再エネのJRE買収(2021年・ENEOS HDの決断)

更新:
論点 再エネ専業を1800億円で買収するか
ENEOS HD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
再エネ専業の1800億円での買収と石油依存からの脱炭素シフト

何をなぜ決めたか:再エネ専業の1800億円での買収と石油依存からの脱炭素シフト

概要

2021年10月11日、ENEOSホールディングスはエネルギーセグメントに属する子会社のENEOS株式会社を通じ、再生可能エネルギー発電専業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の全株式を取得する契約を締結し、2022年1月14日に取得を完了した。売主はザ・ゴールドマン・サックス・グループ・インクの出資会社が75%、シンガポール政府投資公社の出資会社が25%を持つジーエス・リニューアブル・ホールディングス合同会社であった。取得後にJRE株式の5%を三井住友信託銀行へ譲渡したため、95%持分の取得として企業結合処理を行っている。

背景

有価証券報告書は、2040年長期ビジョンで「アジアを代表するエネルギー・素材企業」「事業構造の変革による価値創造」「脱炭素・循環型社会への貢献」を掲げ、石油精製販売をはじめとする基盤事業のキャッシュ・フロー最大化を図りつつ成長事業への戦略投資を進めていると述べている。2020年5月に策定した第2次中期経営計画は2022年度末までに再生可能エネルギーによる総発電容量を100万kW超へ拡大する目標を掲げており、自前の電源開発だけでは期限に届かない状況にあった。

内容

JREは2012年8月の設立以降、電源開発から発電所の運転・メンテナンスまで一貫して行う国内有数の再生可能エネルギー事業者である。取得対価1,823億55百万円の内訳をみると、公正価値で受け入れた有形固定資産(主に発電設備)が1,716億53百万円、無形資産(主にFITに基づく売電契約)が1,715億83百万円で、のれんは695億10百万円であった。同時に社債及び借入金1,566億35百万円を引き受けている。2021年度末のグループの総発電容量は建設中を含め約122万kWとなり、中計の100万kW目標を達成した。

含意

買った容量は、そのまま利益にはならなかった。2023年4月にENEOSが国内に持つ太陽光・陸上風力・洋上風力の各発電事業をJREへ移管して両社の事業を統合し、2024年4月にJREはENEOSリニューアブル・エナジーへ商号を変更した。2025年3月期に報告セグメントとして切り出された再生可能エネルギーは、2024年3月期に売上高418億円・セグメント損失118億円、2025年3月期に売上高440億円・セグメント損失169億円と赤字が続き、のれんは2024年3月期にバイオマスで11億57百万円、2025年3月期に太陽光とバイオマスで111億81百万円の減損を出した。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 16名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

考察:時間を買った買収の重さ
考察

考察:時間を買った買収の重さ

この買収の核心は、時間を金で買うという割り切りにある。用地の確保から系統接続、運転開始までに長い歳月を要する再エネを、自前の開発だけで積み上げていては、第2次中期経営計画が掲げた2022年度末100万kWにも脱炭素の期限にも間に合わない。その認識のもとで、専業大手を丸ごと取り込む道が選ばれた。取得対価1,823億55百万円のうち、のれんは695億10百万円で4割に満たない。残りの大半は発電設備という有形固定資産と、FITに基づく売電契約という無形資産であり、買ったものが将来の期待ではなく稼働中の電源と買取価格の束であったことを示している。石油で稼いだ資金を、縮小する本業ではなく次の収益源へ振り向ける判断が、そこにうかがえる。

ただし、容量を買い足すことと、再エネを収益源に育てることは別の話である。2025年3月期に報告セグメントとして切り出された再生可能エネルギーは、2024年3月期に売上高418億円でセグメント損失118億円、2025年3月期に売上高440億円でセグメント損失169億円と赤字が続いた。のれんも2024年3月期にバイオマスで11億57百万円、2025年3月期に太陽光とバイオマスで111億81百万円が減損され、バイオマスに配分した分は全額が消えている。2026年3月期に損失が9億29百万円まで縮んだのは、減損を出し切ったあとの姿でもある。1,800億円が事業構造を組み替える投資に見合ったかは、洋上風力をはじめとする開発案件がどれだけ果実を生むかにかかっている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ENEOS HD:のれんの推移

JRE取得のれん(百万円)JRE取得のれん以外(百万円)
ENEOS HD:のれんの推移
(百万円) JRE取得のれんのれん合計総資産 備考
2017年3月期 −17,0616,658,627 東燃ゼネラル石油との経営統合は2017年4月1日で、統合のれんは翌期に立つ
2018年3月期 −177,2168,457,555 経営統合により生じた統合のれん160,155を計上した期
2019年3月期 −196,4828,477,811
2020年3月期 −185,7308,011,292
2021年3月期 −181,5078,058,818 第2次中期経営計画で2022年度末までに再エネ100万kW超を掲げていた期
2022年3月期 69,510251,1759,648,219 1月14日の取得でのれん69,510を暫定計上した
2023年3月期 69,510256,4579,954,517 暫定的な会計処理が確定し、取得原価の当初配分額に修正はない
2024年3月期 68,353256,68510,136,545 バイオマスに配分したのれんに減損損失1,157を認識した
2025年3月期 62,39674,2018,789,377 太陽光3,678とバイオマス7,503を減損。統合のれんも全額減損した
2026年3月期 62,39674,2019,094,314 内訳は太陽光29,259と風力33,137。当期の減損はない
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第7〜16期(連結財政状態計算書、連結財務諸表注記 のれん及び無形資産、非金融資産の減損)
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第7〜16期(連結財政状態計算書、連結財務諸表注記 のれん及び無形資産、非金融資産の減損)

ENEOS HD:買収した再生可能エネルギー事業の推移

売上高(百万円)セグメント損益率(%)
ENEOS HD:買収した再生可能エネルギー事業の推移
(百万円) 売上高セグメント損益セグメント資産 備考
2024年3月期 41,790△11,802591,379 第15期有報で再生可能エネルギーを報告セグメントに分け、この期から組み替えた
2025年3月期 44,042△16,906566,718 太陽光とバイオマスののれん及び非流動資産の減損11,181を含む
2026年3月期 48,657△929583,062 従業員569名。のれんの減損はなく損失は929まで縮んだ
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第15〜16期(連結財務諸表注記 セグメント情報)
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第15〜16期(連結財務諸表注記 セグメント情報)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業の名称 ジャパン・リニューアブル・エナジー 風力・太陽光・バイオマス等の発電プラントの調査・建設・運転・保守と売電事業
売主 ジーエス・リニューアブル・ホールディングス合同会社 出資はゴールドマン・サックス・グループの会社が75%、シンガポール政府投資公社の会社が25%
買主 ENEOS株式会社 エネルギーセグメントに属する連結子会社
契約の締結 2021年10月11日 JREの全株式を取得する契約を締結した
取得日 2022年1月14日 現金を対価とする株式取得。JREとその子会社が当社の子会社となった
取得した議決権付資本持分の比率 95% 取得後に5%を三井住友信託銀行へ譲渡し、単一の取引として会計処理している
取得対価 182,355百万円 全額現金。【業績等の概要】は株式を約1,800億円を投じて取得したと記す
受け入れた有形固定資産 171,653百万円 主に発電設備。公正価値で測定している
受け入れた無形資産 171,583百万円 主に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)に基づく売電契約
引き受けた社債及び借入金 △156,635百万円 ほかに繰延税金負債△53,640百万円、営業債務等△24,517百万円を引き受けた
取得資産及び引受負債(純額) 150,816百万円 現金及び現金同等物40,424百万円を含む
非支配持分 △37,971百万円 識別可能な純資産の公正価値に対する非支配株主の持分割合で測定している
発生したのれん 69,510百万円 FITに基づく売電契約以外から生じると見込まれる将来キャッシュ・フロー等による
暫定的な会計処理の確定 2023年3月期に確定 取得原価の当初配分額に修正は生じていない
取得関連費用 1,727百万円 連結損益計算書の販売費及び一般管理費に計上した
業績に与える影響 記載を省略 収益及び当期利益に対する影響額に重要性がないとして開示していない
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第12期(2022年3月期)【業績等の概要】【連結財務諸表注記 6.企業結合】、第13期(2023年3月期)【連結財務諸表注記 6.企業結合】
出所:ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第12期(2022年3月期)【業績等の概要】【連結財務諸表注記 6.企業結合】、第13期(2023年3月期)【連結財務諸表注記 6.企業結合】
当時の取締役 16名

当時の取締役(2021年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第11期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第12期(2022年3月期)【業績等の概要】【連結財務諸表注記 6.企業結合】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第13期(2023年3月期)【連結財務諸表注記 6.企業結合】【14.非金融資産の減損】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第14期(2024年3月期)【14.非金融資産の減損】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第15期(2025年3月期)【7.セグメント情報】【14.非金融資産の減損】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書 第16期(2026年3月期)【12.のれん及び無形資産】【14.非金融資産の減損】
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第11期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第12期(2022年3月期)【連結財務諸表注記 6.企業結合】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第12期(2022年3月期)【業績等の概要】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第13期(2023年3月期)【連結財務諸表注記 6.企業結合】【14.非金融資産の減損】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第14期(2024年3月期)【14.非金融資産の減損】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第15期(2025年3月期)【14.非金融資産の減損】【7.セグメント情報】」
  • ENEOSホールディングス 有価証券報告書「第16期(2026年3月期)【12.のれん及び無形資産】【14.非金融資産の減損】」

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