サイバーエージェント 村上ファンドへ買収防衛 物言う株主の接近に晒された局面での経営権の維持と防衛
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2001年、株価暴落で時価総額が保有現金を下回ったサイバーエージェントに村上ファンドが接近し、上場で調達した225億円の株主還元と会社の清算を迫った経営危機。藤田晋社長は楽天・三木谷浩史氏の出資を得て、独立を守り抜いた。
- 背景
-
ITバブル頂点で225億円を調達した直後の暴落で、同社は時価総額が保有現金を下回る"現金超過"の状態に陥った。藤田晋社長は危機の数か月前に自社株を社員へ配っており、持株は22.6%まで下がっていた。
- 内容
-
村上世彰氏のM&Aコンサルティングが市場で約1割を買い集め第4位株主に。日経も減資観測を報じた。藤田晋社長は楽天を訪ね、三木谷氏がサイバーエージェント株の8.6%を取得。安定株主を得て買収の危機を回避した。
- 含意
-
藤田晋社長は上場前に取得したワラントを行使して筆頭株主に復帰し、村上ファンドは2002年半ばまでに全株を手放した。短期の株主還元ではなく長期の事業投資を選んだこの対峙は、以後の株主との向き合い方の原点となった。
いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
現金という弱点と、貫いた長期投資
この攻防が突きつけたのは、バブルの頂点で得た資金余力が、そのまま会社の存続を脅かす弱点に転じるという皮肉である。時価総額が現金を下回れば、会社は現金を狙う買収の的になる。村上ファンドの論理は、遊ばせた資本を株主に返せという、資本市場の側からの一つの正論でもあった。それでも藤田晋社長は、要求どおりに調達資金を返して事業を縮小する道を選ばなかった。清算して現金を配るより、赤字を抱えてでもメディアという次の事業を育てるほうに賭けた。短期の株主還元と長期の事業投資、そのどちらを選ぶかという問いに、藤田晋社長は明確に後者で答えた。
危機を救ったのが敵対的な防衛策ではなく、三木谷氏という同じ起業家の出資だった点も、この一件の性格をよくあらわしている。藤田晋社長は後年、この恩を忘れず、2023年には楽天へ100億円を出資している。そして、安定株主を持たず外部の大株主に支配を左右されるという同社の構造は、この2001年で消えたわけではなかった。持株比率と取締役会の独立性をめぐる株主との緊張は、2019年に社長選任賛成率が57.56%へ急落する事態として再び表面化する。現金超過を突かれた最初の対峙は、創業者が資本市場とどう向き合うかという、その後も続く問いの出発点だった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
会社が動かした資本政策
会社が動かした資本政策
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 新株引受権の行使日 | 2001年10月1日 | 第1回無担保新株引受権付社債の新株引受権49,600千円が行使された |
| 行使による発行済株式総数の増加 | 7,936株 | 発行済株式総数は18,104株から26,040株へ。資本金は24,800千円増加 |
| 株式分割の実施日 | 2001年11月20日 | 1株を2株に分割し、発行済株式総数は44,144株となった |
| 資本準備金の取崩し(欠損の填補) | 2,527,977千円 | 2001年12月22日の第4回定時株主総会決議。未処理損失の全額を補填した |
| 資本準備金の取崩し(自己株式の取得) | 3,000,000千円 | 同じ総会で、自己株式の取得に充当するため資本準備金を取り崩した |
| 自己株式の消却 | 13,636株 | 2004年5月25日の取締役会決議により6月2日に実施。発行済は162,940株へ |
| 上場後の株式分割の回数 | 6回 | 2000年9月20日に1株を4株、2001年から2005年まで毎年11月に1株を2株 |
| 配当の開始 | 1株当たり1,200円 | 第8期(2005年9月期)。連結当期純利益の30%を目安とする方針を掲げた |
出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第8期(2005年9月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】【配当政策】/株式分割の履歴(公式サイト)
定時株主総会における取締役選任の賛成率
サイバーエージェント:定時株主総会における取締役選任の賛成率
| (%) | 藤田晋 | 日高裕介 |
|---|---|---|
| 2021年12月総会(第24回) | 95.23 | 98.92 |
| 2022年12月総会(第25回) | 89.01 | 98.62 |
| 2023年12月総会(第26回) | 89.3 | 98.91 |
| 2024年12月総会(第27回) | 87.86 | 98.32 |
| 2025年12月総会(第28回) | 92.96 | 97.24 |
出所:サイバーエージェント 臨時報告書(第24〜28回定時株主総会の議決権行使結果)
現金及び現金同等物と純資産の推移
サイバーエージェント:現金及び現金同等物と純資産の推移
| (百万円) | 現金及び現金同等物 | 純資産額 | 総資産額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2001年9月期 | 10,160 | 16,766 | 17,941 | 当期純損失2,074百万円。総資産の過半を現金及び現金同等物が占めた |
| 2002年9月期 | 8,083 | 14,760 | 17,476 | 財務活動によるキャッシュ・フローは△1,611百万円 |
| 2003年9月期 | 8,817 | 13,749 | 17,636 | |
| 2004年9月期 | 12,435 | 18,770 | 26,772 | 当期純利益4,013百万円で黒字に転じた |
| 2005年9月期 | 11,186 | 19,781 | 31,830 | 第8期に初の配当を実施した |
| 2006年9月期 | 20,028 | 38,608 | 59,411 | |
| 2007年9月期 | 17,848 | 31,170 | 49,162 | |
| 2008年9月期 | 14,487 | 30,146 | 62,911 | |
| 2009年9月期 | 17,982 | 31,579 | 67,291 | |
| 2010年9月期 | 20,134 | 33,464 | 83,723 |
出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第8期・第10期・第13期【主要な経営指標等の推移】(連結経営指標等)
1株当たり純資産額と株価の推移
サイバーエージェント:1株当たり純資産額と株価の推移
| (円) | 1株当たり純資産額 | 最高株価 | 最低株価 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2001年9月期 | 926,121.74 | 830,000 | 310,000 | 最低株価は1株当たり純資産額を大きく下回った |
| 2002年9月期 | 370,533.16 | 370,000 | 264,000 | 2001年11月の分割後の実額。以降も毎年11月に1株を2株へ分割した |
| 2003年9月期 | 172,070.09 | 380,000 | 71,000 | |
| 2004年9月期 | 115,736.66 | 1,330,000 | 143,000 | |
| 2005年9月期 | 60,312.43 | 527,000 | 302,000 | |
| 2006年9月期 | 48,492.18 | 351,000 | 102,000 | 2005年11月18日の分割を最後に、以降の分割はない |
| 2007年9月期 | 38,645.57 | 164,000 | 37,100 | |
| 2008年9月期 | 37,317.27 | 176,000 | 48,250 | |
| 2009年9月期 | 39,687.65 | 120,300 | 36,500 | |
| 2010年9月期 | 46,511.86 | 188,700 | 102,200 |
- 藤田 晋 29%
- 楽天 9%
- 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 3%
- 日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 3%
- ザチェースマンハッタンバンクエヌエイロンドン 3%
- その他 52%
出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第8期(2005年9月期)【主要な経営指標等の推移】【株価の推移】 / サイバーエージェント 有価証券報告書 第10期・第13期【主要な経営指標等の推移】【株価の推移】 / サイバーエージェント 有価証券報告書 第8期(2005年9月期)【大株主の状況】【発行済株式総数、資本金等の推移】(発行済株式総数327,742株)
業績の推移
サイバーエージェント:業績の推移
| (百万円) | 売上高 | 経常利益 | 当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2001年9月期 | 6,392 | △197 | △2,074 | 連結の開示はこの第4期から。従業員数172人 |
| 2002年9月期 | 10,824 | △254 | △297 | |
| 2003年9月期 | 16,202 | △66 | △2,419 | 3期続いた経常損失の最後の期。当期純損失は2,419百万円 |
| 2004年9月期 | 26,728 | 1,753 | 4,013 | |
| 2005年9月期 | 43,273 | 2,700 | 2,487 | |
| 2006年9月期 | 60,115 | 3,722 | 4,300 | |
| 2007年9月期 | 76,007 | 5,143 | 2,016 | |
| 2008年9月期 | 87,097 | 4,507 | 1,030 | |
| 2009年9月期 | 93,897 | 4,347 | 1,268 | |
| 2010年9月期 | 96,650 | 9,225 | 5,493 |
出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第8期・第10期・第13期【主要な経営指標等の推移】(連結経営指標等)
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 楽天株式会社 2001年12月20日 プレスリリース「株式会社サイバーエージェントとの資本提携に関するお知らせ」
- サイバーエージェント 変更報告書・大量保有報告書(EDINET/2001〜2002年)
- サイバーエージェント 公式サイト「株式分割の履歴」
- サイバーエージェント 有価証券報告書「第8期(2005年9月期)」
- サイバーエージェント 有価証券報告書「第10期(2007年9月期)」
- サイバーエージェント 有価証券報告書「第13期(2010年9月期)」
- サイバーエージェント 公式サイト「株主総会」
- サイバーエージェント 臨時報告書「第24回定時株主総会における議決権行使結果」
- サイバーエージェント 臨時報告書「第25回定時株主総会における議決権行使結果」
- サイバーエージェント 臨時報告書「第26回定時株主総会における議決権行使結果」
- サイバーエージェント 臨時報告書「第27回定時株主総会における議決権行使結果」
- サイバーエージェント 臨時報告書「第28回定時株主総会における議決権行使結果」