サイバーエージェント ABEMAでW杯無料生中継 大会の全試合を無料で流す大型生中継への踏み込み

更新:

時期 2022年3月
当時の社長 藤田晋
論点 メディア投資とマス化
何をなぜ決めたか
概要

サイバーエージェントとテレビ朝日が共同出資する㈱AbemaTVの「ABEMA」で、「FIFA ワールドカップカタール2022」の全試合を放映すると2022年3月に決めた経営判断。全試合の放映が始まったのは2022年11月で、大会は同月20日から12月18日まで開かれた。

放映権料は公表されていない。費用は2023年9月期第1四半期に集中し、その四半期だけでメディア事業は93億円の営業損失を計上した。通期のメディア事業は売上高132,384百万円・営業損益11,523百万円の損失で、赤字はむしろ前期より縮んでいる。

背景

ABEMAの運営会社㈱AbemaTVは、2016年4月の開局から一度も黒字を計上しておらず、決断の前期にあたる2021年9月末で99,288百万円の債務超過にあった。メディア事業のセグメント損益も2017年9月期の18,585百万円の損失から5期連続で1万5千百万円前後の赤字が続いていた。

赤字を埋めていたのは親会社からの貸付で、2021年9月末の貸付金残高は102,700百万円、これに対する貸倒引当金は90,000百万円。監査人はこの貸付金の評価を監査上の主要な検討事項に挙げ、回収可能性の根拠は売上高の成長という不確実な仮定に置かれていた。

内容

サイバーエージェントの㈱AbemaTVに対する議決権比率は55.2%で、資本金は100百万円。役員の兼任・事業所の賃貸借・広告取引で結ばれ、テレビ朝日とは2015年の設立時から共同出資の関係にある。放映権料も配信権の独占の別も、会社の公表資料には出てこない。

投資の規模が見えるのは資金の流れの側で、親会社の貸付金は2022年9月末の116,800百万円から2023年9月末に135,800百万円へ19,000百万円増えた。貸倒引当金は両期とも90,000百万円で据え置かれ、増やした貸付は引当の外に置かれている。

含意

大会期間中に「ABEMA」の1週間視聴者数は3,000万を突破し、開局史上最高となった。ピーク時のWAUは3,409万。大会が終わってもWAUは元の水準へ戻らず、2022年7〜9月と2023年7〜9月の平均を比べると240万のベースアップが残り、2023年第4四半期の平均は1,879万に上がっている。

この規模の投資は4年に一度で、当面の投資は適正な規模へ戻す。メディア事業の営業損失はその後1,927百万円まで縮み、報告セグメントをメディア&IP事業へ組み替えた2025年9月期に営業利益7,291百万円、開局から10年ぶりの黒字となった。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

期限を切らない投資という経営スタイル

この決断は放映権の買い物ではなく、親会社の貸付枠をどこまで伸ばすかという資本の判断だったと推察される。㈱AbemaTVは開局以来の赤字で債務超過にあり、事業を回していたのは親会社の貸付金である。W杯を挟んだ1年でその残高は116,800百万円から135,800百万円へ膨らみ、対する貸倒引当金は90,000百万円のまま動かない。増やした分は回収できるという判断が、引当を据え置いたという形で示されている。

もっとも、視聴記録と黒字化は直ちには結びつかない。W杯の年のメディア事業は11,523百万円の営業損失で、黒字へ届くのはそこから2期を要した。効いたのは大会そのものではなく、終わっても戻らなかった240万のWAUのほうだろう。一度きりの催しで基礎の利用量を一段持ち上げ、以後は4年に一度の間隔まで投資を薄める——その組み立てが成り立ったのは、同じ期にゲームと広告が合わせて410億円の営業利益を出していたからである。賭けられる体力のあるうちに賭けた一手だった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
放映と出資の条件

放映と出資の条件

科目 概要 備考
放映の対象 「FIFA ワールドカップカタール2022」全試合 全試合の放映開始は2022年11月
大会の開催期間 2022年11月20日〜12月18日
配信したサービス 新しい未来のテレビ「ABEMA」 運営は連結子会社の㈱AbemaTV(東京都渋谷区)
共同出資の相手 ㈱テレビ朝日 2015年4月に共同出資で㈱AbemaTVを設立し、2016年4月に開局
㈱AbemaTVへの議決権比率 55.2% 2018年9月期までは60.0%。2019年9月期に低下し以後は変わらない
㈱AbemaTVの資本金 100百万円
㈱AbemaTVとの関係内容 役員の兼任、事業所の賃貸借、広告取引
放映権料 会社の公表資料に記載なし 配信の独占の別も同じく記載がない
費用を計上した四半期 2023年9月期第1四半期 この四半期のメディア事業の営業損益は93億円の損失
2023年9月期のメディア事業 売上高132,384百万円/営業損益△11,523百万円 前期の営業損益は12,419百万円の損失。赤字幅は縮小した
大会期間中の1週間視聴者数 3,000万を突破 2022年11月。開局史上最高
大会期間中のWAU 3,409万
大会後のWAUのベースアップ 240万 2022年7〜9月と2023年7〜9月の平均の比較。2023年第4四半期の平均は1,879万
㈱AbemaTVへの貸付金 135,800百万円 2022年9月末は116,800百万円。貸倒引当金は両期とも90,000百万円
今後の投資の頻度 この規模の投資は4年に一度 当面は適正な投資規模へ戻す

出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第24期(2021年9月期)〜第26期(2023年9月期)【沿革】【関係会社の状況】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】【監査上の主要な検討事項】 / 決算説明会資料 2022年9月期通期・2023年9月期通期

メディア事業の売上高とセグメント損益の推移

サイバーエージェント:メディア事業の売上高とセグメント損益の推移

(百万円) 売上高セグメント損益 備考
2017年9月期 19,057△18,585
2018年9月期 24,728△17,764
2019年9月期 36,791△16,862
2020年9月期 49,625△18,267
2021年9月期 76,128△15,141
2022年9月期 102,532△12,419 2022年3月に「FIFA ワールドカップカタール2022」の全試合放映を発表
2023年9月期 132,384△11,523 第1四半期にW杯の配信費用が集中。同四半期の営業損益は93億円の損失
2024年9月期 160,555△1,927
2025年9月期 217,1647,291 報告セグメントをメディア&IP事業へ変更。開局から10年ぶりの黒字
メディア事業の売上高と利益率
売上高(百万円)セグメント損益率(%)

出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第20期〜第28期(セグメント情報、外部顧客への売上高。2025年9月期は報告セグメントの区分変更後のメディア&IP事業)

㈱AbemaTVの債務超過額と親会社の貸付金

サイバーエージェント:㈱AbemaTVの債務超過額と親会社の貸付金

(百万円) 債務超過額関係会社長期貸付金貸倒引当金 備考
2019年9月期 66,559−−
2020年9月期 83,698−− 貸付金の内訳は監査上の主要な検討事項の適用前で開示がない
2021年9月期 99,288102,70090,000
2022年9月期 111,120116,80090,000
2023年9月期 127,886135,80090,000 貸付金は1年で19,000増。貸倒引当金は据え置かれた
2024年9月期 135,299143,84090,000
2025年9月期 140,749150,80090,000
㈱AbemaTVの債務超過額
債務超過額(百万円)

出所:サイバーエージェント 有価証券報告書 第22期〜第28期【関係会社の状況】(債務超過会社の注記) / サイバーエージェント 有価証券報告書 第24期〜第28期【監査上の主要な検討事項】(株式会社AbemaTVへの貸付金の評価)

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参考文献
出典・参考
  • サイバーエージェント 決算説明会資料「2022年9月期 通期決算説明会資料」
  • サイバーエージェント 有価証券報告書「第25期(2022年9月期)【沿革】【関係会社の状況】【監査上の主要な検討事項】」
  • サイバーエージェント 決算説明会資料「2023年9月期 通期決算説明会資料」
  • サイバーエージェント 有価証券報告書「第26期(2023年9月期)【沿革】【関係会社の状況】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • サイバーエージェント 有価証券報告書「第28期(2025年9月期)【経理の状況】(セグメント情報)」

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