スパークプラグ・排気ガスセンサー事業の日本特殊陶業への譲渡——電動化集中に向けた内燃機関成熟事業の切り離し
2025年実施70年前にボシュから借りて始めたスパークプラグを、なぜ電動化のいま手放すのか——内燃機関の成熟事業の切り離しをめぐる選択
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- 概要
- 2025年、デンソーがスパークプラグ(点火プラグ)と排気ガスセンサー(酸素センサー・空燃比センサー)の事業を、スパークプラグを主力とする日本特殊陶業(ブランド名Niterra)へ1,806億円で譲渡する契約を締結した経営判断。得た資金を電動化領域や水素などのクリーンエネルギー領域へ振り向ける。役員・従業員・土地建物は譲受の対象から外れる。
- 背景
- CASEとカーボンニュートラルの流れのなかで、エンジンに欠かせない点火や排ガス制御の部品は、長い目で見れば需要が細っていく。デンソーは長期経営ビジョン2030のもとで電動化とクリーンエネルギーへ経営資源を寄せる方針を掲げ、内燃機関に根ざした成熟事業の扱いが具体的な課題となっていた。対象の2事業は2025年3月期に約1,918億円を売り上げていた。
- 内容
- 2023年7月10日に両社は事業譲渡の検討開始で基本合意し、約2年の協議を経て2025年9月1日に事業譲渡契約を結んだ。譲受価格は2026年3月31日を基準日として1,806億円と算定された。役員・従業員、土地・建物は譲受対象外で、国内外の当局の認可を条件に2025年度内の完了をめざす。
- 含意
- デンソーは1953年のボシュ提携に連なる内燃機関の成熟事業を手放し、電動化への集中を一段進めた。事業を譲り受ける日本特殊陶業は、自動車プラグの世界シェアが約6割へ高まる見通しで、台頭する中国勢に対し規模で先んじる。手放す側と集める側とで、同じ内燃機関部品の意味は正反対だった。
借りて始めた祖業の一角を、電動化のいま手放す
この判断の芯は、伸び盛りの事業を高く売ることではなく、長く手がけてきた成熟事業を、需要が細る前に自ら手放した点にある。スパークプラグと排気ガスセンサーは、エンジンがある限り一定の需要を生む堅実な部品だった。それでも、電動化に資源を集中すると決めた以上、内燃機関に根ざした事業を抱え続けることは、限られた投資余力を薄く広げる恐れがある。2025年3月期に約1,918億円を売り上げた事業を1,806億円で切り出したのは、その資源を電動化と水素へ振り向けるための、選択と集中の一手といえる。
皮肉なのは、いま手放すスパークプラグが、デンソーの成り立ちに連なる製品だという点である。前身の日本電装は、1953年に独ロバート・ボシュ社と提携して電装品の技術を借り、その延長で点火栓(スパークプラグ)を自社の製品に加えた。ドイツから技術を取り込んで内燃機関部品の裾野を広げた会社が、70年あまりを経て、その一角をスパークプラグ専業の日本特殊陶業へ渡す。借りて始めた事業を、電動化という次の時代に向けて手放すこの選択は、創業からの製品系譜を一つ畳む決断でもあり、電動化への集中という現在の方針と背中合わせに置かれている。成熟事業をいつ、誰に手放すか。内燃機関の時代の終わりに立つ部品メーカーに共通する問いを、この譲渡は具体的な数字と相手の名で示している。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
電動化への集中という長期方針
自動車の動力源は、内燃機関から電動へ移り始めた。CASEとカーボンニュートラルの流れのなかで、エンジンに欠かせない点火や排ガス制御の部品は、長い目で見れば需要が細っていく。トヨタグループで自動車部品を最も広く手がけるデンソーは、2017年の長期経営ビジョン2030のもと、電動化領域と、水素などのクリーンエネルギー領域へ経営資源を寄せる方針を掲げてきた。内燃機関に根ざした成熟事業をどう扱うかが、その方針を実行に移すうえでの具体的な課題となっていた[1]。
譲渡対象となった二つの内燃機関事業
譲渡の対象は、二つの事業である。一つはエンジンに点火するスパークプラグ(点火プラグ)の事業、もう一つは排ガス中の酸素などを測る排気ガスセンサーの事業で、後者は酸素センサー(O2センサー)と空燃比センサー(A/Fセンサー)に限られる。いずれも内燃機関の燃焼と排出を制御する部品にあたる。両事業を合わせた2025年3月期の売上高は約1,918億円で、7兆円台に達するデンソー全体の売上のなかでは一部にとどまるものの、単独の事業としては小さくない規模だった[2][3]。
決断
2023年7月、検討開始の基本合意
事業譲渡の話し合いは、決断のかなり前から始まっていた。2023年7月10日、デンソーと日本特殊陶業は、セラミック製品の一部事業の譲渡について検討を始める基本合意書を結んだ。スパークプラグと排気ガスセンサーは、どちらもセラミックの技術を土台とする製品で、日本特殊陶業はスパークプラグを主力とするメーカーとして同じ製品領域に厚みを持っていた。成熟事業を手放したいデンソーと、その事業を集めて足場を固めたい日本特殊陶業の思惑が、この時点で重なった[4]。
2025年9月、1,806億円での事業譲渡契約
検討開始から約2年を経た2025年9月1日、デンソーは日本特殊陶業と事業譲渡契約を結んだ。譲受価格は2026年3月31日を基準日として1,806億円と算定された。譲渡するのはスパークプラグと排気ガスセンサーの国内外の開発・製造・販売事業で、デンソーと子会社の役員・従業員、土地・建物は譲受の対象から外れる。人と土地建物を残して事業だけを移すこの形は、国内外の当局の認可を条件に、2025年度内の完了をめざす[5][6]。
結果
デンソーの電動化集中と、日本特殊陶業のシェア約6割
この譲渡で、デンソーは内燃機関に根ざした成熟事業の一つを外し、電動化とクリーンエネルギーへ経営資源を寄せる構えを一段進めた。得た1,806億円は、電動化領域や水素などへ振り向けられる。一方、事業を譲り受ける日本特殊陶業は、デンソー分を取り込むことで自動車プラグの世界シェアが約6割へ高まる見通しとなった。台頭する中国勢に対し、規模で先んじる形である。手放す側と集める側とで、同じ内燃機関部品の意味は正反対だった[7]。
- 日本経済新聞(2025年9月1日)「日本特殊陶業、デンソーから自動車プラグ買収合意 1800億円規模」
- Car Watch(2025年9月2日)「デンソー、日本特殊陶業へスパークプラグ事業と排気センサ事業を譲受」
- ロイター(2025年9月1日)「日特殊陶、デンソーのスパークプラグ事業など譲受決定 1806億円」
- アペルザニュース(2025年9月1日)「日本特殊陶業、デンソーのスパークプラグ・排気センサー事業を買収 1806億円、2025年度内完了目指す」
- ITmedia MONOist(2025年9月2日)「日本特殊陶業が1800億円の大型買収、デンソーのスパークプラグと排気センサー事業」
- デンソー 有価証券報告書 第103期(2026年3月期)【連結】