PDC設備の一括除却は、負の遺産の処理というより、合併で取得した二つの資産のうち一つを自ら使えなくする決断であった。稼働している設備を帳簿から外すことは、そこにいる契約者を他社へ逃がす危険と引き換えになる。KDDIはその危険を、CDMAへの機種変更を促す費用として買い直した。サービス終了の期に計上した556億円のうち282億円が移行促進に充てられていることは、これが設備の処分であると同時に顧客の付け替えの費用でもあったことを示していると推察される。
もっとも、この機動性は合併三社の資産が重なっていたからこそ選べたものであった。同じ時期に単一方式で走っていた事業者に、捨てる選択肢はない。KDDIが一期で1,854億円を落とせたのは、新宿本社ビルなど4棟の証券化で1,437億円の売却益を作れたからでもある。構造改革の痛みを、別の資産を現金に変えて相殺する組み立てであり、財務の余力が意思決定の速度を決めた例といえる。除却の翌々期に連結当期純利益が1,170億円へ戻ったことは、この賭けが当たったことを示している。