デンソー ローム株式取得提案の撤回 パワー半導体の垂直統合をめざした株式取得提案と、その取り下げ

更新:

時期 2026年3月
当時の社長 林新之助
論点 車載パワー半導体の内製化と垂直統合
何をなぜ決めたか
概要

2026年3月6日、ロームはデンソーから株式取得の提案を受領した事実を公表した。ロームは独立社外取締役等による特別委員会を組成し、書面での質疑応答と複数回の協議を重ねたが、提案へ賛同する結論には至らなかった。デンソーは提案を継続することが自社の企業価値向上に必ずしも資さないと判断し、2026年4月28日に提案を取り下げた。同日、上限3,135億円の自己株式の取得を決議し、取得方法として公開買付けを選んでいる。取得をめざした株式数と価格は、両社とも公表していない。

背景

電動化と知能化で、電力効率に優れる炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の重みが増し、車載システムの中核を担うデンソーは半導体の内製化と安定調達を課題としてきた。2020年4月にトヨタ自動車から主要な電子部品事業を譲り受け、広瀬製作所として始動。2024年9月にロームと半導体分野の戦略的パートナーシップの検討開始で合意し、2025年5月に基本合意、同年7月に追加出資を実施した。2026年3月末のローム株式の保有は19,221,300株、所有株式数の割合は4.97%にあたる。

内容

デンソーがロームへ提案したのは株式の取得である。取得をめざした株式数・価格・公開買付けの有無は、両社の公表資料に記載がない。ロームは2026年3月17日に独立社外取締役等による特別委員会を組成し、この提案を自社が主体的に検討・推進してきた経営戦略とは別のものと位置づけたうえで、企業価値ひいては株主共同の利益を確保・向上させるかを基準に、スタンドアローン計画や他の選択肢とともに検討した。

含意

ロームは提案に賛同せず、デンソーは取り下げた。ロームは2026年3月27日に東芝デバイス&ストレージの半導体事業、三菱電機のパワーデバイス事業との事業・経営統合の協議開始に向けた基本合意書を締結している。最終契約は締結されておらず、デュー・ディリジェンスと具体的なシナジー協議へ進む段階にある。両社の戦略的パートナーシップは残り、アナログICを中心に自動車・民生・産業機器の各分野で製品開発や供給の協業と人的交流を進めることで合意した。

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筆者の見解
筆者の見解

資本の手段を欠いた垂直統合

この判断の核心は、車載半導体の内製化をめざしてきたデンソーが、開発と供給の協業にとどめず、株式の取得という資本の手段まで踏み込んだ点にある。2024年9月の検討開始、2025年5月の基本合意、同年7月の追加出資と段を重ね、保有は1年で16億円から586億円へ膨らんだ。電動化と知能化でSiCパワー半導体の重みが増すなか、設計から製造までを内側に垂直統合できれば、調達の不安を抑えつつ製品を作り込める。だが提案は、相手の取締役会と特別委員会の賛同を得られないまま終わった。

もっとも、退いたのは相手に拒まれたからだけではない。デンソー自身が、提案を進めることの意義や中長期的な企業価値への影響、両社の最適な関係の在り方を総合的に検討したうえで、継続が企業価値向上に必ずしも資さないと判断している。ロームは同じ月に東芝・三菱電機との統合協議に入り、その半導体素子事業は2026年3月期に1,916億円の減損を計上した。値付けの難しい相手に資本で踏み込む道は閉じ、取り下げと同じ日に決まったのは上限3,135億円の自己株式の取得である。手元に残るのは4.97%の持分と協業の合意で、垂直統合を連携の積み重ねで代替できるのか、この問いはなお開かれたままである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
提案の条件

提案の条件

科目 概要 備考
相手方 ローム㈱(証券コード6963) 東証プライム上場。アナログICとパワー半導体を手がける半導体メーカー
提案の内容 株式の取得
提案の受領の公表日 2026年3月6日 買収提案の報道を受け、ロームが受領の事実を認めた。受領日そのものの開示はない
取得をめざした株式数と価格 両社とも公表していない 公開買付けの有無も含め、ロームの2026年3月6日の開示は受領の事実だけを述べる
提案前に取得していた株式 19,221,300株 2026年3月末。前期末は1,121,300株で、2025年7月に追加出資を実施した
保有株式の貸借対照表計上額 58,683百万円 2026年3月末。前期末は1,602百万円
所有株式数の割合 4.97% 2026年3月31日現在。発行済株式(自己株式を除く)の総数に対する割合
株式を保有する目的 戦略的パートナーシップの検討開始 半導体の安定供給と、高品質・高効率な半導体の開発に関する取り組みに向けて
相手方の検討体制 特別委員会を組成 2026年3月17日公表。独立社外取締役等で構成し、独立した立場から検討を進めた
相手方の検討の基準 企業価値と株主共同の利益 提案をスタンドアローン計画や企業価値を向上させる他の選択肢とともに検討した
相手方との協議 書面での質疑応答と複数回の協議 提案の概要と取引実施後の構想について、取締役会・特別委員会が協議した
相手方の対応 賛同する結論には至らず 企業価値の向上と株主共同の利益の確保の観点から、公正かつ慎重に検討した
提案の取り下げ日 2026年4月28日 ロームは同日、提案に関する検討を終了したことを公表した
取り下げの理由 企業価値向上に必ずしも資さない 提案を進める意義・中長期的な企業価値への影響・両社の関係を総合的に検討
取り下げ後の関係 戦略的パートナーシップを継続 アナログICを中心に製品開発・供給等の協業施策と人的交流を進める
同日に決議した自己株式の取得 313,586百万円(上限) 184,897,756株が上限。取得期間は2026年4月30日から7月31日まで
自己株式の公開買付価格 1株につき1,696円 買付予定数184,897,656株。買付期間は2026年4月30日から6月1日まで

出所:ローム 適時開示(2026年3月6日・3月17日・4月28日) / デンソー 有価証券報告書 第103期(2026年3月期)【株式の保有状況】【自己株式の取得等の状況】【後発事象】 / ローム 有価証券報告書 第68期(2026年3月期)【大株主の状況】

デンソーの設備投資と研究開発費

デンソー:デンソーの設備投資と研究開発費

(百万円) 設備投資額研究開発費営業利益 備考
2021年3月期 374,277492,012155,107
2022年3月期 353,875497,556341,179
2023年3月期 366,809521,615426,099
2024年3月期 394,563550,921380,599
2025年3月期 371,124619,404518,953
2026年3月期 369,267690,073552,538 研究開発費は資産計上分を含む。2026年3月31日に中期経営計画「CORE 2030」を発表
設備投資額と研究開発費
研究開発費(百万円)設備投資額(百万円)

出所:デンソー 有価証券報告書 第98期〜第103期(設備投資等の概要、研究開発活動、連結損益計算書)

デンソーが保有するローム株式

デンソー:デンソーが保有するローム株式

(百万円) 貸借対照表計上額 備考
2025年3月期 1,602 保有株式数1,121,300株。2024年の戦略的パートナーシップの検討開始を受けて
2026年3月期 58,683 保有株式数19,221,300株。2025年7月の追加出資を経て所有株式数の割合4.97%
ローム株式の貸借対照表計上額
貸借対照表計上額(百万円)

出所:デンソー 有価証券報告書 第103期(2026年3月期)【株式の保有状況】。前事業年度の計上額を含む

ロームの業績と半導体素子事業

デンソー:ロームの業績と半導体素子事業

(百万円) 売上高営業利益半導体素子 売上高半導体素子 設備投資額半導体素子 減損損失 備考
2021年3月期 359,88838,488142,38920,460108
2022年3月期 452,12471,479188,09333,789116
2023年3月期 507,88292,316212,24157,061168
2024年3月期 467,78043,327201,948130,969225 SiCパワーデバイスの生産能力増強で、半導体素子の設備投資が1,309億円へ
2025年3月期 448,466△40,061187,052111,25517,605 当期純損失500億円。半導体素子はセグメント損失459億円となった
2026年3月期 481,14810,864205,26369,099191,648 第68期の有報は手元になく、逐語で照合できていない。SiC事業を中心に減損した
ロームの売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:ローム 有価証券報告書 第63期〜第67期(連結損益計算書、セグメント情報、連結損益計算書関係)

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参考文献
出典・参考

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