ユー・エス・エスジェイ・エー・エーの完全子会社化と、HAA神戸会場の減損188億円の計上
会場を買い増して市場を広げる拡大は、どこで自社会場の食い合いに転じたか
- 概要
- ユー・エス・エスは2017年8月に同業のジェイ・エー・エーを子会社化し、2018年3月に完全子会社として東京・神戸の2会場を取り込んだ。だが買収会場をUSS方式へ揃えるほど自社の他会場との差別化が薄れて利用者が分かれ、取扱台数が減った。2020年3月期にJAA会場ののれんを、2021年3月期にはHAA神戸会場ののれんを減損損失188億円として計上している。
- 背景
- 中古車オークションは会場に集まる出品・成約の手数料で稼ぐ事業で、取扱台数が増えるほど利益が伸びる。ユー・エス・エスは1999年以降、地方会場の買収と新設を重ねて市場シェアを約2割から約4割へ広げてきた。ジェイ・エー・エーの買収は、東京と神戸の会場を全国網へ加える取り込みであった。
- 内容
- HAA神戸会場は成約率が50%台前半にとどまり、グループ化したJAA・HAA神戸会場の出品・成約台数が減った。回収の見込みが立たず、2021年3月期にHAA神戸会場ののれん減損損失18,801百万円と顧客関連資産の除却損などで特別損失21,832百万円を計上し、当期純利益は前期の206億円から40億円へ落ちた。
- 含意
- 会場を買い増して市場を広げる拡大が、成熟した市場では自社会場どうしの食い合いに転じることを示した。ユー・エス・エスは2021年10月にジェイ・エー・エーとHAA神戸を本体へ吸収合併し、以後は物理会場の追加より既存会場のスループット向上とオンライン化に力を移した。
買って広げる型が届いた先
このJAA買収を、成熟した市場で高値づかみした失敗とだけ読むと、判断の芯を外す。ユー・エス・エスは20年をかけて、地方の会場を買ってはUSS方式へ作り替え、市場シェアを約2割から約4割へ広げてきた。同じ手を東京と神戸の会場に当てたのがこの買収であった。ところが、運営を自社へ揃えるほど買った会場の独自性が消え、自社の他会場との差別化が薄れて利用者が分かれた。買って広げる型が、それまでとは逆に自社会場の食い合いを生んだところに、188億円という減損の重さがあったとみることができる。
もっとも、この一件は拡大の手法そのものを否定するものではない。買って作り替える型は、市場に伸びしろが残り、買った会場が新しい出品と成約を呼び込めるうちは機能した。行き詰まったのは、日本の自動車流通が成熟し、全国に会場網があらかた行き渡った先であった。減損の翌期に純利益が297億円へ戻り、以後ユー・エス・エスが会場の数より処理量とオンライン化に力を移したことをあわせて見れば、この188億円は、会場を数えて増やす成長にひとつの区切りをつけた金額であったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
会場を増やして広げてきた市場
ユー・エス・エスの本業である中古車オートオークションは、車を仕入れて売るのではなく、会場に集まる出品・成約の手数料で稼ぐ事業である。マッチングの場を設ければ費用は人件費や設備の償却が中心で、取扱台数が増えても費用は増えにくく、台数の伸びが利益の伸びを上回る。この構造のもと、オートオークション事業の営業利益率は6割を超え、全社売上高の約8割を占める柱に育っていた[1]。
台数が増えるほど利益が伸びる事業では、会場は多いほど有利になる。ユー・エス・エスは1999年の名古屋証券取引所市場第2部への上場を機に、地方の運営会社の買収と会場の新設を重ねて会場網を広げ、外部応札の仕組みを早くから整えて出品台数を積み上げた。同業他社のM&Aとあわせて、過去20年間で市場シェアを約2割から約4割へ引き上げている。買って広げる拡大が、この会社の成長のかたちであった[2]。
東京と神戸を取り込む買収
拡大の延長に、同業大手の取り込みがあった。2017年1月18日、ユー・エス・エスはジェイ・エー・エーを買収することで合意したと発表した。ジェイ・エー・エーは東京都江戸川区と兵庫県神戸市に会場を持ち、神戸の会場は子会社の株式会社HAA神戸が運営していた。会場を増やして取引シェアを高めるねらいで、同年8月に公正取引委員会の承認を経て株式66.0%を取得して子会社とし、2018年3月に完全子会社としている[3][4]。
買収した2会場は、そのまま別立てで残されたのではなかった。ユー・エス・エスは子会社化ののち、JAA会場とHAA神戸会場の入会基準・オークションルール・手数料体系を自社の基準へ合わせ、自社が運営する他会場と同じ高収益の体質を目指した。地方会場を買っては商号と仕組みをUSSへ揃えてきた、それまでの型をそのままなぞる進め方であった[5]。
決断
揃えるほど薄れた差別化
自社へ揃える作り替えが、この2会場では逆に働いた。運営の基準を合わせるほど、JAA会場やHAA神戸会場と自社の他会場との違いが薄れ、利用者が複数の会場に分かれた。結果として両会場の取扱台数は減っていく。とりわけHAA神戸会場の成約率は50%台前半にとどまり、ユー・エス・エスは2018年8月に自社のインターネット外部落札の仕組みを接続するなど手を打ったが、成約率の底上げは容易ではなかった[6][7]。
背景には市場そのものの成熟があった。ユー・エス・エス自身、日本の自動車流通市場は成熟して成長の余地は乏しいと有価証券報告書に記している。買い増した会場が新たな出品と成約を呼び込む前提が崩れれば、会場を増やすほど既存の会員を分け合う面が前に出る。買収した2会場の取扱台数の減りは、その分け合いが数字となって表れたものであった[8]。
のれん188億円の減損
取扱台数が戻らなければ、買収で計上したのれんは回収の裏づけを失う。ユー・エス・エスは2020年3月期に、まずJAA会場に係るのれんの減損損失3,863百万円を特別損失として計上した。翌2021年3月期には、長引く新型コロナウイルス感染症の影響も加わって計画を見直し、HAA神戸会場に係るのれんの減損損失18,801百万円を積み増した。買収した会場の値づけを、二期にわたって切り下げた整理であった[9]。
減損は最終損益を大きく削った。ユー・エス・エスは2021年5月6日、2021年3月期の連結純利益予想を221億円から40億2200万円へ引き下げると発表している。売上高749億円・営業利益362億円・経常利益370億円と本業は横ばいを保ったものの、HAA神戸会場ののれん減損や顧客関連資産の除却損などで特別損失は21,832百万円に達し、当期純利益は前期の206億円から40億円へと8割方減った[10][11]。
結果
買った会社を本体へたたむ
減損で値づけを切り下げたのち、ユー・エス・エスは買収した会社そのものを畳んだ。2021年10月、ジェイ・エー・エーとHAA神戸を本体へ吸収合併している。地方会場を買っては地域子会社として並べ、後にまとめて本体へ吸収してきた、この会社がたびたび取ってきた整理と同じ手順であった。買収から4年で、東京と神戸の2会場は独立の法人を離れ、ユー・エス・エス本体が直に運営する会場となった[12]。
会場を買って足す拡大の後ろで、ユー・エス・エスはオンライン化を進めていた。ネット出品・ネット落札の機能を広げ、出品者や落札者が会場へ足を運ばなくても取引できる比率を高めている。減損が示したのは、成熟した市場で物理会場を足すことの重さで、この会社の力点は会場の数を増やすことから、既存会場の処理量を上げて外部応札を広げることへ移っていった[13]。
一度きりの振れとして残った
減損は最終損益を一度だけ深く沈め、翌期には戻った。2021年3月期に40億円まで落ちた当期純利益は、2022年3月期に297億円へ回復している。本業の営業利益は減損の年も362億円を保っており、のれんの切り下げは資産の評価を改めた一度きりの振れで、稼ぐ力そのものを損なったのではなかった。2025年3月期の連結純利益は376億円へ伸び、高い利益率の事業構造は続いている[14]。
事業の規模はその後も伸びた。2025年3月期の連結売上高は1,040億円、営業利益は542億円へ達し、いずれも減損の期を大きく上回っている。買収した2会場を本体へ吸収し、会場網を増やすより既存会場の処理量と外部応札を広げることに力を移したのちも、オートオークションの高い利益率は保たれた。減損は資産の評価を一度改めたにとどまり、事業そのものの伸びを妨げなかった[15]。
- 週刊東洋経済 2024年2月24日号「【特集 もうけの仕組み 2024】8 つなげて稼ぐマッチングモデル 中古車 USSがオークションで断トツの利益を稼ぐ理由」
- 日本経済新聞(2017年1月18日)「中古車オークションのUSS、同業大手を買収」
- 日本経済新聞(2017年8月19日)「同業大手の買収、公取委が承認 中古車販売のUSS」
- ユー・エス・エス 2020年3月期第2四半期 決算説明会 質疑応答(2019年11月13日)
- 日本経済新聞(2021年5月6日)「USS、通期の純利益予想を下方修正 221億円から40億2200万円に」
- ユー・エス・エス 有価証券報告書(2021年3月期・2022年3月期・2025年3月期・連結)
- ユー・エス・エス 有価証券報告書【沿革】(第45期)