ソニー 持株会社への移行 Purposeを軸とする体制と、祖業の商号の子会社への譲渡によるグループ本社への特化
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2020年5月19日の経営方針説明会で、社長兼CEOの吉田憲一郎氏がグループ本社「ソニーグループ株式会社」の発足を打ち出した。ソニー株式会社はそれまでグループ本社機能とエレクトロニクス事業の本社間接機能の両方を抱えており、この二つを分離・再定義して、本体をグループ本社機能に特化した会社に変える。
同じ日にPurpose(存在意義)を「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」と定め、経営の方向性を「人に近づく」と置いた。商号変更は2020年6月26日の定時株主総会で定款の一部変更として承認され、2021年4月1日に効力が生じた。
- 背景
-
平井一夫氏の選択と集中でエレクトロニクスの赤字を脱し、2018年3月期に営業利益7,349億円と過去最高を更新した直後に、CFO出身の吉田憲一郎氏が後を継いだ。
本体の姿はその前から少しずつ変わっていた。2015年にビデオ&サウンド、2016年にイメージング&センシング、2017年にイメージング・プロダクツと事業を順に分社し、提出会社単体の営業収益は2016年3月期の2兆1,869億円から2018年3月期には5,366億円へ減少している。残っていたのは、本社機能とエレクトロニクス事業の間接機能が同居したままの本体だった。
- 内容
-
移行の形は吸収分割だった。ソニー株式会社を吸収分割会社として、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業に関する権利義務を完全子会社のソニー株式会社へ、イメージング&センシング・ソリューション事業をソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社へ、それぞれ2021年4月1日付で承継させた。会計上はいずれも共通支配下の取引として処理している。
承継先の「ソニー株式会社」は新設会社ではない。2020年4月1日に中間持株会社として設立したソニーエレクトロニクス株式会社が祖業の商号を継ぎ、同日ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、ソニーモバイルコミュニケーションズが統合された。
- 含意
-
グループ本社の主なミッションは、事業ポートフォリオ管理とそれにもとづくキャピタルアロケーション、グループシナジーと事業インキュベーションによる価値創出、イノベーションの基盤である人材と技術への投資の三つと定めた。移行の前年、約65%を保有していたソニーフィナンシャルホールディングスを3,967億円で完全子会社化し、上場子会社という制約を外している。
効力が生じた2022年3月期、提出会社単体の総資産は3兆7,773億円から5兆4,178億円へ膨らんだ。事業を子会社へ渡し、株式を抱える会社になった姿が単体の貸借対照表に出ている。
いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
カリスマではなく、存在意義でまとめるということ
持株会社への移行は、2021年4月の一点で起きたことではない。2015年から事業を順に切り出してきた末に、最後まで残っていた本体の二重機能を分けただけとも言える。それでもこの一手には別の意味があった。井深大氏と盛田昭夫氏が個人の技術観と求心力で率いた会社を、創業者なきあとの世代が何でまとめるか——吉田憲一郎氏が置いた答えが、存在意義という共通の言葉だった。全事業と等距離で関わる本社をつくり、そこに事業ポートフォリオ管理と資源配分だけを残す。カリスマの直感が担っていた「どこに賭けるか」の判断を、制度の側へ移す作業だったのだろう。
もっとも、Purposeという言葉が1兆円の利益を生んだわけではない。2021年3月期の純利益1兆296億円には巣ごもり需要という追い風があり、収益を支えたのは平井一夫氏の時代に磨いたゲーム・半導体・金融の各事業だった。この移行が果たしたのは、性格の異なる事業を一つの会社として語り直し、資源配分の優先順位を全社で共有できるようにした点にある。創業者の色が薄れた後、多事業の会社を何で統括するか——ソニーが示した答え方は、同じ問いを抱える日本の大企業にとって一つの型になったのかもしれない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
持株会社移行の条件
持株会社移行の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 公表 | 2020年5月19日 | 2020年度経営方針説明会。金融事業の完全子会社化と同じ日に発表した |
| 商号変更の承認 | 2020年6月26日の定時株主総会 | 定款の一部変更として承認された |
| 効力発生日(企業結合日) | 2021年4月1日 | |
| 商号 | ソニー株式会社 → ソニーグループ株式会社 | 英文表記はSony Group Corporation。旧商号は子会社が継承した |
| 会社分割の方式 | 吸収分割(当社が吸収分割会社) | 承継会社はいずれも当社の完全子会社。新設分割ではない |
| 承継させた事業① | エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業 | 吸収分割承継会社はソニー株式会社。ソニーエレクトロニクス株式会社が商号を継承した |
| 承継させた事業② | イメージング&センシング・ソリューション事業 | 吸収分割承継会社はソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 |
| 会計処理 | 共通支配下の取引 | 企業結合に関する会計基準及び同適用指針にもとづき処理 |
| 中間持株会社 | ソニーエレクトロニクス株式会社 | 2020年4月1日設立。2021年4月1日にSHES・SIPS・ソニーモバイルと統合 |
| グループ本社の主なミッション | 事業ポートフォリオ管理とキャピタルアロケーション | ほかにグループシナジーと事業インキュベーションによる価値創出、人材と技術への投資 |
| 金融事業の完全子会社化 | 3,967億円 | 2020年9月にソニーフィナンシャルホールディングスの株券等の全てを取得した |
出所:ソニーグループ 有価証券報告書 第103期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】・第104期(2021年3月期)【沿革】【重要な後発事象】・第105期(2022年3月期)【企業結合等関係】
提出会社(単体)の営業収益・経常利益・総資産の推移
ソニー:提出会社(単体)の営業収益・経常利益・総資産の推移
| (百万円) | 営業収益 | 経常利益 | 総資産 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年3月期 | 2,186,972 | 165,856 | 3,690,139 | 2015年10月にビデオ及びサウンド事業をソニービデオ&サウンドプロダクツへ分社 |
| 2017年3月期 | 1,246,460 | 215,619 | 3,735,737 | 2016年4月に半導体事業をソニーセミコンダクタソリューションズへ分社 |
| 2018年3月期 | 536,686 | 117,819 | 3,561,251 | 2017年4月にイメージング・プロダクツ事業を分社。単体の営業収益は2年で4分の1に |
| 2019年3月期 | 373,436 | 157,462 | 3,241,916 | |
| 2020年3月期 | 569,092 | 339,288 | 3,391,804 | |
| 2021年3月期 | 314,611 | 118,884 | 3,777,312 | 2020年5月に移行を公表し、9月に金融事業を完全子会社化した |
| 2022年3月期 | 406,247 | 226,660 | 5,417,832 | 2021年4月1日に商号変更と会社分割。総資産は子会社株式の集約で1兆6,405億円増 |
| 2023年3月期 | 490,890 | 312,705 | 5,225,223 | |
| 2024年3月期 | 473,255 | 303,611 | 4,965,082 | |
| 2025年3月期 | 480,922 | 322,865 | 5,281,630 |
出所:ソニーグループ 有価証券報告書 第103期(2020年3月期)・第105期(2022年3月期)・第108期(2025年3月期)【主要な経営指標等の推移】(提出会社の経営指標等)
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- ソニー ニュースリリース「ソニー株式会社 2020年度経営方針説明会」
- ソニー 有価証券報告書「第103期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
- ソニーグループ 有価証券報告書「第104期(2021年3月期)【沿革】【重要な後発事象】」
- ソニーグループ 有価証券報告書「第105期(2022年3月期)【企業結合等関係】」
- ソニーグループ 有価証券報告書「第103期・第105期・第108期【主要な経営指標等の推移】」