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FC町田ゼルビアの子会社化とスポーツ事業への参入

2018年実施

「サッカーが好きだから」——藤田晋社長はなぜJリーグクラブの経営に踏み込んだか

時期 2018年10月
意思決定者 藤田晋(社長)
論点 スポーツ事業への参入
概要
2018年、サイバーエージェントがJリーグのFC町田ゼルビアを運営する㈱ゼルビアの株式を取得し子会社化した経営判断。取得額11.48億円で議決権の80%を握り、Jリーグクラブ経営という本業と直接つながらない領域へ参入した。
背景
動機は藤田晋社長自身の「サッカー好き」だった。大学時代を過ごした縁のある町田を舞台に、本田圭佑氏との会話などから「東京ならアジアを代表するビッグクラブをつくれる」という構想を描いていた。メディアやコンテンツの活用でクラブの成長を支える狙いも掲げた。
内容
第三者割当増資を引き受けて議決権80%を取得し、早期のJ1ライセンス取得を目標にインフラ整備へ着手。2022年には藤田社長自身が㈱ゼルビアの社長に就き、青森山田高校を率いた黒田剛監督を監督に招く差別化策に踏み切った。
含意
黒田監督体制1年目の2023年にJ2優勝・J1初昇格を果たし、2024年のJ1初参戦では終盤まで優勝を争い最終3位でACL出場権を得た。クラブ売上は2年で34億円から58億円へ急伸したが、本体の連結売上に対しては小さく、事業としての位置づけは「その他」にとどまる。
筆者の見解

経営者の関心を事業に変える難しさ

この投資は、経営指標だけを見れば説明のつきにくい判断である。取得額11.48億円もクラブ売上も、数千億円の連結からすれば小さく、スポーツ事業は決算上「その他」に埋もれている。それでもこの決断が単なる道楽と違うのは、藤田社長がメディア戦略とスポーツという強力なコンテンツの接続を初めから掲げ、上場企業の経営者として強気の計画と資金投入で結果を追い、みずから社長に就いて名将招聘という差別化にまで踏み込んだ点にある。関心を事業へ変えるには、関与の深さと相応のリスクが要ることを、この一連の行動は示している。

一方で、J1初参戦での3位という成果は、事業としての成功とは必ずしも一致しない。売上は倍近くに伸びても営業利益はわずかで、注目が集まるほど選手への誹謗中傷といった負の副産物も生んだ。クラブ経営は、勝てば規模が増え、増えても利益は薄いという構造を抱える。藤田社長がここで得たものは、財務上の果実というより、メディア企業がスポーツという同時多発的な関心を自ら握ることの意味である。その価値をどう本業に還元していくかは、なお試されている途中にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

「サッカーが好きだから」という出発点

サイバーエージェントがJリーグクラブの経営に乗り出した動機を、藤田晋社長はきわめて率直に語っている。「単純に言えば、サッカーが好きだから」であり、舞台に町田を選んだのは大学時代を過ごした縁のある土地だったからである。構想の出発点には本田圭佑氏との会話があり、「東京だったら、アジアを代表するビッククラブをつくれる可能性がある」という認識を抱いていた。上場企業の経営者として大型投資を正当化するため、藤田社長は2020年から2025年にかけてJ1昇格からアジア制覇までを見据える強気の中期計画も掲げた[1][2]

個人的な関心だけで説明されたわけではない。買収会見で藤田社長は、インターネットメディアやコンテンツを活用して町田のビッグクラブへの成長を支援していく考えを示した。ABEMAをはじめとするメディア事業と、スポーツという強力なコンテンツを結びつける狙いである。クラブ経営を、育成シミュレーションゲームを現実に手がけるようなものだと語る一面もあった[3]

決断

議決権80%の取得とJ1ライセンスへの布石

2018年10月1日、サイバーエージェントは㈱ゼルビアの第三者割当増資を引き受けて子会社化すると発表した。取得額は11億4,800万円、取得後の議決権所有割合は80%で、経営権を握る出資だった。会社は取得の目的を、FC町田ゼルビアのサポーターへの情報提供やサービスの充実、新たなサポーター層の獲得に加え、早期のJ1ライセンス取得を目標としたインフラ整備に置いた。本業と直接つながらない領域への、しかし明確な意図を伴う投資だった[4][5]

参入直後には摩擦もあった。藤田社長は当初「FC町田トウキョウ」への改称を計画したが、2019年のサポーターミーティングでの反発を受けて改名を保留した。藤田社長は自身のブログで、上場企業の経営者として多くの株主と従業員に責任を負う立場から率直に課題を説明したとつづり、「町田サポーターとは目的は同じ同志なので会って話せば分かり合える」と記している。オーナーとサポーターの利害をどう束ねるかという、クラブ経営に固有の難しさに早い段階で直面した[6]

藤田社長自らの社長就任と黒田剛監督の招聘

投資から4年後、藤田社長はクラブへの関与を一段深めた。2022年12月1日付で自ら㈱ゼルビアの代表取締役社長兼CEOに就任し、オーナーから経営トップへと立場を移した。同時に、2023シーズンから青森山田高校を率いた黒田剛監督を監督に招いた。高校サッカーの名将をプロの監督に据える異例の人事は、藤田社長の言う差別化の判断だった。当時ゼルビアはJ2で中位に沈んでおり、他クラブと同じことをしていては飛躍できないという危機感が、この決断の背景にあった[7][8]

結果

J2優勝からJ1初参戦での躍進

黒田監督体制の1年目、2023シーズンにゼルビアはJ2で優勝し、クラブ史上初のJ1昇格を果たした。翌2024シーズンのJ1初参戦では、開幕後に4連勝で首位へ躍り出ると、第15節から第28節までのおよそ3か月間、首位を守り続けた。終盤に後退したものの、最終順位は3位。勝点66(19勝9分10敗、得点54・失点34)でACL出場権を獲得した。昇格1年目のクラブとしては異例の成績であり、藤田社長が掲げた強気の計画は、優勝争いによって現実味を帯びた[9][10]

競技面の躍進は、クラブの規模も押し上げた。J1に昇格した2024年度(2025年1月期)の営業収益は57.54億円で、J2時代の2023年度34.09億円から1.7倍近くに伸びた。収入の柱はスポンサー収入40.43億円で、入場料収入は6.87億円だった。ただし営業利益は7百万円と薄く、規模の拡大がそのまま利益に直結する事業ではないことも示した。サイバーエージェント本体の連結売上が数千億円規模であるのに対し、クラブの売上は小さく、決算上はスポーツ事業を独立させず「その他」に含める扱いが続いている[11]

出典・参考