ホンダとのEV合弁ソニー・ホンダモビリティ設立──スマホの次の成長軸としてのモビリティー参入

完成車で自動車大手と張り合うのか、裏方の技術で稼ぐのか──「次の10年はモビリティー」をどう形にするか

更新:

時期 2022年3月
意思決定者 吉田憲一郎・三部敏宏(ホンダ 社長) ソニーグループ 会長兼社長CEO
論点 スマホ後の成長軸とモビリティーへの参入手法
概要
2022年3月4日、ソニーグループとホンダがモビリティ領域での戦略的な提携協議に合意し、同年9月に折半出資の合弁会社ソニー・ホンダモビリティを設立した経営判断。吉田憲一郎会長兼社長CEOが掲げた「次の10年はモビリティー」を、EV(電気自動車)の共同開発という形にした判断であった。
背景
エレクトロニクス事業の復活とエンタメ事業の育成で高収益体質に生まれ変わったソニーは、次の成長軸を探していた。自動車がCASE革命で100年に一度の変革期を迎えるなか、吉田社長はEV「VISION−S」を試作し、電動化で参入余地が開くとみて市場投入を本格検討する方針へ転じていた。
内容
ホンダの車体製造やアフターサービスの技術と、ソニーのセンサー・通信・音楽・ゲームの知見を掛け合わせ、新しいモビリティサービスを提供する。2022年9月に両社が50%ずつ出資してソニー・ホンダモビリティを設立し、川西泉氏が社長に就いた。2023年のCESでEVブランド「AFEELA」を披露した。
含意
スマホ本体で覇権を握れずともCMOSイメージセンサーで世界を席巻した経験を、モビリティーで再現しようとする構図がうかがえる。完成車で自動車大手と量を競うのではなく、技術とコンテンツを載せるプラットフォームで稼ぐ道を、ホンダとの提携という実験場で探る判断であった。
筆者の見解

裏方で稼ぐという青写真の行方

この判断の核にあるのは、スマートフォンで掴んだ稼ぎ方をもう一度なぞろうとする発想であった。本体で覇権を握れずともイメージセンサーで世界を席巻したように、完成車で自動車大手と量を競うのではなく、技術とコンテンツを載せるプラットフォームで稼ぐ──ホンダとの合弁は、その青写真を試す実験場として立ち上げられた。折半出資という対等の形をとりながら、ソニーが見ていたのは一台ごとの利益というより、車という新しい器に自社の資産をどう浸透させるかであったとみることができる。

もっとも、スマホと自動車では、安全や耐久を担保しながらコストを抑える難しさの度合いが異なる。裏方で稼ぐ絵図が描けても、まず器としての完成車が市場に受け入れられなければ、プラットフォームを広げる足場は生まれない。アフィーラの納車はなお先にあり、この提携が「本当の果実」を実らせるかは、高級EVという勝ち慣れない市場での成否にかかっている。次の10年をモビリティーに賭けるという宣言が、どこまで形になるのかは、これから問われていくとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

スマホの次はモビリティー──エレキ復活のうえに置いた次の成長軸

ソニーがモビリティーへ踏み出す前提には、本業の立て直しがあった。赤字続きだったエレクトロニクス事業は、販売台数より付加価値を追う方針へ転じて復活し、ゲームや音楽といったエンタメ事業も月額制や著作権保有で継続的に高い利益を出す体質へ生まれ変わっていた。2021年度の営業利益は1兆円を超えて2期連続の過去最高が見込まれ、営業キャッシュフローも安定していた。盤石の足場のうえに、次の成長軸をどこに置くかが問われていた[1][2]

吉田憲一郎社長は2020年のCESで「これまでの10年のメガトレンドはモバイルだった。ここから10年はモビリティーだ」と語り、以後この言葉を繰り返してきた。2010年代にスマートフォンが普及すると、商品やサービスの形だけでなく、担い手や業界の構図までが激変した。同じ規模のゲームチェンジが自動車にも訪れるとみて、ソニーは犬型ロボットや空撮ドローンを手がけてきたAIロボティクス部門で、EV「VISION−S」を試作していた。周囲を認識し自ら動く点で、車はロボットの延長線上にあるという見立てであった[3]

自動車のゲームチェンジと、スマホで掴んだ稼ぎ方

自動車はCASE──コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化──と呼ばれる変革の只中にあり、市場がどこへ向かうかは定まっていなかった。開発を率いた川西泉常務は「エンジンを積んだ車だったら、たぶんやらない。電化されることでソニーが入りやすくなる」と語っていた。VISION−Sには自社の半導体事業が手がけるCMOSイメージセンサーなど計40個のセンサーを配し、音響・映画・ゲームといった資産を車内へ持ち込む。技術とコンテンツを組み合わせてモビリティーを再定義するという狙いであった[4]

ソニーが見据えていたのは、完成車をどれだけ売るかではなかった。スマートフォンでは本体の覇権を握れず「Xperia」の利益貢献はわずかにとどまったが、そのカメラに載るCMOSイメージセンサーが世界市場を席巻した。この経験を下敷きに、モビリティーでも同じ稼ぎ方を狙う。まずVISION−Sをショーケースとして技術の使い方を具体的に示し、それをあらゆる自動車メーカーへプラットフォームとして提供する──したたかに裏方で稼ぐ絵図が、参入の底に置かれていた[5]

決断

数カ月で決まった歴史的提携

2022年3月4日、ソニーグループとホンダは、モビリティ領域での戦略的な提携に向けて協議を進めることで合意したと発表した。ホンダが培ってきた車体製造やアフターサービスのノウハウと、ソニーが持つセンサー・通信のITや音楽・ゲームのエンターテインメントを掛け合わせ、新しいモビリティサービスを目指す。両社は合弁会社の設立へ向けて協議し、2022年中に新会社を発足させて、当初はホンダの設備を使い2025年に初期モデルのEV販売開始を目指すとした。出資比率や人員構成は、この時点では未定であった[6]

きっかけは2021年夏、ホンダから「両社でモビリティの将来を模索しよう」と持ちかけ、若手社員同士の交流が始まったことにあった。その化学反応に手応えを得たホンダの三部敏宏社長が2021年末に吉田社長へトップ会談を申し入れ、そこからわずか数カ月で発表に至った。三部社長は会見で、両社が歴史的・文化的に響き合う存在だと述べ、ソニー創業者の一人である井深大氏とホンダ創業者の本田宗一郎氏の親交が深かったことに触れた。価値観を共有しつつ得意な技術領域が異なる二社が組む意味を、そこに重ねた[7]

なぜホンダと、なぜ合弁だったのか

ソニーにとっての第一の利点は、EVをつくるうえで欠かせない車体製造やメンテナンスをホンダに頼れることであった。加えて、VISION−Sの製造を単なる受託企業へ委託するのではなく、「あのホンダと組んで新製品を出す」という物語を添えられる点も、消費者に訴えるうえで差別化の材料になった。ただしソニーは、完成車自体を大量に売るつもりはなく、先端のITを積むため安値にはできず、価値を認める顧客に相応の価格を示す方針であった。合弁で造るEVも、その延長に置かれていた[8]

ホンダの側にも深い思惑があった。三部社長が掲げる「第2の創業」のもとで、同社は新車を売り切って終える商売から、ソフト更新などで継続的に稼ぐリカーリング型への転換をひそかに検討していた。三部社長は会見で、従来の自動車メーカーのように台数規模を追って収益を上げるのとは違うと述べ、この提携が直接利益を生むよりEVの勝ち方を探る実験場である色合いを認めた。別ブランド・別会社ゆえに直販や系列外の部品調達も試しやすく、バリューチェーン全体を捉え直す好機ともなった[9]

結果

ソニー・ホンダモビリティ設立とAFEELA

提携の合意から半年後、判断は具体的な会社の形をとった。両社は50%ずつを出資し、2022年9月にソニー・ホンダモビリティを設立した。社長にはVISION−Sの開発を率いてきた川西泉氏が就いた。そして2023年1月のCESで、合弁会社はEVブランド「AFEELA(アフィーラ)」と試作車を披露する。提携発表からわずか10カ月での初公開であった。「自律性」「拡張」「親和性」を意味する三つの英単語の頭文字を、feel(感じる)の前後に添えた名であった[10]

アフィーラは2025年に北米で受注を始め、2026年春の納車を目指す計画で、販売はディーラーを介さないオンライン特化とした。米クアルコムの高性能チップを積み、一定条件下でシステムが運転を担うレベル3の自動運転を狙う。価格は未公表ながら、川西社長は最先端の技術を詰め込んだ高付加価値の車をつくると述べており、テスラなどと競合する高価格帯での展開が見込まれた。日本勢が得意としてこなかった高級車市場で受け入れられるかが、早くも焦点になった[11]

「いじり倒せる車」という賭け

2023年秋以降、アフィーラの輪郭は拡張性という言葉に集約されていった。川西社長は、ユーザーがいじり倒せる車にしたいと述べ、車載向けのAndroid OSを積み、安全に関わらない範囲でディスプレーの表示や装飾ライトの発光、走行音まで利用者が自由に変えられるようにする構想を示した。カスタマイズはネット経由で他の利用者とも共有でき、着せ替え対応のウォークマンで培った知見が下敷きにあった。アプリ開発をオープン化すれば、この基盤が他社のEVにも採用される芽が出る。吉田憲一郎CEO自らがモビリティショーでトップ外交に動いた背景には、そうした仲間づくりの狙いもうかがえた[12]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2022年1月22日号「スマホの次はモビリティー ソニー、EV参入の真意」
  • 週刊東洋経済 2022年3月26日号「ソニー×ホンダが狙う「本当の果実」」
  • 週刊東洋経済 2023年2月11日号「異業種連携で挑む「高級車×ソフト」 ソニーと狙う創造と破壊」
  • 週刊東洋経済 2024年1月6日号「ソニー・ホンダの実験車 アフィーラは移動価値変えられるか」
  • ソニーグループ 有価証券報告書(2022年3月期・連結・IFRS)