神戸製鋼所新日本製鐵・住友金属工業との相互出資の開始と、23年後の解消
合併に加わらない会社が独立を保つために何を差し出すか——資本を交わすという提携の形
- 概要
- 2002年、神戸製鋼所は新日本製鐵・住友金属工業との相互出資に踏み切った。前年12月に新日鉄と包括提携を結んだ際には資本関係を持たないとしていたが、鉄源の共同活用などの連携を確実にするため株式を持ち合う形へ移り、2006年3月には買収提案があった場合に三社で対応を検討する覚書を結んでいる。
- 背景
- NKKと川崎製鉄が2002年10月にJFEホールディングスを設立し、高炉五社体制は新日鉄を軸とする連合とJFEの二つに割れた。合併に加わらない神戸製鋼所は、規模でも買収防衛でも単独で残る不利を抱えていた。
- 内容
- 出資比率は数%にとどまり、2007年12月には新日鉄・住友金属との間で相互に約150億円ずつを追加取得した。新日鉄の神戸製鋼所への出資比率は2.05%から3.4%へ、神戸製鋼所の新日鉄への出資比率は0.41%から0.8%へ上がっている。
- 含意
- 2012年に新日鉄と住友金属が統合したのち、神戸製鋼所は2014年に保有株の半数を、2025年に残りを売却して相互出資を解消した。合併に加わらないまま提携の実務だけが残り、23年続いた資本の裏づけは資本効率を理由に外れている。
傘は一度も開かなかった
株を持ち合ったのは、合併しないためであった。2001年12月の包括提携の席で光武紀芳副社長は「資本関係は持たず、独自路線に変更はない」と言い切っており、その一年ほどのちに神戸製鋼所は新日鉄・住友金属と資本を交わしている。数%という比率は、相手の経営に手を入れるには小さすぎ、買収提案が来たときに相談する相手を確保するにはおそらく足りていた。時価総額1.3兆円の会社が独立を続けるための費用として、払える最小の額だったとみられる。
ただ、その傘が実際に開いた場面は一度もなかった。ミタル・スチールが神戸製鋼所へ手を伸ばすことはなく、三社覚書の共同検討が動くこともないまま、2014年に半数を、2025年に残りを手放している。理由はどちらも財務体質と資本効率であって、提携の中身ではなかった。犬伏泰夫社長は鉄鋼の競争力は製鉄所にあると述べていたが、23年を経て残ったのも株式ではなく、鉄源の融通という実務のほうであった。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
五社体制のほころび
1998年度、高炉大手五社の合計経常損益は74億円の赤字に転じ、経常黒字を確保したのは新日本製鐵と川崎製鉄だけであった。各社に共通した課題が、ステンレス鋼・H形鋼・継目無鋼管という赤字品種の処理で、新日鉄は日新製鋼とステンレスの企画会社を設け、住友金属工業とはH形鋼の相互受委託生産で合意している。品種ごとに競合と手を組む動きが、五社体制のほころびとして表れていた[1]。
神戸製鋼所は三菱マテリアルとの銅板圧延の提携や子会社の売却を重ね、水越浩士社長は「コア事業は集中して強化する。周辺事業で不採算のもの、シナジー効果のないものは売却する」と述べていた。新日鉄との合併がうわさされた際には「今は合併が一つのファッションになっている」と反論している。その2001年4月、NKKと川崎製鉄が全面的な経営統合で基本合意した[2][3]。
「資本関係は持たず」と言った提携
2001年12月4日、新日鉄と神戸製鋼所は経団連ホールで包括提携を発表した。鉄源の相互補完、製品物流と原料調達のコスト削減、近隣事業所間や関係会社間の協力が柱で、同年9月に高炉二基を休止する中山製鋼所への半製品供給も両社で決まっていた。神戸製鋼所の光武紀芳副社長は「資本関係は持たず、独自路線に変更はない」と述べ、緩やかな連携であることを強調している[4]。
一週間後、住友金属工業も新日鉄との連携検討を明らかにした。下妻博社長は「神戸製鋼は新日鉄とのソフトな提携を選択し、NKK・川鉄軍には行かないとの意思表示をした」と述べ、住友金属もどちらにつくかを明示したほうが業界秩序にはいいと判断した、と背景を語っている。神戸製鋼所が先に旗色を示したことが、住友金属を動かし、三社が同じ側に並ぶ配置をつくった[5]。
決断
2002年、株を交わす
2002年、神戸製鋼所は旧新日本製鐵・旧住友金属工業との相互出資に踏み切った。会社は後年、2001年から進めてきた鉄源の共同活用などの連携施策を円滑に実行するための出資であったと説明している。資本関係を持たないとした提携が、一年ほどのうちに資本を伴う形へ移った。ただし比率は数%に満たず、相手の経営に踏み込める水準ではなかった[6][7]。
2006年3月の時点で、新日鉄は神戸製鋼所の普通株式63,975千株(2.05%)を、神戸製鋼所は新日鉄の28,017千株(0.41%)を保有していた。住友金属も神戸製鋼所株を2.05%持ち、神戸製鋼所は住友金属株を1.71%持っている。出資と並行して、2005年4月からは新日鉄と神戸製鋼所が住友金属へ熱延鋼板を供給し、神戸製鋼所は住友金属のチタン薄板の熱間圧延を引き受けた[8][9]。
買収提案が来たら二社に知らせる
2006年3月29日、三社は覚書を締結した。いずれかに買収提案がなされた場合、他の二社への通知と要請に基づいて、その提案が提携関係に与える影響と対応を共同で検討するという内容で、買収提案に備えた諸施策を今後も継続して検討することも定めている。前年に世界首位のミタル・スチールが二位のアルセロールへ敵対的買収を仕掛けており、国内最大手の新日鉄でさえ標的になりうるとみられていた[10][11]。
会見では三社の副社長が握手を交わしたが、市場の反応は冷ややかであった。買収金額の目安となる時価総額は新日鉄が約3兆円、住金が約2.4兆円、神鋼が約1.3兆円で、資金力に乏しい二社が新日鉄の友好的買収者を務めるのは難しいとみられた。M&Aの実務と制度論に詳しい服部暢達助教授は「本来は市場で競争すべきライバル同士が、買収防衛で共闘することは奇異に映る」と述べている[12][13]。
結果
深化させながら、合併には進まない
2007年10月末、三社は連携の深化・拡大と株式の追加取得を検討することで合意し、12月19日に取得を決めた。新日鉄と神戸製鋼所、住友金属と神戸製鋼所がそれぞれ相互に約150億円を追加取得し、新日鉄の神戸製鋼所への出資比率は2.05%から3.4%へ、神戸製鋼所の新日鉄への出資比率は0.41%から0.8%へ上がる見通しとなった。基幹生産設備での相互補完をさらに進めるための措置と説明されている[14]。
同じ年、犬伏泰夫社長は三社連合の先行きを問われ「統合はそれぞれの特色を打ち消し合ってよさをそいでしまうことがある」と答えている。新日鉄の千速晃社長が「これは新しいビジネスモデルへのチャレンジだ」と語った趣旨を、三社が独自に存在するのを前提に無駄を省く枠組みであり統合への段階ではないと説明した。鉄鋼の競争力は製鉄所にあるというのが、規模を追わない理由であった[15][16]。
23年で終わった資本関係
2012年10月、提携相手であった新日鉄と住友金属が経営統合し、三社の枠組みは新日鐵住金との二社関係へ変わった。統合によって神戸製鋼所の保有分は膨らみ、2014年12月3日、同社は中期経営計画の重点施策であるキャッシュ創出を理由に保有株の半数を売却すると発表した。134,882千株・1.4%から67,441千株・0.7%程度へ落としながら、提携関係に変更はないと断っている[17]。
2025年2月6日、神戸製鋼所は残る日本製鉄株6,744,000株を全て売却すると決めた。中期経営計画(2024〜2026年度)に掲げた資本効率の最大化が理由で、同じ日に日本製鉄も保有する神戸製鋼所株10,734,500株の売却を発表している。2002年に始まった相互出資は23年で解け、鉄源の融通など連携施策そのものは従来どおり続けるとされた[18][19]。
- 週刊東洋経済 1999年10月16日号「鉄鋼再編への序曲 高炉5社体制はいつまで続く?「赤字3兄弟」めぐる連衡」
- 週刊東洋経済 2002年1月26日号「産業レポート 再編劇 鉄鋼業界の2グループ化 新日鉄連合軍対JFE」
- 週刊東洋経済 2006年4月15日号「新日鉄、住金、神戸製鋼が、“鉄の結束”問題含みの3社買収防衛策」
- 週刊東洋経済 2007年9月29日号「TOP INTERVIEW 犬伏泰夫 神戸製鋼所社長 競争力は製鉄所に宿る。規模の戦略は正解ではない」
- 神戸製鋼所「新日本製鐵(株)・住友金属工業(株)・(株)神戸製鋼所間の連携施策の推進状況と更なる深化を確実にするための三社覚書締結について」(2006年3月29日)
- 神戸製鋼所「新日本製鐵(株)・住友金属工業(株)・(株)神戸製鋼所間の連携深化・拡大に伴う相互の株式追加取得について」(2007年12月19日)
- 神戸製鋼所「新日鐵住金(株)への出資の見直しについて」(2014年12月3日)
- 神戸製鋼所「日本製鉄株式会社株式の売却について」(2025年2月6日)
- 日本製鉄「株式会社神戸製鋼所株式の売却について」(2025年2月6日)
- 神戸製鋼所 有価証券報告書(連結・米国基準)