和歌山製油所の閉鎖と次世代燃料拠点への転換

80年操業した製油所をなぜ止め、跡地を次世代燃料の拠点に変えたのか

更新:

時期 2022年1月
意思決定者 大田勝幸氏 ENEOSホールディングス 代表取締役社長
論点 脱炭素時代の精製能力再編と事業構造の転換
概要
2022年1月、ENEOSホールディングスは和歌山製油所を2023年10月をめどに閉鎖すると発表し、予定どおり稼働を止めた。国内需要の縮小と脱炭素に対応して精製能力を絞り込み、跡地を次世代航空燃料などの拠点に転換する事業構造改革の一環にあたる。
背景
人口減少によるガソリン需要の縮小と脱炭素の潮流で、石油元売り各社は精製能力の過剰を抱えていた。ENEOSはすでに室蘭・知多で製造を停止し、根岸でも1ラインを廃止する計画を進めており、赤字が続く和歌山製油所も整理の対象となった。
内容
和歌山製油所の原油処理能力は日量12.8万バレルで、同社の原油処理能力の7%に相当する。大田勝幸社長は1月25日の会見で採算と能力の低さを閉鎖理由に挙げ、見直しは続くと述べた。和歌山県の仁坂吉伸知事は本社へ直談判して雇用維持を要求し、ENEOSは跡地利用の検討会設置を提案した。
含意
和歌山製油所は2023年10月に稼働を停止し、次世代航空燃料などのプラントへ転換する道を歩んだ。石油精製を縮小して次世代燃料へ主力を移す構造改革を、地域経済への打撃と引き換えに進めた判断であった。
筆者の見解

筆者見解

和歌山製油所の閉鎖は、石油元売りが避けられない需要縮小に対して、拠点の順次整理という漸進的な手法で向き合ってきたことの一断面といえる。室蘭・知多・根岸に続く整理として和歌山を止めた流れは、痛みの大きい一度の大リストラを避け、採算の悪い設備から段階的に落とす選択であったとみることができる。跡地を次世代航空燃料に振り向けた点には、精製から撤退するのでなく燃料事業の内側で作り替えるという同社なりの筋の通し方がうかがえる。

一方で、この判断が地域に残した課題は企業の財務では測りきれない。製造品出荷額の9割を一社の一工場が担う町では、閉鎖は雇用と税収の同時喪失を意味した。跡地の検討会が地元の不満を呼んだ経緯は、精製能力の集約が全国の企業城下町で今後も繰り返されうることを示唆する。事業構造の転換が地域の存立とどう折り合うのかは、和歌山にとどまらず脱炭素期の日本の重化学工業全体に投げかけられた問いとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

脱炭素と需要縮小が迫る精製能力の過剰

石油元売り各社が抱える構造問題は、需要そのものの先細りにあった。国内では人口減少に伴ってガソリンの消費が細り、脱炭素の潮流が化石燃料の将来をさらに狭めていた。精製設備は一度建てれば数十年動かす装置であり、需要が縮むと過剰な能力が固定費として重くのしかかる。ENEOSは2022年3月期に連結売上高10兆9217億円、営業利益7859億円を計上する最大手であったが、その規模ゆえに設備の絞り込みは避けて通れない課題となっていた[1][2]

すでに進んでいた製油所の整理

和歌山の閉鎖は突然生まれた方針ではなく、数年来続く精製拠点の整理の延長線上にあった。ENEOSは室蘭と知多で製造をすでに止め、主力の根岸でも2022年10月に1ラインを廃止する計画を進めていた。全国に分散する製油所のうち採算と規模で見劣りする拠点から順に稼働を落とす流れが定着しており、原油処理能力の7%を担うにとどまり赤字が続く和歌山製油所は、次の整理対象として浮かび上がっていた[3]

決断

2022年1月の閉鎖発表

2022年1月25日、大田勝幸社長は記者会見で和歌山製油所を2023年10月をめどに閉鎖すると明らかにした。同製油所は1941年の操業開始から80年にわたり有田市に立地し、生産能力は日量12.8万バレルと同社の原油処理能力の7%に相当した。大田社長は他の製油所と比べて能力が著しく低く赤字が続く現状を閉鎖理由に挙げ、採算の合わない設備を維持し続けることはできないとの認識を示した。サプライチェーンの見直しはこれで終わりとは限らないとも述べ、さらなる再編を示唆した[4][5]

立地自治体の反発と検討会の設置

閉鎖の一報は立地する和歌山県に強い反発を呼んだ。発表翌日の1月26日、仁坂吉伸知事は東京・大手町のENEOS本社に大田社長を訪ね、雇用維持と新たな産業づくりを要求した。知事は採算が合わないのに造り続けよとは言えないと理解を示しつつ、業態転換を進めてある程度の雇用を守ってほしいと訴えた。会談を受けてENEOSは、県や有田市、経済産業省を交えた跡地利用の検討会を設置する案を提示し、2月25日に第1回会合が開かれた[6][7]

結果

稼働停止と次世代燃料への転換

和歌山製油所は予定どおり2023年10月に稼働を停止した。ENEOSは跡地を単に手放すのでなく、次世代航空燃料などのプラントへ転換する方針を掲げ、脱炭素時代の生産拠点として再構築する道を選んだ。石油精製で80年動いた設備を止め、同じ土地に燃料の次の姿を据える構図であり、精製能力の縮小と次世代燃料への転換を一つの敷地の上で重ねる試みとなった。原油処理という祖業の縮退と新事業の立ち上げが、同社の構造改革の象徴として並んで進んだ[8]

地域経済に残された重い課題

決断は立地する町に重い影を落とした。和歌山製油所の2020年の製造品出荷額は約4700億円で、有田市全体の製造品出荷額の9割超を占めていた。構内で働くENEOSと協力会社の社員は計1300人にのぼり、飲食店やスーパーへの波及を含めれば市の経済はこの製油所に大きく依存していた。仁坂知事が最悪の場合は町が廃墟になると危機感を語ったように、精製拠点の集約は企業の採算改善と地域の存立が正面からぶつかる問題を残した[9]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2022年3月26日号「工場が消える PART1 崖っぷちの製造業 市内生産の9割消失 和歌山・有田の苦悩」
  • 週刊東洋経済 2022年3月26日号「INTERVIEW 和歌山県知事 仁坂吉伸 閉鎖は仕方ない、でも雇用を守ってほしい」
  • 週刊東洋経済 2023年12月23日号「石油 油価は上昇基調も補助金は波乱要因」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書(2022年3月期・連結)

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