ライブドアニッポン放送株の時間外取引による大量取得と、フジテレビジョンへの売却
放送局の支配権を握るか、現金に換えるか——ネットとメディアの融合をめぐる攻防
- 概要
- 2005年2月8日、ライブドアが東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送株の35%を取得して筆頭株主となり、同日に800億円のMSCBを発表した経営判断。約2か月の攻防を経て、同株をフジテレビジョンへ約1030億円で売却し、フジテレビジョンが440億円の第三者割当増資を引き受ける形で決着した。
- 背景
- 2004年9月期の連結売上高は309億円で、買収の対価は自社株で払っており、放送局を争うだけの現金は持っていなかった。堀江貴文社長は3年以内にインターネットがテレビを抜くという前提で、集客力1位のポータルを持つことを掲げていた。
- 内容
- 市場外で短時間に大量の株式を集める手法と、転換価額が下方に修正される社債による資金調達を同日に組み合わせた。東京高裁がニッポン放送による新株予約権発行の差し止めを支持したのち、支配権の行使には進まず、株式の売却と資本提携による和解を選んだ。
- 含意
- 一連の取引でライブドアが得た現金は1470億円に達し、以後の買収とMSCB引き受けはこの資金の上で回った。一方、攻防期間の株価を検証した論考は、当事者3社のいずれも企業価値を増やせなかったと結論づけている。
買えたのは支配権ではなく現金だった
議決権の過半数と東京高裁の支持を同時に得ながら、ライブドアは支配株主としての権利を使わなかった。行使に伴う新たな裁判と第三者の介入という費用が、放送局の経営権から見込める利益を上回ると踏んだためだとみられる。ニッポン放送株の取得で実際に手元へ来たのは、テレビ局の支配権ではなく、フジテレビジョンが差し出した1470億円の現金であった。買収の成否は、はじめから現金で測られていたのかもしれない。
ただ、その現金が会社に何を残したかは別の問題として残る。得た資金はMSCBの引き受けと買収へ投じられ、金融部門は2005年9月期に146億円の営業利益を稼いだ。同じ期のポータルサイトlivedoorの黒字は3億円にとどまる。テレビの視聴者規模まで集客を広げるという当初の動機に照らせば、資金力を得たことは集客を育てる方向ではなく、資本市場での取引を太らせる方向に働いたといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
千億円を動かす前の資金力
2004年9月期までのライブドアは、株式交換と小口の買収を重ねて連結売上高309億円まで伸びていた。ただし買収の対価は自社株で払っており、大型案件へ投じる現金は乏しい。金融事業の利益は投資事業組合を通じた自己株売却益の還流に頼り、規模は数十億円にとどまっていた。放送局の支配権を争うだけの資金力を、この時点では備えていなかった[1][2]。
一方で堀江貴文社長は、インターネットが3年以内にテレビを抜くという前提を掲げ、集客力1位のポータルを持つことを重視していた。2004年6月の大阪近鉄バファローズ買収提案は実らなかったものの、この一件で知名度は全国へ広がる。買収の対象を放送局へ移す動機は、ポータルの集客をテレビの視聴者規模まで引き上げる点にあった[3]。
最後に持ち込まれた買い手
ニッポン放送株の売却話は、はじめからライブドアに来たわけではない。M&Aコンサルティング代表の村上世彰氏が保有株の買い取りを打診した相手は、2003年秋ごろの楽天をはじめ複数にわたる。楽天会長兼社長の三木谷浩史氏はフジテレビジョン会長の日枝久氏に取得を申し出たが色よい返事を得られず、村上氏の提案を断った。大手商社などとの交渉もまとまっていない[4]。
つまりライブドアは、放送局の資本構造を最初に見つけた側ではない。ニッポン放送がフジテレビジョンの筆頭株主でありながら時価総額で下回るという歪みは、複数の買い手候補が検討したうえで見送った案件である。他社が降りた理由が価格か関係かは記録に残らないが、断られ続けた案件を引き受ける形で、ライブドアが最後の買い手になった[5]。
決断
時間外取引と800億円のMSCBの同日発表
2005年2月8日、ライブドアは東京証券取引所の時間外取引でニッポン放送株を大量に取得し、一気に筆頭株主となった。取得比率は35%に達する。同じ日に発表したのが800億円のMSCBで、引き受けたのはリーマン・ブラザーズ証券グループである。市場外で短時間に大量の株式を集める手法と、転換価額が下方に修正される社債による調達を、同日に組み合わせた[6]。
この調達は引受側にも利益をもたらした。リーマン・ブラザーズ証券グループが得た額は160億円程度とされる。ライブドア幹部は後日、自社を使ってリーマンがどれだけ儲けたかを見て自分たちもやるしかないと思ったと語っている。放送局の支配権そのものより、資金調達の仕組みから受け取ったものが大きかったとみることができる[7]。
支配権を得ながら行使しない選択
ニッポン放送はフジテレビジョンに対する新株予約権の発行で対抗したが、東京高裁は2005年3月に差し止めを支持した。堀江貴文社長は終始、議決権の50%超という支配株式の取得にこだわり、フジテレビジョンの提示した公開買付価格より高い株価で買い集めている。司法と過半数の株主の双方を得た時点で、支配権の獲得は決着したはずであった[8]。
ところが高裁決定の翌日、ニッポン放送は保有するフジテレビジョン株をソフトバンク・インベストメントへ貸し出したと発表する。支配株式を無力化する動きであった。ライブドアは権利の行使に伴う新たな裁判や第三者の介入を避け、握手による手打ちを選ぶ。ニッポン放送株を約1030億円でフジテレビジョンへ売却し、フジテレビジョンが440億円の第三者割当増資を引き受ける形で決着した[9][10]。
結果
1470億円が変えた利益の出どころ
一連の取引で得た現金は1470億円に達した。自己株売却益の還流で数十億円を積み上げていた会社が、一度に千億円単位の資金を手にする。2005年9月期の連結総資産は3302億円と前期の1002億円から3倍を超えた。同じ期の連結営業利益127億円に対して金融部門だけで146億円を稼ぎ、看板のポータルサイトlivedoorの黒字は3億円にとどまっている[11][12]。
株価の面では、当事者3社のいずれも得をしていない。村瀬英彰氏らが攻防期間の超過リターンを検証した論考によれば、支配権移転の可能性が高まる報道では3社の株価がそろって上昇し、防衛のニュースでは下落した。貸株の発表以降は3社ともそれまでの上昇を打ち消す形で下げている。支配権移転への期待が消えたことへの失望を市場が示したとみることができる[13]。
- ライブドア 有価証券報告書 第10期(2005年9月期)【主要な経営指標等の推移】
- 週刊東洋経済 2004年10月16日号「明日の成長企業を探そう! 楽天vsライブドア——結局彼らは何で儲けてる?」
- 週刊東洋経済 2005年7月9日号「総括 ライブドアvs.フジテレビジョン そして誰も企業価値を増やせなかった」
- 週刊東洋経済 2006年2月4日号「ライブドア 徹底解明 第1部 堀江式錬金術の全手口」
- 週刊東洋経済 2006年4月1日号「KeyPerson 宇野康秀 USEN代表取締役社長 なぜ窮地のライブドアと握手したか」