ソニー サードポイントの事業分離要求 物言う株主の切り出し要求を退けたうえでの一体経営の堅持
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2013年と2019年の二度、米ヘッジファンドのサードポイント(ダニエル・ローブ氏)がソニー株を取得し、事業の切り出しを迫った。2013年は映画・音楽のエンタテインメント事業の部分上場を、2019年は半導体(イメージセンサー)事業の分離・上場と、金融子会社・エムスリー・オリンパスの持分売却を求めた。
要求は総会の議案にはならず、提案者が公開書簡を出し、ソニーが株主あて書簡で答えるという公開の応酬になった。ソニーは平井一夫社長のもとで2013年に、吉田憲一郎社長のもとで2019年に、いずれも分離を退け、両事業を報告セグメントの中核に据えたまま残した。
- 背景
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多くの事業を抱えるソニーには、個別事業の価値の合計より株式時価総額が低いというコングロマリット・ディスカウントの指摘があった。エレクトロニクス5分野合計の営業損益は2011年度から3年連続で損失を計上し、安定して稼いでいたのはエンタテインメントと金融だった。高収益の事業を切り離せば価値が顕在化するという論理の足場は、この収益構造にある。株主構成も外国法人等が過半を占め、2020年3月期で56.81%に達していた。
- 内容
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2013年の要求には、映画分野で2015年度末までに合計3億米ドルのコスト削減を実行し、PC事業の収束とテレビ事業の分社化を2014年度中に完遂する計画で答えた。エンタテインメントの部分上場は行っていない。
2019年の要求に対しては、2016年4月に分社したソニーセミコンダクタソリューションズを上場させず、CMOSイメージセンサーを「人と人を繋ぐ」事業として事業ポートフォリオの中核に置いた。売却を求められた資産のうちオリンパス株式は2019年度に全株を80,357百万円で売却した一方、金融子会社は逆に3,967億円で完全子会社化した。
- 含意
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分離を退けたソニーは2021年4月にソニーグループ株式会社へ移り、2021年3月期の株主に帰属する当期純利益は1兆1,717億円と初めて1兆円を超えた。分離を迫られたI&SS分野の売上高は、要求のあった2020年3月期の9,852億円から2025年3月期には1兆7,125億円へ伸びている。会社を割って価値を顕在化させるのではなく、抱えたまま価値を高める道を選んだ判断だった。
いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
会社を割らずに、価値を高められるか
この判断の核心は、高収益の事業を切り離して価値を解き放つという物言う株主の論法に対し、ソニーが二度とも統合で応えた点にある。2013年に狙われたのはエンタテインメント、2019年に狙われたのは半導体で、標的は正反対だった。それでもソニーの答えは変わらなかった。個々の事業を分けて市場に評価させるより、映画・音楽・半導体・金融を一つの傘の下で協業させたほうが長い目で価値が大きい——平井体制も吉田体制も、この一点で分割論を退けた。ディスカウントという市場の値づけを認めながら、それを解くために会社を割ることは選ばなかった。
もっとも、統合を選んだ判断が正しかったと言い切るのは早い。分離を退けたソニーは純利益1兆円の会社となり、I&SS分野の売上高は6年で1.7倍になった。答えは出たようにも見える。ただ、ソニーはその後、サードポイントが整理を促した資産のいくつかを、自らの時機と条件で手放していく。オリンパス株を売り、金融も2025年に一部を分離・再上場した。分割論をいったん退けたうえで、何を抱え何を手放すかを自分で決め直す。統合したまま価値を高められるかという問いを、二度の拒否は決着させたのではなく、経営の側へ引き取ったのだとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
サードポイントの要求と会社の応答
サードポイントの要求と会社の応答
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| エンタテインメント事業の部分上場(2013年) | 応じず、コスト削減で答えた | 映画分野は2015年度末までに合計3億米ドルのコスト削減プランを実行する計画を掲げた |
| エレクトロニクスの構造改革(2013年) | PC事業の収束とテレビ事業の分社化 | 2014年度中に完遂する方針。販売会社で約20%、本社間接部門で約30%の費用削減をめざした |
| 半導体事業の分離・上場(2019年) | 応じず、非上場の分社のまま | 2016年4月に分社したソニーセミコンダクタソリューションズは上場していない |
| 金融子会社の株式売却(2019年) | 逆に完全子会社化 | 約65%保有のSFHに2020年5月20日から公開買付けを行い、同年9月に3,967億円で取得 |
| オリンパス株式の売却(2019年) | 全株式を売却 | 2018年度末の保有68,975,800株を2019年度に売却。売却価額は80,357百万円 |
| エムスリー株式の売却(2019年) | 応じず、保有を継続 | 議決権の所有割合34.0%の持分法適用会社。2025年3月期も33.9%で変わらない |
| 株主還元の拡大 | 2,000億円の自己株式取得 | 2019年5月16日の取締役会決議。上限6,000万株のうち33,059,200株を取得した |
| 複合経営そのものの是非 | 「人」を軸に3つの群へ整理 | 心を動かすコンテンツ、人と人を繋ぐ機器とCMOSイメージセンサー、人を支える車載・医療・金融 |
| グループ経営体制 | 純粋持株会社へ移行 | 2021年4月1日付でソニーグループ㈱が発足。商号変更は2020年6月26日の総会で承認 |
出所:ソニー 有価証券報告書 第97期(2014年3月期)【対処すべき課題】、第103期(2020年3月期)【沿革】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【自己株式の取得等の状況】【株式の保有状況】【関係会社の状況】、ソニーグループ 有価証券報告書 第104期(2021年3月期)【沿革】
イメージング&センシング・ソリューション分野の売上高と営業利益
ソニー:イメージング&センシング・ソリューション分野の売上高と営業利益
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 659,779 | △7,811 | 半導体分野として独立した最初の期 |
| 2018年3月期 | 726,892 | 164,023 | |
| 2019年3月期 | 770,622 | 143,874 | 2019年度第1四半期より、半導体分野をI&SS分野に名称変更した |
| 2020年3月期 | 985,259 | 235,584 | 分離・上場を退けた年度。米国会計基準による最後の通期 |
| 2021年3月期 | 937,859 | 145,884 | この期からIFRS。前期までは米国会計基準 |
| 2022年3月期 | 992,200 | 155,597 | |
| 2023年3月期 | 1,301,481 | 212,214 | |
| 2024年3月期 | 1,503,906 | 193,541 | |
| 2025年3月期 | 1,712,534 | 261,147 |
出所:ソニー 有価証券報告書 第100〜103期【セグメント情報】(米国会計基準) / ソニーグループ 有価証券報告書 第104〜108期【セグメント情報】(IFRS)
映画分野と音楽分野の売上高
ソニー:映画分野と音楽分野の売上高
| (百万円) | 映画 | 音楽 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2015年3月期 | 876,314 | 540,504 | 部分上場を退けた翌期。映画の営業利益は58,527、音楽は60,604 |
| 2016年3月期 | 935,827 | 600,969 | |
| 2017年3月期 | 901,230 | 630,767 | 映画分野は営業損失80,521百万円。営業権の減損損失112,069百万円を計上した |
| 2018年3月期 | 1,010,173 | 784,792 | |
| 2019年3月期 | 985,270 | 795,025 | 2018年11月にEMI Music Publishingの残り約60%の持分を取得した |
| 2020年3月期 | 1,010,714 | 838,592 | 分離・上場を退けた年度。米国会計基準による最後の通期 |
| 2021年3月期 | 751,800 | 927,250 | この期からIFRS。前期までは米国会計基準 |
| 2022年3月期 | 1,236,399 | 1,100,532 | |
| 2023年3月期 | 1,364,887 | 1,364,815 | |
| 2024年3月期 | 1,486,717 | 1,594,955 | |
| 2025年3月期 | 1,498,534 | 1,820,263 |
出所:ソニー 有価証券報告書 第98〜103期【セグメント情報】(米国会計基準) / ソニーグループ 有価証券報告書 第104〜108期【セグメント情報】(IFRS)
所有者別の持株比率
ソニー:所有者別の持株比率
| (%) | 外国法人等(法人) | 金融機関 | 個人その他 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2015年3月期 | 56.61 | 19.74 | 19.95 | 部分上場を退けた翌期。外国法人等がすでに過半を占めている |
| 2016年3月期 | 54.74 | 20.85 | 19.96 | |
| 2017年3月期 | 58.09 | 21.87 | 17 | |
| 2018年3月期 | 57.63 | 22.91 | 16.16 | |
| 2019年3月期 | 56.17 | 23.88 | 16.38 | |
| 2020年3月期 | 56.81 | 24.41 | 15.9 | 半導体の分離を求めた年度。サードポイントは大株主の上位10名には現れない |
| 2021年3月期 | 59.68 | 25.11 | 12.54 | |
| 2022年3月期 | 58.56 | 26.25 | 12.55 | |
| 2023年3月期 | 57.54 | 27.66 | 12.49 | |
| 2024年3月期 | 58.58 | 26.32 | 12.79 | |
| 2025年3月期 | 59.14 | 27.69 | 11.01 |
- CITIBANK AS DEPOSITARY BANK FOR DEPOSITARY RECEIPT HOLDERS 9%
- 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8%
- 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 6%
- JP MORGAN CHASE BANK 385632 3%
- 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口7) 2%
- その他 71%
出所:ソニー 有価証券報告書 第98〜108期【所有者別状況】 / ソニー 有価証券報告書 第103期(2020年3月期)【大株主の状況】。上位10名の合計は469,115千株 / ソニー 有価証券報告書 第103期(2020年3月期)【議決権の状況】。発行済株式(自己株式を除く)は1,220,160千株
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参考文献
- Third Point 公開書簡「A Stronger Sony」
- ソニー 株主への書簡「Letter from the CEO to Sony's Shareholders and All Stakeholders」
- ソニー 有価証券報告書「第97期(2014年3月期)【対処すべき課題】」
- ソニー 経営方針説明会資料「経営方針説明会(2020年5月19日)」
- ソニー 有価証券報告書「第103期(2020年3月期)」
- ソニーグループ 有価証券報告書「第104期(2021年3月期)」