百万円と前期の3割の水準まで絞り込まれた。それでも借入に頼らない体はマレーシアへの投資を止めず、2010年5月には生産設備へ323億50百万円、2011年10月にはさらに260億円を投じる計画を立てた。

2011年6月には、パッケージ基板を担うイビデンアドバンストパッケージマレーシア株式会社をあらためて設立している。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

堅実さが攻めの機動性を生むという逆説

この判断の核心は、618億円という金額の大きさより、その全額を自己資金でまかなった点にある。半導体部材は需要の振れが激しく、好況期に借りて増設すれば不況期に返済が重くのしかかる。イビデンは好況で稼いだ利益を次の設備へ回し、借入に頼らないことで、需要が減少しても資金繰りが揺らがない体をつくった。リーマンショックでも2017年3月期の巨額の減損でも財務の危機に至らず、赤字の翌期に黒字へ復せたのは、この堅さがあってこそだった。堅実な財務が、かえって攻めの投資の機動性を支えた。

もっとも、財務の規律は投資そのものの巧拙までは救わない。ペナンへの拡張は、着工の直後にリーマンショックへ、増設を重ねた先で2017年3月期のペナンの設備の減損へと行き着いた。自己資金ゆえに傷が浅く済んだにすぎず、需要の山を読み切る難しさは残ったままである。それでもイビデンは、この規律ゆえに損失を計上しても倒れず、翌期には黒字へ復している。稼いだ範囲で賭け、負けても立て直す——需要変動の大きい部材産業で生き残るための、一つの型がここにある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
投資の条件

投資の条件

科目 概要 備考
決議 2008年5月20日の取締役会 マレーシアに子会社を設立することを決議した
設立の目的 今後の需要の増加への対応 既存の日本および中国の量産拠点と併せて対応するためとした
設立した子会社 イビデンエレクトロニクスマレーシア株式会社 事業内容はプリント配線板の製造
設立の時期 2008年5月28日
出資比率 100% 資本金は60百万マレーシアリンギット(約2,000百万円)
所在地 マレーシア・ペナン
工場の投資予定額 150億円 建物及び構築物。2009年3月期末までの既支払額は53億26百万円
着手・完了予定 2008年6月着手、2009年10月完了予定
生産設備の追加投資 323億50百万円 2010年5月着手・2012年10月完了予定。2012年3月期末の既支払額は184億60百万円
さらなる増設 260億円 2011年10月着手・2013年12月完了予定
資金の調達方法 自己資金 2012年3月期の計画からは社債発行資金を併用している
決議期の設備投資総額 618億34百万円 2009年3月期。生産能力増強を目的とした設備の新設が中心で、全額を自己資金で賄った
内訳(電子関連部門) 432億56百万円 パッケージ基板製造設備282億43百万円、プリント配線板製造設備129億29百万円
内訳(セラミック部門) 125億19百万円 DPF製造設備35億27百万円、特殊炭素製品向けの建物および構築物など89億32百万円
パッケージ基板の現地法人 イビデンアドバンストパッケージマレーシア株式会社 2011年6月に設立した

出所:イビデン 有価証券報告書 第155期(2008年3月期)【重要な後発事象】・第156期(2009年3月期)【設備の状況】・第158期(2011年3月期)【設備の新設、除却等の計画】・第159期(2012年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【沿革】

設備投資額の推移

イビデン:設備投資額の推移

(百万円) 設備投資額電子セラミック 備考
2006年3月期 65,82317,35138,648
2007年3月期 70,35854,0979,327
2008年3月期 42,37727,8587,158
2009年3月期 61,83443,25612,519 ペナンの新工場を含む総額を全額自己資金で賄った
2010年3月期 18,69715,0081,808 リーマンショック後の需要減で前期の3割の水準まで絞り込んだ
2011年3月期 60,33553,1684,509 この期から部門の呼称が電子事業・セラミック事業に変わった
2012年3月期 47,31335,9006,052
2013年3月期 43,26223,23114,630
2014年3月期 37,73124,0198,344
設備投資額
設備投資額(百万円)

出所:イビデン 有価証券報告書 第153〜161期【設備投資等の概要】

主力2事業の売上高

イビデン:主力2事業の売上高

(百万円) 電子セラミック 備考
2007年3月期 205,02996,232
2008年3月期 204,504115,461
2009年3月期 162,90566,073 電子関連が前期比20.3%減、セラミックが42.8%減
2010年3月期 159,26256,297
2011年3月期 185,05668,870
2012年3月期 171,25875,520
2013年3月期 153,89675,310
2014年3月期 150,56198,701

出所:イビデン 有価証券報告書 第154〜161期(事業の種類別セグメントの売上高)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

海外進出と現地生産2012年セガサミーホールディングス遊技機で獲得した資金を新分野へ振り向けた同時多発の投資事業ポートフォリオと資本配分
1993年飯野海運インドネシアを含む複数プロジェクトへの参画による、液化天然ガス輸送への進出船種の分散と長期契約型事業への進出
2008年四国電力カタールの発電造水事業を足がかりとした海外電力事業への進出海外発電事業への進出
2007年王子ホールディングス中国での一貫生産の立ち上げと、排水パイプライン計画の撤回国内需要の頭打ちと海外への資本輸出
2007年エルピーダメモリ台湾勢との折半出資によるDRAM生産拠点レックスチップの立ち上げ生産立地と規模の確保
大型設備投資2010年ラウンドワン海外第1号店の開設と、国内で育てたモール業態のそのままの移植海外進出と業態の移植
2012年INPEX総事業費340億米ドルを投じる自社主導の巨大開発単独オペレーターとして手掛ける豪州LNG開発の可否
2002年日産自動車再建から成長への転換と、北米の新工場・中国の合弁を軸にした世界販売の上積み世界販売の拡大
2017年カルビー越境ECと現地専用工場を軸にした中国市場の攻め直し国内成長の頭打ちに対する海外市場の開拓
1997年参天製薬眼科薬メーカーの取り込みによる欧州拠点の確保海外展開と生産拠点
参考文献
出典・参考
  • イビデン 有価証券報告書「第155期(2008年3月期)【重要な後発事象】」
  • イビデン 有価証券報告書「第156期(2009年3月期)【設備の状況】」
  • イビデン 有価証券報告書「第158期(2011年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • イビデン 有価証券報告書「第159期(2012年3月期)【設備の新設、除却等の計画】【沿革】」
  • イビデン 有価証券報告書「第164期(2017年3月期)【連結財務諸表注記】」

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