KDDI ビッグローブの架空循環取引 広告代理事業の再開断念と過年度3期の決算訂正

更新:

時期 2026年1月
当時の社長 松田浩路
論点 企業統治と子会社管理(内部統制)
何をなぜ決めたか
概要

2026年1月14日、連結子会社ビッグローブと同社の子会社ジー・プランの広告代理事業で、社員による不適切な取引の疑いが確認された。同日付で外部の弁護士・公認会計士による特別調査委員会が設置され、3月31日に受領した調査報告書で、実体が存在しない架空循環取引が行われていたことが認められた。

計上売上の取消しは2018年3月期からの累計で2,461億円、代理店手数料として社外へ流出した資金は329億円にのぼる。KDDIは報告書の受領と同じ日に、第39期から第41期までの有価証券報告書を訂正した。

背景

ビッグローブは2017年1月にKDDIが株式を取得して完全子会社とした通信会社で、広告代理事業はその子会社ジー・プランが2018年3月期から手がけていた。架空循環取引が占めた割合は同事業の累計取引の99.7%、ビッグローブ全体の売上高でも累計で約18%に達する。

買収は通信事業の拡充を狙ったもので、広告代理事業はビジネスモデルも資金の流れも本業から遠い領域にあった。新規事業として縦のラインでしか把握されず、売上の伸びそのものへの関心が薄かった。

内容

訂正は第39期(2023年3月期)から第41期(2025年3月期)までの3期で、有価証券報告書・内部統制報告書のほか半期報告書・四半期報告書にも及んだ。3期を合わせた売上高の訂正額は1,785億円、営業利益は1,112億円である。

過年度の損益が動いたことで買収時ののれんと識別可能無形資産の減損テストもやり直され、3か年で646億円の減損損失が過年度に計上された。計上利益の取消し499億円と合わせると、営業利益への影響は累計1,508億円、当期利益への影響は1,290億円となる。

含意

2026年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は、開示すべき重要な不備があるため有効でないと評価された。不備は両社の権限分掌に関する全社的な内部統制と、広告代理事業の仕入先への発注から検収に至る業務プロセスにある。6月2日には東京証券取引所へ改善報告書を提出した。

広告代理事業を再開する予定はなく、ビッグローブの通信事業はそのままの形で継続する。外部流出分は民事上の損害賠償請求で回収を図り、刑事上の告訴等も検討している。ビッグローブは2026年3月末時点で638億円の債務超過にある。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

関心の外に置かれた事業

連結売上高6兆円のKDDIにとって、2,461億円の売上取消しも、累計1,508億円の営業利益への影響も、単年の業績を揺るがす規模ではない。この事案の重さは金額ではなく、一つの事業の取引の99.7%が実体を欠いたまま、連結の内側で数年にわたり回り続けた点にある。しかも舞台は本体ではなく、連結子会社の、さらにその子会社であった。ビッグローブを傘下に収めた狙いは通信事業の拡充にあり、後から立ち上がった広告代理事業はその関心の外にあったとみられる。知見の乏しい領域を新規事業として抱え、伸びる売上を疑わずに受け入れたことが、統制の空白をそのまま残したのだろう。

もっとも、疑いが確認されてからの動きは速い。同じ日に外部の弁護士・公認会計士へ調査を委ね、2か月半で報告書を得て、受領と同じ日に3期分の訂正報告書を提出している。財務報告に係る内部統制を自ら有効でないと表示し、その表示は内部統制監査でも適正であると認められている。残るのは、事業の裾野を広げ続ける会社が、本業から遠い事業をどう見るかという問いである。民事上の損害賠償請求による外部流出分の回収も、改善報告書に記した措置の定着も、本稿の時点では途上にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
疑いの判明と公表 2026年1月14日 連結子会社ビッグローブ及び同社子会社ジー・プランの広告代理事業で判明
調査の主体 特別調査委員会 外部の弁護士・公認会計士で構成。疑いの公表と同じ日に設置した
経過報告 2026年2月6日 第3四半期業績説明会に合わせ、業績への影響額の見込みを公表した
調査報告書の受領 2026年3月31日 実体が存在しない架空循環取引が行われていたことが認められた
架空取引が占めた割合 99.7% 2018年3月期からの広告代理事業の累計取引に占める割合
ビッグローブの売上高に占める割合 累計で約18% 広告代理事業は本業の通信とは別に子会社が立ち上げた事業
過年度決算の訂正 2026年3月31日 第39〜41期の有報・内部統制報告書・半期・四半期報告書を訂正した
訂正された売上高(3期合計) △178,489百万円 2023年3月期△41,738、2024年3月期△54,323、2025年3月期△82,428
訂正された営業利益(3期合計) △111,162百万円 2023年3月期△30,403、2024年3月期△49,553、2025年3月期△31,206
計上売上の取消し(累計) 2,461億円 2018年3月期から2026年3月期第3四半期まで。有価証券報告書に記載はない
営業利益への影響(累計) 1,508億円 計上利益の取消し499億円に減損や税効果の影響などを加えた額
当期利益への影響(累計) 1,290億円 訂正の対象外である2026年3月期第3四半期までの分を含む
のれん・無形資産の減損 646億円 買収時の減損テストをやり直し2023年3月期からの3か年に計上した
外部流出額 329億円 架空循環取引に伴い代理店手数料として社外へ流出した資金
2026年3月期の損益への反映 2,031百万円の損失 その他の収益及びその他の費用。外部流出額の計上等による
内部統制報告書の評価結果 開示すべき重要な不備があり有効でない 2026年3月31日現在。内部統制監査でも適正であると認められている
重要な不備の内容 権限分掌に関する全社的な内部統制 広告代理事業の仕入先への発注から検収に至る業務プロセスにも存在
改善報告書の提出 2026年6月2日 東京証券取引所へ提出した
広告代理事業の扱い 今後再開する予定はない ビッグローブの通信事業はそのままの形で継続する
法的対応 民事上の損害賠償請求を提起 外部流出分の回収に努め、刑事上の告訴等も検討する(本稿時点で継続)
再発防止の体制 グループガバナンス対策強化会議 社長CEOを筆頭に新設。ビッグローブは常勤監査役を2名体制へ増強
人事上の措置 KDDIと本件子会社2社で実施 経営責任を明確化。個々の処分の内容は有価証券報告書に記載がない
ビッグローブの債務超過額 63,888百万円 2026年3月末時点。2025年3月期末時点では32,672百万円

出所:KDDI 有価証券報告書 第42期(2026年3月期)【対処すべき課題等】【事業等のリスク】【連結財務諸表注記】・内部統制監査報告書、訂正有価証券報告書 第39〜41期【提出理由】、特別調査委員会の調査結果に関する説明会(2026年3月31日)

訂正前と訂正後の連結業績

KDDI:訂正前と訂正後の連結業績

(百万円) 売上高営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2021年3月期 5,312,5991,037,395651,496
2022年3月期 5,446,7081,060,592672,486 訂正の対象は2023年3月期以降で、この期までは訂正されていない
2023年3月期(訂正前) 5,671,7621,075,749679,113
2023年3月期(訂正後) 5,630,0241,045,346651,391 売上高△41,738、営業利益△30,403。2023年3月期以前の分を含む
2024年3月期(訂正前) 5,754,047961,584637,874
2024年3月期(訂正後) 5,699,724912,031600,281 売上高△54,323、営業利益△49,553
2025年3月期(訂正前) 5,917,9531,118,674685,677
2025年3月期(訂正後) 5,835,5251,087,468655,416 売上高△82,428、営業利益△31,206
2026年3月期 6,071,9151,099,125707,112 訂正ではなく当期の処理。外部流出額の計上等を含む
連結売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:KDDI 有価証券報告書 第37期・第39期・第40期・第41期・第42期(連結損益計算書・主要な経営指標等の推移) / KDDI 訂正有価証券報告書 第39期・第40期・第41期(連結損益計算書)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • KDDI 適時開示「当社連結子会社における不適切な取引の疑いの判明及び特別調査委員会の設置に関するお知らせ」
  • KDDI 適時開示「2026年1月14日付「当社連結子会社における不適切な取引の疑いの判明及び特別調査委員会の設置に関するお知らせ」に関する経過報告及び2026年3月期第3四半期業績説明会開催のお知らせ」
  • KDDI 適時開示「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」
  • KDDI 決算説明会「特別調査委員会の調査結果に関する説明会(第3四半期決算および2026年3月期業績説明会)質疑応答」
  • KDDI 訂正有価証券報告書「第39期(2023年3月期)・第40期(2024年3月期)・第41期(2025年3月期)」
  • KDDI 改善報告書「東京証券取引所へ提出した改善報告書」
  • KDDI 有価証券報告書「第42期(2026年3月期)【対処すべき課題等】【事業等のリスク】・内部統制監査報告書」

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