三菱樹脂三菱化学グループ3社との合併と、三菱化学の機能材料事業の承継

売上1,901億円の加工専業が、なぜ親会社の事業を引き受ける側に回ったのか——三菱ケミカルホールディングスによる機能材料の集約

時期 2008年4月
意思決定者(推定) 三菱ケミカルホールディングス(100%親会社)・吉田宏 三菱樹脂 社長
論点 グループに分散した機能材料事業の集約と、その受け皿をどの会社に置くか
概要
2008年4月1日、三菱樹脂は三菱化学ポリエステルフィルム・三菱化学産資・三菱化学エムケーブイの3社を吸収合併し、同日付で三菱化学の機能材料事業を会社分割により承継した。100%株主の三菱ケミカルホールディングスが決めたグループ内の集約で、連結売上高は1,901億円から3,462億円へ、従業員は4,242人から6,713人へ増えた。
背景
2007年7月に上場を廃止し、同年10月に三菱ケミカルホールディングスの完全子会社となった三菱樹脂は、2008年3月期の経常利益を前期比49.9%減の51億円まで落としていた。グループ内では機能材料の事業がフィルム・産業資材・農業用ビニルと会社ごとに分かれ、三菱化学の本体にも機能材料本部が事業を抱えていた。
内容
三菱樹脂を存続会社とする吸収合併と吸収分割を同じ日に実行し、山東工場・直江津工場・坂出工場・名古屋製造所を開設して本社を千代田区から中央区へ移した。関係会社は子会社13社・関連会社6社増え、報告セグメントは機能性フィルム・情報電子材料・産業・建設資材の3分野へ改められた。社長には同日付で吉田宏氏が就いた。
含意
原料を親会社から買っていた加工専業が、親会社の機能材料事業を引き受ける側に回った。初年度の2009年3月期は経常損失59億円・当期純損失121億円に沈んだが、2012年12月には1952年に始めた管材事業を積水化学工業へ譲渡し、最後の有価証券報告書となった2015年3月期は売上高4,537億円・経常利益264億円まで戻した。
筆者の見解

足した会社と、引いた会社

存続会社は三菱樹脂であった。合併した3社も、会社分割で渡された機能材料本部の事業も、いずれも三菱化学の側から来ている。原料を親会社から買っていた加工専業が、親会社の事業を受け取る側に回った。三菱樹脂が受け皿に選ばれたのは、グループで最も稼いでいたからではなく、加工の現場と販売の網を最も広く持っていたからだとみられる。1,901億円の会社が3,462億円の会社になったのは、稼ぐ力が増したからではなく、事業の置き場所が変わったからであった。

集約が損益に表れるまでには時間がかかった。初年度の2009年3月期は経常損失59億円・当期純損失121億円、翌期の経常利益も9億円にとどまっている。金融危機と重なった不運はあるにせよ、4社を1社に畳んだ効果が数字に出たのは、2012年12月に管材事業を積水化学工業へ譲ってからであった。受け入れた事業を並べ替えるだけでなく、1952年に始めた管材を手放すところまで進んで、2015年3月期の経常利益264億円に届いている。集約は足し算から始まるが、引き算まで終えないと利益にはならないとみることができる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場を降りた直後の収益

三菱樹脂が三菱ケミカルホールディングスの完全子会社になったのは、2007年10月であった。同年7月に東京証券取引所と大阪証券取引所での上場を廃止し、株式交換で親会社の傘下に入った。直後の2008年3月期は連結売上高1,901億円、経常利益51億円で、前期の102億円から49.9%減らしている。当期純利益も46億円から10億円へ落ち、原材料価格の上昇と改正建築基準法による新設住宅着工数の減少が重なった[1][2]

稼ぎの内訳は3分野に分かれていた。2008年3月期のセグメント別売上高は、フィルム分野567億円、情報電子分野555億円、ライフライン分野710億円である。売上高が最も大きいライフライン分野の営業利益は1億円まで細り、前期の28億円から沈んだ。塩化ビニル管が公共投資の抑制と住宅設備需要の伸び悩みを受けたためで、1948年に本邦初の塩化ビニル樹脂加工として始め、1952年に硬質へ絞り込んだ事業が、単独では利益を生まなくなっていた[3][4]

会社ごとに分かれていた機能材料

三菱ケミカルホールディングスの傘下では、機能材料の事業が会社ごとに分かれていた。ポリエステルフィルムは三菱化学ポリエステルフィルム、産業資材は三菱化学産資、農業用ビニルは三菱化学エムケーブイが担い、三菱化学の本体にも機能材料本部の機能材料企画室と機能資材事業部が事業を抱えていた。三菱樹脂は、同じ機能材料を名乗る複数の会社のうちの一社にすぎなかった[5]

三菱樹脂の立場は、原料を買う側にあった。有価証券報告書は、三菱化学が化学製品を製造・販売し、三菱樹脂がその原料を購入していると記している。原料を作る会社と加工する会社が別に並び、加工の側もまた複数に分かれていた。2008年3月期末の株主は三菱ケミカルホールディングス1社のみで持株比率は100%となり、事業をどこに置くかは親会社が単独で決められる状態になっていた[6][7]

決断

存続会社は三菱樹脂、決めたのは親会社

2008年4月1日、三菱樹脂を存続会社とする3社の吸収合併が実行された。相手は三菱化学ポリエステルフィルム、三菱化学産資、三菱化学エムケーブイである。同じ日に三菱化学の機能材料本部機能材料企画室と機能資材事業部が所管する事業を吸収分割で承継し、山東工場・直江津工場・坂出工場・名古屋製造所を開設した。本社も千代田区から中央区へ移している。関係会社は子会社が13社、関連会社が6社増えた[8][9]

存続法人は三菱樹脂だが、決めたのは100%株主の三菱ケミカルホールディングスであった。原料を親会社から買っていた加工専業が、親会社の事業部門を引き受ける側に回っている。社長には統合と同じ日付で吉田宏氏が就いた。吉田氏は1970年に三菱油化へ入社し、三菱化学の常務執行役員から2007年4月に三菱樹脂の副社長執行役員へ移った人物で、2008年6月には三菱ケミカルホールディングスの取締役も兼ねた[10]

集約の理由は一つではなかった

狙いは規模だけではなかった。連結売上高は1,901億円から3,462億円へ、従業員は4,242人から6,713人へ、総資産は1,636億円から2,892億円へ増えている。同時に、フィルムを扱う会社が並んでいた重複が解け、報告セグメントの名称も「フィルム分野」から「機能性フィルム分野」へ、「情報電子分野」から「情報電子材料分野」へ、「ライフライン分野」から「産業・建設資材分野」へ改められた[11]

残る理由は二つある。三菱化学が原料を作り三菱樹脂が加工するという分業を、一つの会社の中に収めること。もう一つは、三菱ケミカルホールディングスの機能材料分野を担う中核会社を一社に定めることであった。三菱樹脂はその後、5つの「集中事業」と6つの「育成事業」へ経営資源を集中させる中期経営計画を掲げている。理由のどれか一つだけでは、4社を1社に畳むところまでは要らなかった[12][13]

結果

初年度は赤字だった

統合の初年度は赤字であった。2009年3月期の連結売上高は3,462億円、営業損失35億円、経常損失59億円、当期純損失121億円である。米国発の金融危機で民間設備投資と輸出が減り、需要が細った。セグメント別では情報電子材料分野が営業損失4億円、産業・建設資材分野が営業損失40億円で、統合の効果を損益で測る前に、需要そのものが消えていた[14][15]

純損失121億円には、統合とは無縁の負担も入っている。塩化ビニル管と継手について他の製造販売業者と共同で販売価格を決めた事実があるとして、2009年2月に公正取引委員会から排除措置命令と課徴金納付命令を受け、その課徴金等が特別損失に計上された。三菱樹脂は同年4月に審判請求を行っている。翌2010年3月期は売上高が3,132億円まで縮んだものの、コスト削減により経常利益9億円・当期純利益2億円を確保し、底を打った[16][17]

受け入れたあとに続いた入れ替え

集約は受け入れだけで終わらなかった。2009年4月、アルポリックの金属樹脂積層板の製造加工事業を会社分割で承継し、上田工場と東京製造所を開設した。同年9月にはスイスのQuadrant AGの創業者と設立した持株会社Aquamit B.V.が公開買付でQuadrant株を取得し、2013年5月に完全子会社化している。2010年4月に報告セグメントを高機能フィルム・環境・生活資材・高機能成形材・部品の3分野へ組み替え、2011年3月期の連結売上高は3,820億円、経常利益149億円まで戻った[18][19]

出す側の決定も続いた。2012年4月に直江津工場を廃止し、同年12月1日には管材事業を積水化学工業へ譲渡、2013年4月には美祢製造所を廃止した。管材は1952年に始めた事業で、住宅着工件数の減少と公共投資の縮減が続くなか自力での再生を探ったが、自社の枠を超えた取り組みが不可欠との認識に至ったと有価証券報告書は記す。2015年3月期の連結売上高は4,537億円、経常利益264億円、当期純利益147億円で、経常利益率5.8%は上場最終期である2007年3月期の5.3%を上回った[20][21]

出典・参考
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2008年3月期・連結)
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2009年3月期)
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2010年3月期)
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2011年3月期)
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2013年3月期)
  • 三菱樹脂 有価証券報告書(2015年3月期)

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