神戸製鋼所神戸製鉄所の上工程休止と、加古川製鉄所への一貫工程の集約

二拠点に分かれた上工程を残すか、加古川へ一本化するか——再編に乗り遅れた三番手が選んだ合理化

時期 2013年5月
意思決定者(推定) 川崎博也 神戸製鋼所 社長
論点 鉄鋼上工程の拠点集約
概要
2013年5月29日、神戸製鋼所は2017年度をめどに神戸製鉄所の高炉を休止し、鋼材の素となる半製品の生産を加古川製鉄所へ集約すると発表した。加古川に約500億円を投じて上工程設備を増強したうえで、2017年10月31日に神戸製鉄所の上工程設備を休止し、集約を完了した。
背景
中国・韓国の増設で世界の鋼材が構造的な供給過剰となり、高級鋼で差別化してきた日系メーカーも販売価格の低迷に見舞われた。神戸製鋼所の粗鋼生産は年761万トンと国内三番手にとどまり、2012年10月の新日鉄住金の発足に象徴される業界再編からも外れていた。
内容
神戸製鉄所の高炉から連続鋳造までの上工程を止め、加古川に第6号連続鋳造工場を新設し、第2分塊工場の加熱炉を1基から2基へ、真空脱ガス炉を3基から4基へ増強した。上工程集約の投資総額は約655億円、集約による削減効果は年約150億円を見込んだ。
含意
1959年に灘浜で火が入った神戸製鋼所最初の高炉が、半世紀余りを経て止まった。神戸製鉄所は加古川から半製品の供給を受ける特殊鋼線材・棒鋼の拠点となり、空いた高炉跡地は石炭火力発電所の用地に充てられた。
筆者の見解

畳むために積んだ四年半

高炉を止める判断は、決めたその日に実行できるものではなかった。2013年5月に決めてから実際に火を落とすまで四年半を要したのは、加古川に第6号連続鋳造工場を建て、分塊の加熱炉を倍にし、脱ガス炉と精錬炉を積み増す約655億円の工事と、自動車メーカーの品質認証を取り直す時間が先に立っていたからである。しかも会社は、その原資の一部を2013年度の公募増資831億円で市場から集めている。畳む決断が、まず投資として現れる構図であったとみることができる。

ただ、この集約で得た年150億円は、1トン当たり8万円強という生産コストを、JFEスチールの6.5万円へ近づけるには届かない大きさであった。川崎博也社長が「消されてしまう」と語った規模の劣位は、拠点を一つに寄せても残った。2024年には、残した加古川の2高炉すら高炉1基・電炉1基へ縮める検討が始まっている。1959年に灘浜で火が入った高炉の系譜は、2017年の集約で落ち着いたのではなく、なお縮小の途上に置かれているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

鉄余りと、再編から外れた三番手

2010年代に入って、世界の鉄鋼市場は韓国や中国の新興メーカーの台頭により構造的な生産過剰に陥っていた。とりわけ中国の影響が大きく、2013年の世界粗鋼生産量16億トンのうち約半分を同国が占めた。神戸製鋼所を含む日系メーカーは、自動車用鋼板のように薄くて丈夫な高級鋼材で差別化を図ってきたが、中国産の鋼材価格に引かれて販売価格が低迷し、利益の出にくい産業に変わっていた[1]

同じ構造問題を抱える各社は統合へ動いた。2012年10月に新日本製鉄と住友金属工業が経営を統合し、アルミでも2013年にUACJが生まれている。神戸製鋼所は鉄鋼で新日鉄・住金と、アルミで住友軽金属工業と提携関係を持ちながら、再編からは外れた格好となった。2013年度の粗鋼生産量は761万トンで、新日鉄住金の6分の1、JFEスチールの4分の1程度、世界では51位にとどまっていた[2][3]

二つの製鉄所に分かれた上工程

神戸製鋼所は高炉を神戸と加古川の二カ所に分けて持っていた。年間粗鋼生産量は加古川製鉄所の620万トンに対し、神戸製鉄所は120万トンと国内最小規模である。神戸製鉄所は鉄鋼ワイヤの拠点でもあり、自動車用エンジンの弁ばねでは世界シェア50%を占めていた。下工程に強みを残す一方で、小さな高炉と大きな高炉に上工程を二重に構える形が、規模の劣る会社の負担になっていた[4]

二重構造はコストに表れていた。シティグループ証券の越智達郎アナリストの試算では、神戸製鋼所の粗鋼生産コストは2012年度末時点で1トン当たり8万円強と、JFEスチールの6.5万円、新日鉄住金の7.5万円に比べて割高であった。鉄鋼事業は2008年以降に業績が急激に悪化し、一体で運営する発電事業を除けば2009年度以降の5年間で1,200億円程度の損失を出していた。2013年3月期は連結経常損益が181億円の赤字となった[5][6]

決断

2013年5月の決定

2013年5月29日、神戸製鋼所は「経営基盤の再構築」を掲げる中期経営計画とともに、2017年度をめどに神戸製鉄所の高炉を休止し、鋼材の素となる半製品の生産を加古川製鉄所へ集約すると発表した。加古川には約500億円を投じて半製品の生産設備を増強し、集約によって年間150億円程度のコスト削減を見込む。連結経常損益は2012年度の181億円の赤字から、2015年度に800億〜1,000億円の黒字へ引き上げる目標を置いた[7]

休止で余る生産能力は年140万トン、人員は240人程度と見積もられ、2013年4〜6月期には減損損失185億円を計上した。合理化の原資には、当期純利益の黒字化を受けて実施した公募増資があてられ、831億円が調達されている。3年間で1,200億円の資金を生み出す計画も置かれた。赤字を出した翌年度に市場から資金を集め、それを設備の作り替えに回す組み立てであった[8][9]

決定を下した川崎博也氏は、2013年4月に社長へ就いたばかりであった。鉄鋼事業は2012年度に500億円超の損失を計上している。川崎社長は、国内の粗鋼生産量1.1億トンが自動車向けの生産や人口の減少によって1億トンを切ると見通したうえで、「われわれのような規模の会社は方向性をきちっと定め、確固たるものを持っていないと消されてしまう」と語った。規模で追う道を閉ざしたうえでの合理化であった[10]

止めるために、先に加古川へ積む

神戸を止める工程は、加古川に受け皿を作り終えるまで実行できなかった。加古川には第6号連続鋳造工場を新設し、第2分塊工場の加熱炉を1基から2基へ増やしたほか、溶鋼処理設備では真空脱ガス炉を3基から4基へ、取鍋精錬炉を1基から2基へ増強し、ビレットヤードを整備した。上工程集約にかかった投資総額は約655億円で、集約による効果額は年150億円程度と見込まれた[11]

受け入れる側の高炉にも手を入れている。2014年5月8日、神戸製鋼所は加古川製鉄所第3高炉の3次改修を決めた。1996年4月に稼働した高炉の炉底耐火レンガを全面更新し、冷却効率の高い銅ステーブの採用部位を広げ、炉内容積を4,500立方メートルから4,844立方メートルへ拡げる内容で、投資額は約200億円である。2016年9月末から90日の工期をとり、同年12月末に再稼働させた[12]

2017年1月21日、加古川製鉄所で第6号連続鋳造工場と第2分塊新ラインの竣工式が約220名を集めて行われた。第6号連続鋳造工場は5ストランドで、幅430ミリ・厚300ミリの鋳片を扱う中断面ブルーム連鋳機を備え、既存の大断面設備と合わせて品質要求に応える構えとなった。加熱炉を倍にした第2分塊工場も、世界最大級の生産能力を持つに至った。集約の完了が2017年度までずれ込んだのは、自動車メーカー向けの品質認証に時間を要したためである[13][14]

結果

2017年10月31日の停止

2017年10月31日の早朝、神戸製鉄所の高炉に熱風を送り込む装置が止まった。神戸製鋼所は同日、高炉から連続鋳造まで、および一部の分塊圧延設備の休止と、加古川製鉄所への集約の完了を発表した。半世紀以上にわたって同社の生産を支えた高炉は、12月から解体作業に入る。神戸製鉄所は以後、加古川から半製品の供給を受け、特殊鋼線材・棒鋼の生産に注力する下工程の拠点として残された[15][16]

集約が完了した2017年度の連結業績は、売上高1兆8,811億円、経常利益711億円であった。ただし高炉を一つに絞った体制も長くは据え置かれていない。2024年5月20日、勝川四志彦社長は、2030年代に設備更新期を迎える加古川製鉄所について、現在の2高炉体制から高炉1基・電炉1基へ移す検討に入っていると述べた。二酸化炭素の排出量が高炉の4分の1にとどまる大型電炉への転換を見据えた見直しである[17][18]

出典・参考

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