再エネ専業ジャパン・リニューアブル・エナジーの2000億円買収——石油依存からの脱炭素シフト

出遅れた再エネ容量を、なぜENEOSは自前開発でなく専業大手ごと買って埋めたのか

更新:

時期 2021年10月
意思決定者 大田勝幸 ENEOSホールディングス 社長
論点 脱炭素シフトと再エネ事業の積み増し
概要
2021年10月11日、ENEOSホールディングスが子会社のENEOS株式会社を通じ、再生可能エネルギー発電専業のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の全株式を約2000億円で取得すると発表した買収。売主はゴールドマン・サックス系のインフラファンドとシンガポール政府投資公社(GIC)で、大田勝幸社長のもとで進めた脱炭素シフトの中核となる判断であった。
背景
脱炭素の進展で国内の石油需要は2040年に半減する見通しとなり、石油元売り各社は水素や洋上風力など次世代事業へ主力を移していた。ENEOSは2040年のカーボンニュートラルを掲げていたが、自社の再エネ発電容量は約13万kWにとどまり、専業のJRE(運転中約42万kW)に出遅れていた。
内容
JREは2012年設立の国内有数の再エネ事業者で、太陽光・陸上風力・バイオマスを中心に運転中約37.9万kW、建設中を含め約70.8万kWを保有し、洋上風力の事業化も検討していた。取得でENEOSグループの再エネ総容量は約122万kWとなり、取得価額2000億円のうちのれんは約1,603億円を占めた。
含意
用地取得から運転開始まで長い年月を要する再エネを、自前開発では間に合わせられないとみて、専業大手を丸ごと取り込み時間を買った判断であった。トヨタ・NTTなどとの入札を制した一方、価格の8割超がのれんとなる水準には割高との見方もついて回った。
筆者の見解

時間を買った買収の重さ

この買収の核心は、時間を金で買うという割り切りにある。用地の確保から系統接続、運転開始までに長い歳月を要する再エネを、自前の開発だけで積み上げていては、掲げた容量目標にも脱炭素の期限にも間に合わない——その認識のもとで、専業大手を丸ごと取り込む道が選ばれた。のれんが価格の8割を占める水準は、出遅れを取り戻すために支払った時間の対価だったとみることができる。石油で稼いだ資金を、縮小する本業ではなく次の柱へ振り向ける判断が、そこにうかがえる。

ただし、容量を買い足すことと、再エネを収益の柱に育てることは別の話である。買収の後もグループの利益は石油精製販売や機能材が支える構図が続き、再エネ事業の採算はなお発展途上にある。2000億円が事業構造を組み替える投資に見合ったかは、洋上風力をはじめとする開発案件がどれだけ果実を生むかにかかっている。石油元売りが脱炭素の時代にどのような会社へ姿を変えていくのか、その問いへの一つの解答として、この買収の行方は見届けられることになるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

石油需要の縮小と2040年長期ビジョン

石油元売りにとって、本業である国内の燃料油需要は長期の縮小が避けられない見通しであった。政府が2050年のカーボンニュートラルを宣言し、脱炭素の進展にともなって国内の石油需要は2040年までに半減する見通しが業界の前提になりつつあった。ENEOSホールディングスは2040年長期ビジョンで「アジアを代表するエネルギー・素材企業」を掲げ、石油精製販売の基盤事業でキャッシュフローを最大化しつつ、次世代型エネルギーや環境対応型事業へ戦略投資を振り向ける方針を示していた[1]

脱炭素の分野では、2040年に自社排出分のCO2についてカーボンニュートラルを達成する目標を置き、その通過点として第2次中期経営計画の最終年度にあたる2022年度末までに、国内外の再生可能エネルギーの総発電容量を100万kW超へ拡大する目標を掲げていた。基盤の石油で稼いだ資金を、縮小する本業ではなく成長が見込める再エネや水素へどう振り向けるかが、経営の主題になりつつあった[2]

再エネ出遅れの焦燥

もっとも、掲げた目標に対して、ENEOS自身が持つ再エネの実力は乏しかった。買収の検討が進んでいた時点で、同社が国内に持つ再生可能エネルギーの発電容量は約13万kWにとどまり、専業として運転中に約42万kWを積み上げていたJREに水をあけられていた。太陽光や風力の発電所は用地取得から系統接続、運転開始まで長い年月を要し、自前の開発だけで100万kW超へ届かせるには時間が足りなかった[3]

石油元売り各社が水素や洋上風力といった次世代事業の拡大を競うなかで、再エネへの傾斜が遅れているという焦りが社内にあったとされる。買収に携わった側はこの取得を事業構造を変える機会ととらえ、専業大手を丸ごと取り込むことで開発の時間を買う意味合いを認めていた。目標達成の期限が迫るなかで、時間を金で買う選択が現実味を帯びていったとみられる[4]

決断

JRE全株式を約2000億円で取得

2021年10月11日、ENEOSホールディングスは、子会社のENEOS株式会社を通じて、ゴールドマン・サックスのアセット・マネジメント部門が運用するインフラファンドと、シンガポール政府投資公社(GIC)の関連会社が保有するJREの全株式を取得すると発表した。取得価額は約2000億円、株式譲渡の実行は2022年1月下旬を予定した。石油元売りが再エネ新興を対象に行う大型買収は、これが初めてであった[5]

対象のJREは、2012年8月にゴールドマン・サックスが設立した国内有数の再エネ事業者で、電源開発から発電所の運転・保守まで一貫して手がけていた。太陽光・陸上風力・バイオマスを中心に、2021年9月時点で運転中の発電容量は約37.9万kW、建設中を含めると約70.8万kWに達し、洋上風力の事業化検討も進めていた。取得後のENEOSグループの再エネ総容量は約122万kWとなり、掲げていた100万kW超の目標を一気に上回る計算であった[6]

のれんと入札競争

買収には割高との見方もついて回った。取得価額2000億円のうち、JREの純資産を上回る部分、すなわちのれんは約1,603億円に上り、価格の8割超を占めた。JREが抱える開発中の案件、とりわけ有望地点の洋上風力への期待が、この上乗せの中心にあったとみられる。証券市場の一部には、この価格をどう正当化するのかと問う声もあった[7]

JREの売却をめぐっては、トヨタ自動車やNTTなど複数の企業グループが関心を示し、入札は競り合いになったとされる。再エネの優良資産が限られるなかで、専業大手を取り込む機会そのものに希少性があった。出遅れを一気に取り戻したいENEOSにとって、価格の高さは織り込むほかない前提だったとみることができる[8]

結果

子会社化とグループ再エネの統合

株式譲渡は予定どおり2022年1月に実行され、JREはENEOSのグループ会社となった。その翌年、2023年4月、ENEOSはグループが国内に持つ太陽光・風力の再エネ事業をJREへ移管し、両社の事業を統合して開発・運用する体制へ改めた。この統合により、JREが管理・運用する再エネの総発電量は、建設中を含めて国内で初めて約100万kWに達した[9]

買収で得た容量を土台に、ENEOSグループ全体の再生可能エネルギー発電容量は積み上がっていった。決算説明の資料によれば、2024年9月末時点でグループの再エネ発電容量は約133万kWまで進み、太陽光と陸上風力を中心に拡大が続いていた。長期ビジョンでは再エネ200万kWを目標に掲げ、ノルウェーの浮体式洋上風力への参画など、次の柱づくりも動き出していた[10]

出典・参考