1955年の判断は、海運会社が土地を取得したという話にとどまらない。船は市況が上がれば数カ月で利益を生み、下がれば係船して損を垂れ流す。ビルは急に儲からない代わりに、契約が続くかぎり毎月同じ額が入る。性格の異なる2つの資産を1社の貸借対照表に並べたことで、飯野海運は片方が止まってももう片方で息をつなぐ構成を整えたのだろう。規模で中核6社に及ばない船社が、規模とは別の軸で経営の安定を買った選択であった。
もっとも、安定を生む資産は同時に狙われる資産でもあった。2003年に外資が筆頭株主へ躍り出た場面が示したのは、都心の含み益が株価に反映されないまま置かれると、それ自体が買収の動機になるという事実である。近年の海外オフィスビル取得は、海運の好況期に不動産の基盤を厚くしておく判断とみられるが、賃料と運賃という異質な収益をどの比率で持ち続けるのかは、いまも経営が答えを出し続けている問いといえる。