デンソー 日本特殊陶業へスパークプラグ譲渡 スパークプラグと排気センサの国内外事業を1,806億円で専業メーカーへ渡す判断

更新:

時期 2025年9月
当時の社長 林新之助
論点 内燃機関の成熟事業の切り離し
何をなぜ決めたか
概要

2025年9月1日、デンソーはスパークプラグ及び排気センサの国内外の開発・製造・販売事業を日本特殊陶業へ譲り渡す事業譲渡契約を締結した。排気センサは酸素センサ及び空燃比センサに限られ、デンソー及びその子会社が運営する事業が対象となる。譲受価額は2026年3月31日を価格算定基準日として合意した本事業譲受全体の対価額180,600百万円で、決済は現金による。デンソー及びその子会社の役員及び従業員、土地及び建物は譲受の対象から外れる。

背景

両社は2023年7月10日に一部事業の譲受に向けた基本合意書を締結し、約2年の検討を経て契約に至った。譲り受ける側が掲げたのは、内燃機関製品の供給責任を果たすことである。各国がカーボンニュートラルの実現に向けて電動化や燃料の多様化の道筋を模索するなかでも、地域・国ごとのエネルギー事情や現存する車両に合わせて様々な動力源が求められ、内燃機関にも継続した需要が見込まれる。販路や生産体制の融合により業界全体で最適な生産体制を構築し、グローバルでの安定供給を実現することが持続的な成長に資するとの結論に至った。

内容

譲受価額180,600百万円は、価格算定基準日から事業譲受実行日までの日数に応じて減額される予定で、最終的な額はさらに事業譲渡契約に定める価格調整を経て決まる。実行は国内外の競争法当局によるクリアランスその他の法令上必要となる関係当局の許認可等の取得を条件としており、取締役会決議は2025年8月25日、契約締結は同年9月1日だが、事業譲受実行日は決まっていない。2026年3月期末の時点でも、許認可等の取得に向けた対応が続いている。

含意

デンソーの製品区分では、対象事業の点火製品と排気製品はパワトレインシステムに属し、その売上収益は2026年3月期に1,479,737百万円だった。デンソー自身の有価証券報告書に本件の記載はなく、【重要な契約等】は該当事項なし、対象事業を売却目的で保有する資産へ振り替えてもいない。

一方、譲り受ける日本特殊陶業の自動車関連セグメントの売上収益は同じ期に587,505百万円で、譲受価額180,600百万円はその3割にあたる。同社はこの譲受を前提に、2030年3月期の自動車関連事業の売上収益目標7,000億円を新たに掲げた。

いつ何が起きたか 5件
筆者の見解
筆者の見解

需要が残るうちに、専業へ渡す

この判断の芯は、傾いた事業を処分することではなく、まだ需要の残る成熟事業を、それを本業とする相手へ渡した点にある。スパークプラグと排気センサは、エンジンがある限り新車組付け用と補修用の双方に需要を生む部品で、譲り受ける側は、各国がカーボンニュートラルへの道筋を模索する過程でも内燃機関に継続した需要が見込まれると読み、セラミックの開発及び製造技術を活かして供給責任を果たすことを目的に掲げた。同じ製品でも、抱え続ける意味は両社で正反対になる。デンソーで対象事業を含むパワトレインシステムは2026年3月期に1,479,737百万円を売り上げており、事業そのものが細っていたわけではないのだろう。

もっとも、この判断はまだ完了していない。譲受価額180,600百万円は2026年3月31日を価格算定基準日として合意した額で、実行日までの日数に応じて減額されたうえ、契約に定める価格調整を経てはじめて確定する。実行は国内外の競争法当局によるクリアランスを条件とし、2026年3月期末の時点で事業譲受実行日は未定のままである。譲り渡す側の有価証券報告書には本件の記載がなく、対象事業は売却目的で保有する資産へも振り替えられていない。手放して何を得るのかは、まだ数字の形を取っていない。契約が結ばれてから事業が実際に動くまでの間に、価額も前提も動きうる——この譲渡はいまその途中にある。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
譲渡の条件

譲渡の条件

科目 概要 備考
譲り渡す事業 スパークプラグ及び排気センサ 排気センサは酸素センサ及び空燃比センサに限る。国内外の開発・製造・販売事業
事業を運営していた主体 デンソー及びその子会社
譲受人 日本特殊陶業 英文商号はNiterra。スパークプラグや排気ガスセンサ等を手がけるメーカー
取引の法的形式 事業譲渡 株式譲渡でも会社分割でもなく、事業譲渡契約による事業の譲受である
譲受の対象から外したもの 役員及び従業員、土地及び建物 デンソー及びその子会社の役員・従業員と土地建物は移らない
検討開始の基本合意 2023年7月10日 「株式会社デンソーの一部事業の譲受に向けた基本合意書の締結」として開示
譲受人の取締役会決議日 2025年8月25日 最終的な決定は代表取締役社長の川合尊氏に一任された
契約締結日 2025年9月1日 譲受人が同日、事業の譲受けの決定として臨時報告書を提出した
譲受価額 180,600百万円 2026年3月31日を価格算定基準日として合意した本事業譲受全体の対価額
譲受価額のその後の調整 実行日までの日数に応じて減額 最終的な譲受価額はさらに事業譲渡契約に定める価格調整を経て決定される
決済方法 現金による決済
取引実行の前提条件 競争法当局のクリアランス 国内外の競争法当局のクリアランスその他の関係当局の許認可等の取得
事業譲受実行日 未定 2026年3月期末の時点でも許認可等の取得に向けた対応が続いている
対象事業の売上規模・従業員数 記載なし 対象事業の売上高・従業員数・対象拠点は両社の公表資料に記載がない
譲渡側の開示 記載なし デンソーの有価証券報告書の【重要な契約等】は該当事項なし。売却目的保有への振替もない

出所:日本特殊陶業 臨時報告書(2025年9月1日・事業の譲渡又は譲受けの決定) / 日本特殊陶業 有価証券報告書 第126期(2026年3月期)【経営上の重要な契約等】 / デンソー 有価証券報告書 第103期(2026年3月期)

譲渡対象事業を含む製品区分の売上収益

デンソー:譲渡対象事業を含む製品区分の売上収益

(百万円) パワトレインシステムエレクトリフィケーションシステム自動車分野計 備考
2021年3月期 1,108,845958,7044,774,466 対象事業の点火製品・排気製品はパワトレインシステムに含まれる
2022年3月期 1,245,0851,136,2645,328,638
2023年3月期 1,489,3291,042,1806,224,233 2022年1月の組織変更で両区分の間を製品が移り、前期の組替後は1,324,482
2024年3月期 1,518,5661,241,6226,999,903 2023年1月の組織変更で非車載事業分野の一部をサーマルシステムへ移した
2025年3月期 1,438,5911,354,4267,041,252
2026年3月期 1,479,7371,433,4567,391,068 9月に譲渡契約を締結。実行前のため対象事業の売上は引き続き計上している
パワトレインとエレクトリフィケーションの売上収益
パワトレインシステム(百万円)エレクトリフィケーションシステム(百万円)

出所:デンソー 有価証券報告書 第98期〜第103期(2021年3月期〜2026年3月期)注記「売上収益」(製品別に分解した売上収益)

譲受人の自動車関連セグメント

デンソー:譲受人の自動車関連セグメント

(百万円) 売上収益セグメント利益 備考
2021年3月期 338,61256,590 スパークプラグや排気ガスセンサ等、自動車に組み付けられる部品の区分
2022年3月期 387,77574,342
2023年3月期 443,98093,260
2024年3月期 505,355121,245
2025年3月期 538,894140,856 翌期の組替後は542,800。従来の3区分での当期欄の数値を置いた
2026年3月期 587,505135,302 当期から報告セグメントを自動車関連とコンポーネント・ソリューションの2区分に変更
自動車関連の売上収益とセグメント利益率
売上収益(百万円)セグメント利益率(%)

出所:日本特殊陶業 有価証券報告書 第121期〜第126期(2021年3月期〜2026年3月期)注記「セグメント情報」

譲渡側の総資産と有利子負債

デンソー:譲渡側の総資産と有利子負債

(百万円) 総資産有利子負債 備考
2021年3月期 6,767,684854,222
2022年3月期 7,432,271991,435
2023年3月期 7,408,662889,274
2024年3月期 9,093,370850,721
2025年3月期 8,125,000699,384
2026年3月期 8,730,854811,282 譲受価額180,600百万円は総資産の2%。実行前で対価はまだ入っていない
総資産と有利子負債比率
総資産(百万円)有利子負債比率(%)

出所:デンソー 有価証券報告書 第98期〜第103期(連結財政状態計算書・注記「社債及び借入金」)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 日本特殊陶業 適時開示「株式会社デンソーの一部事業の譲受に向けた基本合意書の締結に関するお知らせ」
  • 日本特殊陶業 適時開示「株式会社デンソーのスパークプラグ事業および排気センサ事業の譲受に関するお知らせ」
  • 日本特殊陶業 臨時報告書「臨時報告書(企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項第8号 事業の譲渡又は譲受けの決定)」
  • 日本特殊陶業 有価証券報告書「第126期(2026年3月期)【経営上の重要な契約等】【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】注記「セグメント情報」」
  • デンソー 有価証券報告書「第103期(2026年3月期)【沿革】【重要な契約等】注記「売上収益」「売却目的で保有する資産」」
  • 日本特殊陶業 統合報告書「Niterra Report 2025」

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