米ミドレックス社を買収(1983年・神戸製鋼所の決断)

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論点還元製鉄の技術を買収で保有するか
神戸製鋼所:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
天然ガスで鉄鉱石を還元する製法の取得と、海外プラント事業の開始

何をなぜ決めたか:天然ガスで鉄鉱石を還元する製法の取得と、海外プラント事業の開始

概要

1983年、神戸製鋼所は米国のMidrex社を買収し、還元鉄/新製鉄プラントの事業を開始した。Midrex社は、天然ガスを還元剤に使う直接還元製鉄法「ミドレックス法」を開発した会社である。この製法は、粉鉱石を加工したペレットをシャフト炉で還元し、還元鉄を作る。還元鉄は不純物の少ない鉄源で、高級スクラップや銑鉄の代わりに主に電気炉で使われる。1959年に銑鋼一貫体制を確立した神戸製鋼所の本業とは、別の系統の製法だった。

神戸製鋼所はこの製法のプロセス・オーナーとして、プラントの供給、ライセンスの供与、還元鉄の製造・販売の3つの事業を営む。Midrex社は100%子会社で、本社を米国ノースカロライナ州シャーロット市に置き、2019年3月末の従業員は171人である。

背景

1974年7月、神戸製鋼所はカタール政府・東京貿易と、天然ガスによる直接還元一貫製鉄所をドーハに建設する合弁契約に調印した。計画は粗鋼年産40万トンで、出資比率はカタール政府70%、神戸製鋼所20%、東京貿易10%である。神戸製鋼所は社長を送り、経営も受託した。鉄鋼事業部の操業の知識と機械事業部のエンジニアリングを組み合わせた受注で、この地にミドレックス法の還元鉄プラントを建設した。

石油危機の後、鉄鋼大手はエンジニアリングに収益源を求めた。神戸製鋼所のエンジニアリング事業の売上高は1980年度に全社の10%を超えた。しかし鉄鋼5社のエンジニアリング部門の売上高は、1981年度の8,700億円から1982年度に初めて前年度を下回った。神戸製鋼所の単独の当期純利益も、1981年3月期の262億円から1983年3月期に119億円へ減少している。

内容

買収の後、神戸製鋼所は製法の種類を増やした。Midrex社と共同で、一般炭を還元剤に回転炉床炉で還元するFASTMETを開発し、高炉ダストのリサイクル用に新日本製鐵広畑製鉄所と自社の加古川製鉄所で商業化した。1996年には、粉鉱石と一般炭から約10分で高品位のアイアン・ナゲットを作るITmk3を自社で開発した。2007年11月に米電炉メーカーのスチール・ダイナミックス社と合弁でのプラント建設に合意し、米国ミネソタ州の商業1号機は2010年1月に生産を開始した。

還元鉄の製造そのものにも出資した。1989年7月設立のベネズエラのCOMSIGUA社は、還元鉄を固めたホットブリケットアイアンを製造・販売し、神戸製鋼所は2011年時点で21.29%を保有した。しかし2009年5月にチャベス大統領が同社の国有化を発表し、神戸製鋼所は2011年5月に全株式をガイアナ開発公社へ譲渡することで合意した。同社は2008年12月期から3期続けて当期純損失を計上していた。

含意

ミドレックス法は、買収の後も直接還元製鉄の主流であり続けた。2007年の世界の還元鉄生産量は約6,700万トンで、その約6割をミドレックス法が占め、21ヵ国で64基が稼働していた。2018年も生産量は約6,400万トン、シェアは60%以上と水準を保った。天然ガスを改質する方式に限れば、シェアは8割に達する。

ただし国内では採算に合わない。天然ガスの価格は中近東や米国の1MBtuあたり2ドルに対し、日本は6〜7ドルである。評価を変えたのは脱炭素だった。2019年9月にアルセロール・ミッタル社と水素を使う直接還元製鉄の共同開発契約を締結した。2020年10月には加古川製鉄所の第3高炉で、ミドレックスプラントで作ったHBIを溶銑1トンあたり300kg超まで装入する実証を行った。2022年度にはドイツとスウェーデンの製鉄会社から、水素を使う方式で世界初となる商業機を受注した。

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考察:国内で使えない製法の外販
考察

考察:国内で使えない製法の外販

なぜ神戸製鋼所は、自社の製鉄所で使う予定のない製法を買収したのか。ミドレックス法は天然ガスの安い地域で成り立つ製法で、日本の天然ガス価格では採算に合わない。手がかりはカタールにあると思われる。神戸製鋼所は1974年にカタールの直接還元一貫製鉄所の建設を受注し、経営まで引き受けて、この製法をエンジニアリングの商品として扱っていた。エンジニアリング事業の売上高は1980年度に全社の10%を超えていた。買収は、製鉄の知識を自社の高炉ではなく、海外へのプラント販売に生かす選択だった。

もっとも、自社で使わない技術を外へ販売する事業は、買い手の国の事情に左右される。ベネズエラで還元鉄を作るCOMSIGUA社は2009年に国有化が発表され、神戸製鋼所は2011年に全株式を譲渡した。買収の時期にも余裕は無かった。鉄鋼5社のエンジニアリング部門の売上高は1982年度に初めて前年度を下回り、神戸製鋼所は買収した1984年3月期に59億円の当期純損失を計上している。本業が赤字の年に、すぐには利益を生まない技術を抱えた判断でもあった。

40年余りたった結果から見れば、この買収は成功だった。ミドレックス法は2007年に世界の還元鉄生産量の約6割を占め、2018年にも60%以上を保った。脱炭素が課題になると、天然ガスを水素に置き換えられる製法として評価が上がり、2022年度にはドイツとスウェーデンから水素を使う方式で世界初の商業機を受注した。2020年には加古川製鉄所の高炉にこの製法のHBIを装入する実証も行い、自社の製鉄にも使い道が生まれた。ベネズエラの事業は国有化で終わったが、中核のミドレックス法は40年かけて価値を高めた。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

神戸製鋼所:単独の売上高と当期純利益の推移

売上高(億円)当期純利益率(%)

買収した1984年3月期は59億円の当期純損失だった

神戸製鋼所:単独の売上高と当期純利益の推移
(億円)売上高当期純利益備考
1979年3月期8,840136
1980年3月期10,247256
1981年3月期11,400262エンジニアリング事業の売上高が全社の10%を超えた年度
1982年3月期11,827136
1983年3月期11,821119鉄鋼5社のエンジニアリング部門が初めて前年度割れ
1984年3月期12,514△591983年にMidrex社を買収した期。当期純損失を計上
1985年3月期12,388120
出所:神戸製鋼所 会社年鑑(単独業績)
出所:神戸製鋼所 会社年鑑(単独業績)
参考文献

参考文献

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