フィナンシャルHDを完全子会社化(2020年・ソニーの決断)

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論点 金融事業を分離するか完全子会社化か
ソニー:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
3,967億円を投じた公開買付けによる上場子会社の取り込み

何をなぜ決めたか:3,967億円を投じた公開買付けによる上場子会社の取り込み

概要

2020年5月19日、ソニーは上場子会社ソニーフィナンシャルホールディングス(SFH、証券コード8729)の普通株式と新株予約権の全てを取得し、完全子会社とすることを取締役会で決議した。当時の所有は283,050,000株、所有割合は約65%。掲げた目的は、金融事業に対する経営力をさらに強化し、グループ全体の企業価値向上につなげることであった。同じ日の経営方針説明会では、2021年4月にグループ本社を「ソニーグループ株式会社」とし、エレクトロニクス事業が「ソニー株式会社」の商号を継承する再編もあわせて示している。

買付けの条件

公開買付けは2020年5月20日に始まり、7月13日まで続いた。買付価格は普通株式1株につき2,600円、新株予約権1個につき259,900円。買付予定数は新株予約権の目的となる株式を含めて152,130,036株で、下限は7,070,000株に置いた。全株主と全新株予約権者が応募した場合の買付代金は約395,538百万円を見込み、実際の取得の対価は396,698百万円となった。2020年9月、SFHはソニーの完全子会社となり、2007年10月から続いた東証一部への上場は幕を閉じた。

資金と会計

取得資金は借入で賄った。2020年7月と10月に合計396,500百万円の短期銀行借入を行い、2021年3月末までに全額を返済している。

会計上は企業結合ではない。支配が継続する子会社に対する持分の変動は資本取引として処理され、のれんは発生しない。対価396,698百万円と、消える非支配持分の簿価622,364百万円および累積その他の包括利益の増加額30,203百万円との差額195,463百万円は、資本剰余金の増加として認識された。3,967億円を払って自己資本が増えている。

取り込みの効果

金融は連結の内側にありながら、利益の3分の1が外へ出ていた。非支配持分に帰属する当期純利益は2019年度の40,069百万円から2020年度に19,599百万円、2021年度には6,228百万円まで落ち、SFHの稼ぎはソニーのものになった。連結貸借対照表の非支配持分も664,229百万円から45,637百万円へ縮んでいる。もっとも、完全子会社化は終着ではなかった。2025年10月、金融事業は税制適格パーシャル・スピンオフによって再び資本市場へ戻されている。

いつ何が起きたか 8件
当時の取締役 14名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 吉田憲一郎:取締役
  • 十時裕樹:取締役
  • 隅修三:取締役会議長
  • TimSchaaff:取締役
  • 松永和夫:取締役会副議長
  • 宮田孝一:取締役
  • JohnV.Roos:取締役
  • 桜井恵理子:取締役
  • 皆川邦仁:取締役
  • 岡俊子:取締役
  • 秋山咲恵:取締役
  • 畑中好彦:取締役
  • WendyBecker[ウェンディベッカー]:取締役
  • TimSchaaff[ティムシャーフ]:取締役
考察:3,967億円を払って、自己資本が増えた
考察

考察:3,967億円を払って、自己資本が増えた

この取引は買収の形をとりながら、会計上は何も買っていない。支配はすでにあり、動いたのは持分の内訳だけである。だから帳簿にのれんは立たず、代わりに資本剰余金が1,955億円増えた。3,967億円を払って自己資本が増えるという逆説は、市場がSFHの少数株主持分を、ソニーの帳簿が抱えていた簿価より安く値付けしていたことの裏返しでもある。コロナ禍で沈んだ相場に1株2,600円という価格を置いた判断は、そういう意味では買い手として理に適っていたと推察される。

もっとも、完全子会社化が金融事業の成長を加速させたのかは、数字からは読み取りにくい。金融ビジネス収入は2021年3月期の1兆6,689億円を境に伸び悩み、営業利益も市況に振られ続けた。上場の制約を外して得られたのは、迅速で柔軟な意思決定という定性的な果実であって、収益の段差ではなかったのかもしれない。そして5年後にソニーが選んだのは、その金融をもう一度切り離し、市場の値付けに委ねる道だった。取り込みと分離は反対の動きに見えて、どちらも「この事業を誰に評価させるか」という同じ問いへの、時期の違う答えだったのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ソニー:資本剰余金と非支配持分の推移

非支配持分(百万円)
ソニー:資本剰余金と非支配持分の推移
(百万円) 資本剰余金非支配持分非支配持分に帰属する当期純利益 備考
2016年3月期 1,325,719661,07061,924
2017年3月期 1,275,337638,17654,272
2018年3月期 1,282,577679,79156,485
2019年3月期 1,266,874690,31350,279
2020年3月期 1,289,719664,22940,069 この期末時点でSFHの所有割合は65.1%
2021年3月期 1,486,72145,63719,599 SFHの全株式を取得。資本剰余金は195,463の増加として認識された
2022年3月期 1,461,05352,7786,228 2021年度からIFRSを適用。2020年度までは米国会計基準
2023年3月期 1,463,80758,6136,496
2024年3月期 1,483,410168,9289,921
2025年3月期 1,483,527330,40618,287
出所:ソニー・ソニーグループ 有価証券報告書 2015年度〜2024年度(連結貸借対照表・連結損益計算書)
出所:ソニー・ソニーグループ 有価証券報告書 2015年度〜2024年度(連結貸借対照表・連結損益計算書)

ソニー:金融分野の金融ビジネス収入と営業利益

金融ビジネス収入(百万円)営業利益率(%)
ソニー:金融分野の金融ビジネス収入と営業利益
(百万円) 金融ビジネス収入営業利益 備考
2016年3月期 1,073,069156,543
2017年3月期 1,087,504166,424
2018年3月期 1,228,377178,947
2019年3月期 1,282,539161,477
2020年3月期 1,307,748129,597
2021年3月期 1,668,921164,582 収入は前年度比3,612億円増。ソニー生命の特別勘定における運用益が増加した
2022年3月期 1,533,829150,111 2021年度からIFRSを適用。2020年度までは米国会計基準
2023年3月期 1,454,546223,935
2024年3月期 1,769,954173,576 保険契約の会計基準変更により前年度は889,082・318,118へ修正再表示された
2025年3月期 931,400130,528
出所:ソニー・ソニーグループ 有価証券報告書 2015年度〜2024年度(金融分野の主要経営数値)
出所:ソニー・ソニーグループ 有価証券報告書 2015年度〜2024年度(金融分野の主要経営数値)

公開買付けの条件

公開買付けの条件
科目 概要 備考
公開買付けの決議日 2020年5月19日 取締役会で決議し、翌20日に公開買付けを開始した
買付価格 普通株式1株につき2,600円 新株予約権は1個につき259,900円
買付期間 2020年5月20日から2020年7月13日まで
買付予定数 152,130,036株 新株予約権の目的となる株式の数を含む。買付予定数の下限は7,070,000株
買付代金の見込額 約395,538百万円 当社を除く全株主及び全新株予約権者が応募した場合の金額
公開買付け前の所有 283,050,000株(所有割合 約65%) 2020年5月19日時点。SFHは2007年10月に東証一部へ上場していた
取得の対価 396,698百万円 普通株式及び新株予約権の全ての取得にかかる対価。3,967億円
対価の種類 現金 2020年7月及び10月に合計396,500百万円を短期銀行借入で調達し、2021年3月末までに返済
会計上の取扱い 非支配持分との資本取引 支配が継続する子会社の持分変動のため企業結合には当たらず、のれんは生じない
資本剰余金への影響 195,463百万円の増加 対価396,698と非支配持分簿価の減少額622,364及び累積その他の包括利益の増加額30,203との差額
非支配持分の減少 622,364百万円 連結貸借対照表の非支配持分は664,229百万円から45,637百万円へ
完全子会社化 2020年9月 公開買付け及び普通株式の全てを取得することを目的とした手続きによる
出所:ソニー 有価証券報告書 2019年度(2020年3月期)【重要な後発事象】・ソニーグループ 有価証券報告書 2020年度(2021年3月期)【資本勘定】
出所:ソニー 有価証券報告書 2019年度(2020年3月期)【重要な後発事象】・ソニーグループ 有価証券報告書 2020年度(2021年3月期)【資本勘定】
当時の取締役 14名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

  • 吉田憲一郎:取締役
  • 十時裕樹:取締役
  • 隅修三:取締役会議長
  • TimSchaaff:取締役
  • 松永和夫:取締役会副議長
  • 宮田孝一:取締役
  • JohnV.Roos:取締役
  • 桜井恵理子:取締役
  • 皆川邦仁:取締役
  • 岡俊子:取締役
  • 秋山咲恵:取締役
  • 畑中好彦:取締役
  • WendyBecker[ウェンディベッカー]:取締役
  • TimSchaaff[ティムシャーフ]:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • ソニー 決算説明会資料「2020年度経営方針説明会」
  • ソニー 有価証券報告書「2019年度(2020年3月期)【重要な後発事象】」
  • ソニーグループ 有価証券報告書「2020年度(2021年3月期)【資本勘定 非支配持分との資本取引】」
  • ソニーグループ 有価証券報告書「2021年度(2022年3月期)【資本】」

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