品質データ改ざんを公表(2017年・神戸製鋼所の決断)

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論点 収益優先の風土をどう改めるか
神戸製鋼所:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
名門の信頼失墜と、経営刷新による再建への着手

何をなぜ決めたか:名門の信頼失墜と、経営刷新による再建への着手

概要

2017年10月8日、公的規格または顧客仕様を満たさない製品について検査結果の改ざんやねつ造を行ない、これらを満たすものとして出荷していた事実を公表した。不適合製品の納入先はのべ688社に上る。

同月26日に利害関係のない弁護士を委員とする外部調査委員会を設置し、2018年3月6日に事実関係と原因分析、再発防止策を公表した。同年4月に山口貢氏が取締役社長に就任し、川崎博也氏が兼ねていた会長職は廃止された。

背景

2016年6月にグループ会社の神鋼鋼線ステンレスでJIS法違反が発覚したのを契機に、2017年4月から全事業部門を対象とした本社主導の品質監査が始まっていた。さらに同年8月初旬、グループ全体に対して2016年9月からの1年間の出荷実績を対象とする品質自主点検を要請。先行して点検に入ったアルミ・銅事業部門で、同年8月末に不適切行為が判明した。自ら仕掛けた点検が、自らの中枢を掘り当てた形である。

内容

原因は3つに集約された。本社の収益評価に偏った経営のもとで、各事業部門が工程能力を検証せずに受注する生産至上主義に陥ったこと。事業部門への大幅な権限委譲が本社の統制力を落とし、品質コンプライアンス統制が働かなかったこと。そして改ざんやねつ造を可能にする検査プロセスと、遵守することがおよそ困難な社内規格が置かれていたことである。

事業部門を横断する人事交流がほとんど無い閉鎖的な組織運営と、過去に類似の行為が発覚した際に経営陣が抜本的な対応を取らなかったことも、早期発見に至らなかった要因に挙げられた。

含意

顧客補償等対応費用は2018年3月期に43億円、2019年3月期に26億円を計上した。国内では2018年7月に不正競争防止法違反の疑いで起訴され、2019年3月に罰金1億円の有罪判決が確定。米国司法省の調査は2019年7月に終了し、米国での2件の集団訴訟も和解に至った。再発防止策では独立社外取締役を3分の1以上とし、取締役会議長を社外取締役から選ぶなど、取締役会の構成そのものが組み替えられている。

いつ何が起きたか 10件
考察:収益優先の風土と、名門の看板
考察

考察:収益優先の風土と、名門の看板

この不正の根にあるのは、複合メーカーとして分立した事業部門が、それぞれの収益だけを物差しにして回ってきた運営の姿である。本社の収益評価に偏った経営が生産至上主義を生み、大幅な権限委譲が本社の統制力を削ぐ。その配置のもとで、遵守がおよそ困難な社内規格と、改ざんを可能にする検査プロセスが放置された。原因分析が真っ先に「収益偏重の経営と不十分な組織体制」を挙げたのは、現場の逸脱ではなく設計の問題だと認めたに等しいと推察される。

もっとも、罰金1億円も、69億円の顧客補償費用も、企業を作り替える力は持たない。事業部門を横断する人事交流がほとんど無い閉鎖的な組織運営が要因に並んでいる以上、効いてくるのは会長職の廃止や社外取締役3分の1といった機関設計の変更ではなく、その仕組みの下で人と情報が動くかどうかであろう。過去に類似の行為が発覚したときも経営陣は抜本的な対応を取らなかった——同じ指摘をふたたび受けずに済むかどうかが、名門の看板を守れるかの分かれ目になる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

神戸製鋼所:鉄鋼セグメントの売上高と経常損益

売上高(億円)経常損益率(%)
神戸製鋼所:鉄鋼セグメントの売上高と経常損益
(億円) 売上高経常損益 備考
2013年3月期 7,428△502
2014年3月期 8,085335 2013年5月に神戸製鉄所の上工程設備の休止と加古川製鉄所への集約を決議
2015年3月期 7,978287
2016年3月期 7,42536
2017年3月期 6,206△295 加古川製鉄所の高炉改修の一時費用を計上。セグメント名は鉄鋼へ変更
2018年3月期 7,155173 2017年10月に不適切行為を公表。同月末に神戸製鉄所の上工程設備を休止
2019年3月期 7,53947 設備トラブルと自然災害による販売数量の減少で125億円の減益
2020年3月期 7,237△213 チタンの航空機向けで将来の損失に対する引当金を計上
2021年3月期 5,638△233 この期からセグメントは鉄鋼アルミ。うち鉄鋼区分の値を並べている
2022年3月期 7,510346
2023年3月期 9,097490
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第160〜170期(セグメントごとの状況)
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第160〜170期(セグメントごとの状況)

神戸製鋼所:連結の経常損益と顧客補償等対応費用

神戸製鋼所:連結の経常損益と顧客補償等対応費用
(百万円) 経常損益顧客補償等対応費用 備考
2013年3月期 △18,146−
2014年3月期 85,044−
2015年3月期 101,688−
2016年3月期 28,927−
2017年3月期 △19,103−
2018年3月期 71,1494,361 顧客補償等対応費用は特別損失。投資有価証券売却益により特別損益は20億円の利益
2019年3月期 34,6292,587 顧客補償等対応費用の計上はこの期まで。期末の引当金残高は3,362百万円
2020年3月期 △8,079− 引当金残高2,054百万円。減損損失499億円の計上などで経常損益は赤字
2021年3月期 16,188− 引当金残高1,397百万円
2022年3月期 93,233− 引当金残高343百万円
2023年3月期 106,837− 引当金残高288百万円
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第160〜170期(連結損益計算書・引当金の計上基準)
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第160〜170期(連結損益計算書・引当金の計上基準)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
端緒 2016年6月 神鋼鋼線ステンレスでJIS法違反が発覚し、本社主導の品質監査に着手した
品質監査の開始 2017年4月 全事業部門を対象に、公的規格と顧客仕様に違反した出荷の有無を確認
品質自主点検の要請 2017年8月初旬 グループ全体に、2016年9月からの1年間の出荷実績を対象とする点検を求めた
不適切行為の発覚 2017年8月末 先行して点検に入ったアルミ・銅事業部門で判明。当該製品の出荷を即時停止
対外公表 2017年10月8日 外部法律事務所を起用した社内調査を行ない、9月から顧客への説明を進めていた
外部調査委員会の設置 2017年10月26日 利害関係を有しない弁護士を委員とし、社内調査を引き継いだ
原因分析の報告書 2017年11月10日 社外取締役5名を含む8名の品質ガバナンス再構築検討委員会を同時に設置
事実関係と再発防止策の公表 2018年3月6日 原因は収益偏重の経営、バランスを欠いた工場運営、不十分な品質管理手続の3つ
不適合製品の納入先 のべ688社 2018年7月末時点で、残り1社を除き安全性の検証を完了した
顧客補償等対応費用 4,361百万円 2018年3月期の特別損失。2019年3月期にも2,587百万円を計上した
国内の刑事処分 罰金1億円 2018年7月に不正競争防止法違反の疑いで起訴、2019年3月に有罪判決が確定
米国司法省の調査 2017年10月開始・2019年7月終了 不適合製品を米国の顧客に販売した疑いによる
米国での集団訴訟 2019年2月・2020年4月に和解 ADR証券に関する案件の和解金は500千米ドル。自動車に関する案件は非公表
取締役会の見直し 会長職の廃止と社外取締役3分の1以上 議長を独立社外取締役から選出し、任意の指名・報酬委員会を設置した
経営の刷新 2018年4月に山口貢氏が取締役社長に就任 発覚時の代表者は代表取締役会長兼社長の川崎博也氏
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第165期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】・第166期(2019年3月期)・第167期(2020年3月期)【事業等のリスク】
出所:神戸製鋼所 有価証券報告書 第165期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】・第166期(2019年3月期)・第167期(2020年3月期)【事業等のリスク】
参考文献

参考文献

参考
  • 神戸製鋼所 有価証券報告書「第165期(2018年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】【事業等のリスク】」
  • 神戸製鋼所 有価証券報告書「第165期(2018年3月期)【連結損益計算書】」
  • 神戸製鋼所 有価証券報告書「第166期(2019年3月期)【事業等のリスク】【顧客補償等対応費用】」
  • 神戸製鋼所 有価証券報告書「第167期(2020年3月期)【事業等のリスク】」
  • 神戸製鋼所 調査報告書「当社グループにおける不適切行為に関する報告書」
  • 神戸製鋼所 統合報告書「統合報告書2018」

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