和歌山製油所を閉鎖(2022年・ENEOS HDの決断)

更新:
論点 製油所を閉鎖し次世代燃料へ転換するか
ENEOS HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
製油所としての役割を終えた拠点の次世代燃料拠点への転換

何をなぜ決めたか:製油所としての役割を終えた拠点の次世代燃料拠点への転換

概要

2022年1月、子会社のENEOS株式会社は和歌山製油所の精製・製造及び物流機能を2023年10月を目途に停止することを取締役会で決議した。生産停止は2023年10月に完了し、拠点は和歌山製造所と名を変えた。

決議を受け、同製油所設備は単独の使用価値がマイナスになることが想定されることから、2022年3月期に建物、構築物及び油槽等の帳簿価額の全額27,640百万円を減損損失として計上している。

背景

人口減少によるガソリン需要の縮小と脱炭素の潮流で、石油元売り各社は精製能力の過剰を抱えていた。ENEOSはすでに室蘭・大阪・知多で製造を停止し、千葉を輸出製油所とし、根岸でも1ラインを廃止する計画を進めており、赤字が続く和歌山製油所も整理の対象となった。東燃ゼネラル石油との統合時に15拠点あった製油所・製造所は、和歌山の停止で11拠点となる。

内容

失った原油処理能力は日量12万バレル。統合時に193万BDあったグループの処理能力は164万BDまで減少した。減損で建物と機械装置の帳簿価額はゼロになり、2022年3月期末に残ったのは土地25,515百万円を中心とする25,775百万円である。

敷地は2,374千㎡、従業員は決議直後の期末で435人。2025年3月期末には274人まで減った。和歌山県の仁坂吉伸知事は本社へ雇用維持を求め、ENEOSは跡地利用の検討会設置を提案した。

含意

跡地はそのまま遊ばせず、持続可能な航空燃料(SAF)の製造拠点に充てる道を選んだ。TotalEnergies社と事業化調査を進め、廃食油・獣脂といった廃棄物を原料に、年間約30万トン(40万kl)の製造能力を想定する。1号機は2027年以降の運開を予定する。

2025年3月期末には和歌山の設備のうち「その他」が83百万円から3,636百万円へ増え、帳簿価額は29,135百万円に戻った。精製から撤退するのではなく、同じ敷地で燃料の中身を入れ替える構造改革であった。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 16名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

考察:順に畳む撤退と、残される町
考察

考察:順に畳む撤退と、残される町

和歌山製油所の閉鎖は、石油元売りが避けられない需要縮小に対して、拠点の順次整理という漸進的な手法で向き合ってきたことの一断面といえる。室蘭・大阪・知多・根岸に続く整理として和歌山を止め、統合時に15あった拠点は11になった。痛みの大きい一度の大リストラを避け、採算の悪い設備から段階的に落とす選択であったと推察される。減損27,640百万円が設備の帳簿価額の全額だったという事実は、この拠点がすでに単独では価値を生まない状態にあったことを、会計の言葉で示している。

もっとも、この判断が地域に残した課題は企業の財務では測りきれない。製造品出荷額の9割を一社の一工場が担う町では、閉鎖は雇用と税収の同時喪失を意味した。跡地の検討会が地元の不満を呼んだ経緯は、精製能力の集約が全国の企業城下町で今後も繰り返されうることを示唆する。跡地に置くSAFの1号機は2027年以降の運開を予定しており、雇用がどこまで戻るかはまだ見えない。事業構造の転換が地域の存立とどう折り合うのかは、和歌山にとどまらず脱炭素期の日本の重化学工業全体に投げかけられた問いと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ENEOS HD:エネルギーセグメントの減損損失

減損損失(百万円)
ENEOS HD:エネルギーセグメントの減損損失
(百万円) 減損損失 備考
2017年3月期 11,047
2018年3月期 36,124
2019年3月期 28,195
2020年3月期 10,269
2021年3月期 50,951 知多製造所の停止、根岸製油所の一部装置停止、大阪事業所の発電設備の廃止
2022年3月期 29,472 和歌山製油所の設備の帳簿価額の全額27,640を計上した期
2023年3月期 43,134
2024年3月期 46,701
2025年3月期 172,899 報告セグメントの区分変更で石油製品ほか。のれんを含む減損が主
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第8〜15期(非金融資産の減損)
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第8〜15期(非金融資産の減損)

ENEOS HD:エネルギーセグメントの業績

外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)
ENEOS HD:エネルギーセグメントの業績
(百万円) 外部顧客への売上高セグメント利益 備考
2017年3月期 5,579,934240,181
2018年3月期 8,695,164416,628 2017年4月に東燃ゼネラル石油と経営統合した期
2019年3月期 9,475,637375,395
2020年3月期 8,414,259△162,766 油価の急落で在庫の評価が大きく悪化した期
2021年3月期 5,994,677121,130
2022年3月期 8,930,602477,451 和歌山製油所の停止を決議した期。減損を吸収して増益となった
2023年3月期 12,706,46850,973
2024年3月期 11,682,788253,015
2025年3月期 10,902,305△50,705 区分変更後の石油製品ほか。前期の組替後は11,068,428と261,827
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第8〜15期(セグメント情報)
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第8〜15期(セグメント情報)

閉鎖の条件

閉鎖の条件
科目 概要 備考
対象拠点 和歌山製油所(和歌山県有田市) エネルギーセグメントの子会社ENEOS株式会社が運営する製油所
決議 2022年1月 ENEOS株式会社の取締役会が精製・製造及び物流機能の停止を決議した
停止する機能 精製・製造及び物流機能 2023年10月を目途とし、生産停止は2023年10月に完了した
減損損失 27,640百万円 2022年3月期に計上。建物、構築物及び油槽等、同製油所設備の帳簿価額の全額
減損の理由 設備の使用価値がマイナス 停止の決議により同製油所設備の単独の使用価値がマイナスになると想定された
エネルギーセグメントの減損損失 29,472百万円 2022年3月期。うち和歌山製油所分が27,640百万円を占める
残った帳簿価額 25,775百万円 2022年3月期末。うち土地25,515百万円。建物と機械装置はゼロになった
敷地面積 2,374千㎡
従業員数(2022年3月期末) 435人 ほかに臨時従業員34人。停止の決議の直後にあたる期末の人数
従業員数(2025年3月期末) 274人 和歌山製造所への改称後。3年で161人減った
失う原油処理能力 日量12万バレル グループの処理能力は2017年4月の193万BDから164万BDとなった
製油所・製造所の数 15拠点→11拠点 2017年4月の統合から2023年11月まで。室蘭・大阪・知多に続く停止
跡地の活用 持続可能な航空燃料(SAF) TotalEnergies社と事業化調査。廃食油・獣脂といった廃棄物を原料とする
SAFの製造能力の想定 年間約30万トン(40万kl) 1号機は年40万KLで2027年以降の運開を予定する
転換後の帳簿価額 29,135百万円 2025年3月期末。その他の設備が前期末の83百万円から3,636百万円に増えた
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第12期(2022年3月期)【非金融資産の減損】【主要な設備の状況】・第14期(2024年3月期)・第15期(2025年3月期)/2023年度第2四半期決算説明資料
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第12期(2022年3月期)【非金融資産の減損】【主要な設備の状況】・第14期(2024年3月期)・第15期(2025年3月期)/2023年度第2四半期決算説明資料
当時の取締役 16名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第12期(2022年3月期)【非金融資産の減損】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第12期(2022年3月期)【主要な設備の状況】」
  • ENEOSホールディングス 決算説明会資料「2023年度 第2四半期決算説明資料」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第14期(2024年3月期)【事業の状況】【主要な設備の状況】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第15期(2025年3月期)【セグメント情報】【非金融資産の減損】」

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