ソニー VAIOと電池事業の譲渡 PC・電池・化学を資産と人員ごと手放し、五つの領域へ集中した構造改革

更新:

時期 2012年4月
当時の社長 平井一夫
論点 構造改革と事業ポートフォリオの入れ替え
何をなぜ決めたか
概要

2012年4月1日付で発足した新経営体制のもと、社長兼CEOの平井一夫氏が進めたエレクトロニクスの構造改革。重点5施策の最後に事業ポートフォリオの見直しを置き、ケミカルプロダクツ関連事業・PC事業・電池事業を、事業を止めるのではなく資産と人員ごと他社へ譲渡した。

2014年2月6日にPC事業の収束とテレビ事業の分社化を決議し、VAIO株式会社への譲渡を2014年7月1日に完了。電池事業は2017年9月1日に村田製作所グループへ移った。連結従業員数は2012年3月期の162,700名から2019年3月期の114,400名へ減った。

背景

テレビ、携帯、PC、電池が同時に振るわず、エレクトロニクス5分野の営業損益は2011年度から3年続けて赤字となった。会社全体でもリーマンショックの後は最終赤字が繰り返され、2012年3月期には親会社株主に帰属する当期純損失として4,567億円を計上している。

最優先に置かれたのはエレクトロニクスの再建であった。施策はコア領域の強化、テレビ事業の再建、新興国市場での拡大、新規事業の創出と並び、5番目として事業の選択と集中の加速が挙がり、提携や事業譲渡の可能性まで積極的に探る方針が示された。

内容

2014年2月6日、モバイル領域ではスマートフォンとタブレットに資源を集中し、最終的にPC事業を収束すると発表した。同日に日本産業パートナーズと意向確認書を結び、5月2日の正式契約を経て、7月1日にVAIO株式会社へPC事業と関連資産の一部を譲渡した。テレビ事業も同じ7月1日にソニービジュアルプロダクツ株式会社として分社化した。

先んじて2012年9月28日にはケミカルプロダクツ関連事業を日本政策投資銀行へ売却し、2016年10月31日の確定契約を経て2017年9月1日に電池事業を村田製作所グループへ譲渡した。

含意

撤退の費用は先に立った。PC事業の収束を決めた2013年度に長期性資産の減損12,817百万円を計上し、部品の補償費用、手元在庫の評価減、販売会社の規模縮小費用がそこへ重なった。資産の除売却損(益)及び減損(純額)は2013年度に90,860百万円、2014年度に192,605百万円へ膨らみ、構造改革費用も2014年度の90,689百万円が窓のなかで最大となった。

それでも工場を閉じずに事業ごと引き取り手を探す手法は、日本の大企業が不振事業から退くときの一つの型になった。2018年3月期の連結営業利益は7,349億円に達している。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

規模を縮めながら、雇用を壊さない

この構造改革が示したのは、撤退にも値札があるという事実だった。PC事業の収束を決めた2013年度に長期性資産の減損12,817百万円を計上し、部品の補償費用や手元在庫の評価減、販売会社の規模縮小費用がそこへ重なった。一方で、VAIO株式会社への譲渡そのものからは重要な追加損益が発生していない。譲渡は利益を生む取引ではなく、事業を畳むための費用を払い切る手続きだっただろう。工場を閉じずに事業ごと引き取り手を探す道は、雇用と地域への衝撃を薄めるかわりに、損失を会社が先に引き受けることを意味していた。

もっとも、選択と集中という言葉の重みは、集中よりも選択の側にあった。新経営体制が重点施策の最後に置いたのは事業ポートフォリオの見直しであり、そこから実際に手放されたのは化学・PC・電池という、いずれもソニーが自ら育てた事業である。連結従業員数は2012年3月期の162,700名から2019年3月期の114,400名へ減り、規模だけを見れば会社は縮んだ。それでも2018年3月期の連結営業利益は7,349億円に達した。伸ばす事業を選ぶことより、育てた事業を手放すと決めることのほうが難しい。この数年のソニーは、そのことを実地で示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
構造改革の条件

構造改革の条件

科目 概要 備考
選択と集中の方針表明 2012年4月 新経営体制の発足にあわせ、事業ポートフォリオの見直しを重点施策に掲げた
PC事業収束の決議・発表 2014年2月6日 同日、日本産業パートナーズと事業譲渡に関する意向確認書を締結した
対象事業 VAIOブランドのPC事業 MP&C分野に含まれ、日本で営むPC事業及びその関連資産の一部
譲渡先 VAIO株式会社 日本産業パートナーズ傘下の法人が設立。「VJ株式会社」から商号変更
正式契約の締結日 2014年5月2日
譲渡の完了日 2014年7月1日 販売済製品の顧客サポートとVAIO株式会社の立ち上げはソニーが支援
譲渡による損益 重要な追加損益は発生していない PC事業収束にともなう損失は譲渡後も継続して発生した
PC事業の長期性資産の減損 12,817百万円 2013年度。将来見積キャッシュ・フロー(純額)の現在価値にもとづく
部品補償費用 8,019百万円 2013年度の売上原価。生産終了にともなう仕入先の発注済部品への補償
早期退職費用など 7,278百万円 2013年度。主として販売費及び一般管理費に計上した構造改革費用
手元部品在庫の評価減 17,391百万円 2013年度。余剰となった手元部品在庫に対する評価減など
販売会社の規模縮小費用 12,819百万円 2013年度。その他分野。PC事業収束の決定の結果として発生した
テレビ事業の分社化 2014年7月1日 新会社「ソニービジュアルプロダクツ株式会社」を発足させた
液晶テレビ関連の減損 7,798百万円 2013年度。HE&S分野の長期性資産。2012年度は7,617百万円
電池事業の長期性資産の減損 32,107百万円 2013年度。デバイス分野。収益性改善の進捗が十分でないと判断した
ケミカルプロダクツ関連事業の売却 2012年9月28日 日本政策投資銀行へ。純額52,756百万円を受領し売却益9,050百万円
電池事業の譲渡完了日 2017年9月1日 村田製作所グループへ。確定契約の締結は2016年10月31日
電池事業の売却予定資産の減損 42,298百万円 2016年度。売却予定資産に分類し公正価値で評価した結果計上した
2013年度の構造改革費用 75,570百万円 退職関連41,820、資産の減損・償却等18,991、その他14,759
費用削減目標 販売会社で約20%、本社間接部門で約30% 2015年度までに2013年度比。エレクトロニクスの販売会社全体が対象
2014年度の人員減 約9,200名 連結は約131,700名へ。提出会社は2,356名減の12,286名

出所:ソニー 有価証券報告書(2012年3月期・2013年3月期・2014年3月期・2015年3月期・2017年3月期・2018年3月期)【対処すべき課題】【従業員の状況】、連結財務諸表注記「構造改革にかかる費用及び資産の減損」「事業売却」「重要な後発事象」

構造改革費用と資産の除売却・減損の推移

ソニー:構造改革費用と資産の除売却・減損の推移

(百万円) 構造改革費用資産の除売却損(益)及び減損(純額) 備考
2011年3月期 62,31818,006
2012年3月期 52,64545,619 親会社株主に帰属する当期純損失4,567億円。翌4月に新経営体制が発足
2013年3月期 74,3865,178 ケミカルプロダクツ関連事業の売却で9,050百万円の売却益を計上
2014年3月期 75,57090,860 PC事業の収束とテレビ事業の分社化を決議。PC事業の減損12,817を含む
2015年3月期 90,689192,605 VAIO株式会社への譲渡が完了。構造改革費用は窓のなかで最大
2016年3月期 36,52790,410
2017年3月期 59,713195,341 電池事業を売却予定資産に分類し、減損損失42,298を計上
2018年3月期 22,37938,599 電池事業の村田製作所グループへの譲渡が9月1日に完了
2019年3月期 33,00546,928
構造改革費用と資産の除売却・減損
構造改革費用(百万円)資産の除売却損(益)及び減損(純額)(百万円)

出所:ソニー 有価証券報告書(2012年3月期〜2019年3月期)連結財務諸表注記「構造改革にかかる費用」「連結損益計算書についての補足情報」

従業員数の推移

ソニー:従業員数の推移

(人) 連結従業員数提出会社の従業員数 備考
2009年3月期 171,30018,054
2010年3月期 167,90016,230
2011年3月期 168,20016,617
2012年3月期 162,70016,576
2013年3月期 146,30015,531 生産調整・構造改革・ケミカルプロダクツ関連事業の売却で約16,400名減
2014年3月期 140,90014,642 日本、北米、欧州で実施した構造改革により約5,400名減
2015年3月期 131,70012,286 構造改革でエレクトロニクスが大幅に減り約9,200名減
2016年3月期 125,30010,511 約6,400名減。提出会社はビデオ&サウンド事業の分社化で1,775名減
2017年3月期 128,4006,185 東芝からの半導体事業買収などで約3,100名増。提出会社は分社化で減
2018年3月期 117,3002,428 電池事業の譲渡などで約11,100名減。提出会社はIP&Sの分社化で減
2019年3月期 114,4002,519
連結従業員数の内訳
提出会社の従業員数(人)提出会社以外(人)

出所:ソニー 有価証券報告書(2009年3月期〜2019年3月期)【従業員の状況】

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

集中のための事業売却2025年日本精工いったん分社し投資ファンドへ渡した過半株式の2年での取り戻し自動車部品事業の採算と事業構成
1932年安川電機配電盤と変圧器の切り捨てと、単一製品への集中危機下の品目整理と選択と集中
1950年川崎重工業製鉄部門の切り出しと、造船・造機・電機3部門への集約事業構成と復興資金の配分
2019年SWCCROIC を経営指標に据えたことによる低資本効率事業の整理資本効率を軸にした事業ポートフォリオの組み替え
2009年レーザーテック売上の半分を占めた主力事業を切り、半導体分野への一点張り危機下の事業の取捨選択と経営資源の集中
経営再建のための選択と集中2015年ワールド大規模な構造改革による店舗網の縮小と、不採算ブランドの廃止多ブランドの整理と固定費削減
2009年日立製作所製造業最大の赤字を受けて上場子会社を取り込み、主力事業に集中した再建経営再建と事業ポートフォリオ
2025年資生堂米州事業ののれん減損と二期連続の赤字巨額減損と構造改革
2001年コマツ新体制が進めた経営構造改革とV字回復危機下の構造改革と収益力の再建
1999年DOWA1999年の緊急対策に始まる事業構造改革と、ROAを物差しにした資産・人員の圧縮バブル期に膨らんだ資産・人員の圧縮と収益構造の立て直し
参考文献
出典・参考
  • ソニー 有価証券報告書「2012年3月期【対処すべき課題】」
  • ソニー 有価証券報告書「2013年3月期 連結財務諸表注記「26 事業売却」」
  • ソニー 有価証券報告書「2014年3月期【対処すべき課題】、連結財務諸表注記「20 構造改革にかかる費用及び資産の減損」「26 事業売却」「30 重要な後発事象」」
  • ソニー 有価証券報告書「2015年3月期【従業員の状況】、連結財務諸表注記「26 事業売却」」
  • ソニー 有価証券報告書「2017年3月期 連結財務諸表注記「26 事業売却」」
  • ソニー 有価証券報告書「2018年3月期 連結財務諸表注記「20 構造改革にかかる費用」「26 事業売却」」

免責事項およびポリシー