コクヨ ぺんてる株の取得試み 議決権45.05%までの取得と、子会社化を断念しての全株譲渡

更新:

時期 2019年5月
当時の社長 黒田英邦
論点 筆記具事業の獲得と業界再編の主導権
何をなぜ決めたか
概要

2019年5月10日、コクヨの取締役会はマーキュリアインベストメントが管理・運営するPI投資事業有限責任組合の有限責任組合員としての持分すべてを取得することを決議し、同日付で10,110百万円を投じて取得した。組合はぺんてる株の37.45%を保有しており、コクヨはその後さらに株式を取得して、2019年12月期末の議決権所有割合を45.05%まで引き上げた。持分法適用の関連会社にはしたものの、連結子会社化には至っていない。

背景

会社は企業結合の理由として、グローバルステーショナリードメインで持続的に企業価値を向上させるには確固たる強みを持つ企業同士がアライアンスを構築することが不可欠な事業環境であると記した。ぺんてるについては、日本を代表する筆記具メーカーとして優れた技術と優秀な人材を持ち、エナージェル、オレンズ、サインペンなど強いブランドを世界22の販売拠点を通じて120以上の国と地域で展開していると記している。コクヨ自身は本邦の売上高が全体の90%を超え、地域別の記載を省略するほど国内に偏っていた。

内容

マーキュリアインベストメントがぺんてるの収益性や成長性を改善・拡大できる事業会社への持分売却を検討し、コクヨはその候補として打診を受けたと会社は書いている。取得原価は10,110百万円、対価は現金で、のれんは発生していない。組合は2019年12月25日に清算結了して連結の範囲から外れ、ぺんてる株は9月24日のぺんてる取締役会の承認を経てコクヨの直接保有に切り替わった。

含意

議決権は45.6%までしか積み上がらず、2020年12月期にはぺんてるの繰延税金資産の全額取り崩しに伴う1,024百万円を含む持分法投資損失、2021年12月期には減損損失5,024百万円を含む合計5,221百万円の持分法投資損失を計上した。単体でも関係会社株式評価損5,821百万円を計上し、監査上の主要な検討事項に採り上げられている。2022年9月30日の取締役会で全株式のプラスへの譲渡と海外文具市場での業務提携を決議し、11月30日に売却して投資有価証券売却益923百万円を計上した。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

買えなかったものと、残ったもの

コクヨが取りにいったのは会社そのものではなく、自前では育たなかった筆記具の技術と、120以上の国と地域に伸びる販路であった。本邦の売上高が9割を超えて地域別の記載を省略するほど国内に偏った会社が海外で売るには、外から買うほかに道は乏しい。投資組合の持分を丸ごと買うという2019年5月の手法は、譲渡制限のある非上場株を動かす筋としては通っている。ただし、どれだけ買い進めても議決権は45.6%までで止まった。

中途半端な持ち分は3年間そのままとなり、2021年12月期には減損損失5,024百万円として損益に表れた。単体でも関係会社株式評価損5,821百万円を計上し、監査上の主要な検討事項に採り上げられている。手放して得たのは売却益923百万円と、海外文具市場での業務提携であった。同じ2022年にコクヨが9,501百万円を投じた先は香港のオフィス家具企業であり、その年のファニチャー事業は16,523百万円のセグメント利益を稼いでいる。資本を向ける先は、文具から家具へ移った。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

業績の推移
取得と断念の経緯

取得と断念の経緯

科目 概要 備考
取得の決議 2019年5月10日 取締役会が投資組合の持分すべての取得を決議し、同日付で取得
取得したもの PI投資事業有限責任組合の持分 有限責任組合員としての持分すべて。組合の事業はぺんてるへの出資
組合が持っていたぺんてる株 37.45% コクヨの取得日時点。その後、全株式が配当によりコクヨへ移った
取得原価 10,110百万円 対価の種類は現金。取得関連費用はアドバイザリー費用等191百万円
発生したのれん なし 受け入れた資産10,303百万円、引き受けた負債191百万円
ぺんてる取締役会の承認 2019年9月24日 組合からコクヨへの株式譲渡を承認し、同日付で直接の株主となった
議決権所有割合 45.05% 2019年12月期末。2021年12月期末は45.6%
会計上の位置づけ 持分法適用関連会社 2019年第3四半期から。連結子会社にはなっていない
のれん相当額 3,166百万円 2020年12月期末。顧客関連資産(税効果考慮後)を含む
2020年12月期の損失 1,024百万円 ぺんてるの繰延税金資産の全額取り崩しに伴う持分法投資損失
2021年12月期の減損 5,024百万円 持分法投資損失の合計は5,221百万円。単体の評価損は5,821百万円
減損の測定 使用価値。割引率8.2% 海外の業績悪化と構造改革費用を含む中期経営計画の見直しによる
譲渡の決議 2022年9月30日 取締役会が全株式のプラスへの譲渡と海外文具市場での業務提携を決議
譲渡の完了 2022年11月30日 全株式を売却し、持分法の適用範囲から除外した
譲渡価額 記載なし 有価証券報告書に譲渡価額の記載はない。売却益は923百万円
子会社化 至らず 議決権は45.6%までで、連結子会社にはならなかった

出所:コクヨ 有価証券報告書 2019年12月期【企業結合等関係】【関係会社の状況】 / 2020年12月期・2021年12月期【追加情報】【監査上の主要な検討事項】 / 2022年12月期【経営上の重要な契約等】【連結損益計算書注記】

売上高と経常利益の推移

コクヨ:売上高と経常利益の推移

(百万円) 売上高経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2014年12月期 293,0549,6435,065
2015年12月期 304,27611,8806,312
2016年12月期 307,62515,69012,182
2017年12月期 315,62219,13015,000
2018年12月期 315,15519,17814,231
2019年12月期 320,20018,19815,303 投資組合の持分を10,110百万円で取得し、ぺんてるを持分法適用とした期
2020年12月期 300,64414,1738,297 ぺんてるの繰延税金資産の取り崩しに伴う1,024百万円を含む損失を計上
2021年12月期 320,17016,41513,703 第1四半期にぺんてる株の減損損失5,024百万円を営業外損失に計上した
2022年12月期 300,92921,16118,237 11月30日に全株を売却。売上高は収益認識会計基準の適用で26,484百万円減
2023年12月期 328,75325,98919,069
2024年12月期 338,22724,41021,787
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:コクヨ 有価証券報告書 第72期(2018年12月期)・第76期(2022年12月期)・第78期(2024年12月期)【主要な経営指標等の推移】。2022年12月期の経常利益と当期純利益は第78期の組替後の値による

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参考文献
出典・参考
  • コクヨ 有価証券報告書「2019年12月期 企業結合等関係、経営成績等の分析」
  • コクヨ 有価証券報告書「2019年12月期 関係会社の状況、事業の内容」
  • コクヨ 有価証券報告書「2020年12月期 追加情報」
  • コクヨ 有価証券報告書「2021年12月期 追加情報、監査上の主要な検討事項」
  • コクヨ 有価証券報告書「2022年12月期 経営上の重要な契約等、連結財務諸表注記」
  • コクヨ 有価証券報告書「第72期(2018年12月期)・第76期(2022年12月期)・第78期(2024年12月期)主要な経営指標等の推移」

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